国内電通グループの横断組織「未来事業創研」は2023年12月、人と社会が望む2040年の未来の暮らしを構想し、ビジネスチャンスを発掘するツール「電通 未来ファインダー100」を提供開始しました。未来事業創研を創設した株式会社 電通の吉田健太郎氏へのインタビュー後編では、「電通 未来ファインダー100」の生まれた背景や活用法、今後の展開についてお聞きします。
2040年にスコープを置き「ありたい未来」を予測する
Q. 「電通 未来ファインダー100」は、8カテゴリー・100テーマ別により良い未来のヒントをまとめています。現在の形になった経緯について教えてください。
吉田:もともと「ファクトカード」という「電通 未来ファインダー100」の前身となるツールを作成していました。「未来にはこういうことが起こるかもしれない」「未来を考えるためにこういう要素を押さえておかなきゃいけない」という2030年代の未来を見据えた72枚のカードです。そうしたファクトカードが好評だったことから、サービスとして本格化する流れになりました。
電通 未来ファインダー100(テーマ一覧)Q.「電通 未来ファインダー100」は、予測する未来を2040年に設定していますが、それはなぜでしょうか?
吉田:現在、日本では「2040年問題」というのが大きな課題になっています。高齢者人口がピークに達し、労働力不足による社会保障制度の崩壊など、さまざまな課題が一気に噴出すると言われているのがちょうどその頃です。世界規模でも、自然災害や温暖化といった環境問題だけでなく、人口の増加による食糧不足などの課題が今より深刻になると考えられています。
また、2030年など近い未来にスコープを置くと、実現性といったバタフライ効果のインパクトが弱くなるというのも理由の1つです。現状の取り組みの角度を少しだけ良い方向にずらすことで、10年、15年先に大きな変化をもたらす……これが、僕たちの言うバタフライ効果です。急に大きなことをやるのではなく、少し先の2040年にスコープを置いて、実現可能なことを、複数の企業や、人々が少しずつ取り組んでいけるといいなと思います。
ワークショップを通して「どんな欲求が満たされるとうれしいか?」を可視化
Q. 「電通 未来ファインダー100」は、既に企業への導入事例もあるのでしょうか?
吉田:想像以上に多くのクライアント企業さまに導入いただいています。業界も、飲料メーカーや消費財メーカー、不動産、モビリティなど多種多様です。ツールの本質は「そもそも人ってどんな未来を生きたいんだっけ?」というより良い未来を考える問いかけなので、業界に限定しないフレームとして設計しています。
株式会社 電通 吉田 健太郎 氏Q. クライアントの皆さまは、本ツールをどのように活用されていますか?
吉田:基本的にはワークショップで使用していただいています。まずは、「未来ファインダー」に記載している未来の予測情報をインプットしてもらい、それに対して「人々はどういう欲求が満たされるとうれしいか」を掛け合わせて考えていただきます。グループワークで議論したことをベースに、自分たちが生み出したい「あるべき未来の暮らし」を可視化するところが中間ゴールです。
未来の暮らしは、未来のマーケットであり、この実現が市場創造主となり、マーケットリーダーになることにつながります。例えば、飲料メーカーであれば、従来ある事業領域や流通チャネルだけじゃなく、多くの人が望む飲用シーンはどんなシーンかということと、そのシーンに合う、またはそのシーンを創る商品、サービスのアイデアを一緒に考えさせていただきます。「そういうシーンは確かに創れそう、望まれそうだよね」ってことになれば、じゃあそのシーンを創るためにはどういうプロダクトとかサービスとかコミュニケーションが必要なのかっていう、コンセプトやマーケティング戦略を考えていきます。
Q. 実際にツールを導入したクライアント企業さまからは、どんな反響がありますか。
吉田:「楽しかった」「視野が広がった」とおっしゃる方が多いですね。ワークショップで出たアイデアは、クライアント企業さまの資産になります。新しいことを始めようとした時に、何もない状態から考えるのではなく、「未来ってこうなっていくよね」「そういえばこんなアイデアが出たよね」と筋道が生まれます。あと、ワークショップって、「楽しかった」で終わってしまうことも多いのですが、本ツールは社内でビジョンを共有するのにしっかり役立ちます。例えば、新商品のアイデアを考えた時に、普通は「これはどれくらい売れるんだ」という話になりがちですが、「こういう未来をつくりたい」というのが先にあると、社内の上司や経営者からも理解や共感が得られやすくなります。もちろんビジョンだけでなく、ビジョンの実現に向け戦略策定やアイデアの魅力を伝えるための定量的なロジック形成も対応しています。
得意領域生かし、一気通貫で「より良い未来」をつくる
Q. 未来事業総研の今後の展開やビジョンを教えてください。
吉田:ツールを毎年アップデートしながら、仲間を増やしていきたいと思います。私たちの強みは「生活者が何を望んでいるのか」を常に考えていることだと思います。世の中のトレンドやニーズを捉えながら、人々が幸せに思える未来を描いていきたいです。
あとは、今年の目標として、「未来をこうしていきたい」というビジョンをつくるだけに留まらず、商品やサービス作りなど、クライアント企業さまが本当に「未来をつくる」取り組みを始めるところまで並走したいですね。未来事業創研は、電通グループ横断の組織で、調査からコンサルティング、クリエイティブ、コミュニケーション、デジタルまでそれぞれ得意領域がありますから、クライアント企業さまの力になれると思います。
業種でいうと、BtoB企業とより関わっていくことも今後の目標の1つですね。日本には高い技術力を持った優良企業が多く存在していますが、なかなか一般的な認知度が高くないという企業がたくさんあります。そういう企業が「こういう未来をつくっていきたい」というビジョンを明確に掲げることで、共感を生み、若い人が興味を持ったり、就職したいと思ったりするかもしれません。そういった、日本全体が活気づくような、BtoB企業から始まるムーブメントをつくっていくことにも取り組んでいきたいと思っています。

ものや情報があふれ、人々が本当に求めているものが見えづらい現代社会。「電通 未来ファインダー100」はそのような欲求や社会予測を可視化します。未来事業創研では、このようなツールを通してさまざまな企業のビジネスチャンスを発掘するサポートを続けていきます。