信頼の再構築よりもAIか~ダボス会議2024~
2024/03/07
<目次>
▼ダボスは天気も情報も変化が激しい
▼2024は、選挙に揺れる年
▼メインテーマはAIとの向き合い方~規制と偽情報~
▼中東のサステナビリティへの本気度がわかるショーケース
▼問われる日本のプレゼンス
▼信頼の再構築よりもAIへの関心
ダボスは天気も情報も変化が激しい
毎年行われている世界経済フォーラムの年次総会・通称ダボス会議は例年より1週間早い、1月15日~19日に行われました。今年のテーマは「信頼の再構築」(Rebuilding Trust)です。
参加企業の担当者たちは、クリスマスとお正月休みで調整作業が3週間ほど止まってしまい、休み明けから急ピッチで準備を進めました。会議直前にウクライナの和平会議が行われ、ゼレンスキー大統領がダボス会議も含めて参加することが発表されました。
この2年ほどのダボス会議にロシアからの参加はなく、会議全体でウクライナが議論の中心になっています。かつて紛争が起きていた南アフリカや中東の当事者を会議に招き、このダボスの地で対話の場を設ける、いわば調整役を担っていた会議の役割も変化しつつあるように感じました。
今年のダボスは、朝は雪、昼は晴れ、夜は氷点下と変化が激しい天候でしたが、ウクライナの問題だけでなくいろいろな議論がありました。参加者たちは足元が悪い中、最新情報をつかむために動きまわっていました。
2024は、選挙に揺れる年
例年ダボス会議の直前には、会議を主催する世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書」とアメリカのユーラシア・グループ(世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社)が出す「世界のトップリスク」が発表されます。そして会期中にエデルマン(世界最大のPR会社)の「トラストバロメーター」(信頼度調査、2024年は1月16日発表)が公表されます。今年はアメリカやロシアなど、世界情勢に影響を与える国などでの選挙が行われるため、この3つの報告書は共通して「世界は選挙の影響を受ける」と指摘していました。
メインテーマはAIとの向き合い方~規制と偽情報~
ウクライナや中東でも戦争が続きているため地政学リスクがメインの話題になるかと思いきや、本会議場も企業の独自イベントもAIが話題のトップでした。去年と同様にAIサービスの透明性の義務を課すなどの規制や、選挙でも多用されるであろう生成AIを用いた偽情報の拡散のリスクについて議論や情報交換が行われていました。
Open AIのサム・アルトマン氏は「AIの進歩にはエネルギーのブレークスルーが必要で気候変動に影響の少ないエネルギー源を使うべきだ」と述べ、例として原子力か安価な太陽光発電を使うのもひとつの手だとメディアへのインタビューで答えています。AIには多くの電力が必要だということを改めて認識しました。
またマイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏はAIの将来については「希望を抱いており」「楽観的」だが、一連の業界標準の採用に関しては各国が同じ認識を持つべきだと述べています。本会議場でのナデラ氏のセッションは大人気で、彼にあいさつしようと多く人が押しかけていました。
AIがらみでは今年初めて街の中心部にテーマをAIに特化したAIハウスが設置されました。企業や研究機関が情報発信を行っていましたが、ここでは東京大学がシカゴ大学やソウル大学と量子技術の研究開発で提携に合意したことが発表されました。この研究は人工知能(AI)を組み合わせ、量子技術の実用化を目指すものです。
中東のサステナビリティへの本気度がわかるショーケース
AIハウスの斜め向かいにはなにやら模型が飾られているショーケースがありました。よく見るとそれはサウジアラビアの野心的な都市開発「Neom」を紹介するNeom Houseでした。完全事前予約制だったため、予約が取れず中に入ることはできなかったのですが、外からのぞくかぎりマンション販売のショールームのようでした。実際に中に入った人に話を聞くと、主目的は計画の説明とビジネスパートナーの発掘とのこと。
PR映像を見ると投資家を求めているというわけではなく、ともにこのプロジェクトを進めるパートナー探しをしているように思えました。また映像に出てくるスタッフにはサウジアラビア以外の人も多く、ビジネスチャンスを狙って世界中から人材が集まっているようでした。
参考:Neomについて
https://ampmedia.jp/2022/09/19/neom/
中東では石油以外への経済の移行が盛んですが、同時に太陽光などの再生可能エネルギーへの移行にも本気です。「Green Saudi」を掲げるサウジアラビア以外の中東の周辺諸国の関係者も熱心に議論していました。
問われる日本のプレゼンス
日本のプレゼンス低下への懸念は、ここ数年、現場に参加する人からも、日本での報道やSNSを通して見ている方からもよく耳にします。コロナ禍以降も世界経済フォーラムに参画する日本企業は増えているものの、ダボスでの発信の点では以前とは変わってきているように感じます。
国内でダボスの話題に触れる機会については、昨年からテレビ東京のYouTube配信によって、独自の視点でダボスの魅力が発信されるようになりました。これまでは朝のニュースでの報道が多かったですが、リアルタイムでテレビを見ていないとそのニュースに触れることはできません。同YouTubeの再生数が15万回以上もあることからも、多くの人が注目し、情報に触れていることがわかります。
一方で、本会議場で行われる公開セッションでは日本に絡むテーマを中心に閣僚や日本企業のトップの登壇はあったものの、世界的な課題について日本のジャーナリストなどがモデレーターをしているセッションはありませんでした。
会議最終日に行われる名物セッション「世界経済の見通し」(Global Economic Outlook)にも、今年は日本からの登壇者はいませんでした。本会議場で行われるセッションなどでも、日本の印象は薄かったです。世界が注目するこの場所で、グローバルな課題について日本からの発信が活発に行われることを期待したいと思います。
信頼の再構築よりもAIへの関心
ダボスに集う世界のトップメディアの関心は依然として地政学が中心です。長引くウクライナ紛争、イスラエル・パレスチナ情勢、イランをめぐる情勢など武力による衝突は終わる見通しが立ちません。
また、ダボスに集う企業の経営者の本音も、今回のテーマである「信頼の再構築」よりも「AIなど自分のビジネスに直接つながることについて話したい」であるように感じました。