性の話をもっと当たり前に。By Femtech and BEYOND.No.5
突然の出血にうつ状態……。更年期の現実ってどんなカンジ!?
2025/08/19
フェムテックを、女性のみならず社会全体に関係するものとして捉え、さまざまな取り組みを推進する電通の社内横断組織「Femtech and BEYOND.」(フェムテックアンドビヨンド)。
この連載では、本組織の取り組みを通して、フェムテックの潮流の変化やそこに関わる意義などを多彩な企業・メディアなどと意見を交わしながら考えていきます。
今回は、「Femtech and BEYOND.」とアンファーの出会いから始まった、更年期をはじめとするホルモン変化とともに歩むための取り組み、「ホルモンハグプロジェクト」のメンバーが集まり座談会を実施。小学館の下河辺さやこ氏、ラキャルプの新井ミホ氏、アンファーの矢幡路子氏、電通Femtech and BEYOND.の石本藍子氏が、更年期のつらさ、課題、対処法、プロジェクトの今後などについて語り合いました。
ホルモンハグプロジェクトとは
業界業種の垣根を越えた有志が運営する、ホルモンバランス変化に伴う生理痛やPMS、男女双方の更年期などの健康課題に向き合うプロジェクトです。「Femtech and BEYOND.」とアンファーが中心となり2025年3月に活動をスタートし、同年5月22日に電通ホールでメディア向け説明会を開催しました。活動を応援していただける方、協賛していただけるブランド・メーカーさまを随時募集しています。

電通とアンファーの出会いによって、「ホルモンハグ プロジェクト」が始動
石本:「ホルモンハグ プロジェクト」は、今年3月に立ち上がり、以降、有志のインフルエンサーの皆さんや、フェムテック商品を扱う企業の方々などを巻き込みながら、少しずつ、更年期に関する情報を発信し、議論の機運を醸成する活動を行ってきました。
プロジェクト立ち上げのきっかけは、私が、たまたまフェムテック系のイベントを見に行って、アンファーさんに出会ったこと。名刺交換をして立ち話をしていたら、どんどん女性の課題についての話が盛り上がっていったんですよね。すぐに意気投合し、なにか一緒に新しいことをやりたいですねということになりました。
矢幡:アンファーというと男性用の薄毛ケア製品を扱う会社だと思われがちなんですが、実はバックボーンに医療がありまして……。大学機関などと連携しながら、予防医学などの観点に基づいた幅広い商品開発をしているんですよ。女性向けの製品も多く扱っており、例えばまつ毛美容液や女性向けのヘアケア用品、デリケートゾーンケア用品なども販売しています。
私はアンファーで女性向けブランドのプロモーションを担当しており、長年、女性の健康課題や美容課題に向き合ってきました。そんななかで、自然と、「生涯にわたって健康で美しくいるにはどうしたらよいか」「輝きながら年齢を重ねること──アクティブ・エイジングに必要なことは何か」といったことを考えるようになったんです。
そんなときに、偶然、イベント出展で石本さんに出会って、「Femtech and BEYOND.」の活動について知りました。すぐに「面白い!」と感じて、ご一緒したいとお伝えしたことを覚えています。

ファッションエディターの大草直子さんと話しが盛り上がり、その後小学館の下河辺さやこさんをご紹介いただきました。このようにだんだんネットワークが広がっていき、ラキャルプを経営されている新井ミホさん、瀧渕絵美さんが加わってくださるようになって。
石本:みんなでざっくばらんに話をするうちに、「実は更年期がとてもつらかった」「更年期について悩みを抱える女性は多いはず。フェムテックが浸透してきた今だからこそ、アクションを起こそう!」ということになったんですよね。
不正出血にうつ症状。つらい更年期と共存できるようになり人生が変わった
石本:プロジェクトの立ち上げ時に皆さんからお聞きして驚いたのが、「更年期に関するエピソード」です。私はまだ更年期を経験していないため、“それ”がどんなものなのかイマイチ想像しきれないところがあったんです。ですから、実際に更年期を経験し、ともに生きていらっしゃる先輩たちのお話をお聞きして、「そんなことが起こるのか」「こんなふうにざっくばらんに話していいものなんだな」「困難だけでなく、よい変化をもたらすものでもあるんだな」と、いろいろな点で気付きがありました。
せっかくなので、今日、この場でも、少し皆さんの更年期エピソードをお聞きできたらと思うのですが……。まずは新井さんから、いかがでしょうか?
新井:私は50歳ぐらいになって不調を自覚するようになりました。更年期に差し掛かるまではとても健康で、働くことに意欲があり、夢も希望もたくさんあって、とにかくよく動くタイプでした。2012年にオーガニックライフ専門の美容PR会社を設立し、以降は、理想に燃えて走り続けてきたように思います。
ところが50歳になって、急に、体と心が動かなくなってしまったんです。眠れないし、起きられないし、肌はやたらと乾燥するし、不正出血は止まらないし。働きたくても働けない、会社の仲間や友人と仲よくしたくても仲よくできない……。肉体と魂のバランスがすべて崩れてしまい、うつ状態になってしまいました。

「これはなんだ?」ということで更年期に気付き、それからは、本当にいろいろな治療にトライしました。まずはホルモン値を測る検査をして、漢方を始めて、食事・運動・睡眠といった生活習慣を見直し、瞑想なども行って。それでも改善せず、最終的にナチュラルホルモンを補充する治療法にたどり着き、現在は、以前と変わらないパフォーマンスで仕事ができています。

不調の渦中にいたときはただただつらく感じていたのですが、今振り返ると、更年期は“自分の体と心を改革する時期”だったように思うんですよね。変化に気付き、立ち止まり、改めて自分と向き合って、そしてアップデートする時間。不調を抱える女性社員の気持ちもわかるようになりましたし、女性がより長くいきいきと働けるよう会社の環境や制度を見直すきっかけにもなりました。
更年期というとネガティブなイメージを持つ方も多いと思うのですが、更年期は決してつらいだけではない、意味のあるもの。実際に経験してみて、人生100年時代を健やかに生きるためのライフイベントなのだと思うようになりました。
えっ、職場のあの先輩もこの先輩も生理がないの!? 更年期の衝撃事実
石本:下河辺さんは、お若いときから“ホルモンの影響力”を感じることが多かったとお聞きしています。どのようにホルモンとかかわり、今に至っているのでしょうか?
下河辺:初めてホルモンのすごさを実感したのが、妊娠・出産のとき。若いころからファッション誌で女性の健康に関するページを担当していたため、ホルモンについてある程度の知識を持っているつもりでいたのですが、実際に自分が出産してみて、産んだ途端に涙は出るわ、肌は荒れるわ、太るわ、むくむわで、「ホルモンってとんでもない影響力を持つものなんだな……」と改めて実感してことを覚えています。

その後、仕事で、ゲイの方々が登場する小説や映画に関わることになったのですが、ここでも、“ホルモンのすごさ”を感じました。徐々にネットワークが広がりLGBTQの方のお話を聞く機会が増えました。なかにはホルモン治療を受けている方がいらっしゃるのですが、私が話を聞いた方は「男性ホルモンを補充しはじめたら、ヒゲが生えるだけでなく性欲も強くなった」「男性が浮気をする気持ちがわかるようになった」など“ホルモンによる体の変化”に心から驚いていらっしゃって。あちらこちらでそのような話を耳にして、「やっぱりホルモンって強烈なんだなあ」と思いました。振り返ると、なんだかずっと、ホルモンのすごさを感じながら生きてきたような気がします(笑)。
そうこうするうちに45歳を過ぎて、急に、自分自身の生理の様子が変わってきたんですよね。突然、すごく長く不正出血が続いたかと思ったら、そのあとは3カ月ぐらい生理がスキップしてしまったり、かと思ったら、またドバッと血が出たり。最初は子宮がんかもしれないということでがん検査をしたのですが、がんではないとわかり、医師から「更年期では」と指摘されました。

そのときに知ってびっくりしたのが、「閉経の平均年齢は50歳前後である」(※)という事実。知識としてはうっすら理解していたのですが、自分ゴトとしてとらえたことがなかったため、「えっ!?ウソでしょ!あと2、3年しかないじゃん!!」と驚きました。同時に、「職場のあの先輩もこの先輩も、もう生理ないの!?」「みんな更年期だったってこと!?」と衝撃を受けてしまって。
※参考:更年期に負けたくない!更年期症状に直面する令和のアラフィフ女性たち
美容・ファッション業界だからというのもあるかもしれませんが、みんな誰にも言わずに人知れず闘い、我慢していたということなんですよね。いつもおしゃれでさっそうとしているけれど、実は更年期による心身の不調を抱えながら、会社ではバリバリ仕事をして、家庭では子育てや介護に向き合っている。これはものすごくしんどいことだと。とても大きな社会課題だと思いました。
幸いにも私には知識やサポートが得られる環境があったので、すぐに友人知人に相談して、更年期の症状がひどくなる前にホルモン補充療法で対策することができたのですが、「知らない」「話せない」状況だと、ただただ我慢をすることになってしまう。だからこそ、正しい情報を発信すること、話せる場を作ることが大事だと思い、ホルモンハグ プロジェクトに賛同しました。
更年期は隠れ社会課題。対処法と、今後の見通しとは?
石本:お話を聞いて、新井さんや下河辺さん、そして先日行われたホルモンハグのメディア向け説明会に登壇してくださった大草さんや瀧渕さんなど、アクティブでキラキラした女性たちが、こんなにも更年期に悩んでいたということを知って衝撃を受けました……。下河辺さんがおっしゃるように、まさに“隠れ社会課題”ですよね。
下河辺:そう思います。昔は働く女性が少なかったから表面化しにくかったけれど、今は管理職になる女性や定年まで働く女性が多い時代です。働く女性が増えたからこそ、仕事と更年期に悩む女性が増え、外に出るからこそ、薄毛など見た目の問題も気にする人が増えるようになったのだと思います。しかも更年期の時期って、ちょうど、子どもの反抗期や親の介護が重なる時期なんですよね。更年期の悩みを抱えながら、子育ても、家事も、介護も、責任ある仕事や昇進もしなければならない。これが大変でないわけがありません。たぶん女性活躍推進法によって仕事における活躍をより強く意識するようになった私たちの世代が、仕事と家庭と更年期に悩みながらキャリアを切り開く、いわゆるパイオニアのような世代なんだと思います。
石本:そう考えるといろいろ重なっているし、ロールモデルはいないしで、すごく過酷ですよね……。こうしたお話をお聞きして、「更年期ってとてもじゃないけど一人で乗り越えられるものじゃないんだな」と。「共存して、抱きしめて、乗りこなすものなんだな」と感じました。乗りこなすためには、どのようなことが必要だと思いますか?

下河辺:私は知識があったことで早めに医療につながれて対処できたので、まずはきちんとした知識を持っていただくことが大事だと思っています。あとは我慢しないこと。更年期だと思っていたら、実はがんなど別の病気だったということも少なくありません。「どうせ更年期だから」「我慢すればなんとかなる」と思わず、更年期を治療するためにも、大きな病気を未然に防ぐためにも、おかしいと思ったら、早めに婦人科にかかっていただきたいなと思います。
新井:私は怖がらずにポジティブに受け止めていただきたいなと思っています。つらいことも多いのですが、先ほども申し上げた通り、更年期にはよい変化もたくさんあります。自分の生活を見直し、いらないものを捨て、よりよく人生の後半戦を生きるすべを身に付けるための、人生の更新期のようなものなのかなって。いい気付きがいっぱいあり、悟りが開けます(笑)。
矢幡:あとは話せる環境を作ることも大切ですよね。いまだに「更年期って恥ずかしい」「人に言うもんじゃない」と、一人で抱えていらっしゃる方も多いと思います。そのもやもやした気持ちを誰かと分かち合えば、きっと心が軽くなると思うんです。対処法が見つかることもあるでしょうし、後輩たちに知識や経験を共有することにもつながりますよね。
新井:話しにくい場合は、ズバリ更年期ではなく、デリケートゾーンのケアや腸活の話など、周辺の話題から入るといいかもしれません。相手が男性の場合は男性更年期や、パートナーの不調をとっかかりにしてもよいと思います。
下河辺:それはとてもいいですね。男性更年期への理解が深まれば、自然と女性の更年期のこともわかるようになると思うので。
矢幡:ほかに、セミナーなんかもいいですよね。弊社の場合は、日ごろから、予防医学の観点でいろいろなセミナーを行っているため、更年期のセミナーもすんなりと受け入れられているように感じます。医師など専門家の視点から、ファクトベースで語っていくと、特に男性は抵抗感なく受け入れられるように思います。
石本:私たち「ホルモンハグ プロジェクト」の使命は、更年期をはじめとするホルモンに関する正しい情報を発信し、つながって、共感し、安心できる場を作ること。これからも、矢幡さん、新井さん、下河辺さんをはじめとする多くのインフルエンサーや専門家の方々と、全国に、話せる場を作っていきたいと思っています。
同時に、更年期に関するビジネスも盛り上げていきたいですね。グローバルではいろいろなメノポーズ(更年期)プロダクトが出ているのですが、日本のサービスや商品はまだまだ少ない状態です。あったとしても、点在していると言いますか……。参入企業が、それぞれで活動しており、あまり大きな動きになっていないような気がします。
新井:わかります。更年期って、点で対処しても解決しないんですよね。先述したように、運動をして、食生活を変えて、漢方を飲んで、病院に行って血液検査して、ホルモン療法についても調べたり。ものすごくやることが多くて忙しいんです。
下河辺:確かに。お金も時間もかかるし、知識も必要だしで、すごく複合的な課題解決が必要だと感じます。
矢幡:だからこの領域は、一社でなにかをやる感じじゃないと思うんです。企業の垣根を越えて、力を合わせて、新しいプラットフォームを作り、面で取り組む必要がある。今までのやり方とは違うやり方をする必要があると思っています。
石本:ホルモンハグのハグには、「抱きしめる」以外に、ハブですとか、人をつなぐみたいな意味も込めています。いろいろな人や企業をつないで、課題を解決するビジネスをきちんと作っていきたい。日本におけるメノポーズ・メノテック分野は、今、ブルーオーシャンの状態です。そこでしっかりと存在感を発揮し、女性が長く快適に暮らすための環境を整えていきたいと思っています。
