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性の話をもっと当たり前に。By Femtech and BEYOND.No.4

更年期をしなやかに“乗りこなす”、「ホルモンハグプロジェクト」とは?

2025/07/23

フェムテックを、女性のみならず社会全体に関係するものとして捉え、さまざまな取り組みを推進する電通の社内横断組織「Femtech and BEYOND.」(フェムテックアンドビヨンド)。

この連載では、本組織の取り組みを通して、フェムテックの潮流の変化やそこに関わる意義などを多彩な企業・メディアなどと意見を交わしながら考えていきます。

今回は、「Femtech and BEYOND.」とアンファーの出会いから始まった、更年期をはじめとするホルモン変化とともに歩むための取り組み、「ホルモンハグプロジェクト」のメディア向け説明会をリポート。更年期の基礎知識やインフルエンサーによる更年期体験談、世界の更年期ビジネストレンドなど、幅広いテーマが網羅されたこちらのイベントの、気になる内容についてお届けします。

ホルモンハグプロジェクトとは
業界業種の垣根を越えた有志が運営する、ホルモンバランス変化に伴う生理痛やPMS、男女双方の更年期などの健康課題に向き合うプロジェクトです。「Femtech and BEYOND.」とアンファーが中心となり2025年3月に活動をスタートし、同年5月22日に電通ホールでメディア向け説明会を開催しました。活動を応援していただける方、協賛していただけるブランド・メーカーさまを随時募集しています。
ステートメント

更年期による経済損失は年間約3.1兆円!苦しさを分かち合い乗りこなそう!

まずはホルモンハグプロジェクト発起人メンバーでもある電通の石本藍子氏が登壇。「早速ですが、皆さんは、日常生活のなかで、男性ホルモン・女性ホルモンを意識する瞬間ってありますでしょうか?」と切り出すと、ホルモンについて「年代性別関係なく影響するもの」「思春期、反抗期、生理、出産、更年期など、あらゆる時期に揺れ動くもの」と説明しました。

石本氏

さらに、このホルモンの変化が、「働き盛りの男女が直面する隠れ社会課題である」ことに言及。会場前方のスクリーンにスライドを投影しつつ、「更年期に対する不安を抱える女性が約88%もいる」という事実、「50代女性の約半数が自覚症状として更年期を感じている」こと、加えて「男性更年期の潜在患者数が600万人にも及ぶ」というデータを明らかにしていきました。

続いて、更年期の症状について説明。不眠、パフォーマンスの低下、いら立ち、突然顔のほてりや発汗が発生するホットフラッシュと呼ばれる症状、さらにはドライマウスやドライアイなど、多岐にわたる症状が出ると話しました。

女性の更年期症状

「これだけさまざまな症状があるにもかかわらず、多くの方は、『年齢のせいかな?』と我慢してしまう。誰にも相談できず、正解もわからないまま、一人で闘い、抱え込んでしまうんですよね。しかもこうした症状が出てくる更年期と呼ばれる時期は、職場であれば役割が重くなる、まさに働き盛りのタイミングです。最前線でバリバリ働かなければいけないときに更年期による不調が重なると離職しなければならない事態に陥ることもあり、その経済的損失は年間約3.1兆円にものぼるといわれています。

こうした深刻な状況があるにもかかわらず、まだ国内では、更年期に焦点を当てた大きな動きは起きていません。プロダクトやサービスも少なく、市場としてもポテンシャルがあるのではないかと考えています。私たちができることが、きっとたくさんある。苦しさを分かち合い、乗り越えるのではなく共存して一緒に“乗りこなして”行きたい。そんな思いで、このホルモンハグプロジェクトを立ち上げました」(石本氏)

こう話すと、続いて、「こうしたセンシティブな情報には、地域格差がある」と説明。医療や情報のそろった都市部だけの活動にとどめるのではなく、地域に広げていく、むしろ地域から始めていくことが重要だと力を込めました。

「地域では、更年期というだけで偏見を持たれ、婦人科に行くだけでうわさになってしまうこともあると聞きます。だからこそ、話せる場、つながる場が必要なんですよね」と石本氏。「私は地域の力こそ日本の可能性だと、マジで、マジで、信じています。皆さまの力をお借りして、ぜひ地域に、場を作っていきたいと思っています」と語り、参加した企業に協力を求めて、第1部を締めくくりました。

更年期は50歳前後の10年間。親の介護や子の思春期など問題が重なる時期

本イベントのメインセッションとなる第2部では、クレアージュ東京レディースドッククリニック総院長の浜中聡子医師、更年期に関する情報発信を積極的に行うファッションエディターでスタイリストでもある大草直子氏、ファッション・ディレクターの龍淵絵美氏が登壇。まずは浜中医師が、更年期やホルモンの基礎知識をレクチャーしました。

浜中氏、大草氏、龍淵氏
(左から)浜中聡子医師、大草直子氏、龍淵絵美氏

男性ホルモンがテストステロン1種類であるのに対し、女性ホルモンはエストロゲンとプロゲステロンの2種類があり、これらが増減しながら生理や排卵が起こります。2種の女性ホルモンのバランスが整ってくるのが20代前半ぐらいで、バランスが崩れてくるのが更年期の時期。特にエストロゲンは変動が大きく、更年期に差し掛かるとガクンと減少するそうです。日本人女性の更年期は、50歳を真ん中にして前後5年の10年ぐらいといわれており、48歳から50歳ぐらいで始まることが多いようです。現在は、ライフスタイルの変化や晩産化の影響もあり、生理が長引く女性も多く、55歳過ぎまで閉経を迎えない女性もいるのだとか。「更年期の期間も、少し後ろ倒しになっているように感じます」と浜中医師は話します。

浜中氏

一方の男性も、閉経という節目こそないものの、更年期に差し掛かるとガクンとテストステロンが減ることがあるそうです。誰でも必ずホルモンが減り閉経する女性とは異なり、男性の場合は、ホルモンが減る人・減らない人でかなり個人差があるといいますが、「個人差が大きい分、実は自分が更年期だと気づいていない男性が多い」と浜中医師。男性更年期が見えにくい、気付かれにくいことを説明しました。

「男女ともに更年期の時期は、親の介護や子どもの思春期など家族間の問題が多く出てくる時期です。これらのストレスが更年期症状を悪化させてしまうことも多くあります。また、最近では、生真面目な方に症状が強く出やすいなど性格的な因子が関係していることもわかってきました。いくつもの複雑な要素が絡み合って現れる更年期症状。誰ひとりとして同じということはないですし、同じ人であっても時期によって症状が違うということもあります。ですから、個に合わせて、しなやかに対処していくということが大切なんですよね」(浜中医師)

更年期症状の図

更年期とうまく付き合うには、個人差があることを理解し、柔軟な姿勢で“乗りこなす”ことが重要だと語りました。

人が信用できない、お風呂に入れない……。更年期の赤裸々な実体験とは

第2部後半のテーマは、「私の更年期」。大草氏、龍淵氏が中心となり、更年期に関する赤裸々なトークが展開されました。

まずは大草氏の体験談から。スクリーンに大草氏の更年期のヒストリーグラフが表示されると、それをもとに、さまざまなエピソードが語られていきました。

大草氏グラフ
大草氏

「私は健康で体力もあるほうなので、最初はあまり更年期の症状を感じていませんでした。ところが40代後半で、とっても眠りが浅くなってしまった。そのうちに気分が大きく落ち込むようになって、周りの人が信じられなくなっていきました。これはまずいということで、同年代の友人や専門家の方に相談して、合成ホルモンの摂取を開始。これがあまり身体に合わず動悸(どうき)やむくみが出てきてしまい、のちにナチュラルホルモンに変更しています。現在はだいぶ更年期の症状が落ち着いて、普通に日常生活を送ることができています」(大草氏)

続いて、龍淵氏も更年期のヒストリーグラフを披露。「48歳のときに親しい友人が亡くなり、メンタルが一気に落ちてしまった」「涙が止まらず、お風呂にも入れない状態だった」と、揺らぎの始まりについて振り返りました。

龍淵氏グラフ
龍淵氏

「私はずっとモード誌で働いているので、それでも外ではおしゃれをして、香水を振りまいて、気取った感じで過ごしていました。でも本当は、お風呂にも入っていないし、服も着替えないような状態で。そんなときに父が亡くなって、これはいよいよどうにもならないという状態になってしまった。それで、病院でホルモン値を測って、そこから自分の状態をこまめにチェックするようになりました。その後は、更年期に効果があるといわれているサプリを飲んだり、運動を始めたり……。あとは毎日500文字程度で自分の歴史を振り返っていく“ジャーナリング”と呼ばれる手法を取り入れたりして、自分を取り戻して行きました」(龍淵氏)

おふたりとも紆余(うよ)曲折を経て、更年期を“乗りこなせる”ようになってきたとのこと。「更年期は自分と向き合い、生活を見直す時期」「自分なりの治療法や付き合い方を見つけ、自分をリカバーするタイミング」だと話しました。

その後も、「更年期は100人いれば100通りの症状がある、なにが出てくるかわからないガチャのようなもの」「なんでも話し合える“更年期フレンズ”が大切」(大草氏)、「更年期は“ホルモンの乱”。予想外のことが起きるけれども、つらいことを笑いに変えるのが大事」(龍淵氏)と、さまざまなアドバイスや名言が飛び出しました。

最後に「みんなで更年期を乗りこなすには、正しい情報を発信すること、話せる場を作ることが欠かせない」と大草氏。特に地方に住む女性が、家族から「更年期は病気ではない」と言われ我慢をしていたり、誰にも相談できず悩んでいたりする現状を紹介し、「なんとかしてこの状況を変えたい」と力強く話しました。

アメリカでメノテック市場が拡大中。日本はこれから開拓が進む段階

続く第3部のテーマは、「世界の更年期のビジネストレンド」。Femtech and BEYOND.メンバーの奥田涼氏が登壇し、「更年期の問題をテクノロジーで解決する事業のことを“メノテック”と呼ぶ」ことを紹介。メノテックはフェムテックの一部であり、「フェムテック市場はアメリカがもっとも大きく、全体の51%を占めている」こと、「アジアのフェムテック市場はわずか8%にすぎず、日本に至っては何%かもわからない未開拓な状況である」ことを解説しました。

奥田氏

次に、世界で注目されるユニークなメノテックプロダクトを紹介。ホットフラッシュをコントロールする腕時計型のデバイスや、メノポーズ(更年期)モードを搭載したエアコンなどが紹介されました。

海外で加速するメノテックの流れ。この潮流は、そう遠くないうちに、日本にもやってくることでしょう。

最後に「ぜひ一緒に、ホルモンに注目し、この領域を盛り上げていきましょう」と石本氏。満席となった会場の参加者たちも納得した様子で、大きな拍手を送っていました。

会場の様子
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