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エリア特性を生かした独自のビジネスモデルの構築や、エリア経済の活性化に資する活動事例を紹介する連載「エリア経済の未来図」。今回取り上げるのは、広島発のアイテムブランド「Hi,Hiroshima」。広島県で旅行および地域商社事業を展開する株式会社たびまちゲート広島と、dentsu Japan(国内電通グループ)の中で新規事業開発を支援する事業クリエイティブチーム「汐留サロン」が共同事業として立ち上げたプロジェクトです。

この事業に携わる、たびまちゲート広島 地域商社事業部 営業統括チーム 主任の戸田千尋氏、株式会社 電通西日本 グロースプランニングセンター CXCD1部 部長の吉田一馬氏、株式会社 電通 zero クリエイティブディレクターの武藤新二氏にインタビューを実施。プロジェクトの起点から今後の展望、平和への思いを聞きました。

アップサイクル商品を通して、売り上げの一部を地域に還元

Q.「Hi,Hiroshima」は、たびまちゲート広島と「汐留サロン」の取り組みによって生まれた広島発のアイテムブランドです。はじめに、たびまちゲート広島の事業内容を教えてください。

戸田:たびまちゲート広島では、「たび」=旅行事業と「まち」=地域商社事業を手がけています。地域商社事業ではカフェやショップを運営しており、その中でも原爆ドーム近くの「広島市平和記念公園レストハウス」とビジネス街にあるセレクトショップの「BANCART(バンカート)」では、地域の名品を観光客や広島県の皆さまにお届けしています。

株式会社たびまちゲート広島 戸田 千尋氏

Q.「Hi Hiroshima」は、どのような経緯で立ち上がったプロジェクトでしょうか。

武藤:広島銀行さんからのご紹介で、地域商社事業を手がけているたびまちゲート広島さんと出会い、地元に貢献しつつ、広島を世界に発信できるような新規事業をご一緒しよう!と盛り上がったのがきっかけです。

地元のメーカーやクリエイターの皆さんが「捨てられる運命の素材でアップサイクルしたアイテムを作っても、なかなかお客さまにリーチしない」という悩みを持っている、という話をたびまちゲート広島さんからお聞きました。一方、汐留サロンではさまざまな事業者が手がけているアップサイクル商品のプラットフォームになるブランド「HAGIRE」を構想していました。そのアイデアをお話したところ賛同いただき、共同事業として取り組むことになったのです。

戸田:このプロジェクトを起点に「自社でもアップサイクル商品を開発し、広島の皆さまを笑顔にしたい」という思いが生まれました。単に商品を作るだけではなく、地元広島のブランディングにつなげたいという願いから「Hi,Hiroshima」というアイテムブランドに発展しています。また、地元貢献として、この事業の売り上げの一部を平和記念公園の保全活動に還元させていただいています。

アイテムを介して、世界に平和を発信したい

Q.「Hi,Hiroshima」のコンセプトを教えてください。

武藤:平和記念公園を訪れ、原爆ドームや資料館などを見学すると、平和に対する思いが強くなります。ですが、その思いを委ねていただけるような象徴的なアイテムブランドはありませんでした。見るたびに平和の大切さについて思いをはせていただけるような、エモーショナルなアイテムを提供したい。それと同時に、地域の方々にとっても「自分たちは世界に平和の大切さを発信しているんだ」と誇れるものにしたいと考えたのです。

また同時に、1970~80年代にかけて、ニューヨーク州が実施した「I Love New Yorkキャンペーン」のようなシティキャンペーンをアイテム起点に行えないか、という発想も生まれました。今でもニューヨークに行くと「I❤NY」のロゴマークを目にしますし、さまざまなアイテムが街中で売られています。市民もそれを誇りに思っています。そんなブランドを広島発で立ち上げ、アイテムを介して世界に平和を発信できたらとチームで構想を広げていきました。

Q.ブランドまわりのコピーワークを担うのが吉田さんです。ブランド名やコピーに込めた思いをお聞かせください。

株式会社 電通西日本 吉田 一馬氏

吉田:ブランドのネーミングについては、僕の実体験から着想を得ています。僕は広島出身で、小学生の頃から地元で海外からの旅行者を見かけると「Hi!」とよくあいさつしていました。考えてみると、「Hiroshima」の中には「Hi」が入っています。そこで「Hi,Hiroshima」というネーミングを発想しました。

メインコピーは、「世界と、交わそう。」。平和への思いを持って帰っていただくことを意識して、「交わす」という言葉に「気持ちを交わす」「平和への思いを交わす」という思いを込めました。また、広島県民は明るく、広島東洋カープが勝利したり得点が入ったりすると、ハイタッチを交わす文化があります。これはあくまで僕個人の印象ですが、そんなイメージも表現しています。

「広島らしさ」を生かしたデザインとアイテム展開

Q.現在「Hi,Hiroshima」では、どのようなアイテムを扱っているのでしょうか。

戸田:現在は、Tシャツ(6デザイン)とトートバッグ(2タイプ)を販売しています。セレクトショップ「BANCART」限定デザインのTシャツも用意し、平和記念公園とビジネス街を回遊してもらうための施策にもトライしているところです。

武藤:Tシャツとトートバッグは「メディアになり得るアイテム」だと考えています。海外からの旅行者の多い平和記念公園レストハウスではTシャツが売れ筋で、購入した方がその場で着ることも。同じように、トートバッグも購入した方がすぐに持ち歩くことも多いようです。そこでまずは、この2アイテムを販売し「Hi,Hiroshima」を街中にあふれさせたいと考えました。2025年夏以降、アイテム数を増やし、バラエティに富んだ展開をしていきます。

セレクトショップ「BANCART」(左) Tシャツ・トートバッグ各種(右)

Q.デザインのコンセプトや工夫した点を教えてください。

武藤:「平和への思いを世界に発信する」というコンセプトを念頭に、平和を象徴する折り鶴や原爆ドームなどをアイコン化しました。ロゴは「Hi,Hiroshima」の「i」の点が手になっているのがポイントで、あいさつの手ぶりやハイタッチをデザインに落とし込んでいます。アイテムのラッピングにも工夫を凝らし、平和記念公園での役目を終えた折り鶴の再生紙を使っています。

戸田:メッセージ性の強い商品は、国内のお客さまに敬遠されてしまうこともありますが、「Hi,Hiroshima」のアイテムは「かわいい!」と非常に好評です。国内外のお客さまが笑顔になれるデザインだと思います。

吉田:今年の8月、広島は原爆投下から80年を迎えます。当時は「今後75年間は草木も生えないだろう」と言われていましたが、広島は長崎と共に奇跡的な復興を遂げました。「Hi,Hiroshima」が、素材を新しく生まれ変わらせるアップサイクル商品や再生紙を扱うのは、そんな復興のイメージも重ねているからです。

Q.販売を開始してから、印象的なエピソードがあれば教えてください。

戸田:地元のテレビ局の情報番組に、海外からの旅行者がどんな広島土産を購入したのか紹介するコーナーがあり、「Hi,Hiroshima」のトートバッグを購入された女性が登場していました。その方は、「売り上げの一部が、平和記念公園の保全活動に還元される」というPOPを見て、購入してくださったそうです。商品のストーリーを理解した上で購入してくださっていることに感動しました。

商品のストーリーを伝え、世界に羽ばたくブランドに

Q.今後、「Hi,Hiroshima」をどのように展開していきたいと考えていますか?

武藤:「Hi,Hiroshima」は、アイテムの販売にとどまらず、より広い事業領域に展開することを考えています。平和記念公園レストハウスのカフェでの飲食メニューに発展させたり、たびまちゲート広島さんが手がけている旅行事業でのツアー開発などにも発展させたりとアイデアは次々に広がります。あの手この手で世界中の皆さんに平和への思いを伝えていきたいですね。

株式会社 電通 武藤 新二氏

吉田:個人的には、「Hi,Hiroshima」を日常使いできるブランドにしたいと考えています。「I❤NY」のようにみんなに愛され、「広島といえばこのロゴマークだよね」という広島のシンボルに育っていってくれたらうれしいです。

戸田:電通グループの皆さんには、商品力やデザイン力が高い商品をご提案いただき、お客さまの心を動かし、購買につながる突破口を開いていただきました。今後は、さらに商品のストーリーをいろいろな手法で伝えていきたいです。

今も世界的な情勢不安は続いており、広島県民が平和への願いを強く持つだけでは解決が難しい状況です。小さな取り組みかもしれませんが、世界に羽ばたくこのブランドを今後も守っていきたいと思います。


 

広島に限らず、地元住民はその地域の魅力になかなか気付きにくい側面があります。そこで、まずは観光客の方々に「Hi,Hiroshima」を知ってもらい、そこから地元住民のブランド認知を高めていきたいと電通の武藤氏は語ります。そのためのカギとなるのが、ブランドのメッセージを伝えるコピーや目を引くデザイン。今後もdentsu Japanの Creativity を生かし、地域活性化を推進していきます。

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著者

武藤 新二

武藤 新二

株式会社電通

1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に<a href="http://www.dentsu.co.jp/knowledge/publish/concerned_creative/atama.html" target="_blank">『アタマの体質改善』</a>(日本経済新聞出版社)、<a href="http://www.dentsu.co.jp/knowledge/publish/concerned_social/ojii_obaa.html" target="_blank">『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』</a>(ポプラ社)。

吉田 一馬

吉田 一馬

株式会社 電通西日本

広島県出身。リクルートメディアコミュニケーションズを経て電通西日本入社。故郷・広島の各種企業・メディア・プロスポーツチームのコミュニケーション領域を担当しながら、西日本エリアの情熱企業の新規事業&新商品開発に携わる。

戸田 千尋

戸田 千尋

株式会社たびまちゲート広島

関東からUターンをし、地域に関わる職務に携わりたいと考え、2021年5月、ひろぎんHD本社ビル1Fにオープンした地域の良いものをセレクトするショップ「BANCART」の立上げの際に店長として入社。前職はアパレル業界で主に店舗運営に携わる。現在はBANCARTと広島市平和記念公園レストハウスの2店舗の主にMD・VMD業務を担当し地域産品の商品開発や販路開拓に携わっている。また、賑わい創出に向けたイベント運営企画などにも注力している。

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