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なぜか元気な会社のヒミツseason2No.11

“お菓子な世界”の、真面目な話

2021/08/17

「オリジナリティー」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第11回は、お菓子の定期便を手掛けるスタートアップ企業「snaq.me(スナックミー)」。誰もがあっと驚くようなサービスを次々に具現化してみせる、その柔軟な発想力に迫ります。


“お菓子な世界”と言われて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。世界的なパティシエによる、ゴージャスできらびやかな世界だろうか。伝統の技を引き継ぐ、京和菓子のみやびな世界だろうか。さまざまなメーカーがしのぎを削る、デパ地下やコンビニスイーツの世界だろうか。はたまた、子どもの頃、百円玉を握りしめて通った学校近くの駄菓子屋の光景だろうか。人によっては、「ヘンゼルとグレーテル」を思い浮かべるのかもしれない。共通するのは、それが「メルヘンの世界」だということだ。老いも若きも男も女も、“お菓子な世界”に足を踏み入れた途端、童心に帰ってしまう。

ここに一人の男がいる。コンサル業界から、転身。「お菓子の定期便」という、摩訶(まか)不思議なビジネスを立ち上げた、風変わりな男だ。お菓子とは真逆の、シュッとしたその風貌から繰り出される話に、いわゆるビジネスの鉄則や常識は通用しない。しかしながら、彼がつくり上げようとしている“お菓子な世界”には、きちんとしたマナーがあり、秩序がある。「ワクワク」を生み出すための、地味で真面目な取り組みがある。そのあたりのヒミツに、今回は分け入ってみたい。

文責:吉田一馬(電通西日本Growth Planning Center)

snaq.me(スナックミー ): 2015年9月創業。「新しいおやつ体験を創造することで、おやつの時間の価値を上げる」ことをミッションとして掲げ、お菓子の定期便ビジネスをスタート。お客さま一人ひとりの好みでカスタマイズされるお菓子の組み合わせは、いわば無限大。そんな、ありそうでなかったサービスで、世間の注目を集めている。
snaq.me(スナックミー ):
2015年9月創業。「新しいおやつ体験を創造することで、おやつの時間の価値を上げる」ことをミッションとして掲げ、お菓子の定期便ビジネスをスタート。お客さま一人ひとりの好みでカスタマイズされるお菓子の組み合わせは、いわば無限大。そんな、ありそうでなかったサービスで、世間の注目を集めている。

とことん考え「お客さんは、自分だけでいい」に至る

服部社長が、2人の仲間と共に事業を立ち上げたのは、およそ6年前のこと。この仲間からして、すでに“お菓子な”人選だ。服部氏は、コンサル業界の出。集まった仲間は、旅行業界、IT業界、といずれも「食」とは無縁の経歴を持つ人ばかり。
そんな彼らが「お菓子」に目を付けたのには、理由がある。お菓子市場の規模は、およそ3兆円。その中で、トップシェアを誇る大企業でも、年商はせいぜい2000億円ほど。新規参入のチャンスはいくらでもある。しかも、マーケットに集まる会社が、完全なる競合関係にあるか、と問われればそんなことはない。駄菓子でも高級スイーツでも、同じお菓子。どちらかを選ばなくてはならない、ということもないし、隣で店を構えていても全く問題はない。「クルマ、飲料など、他の市場と比較すると、お菓子の市場は実におおらか。そこが、チャンスだと思ったんです」と服部社長は言う。

服部慎太郎: 1981年生まれ。04年慶應義塾大学卒業後、06年慶應義塾大学大学院修了。08年、Boston Consulting Group入社。13年、ディー・エヌ・エー入社。15年、スナックミー を設立、CEOを務める。お客さまへのフィードバックに立脚した「永遠のβ版」であることを信条に、サービスのさらなる向上を目指す。
服部慎太郎:
1981年生まれ。04年慶應義塾大学卒業後、06年慶應義塾大学大学院修了。08年、Boston Consulting Group入社。13年、ディー・エヌ・エー入社。15年、スナックミー を設立、CEOを務める。お客さまへのフィードバックに立脚した「永遠のβ版」であることを信条に、サービスのさらなる向上を目指す。

「マクロ的な理屈は、通っている。通っていますよね? でも、いざフタを開けてみるとうまくいかない。理屈が通っているだけに、どうしていいか分からなくなる。そんなとき、昔から好きだったマルシェの風景が、ふと思い浮かんだんです」。雑多な店が軒を連ね、なんとも陽気で、心からワクワクできる空間。探しものに出合えるかもしれないドキドキ感。“お菓子な世界”の魅力って、そういうものかもしれない。「マクロでダメなら、いっそミクロヘ振り切ってしまえ。マーケティングデータを眺めていても、ワクワクしない。ならば、当面の間、お客さんは自分1人でもいいじゃないか」。そんな割り切りが、事業の革新へとつながっていく。

業界の「お菓子な常識」にとらわれず、動く

まずは「自分が食べたいお菓子って、なんだろう?」「自分の子どもに食べさせたいお菓子って、なんだろう?」ということを徹底的に考えた、と服部社長は言う。無添加素材にこだわったりもした。そこから「お菓子の定期便」という発想に至るまで、それほど時間はかからなかった。マルシェで味わうあの幸福な気分が、自宅へ届く。頑張った自分への、ささやかなごほうび。これにはきっと、ニーズがあるにちがいない。

とはいうものの、そもそも「お菓子にEC(電子商取引)は向かない」というのがビジネス界の常識だ。単価が安いわりに、かさばる。輸送費がかさむ。生鮮品ではないので、「即日発送」のようなうたい文句もない。

ポスト投函という形態は、ある意味、さまざまな壁を乗り越えるための苦肉の策ともいうべきものだった。でも、その「軽さ」「薄さ」「手軽さ」に、「ささやかなぜい沢」という思いの丈を思いっ切り込めた。BOXのデザインにもこだわった。決して華美なものではなく、心の奥に小さな火をぽっと灯したい。そんな願いを込めて。

細部までこだわったイラストや同梱冊子「3PMmm…」など、 BOXには、お菓子に加えて“ささやかな仕掛け”が詰め込まれている。
細部までこだわったイラストや同梱冊子「3PMmm…」など、BOXには、お菓子に加えて“ささやかな仕掛け”が詰め込まれている。

お届けしたいのは、「モノ」ではなく「時間」

服部社長によれば、そうした試行錯誤を繰り返しているうちに「おやつ」というキーワードが浮かんできたのだという。「お菓子がモノであるのに対して、おやつは時間なんですよね。我々がお届けするべきは、お菓子というモノではなく『おやつ体験』なんだ、ということです」

「おやつ体験」もっと言えば「snaq.me体験」を楽しんでもらいたい。その発想は、BOXそのもののデザインにとどまらず、「お客さまの体験そのものをデザインできないか?」ということへと広がっていく。

金額の設定も、そこが基準となる。1500円で立ち上げた「8パックのお菓子が入ったBOX」の値段は、現在、1980円(税込、送料無料)に設定されている。街中で、ちょっとしたデザートを頼んでコーヒーブレイクをすることを考えれば、およそ2回分に相当する額だ。「これは僕のこだわりなんですが、1パック250円のお菓子ではなく、おやつ体験のための2000円のBOXをお届けしているということなんです」と、服部社長。これは、単なる言葉遊びでも、算数ごっこでもない。snaq.meから届くBOXは、およそ100種類の中からお客さまごとにカスタマイズされた8パックのお菓子で満たされている。オンリーワンとも言える2000円のsnaq.me体験は、snaq.meでしか味わえないもの、なのだ。

イギリスの家庭では、ごくごく一般的な「アフタヌーンティー」の様子。服部社長が思い描く「豊かなおやつ時間」が、そこには流れている。
イギリスの家庭では、ごくごく一般的な「アフタヌーンティー」の様子。服部社長が思い描く「豊かなおやつ時間」が、そこには流れている。

熱量の高いお客さまへ、事業を寄せていく

冒頭で紹介した「お客さんは、自分だけでいい」に続けて、服部社長からこんな言葉が飛び出した。ある意味、「snaq.meのビジネスモデルの核心」ともいうべきものだ。「最大公約数的なマーケティング戦略」から「ペルソナ型」へ。昨今では「n1戦略」というワードも耳にするようになったが、「熱量の高いお客さま」へ「寄せていく」という発想は、何か一つ飛び抜けた感がある。

「その意味では、UGCにも注目しています」と、服部社長。UGCとは「ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツの総称」のことであるが、服部社長によれば、情報の送り手が一方的に「こう見られたい」と思惑の下で制作したものとは違って、お客さまの熱量がダイレクトに感じられるもので、だからこそ価値があるのだという。

消費者におもねる、ということではない。snaq.meの熱烈なファンが、何を欲しているのか。どんな世界を体験したがっているのか。それに応えることが、企業としての最大のミッションである、という心意気の表れだと思う。そうした心意気に、ファンは酔いしれる。実に、幸せな関係ではないか。

snaq.meの事業は、お客さまひとり一人の「熱量」に支えられている。
snaq.meの事業は、お客さまひとり一人の「熱量」に支えられている。

魅力的なコミュニティーは、熱あるところに生まれる

さて、今回の取材も、いよいよ大詰めである。最後にインタビュアーとしてぜひ伺いたかったことは「魅力的なコミュニティーの作り方」というテーマだ。オンライン、オフラインを問わず、魅力的なコミュニティーには、共通する何かがあるような気がしてならない。まずは、理屈抜きにワクワクしてしまうこと。そして、そのワクワクは決して独り占めするものではなく、むしろ多くの人と共有したくなるもの、ということだ。

「一言でいうと、機能するということでしょうか」と、服部社長は言う。「そこへ行けば、何かが見つかるかもしれない。誰かと出会えるかもしれないというワクワク感。そのワクワクを受け止めてくれるだけの機能がコミュニティーにあることで、魅力度がぐんと高まるのだと思います。そして、その機能を支えているものこそが、ファンの熱であり、総体としての熱量だと思うんです」

豊かさとはなんだ?という問いは、現代人にとって最も難しい問いの一つだと思う。利便性は、これ以上必要ない、というレベルにまで達している。価値観も多様化し、それを他人と共有するためのツールも、とてつもなく進化した。語弊を恐れずに言えば、たいていのことは個人の好き放題にできる。でも、そうなってくると不思議なもので、心の奥底にある普遍的な感情を、誰かと共有したくなる。

服部社長の事業への着想を一言でいうなら「お菓子を、コミュニケーションツールにできないだろうか?」ということだと思う。「小学生じゃあるまいし、そんな馬鹿げたことでビジネスが成立するわけが……」と言いかけた瞬間、誰もがその言葉をぐっと飲み込むはずだ。「あるかも」という気づきと共に。

snaq.meのサービス名には「quality(品質へのこだわり)」「quest(美味しさへの探究心)」が詰まった「snaq(おやつ)」を「me(お客様1人ひとり)へ届けたい」という想いを込めた。snaqのqにはロゴである「squirrel(りす)」の意味も含まれているとかいないとか。ロゴのリスは、創業メンバーの3人でいろいろなモチーフをsnaq.meの隣においていったときにこれだ!という感覚があり、また、リスが食べていそうな木の実やどんぐりがナチュラルさを連想させることからリスに決まったのだとか。リスの形を2回変えながら、今でもリスのモチーフを使い続けている。
snaq.meのサービス名には「quality(品質へのこだわり)」「quest(美味しさへの探究心)」が詰まった「snaq(おやつ)」を「me(お客様1人ひとり)へ届けたい」という想いを込めた。snaqのqにはロゴである「squirrel(りす)」の意味も含まれているとかいないとか。ロゴのリスは、創業メンバーの3人でいろいろなモチーフをsnaq.meの隣においていったときにこれだ!という感覚があり、また、リスが食べていそうな木の実やどんぐりがナチュラルさを連想させることからリスに決まったのだとか。リスの形を2回変えながら、今でもリスのモチーフを使い続けている。
 

snaq.meのホームページは、こちら
(社名と同じURLへ飛んでいきます)


「なぜか元気な会社のヒミツ」ロゴ「オリジナリティー」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく連載のシーズン2。第11回は、お菓子の定期便を手掛けるスタートアップ企業「snaq.me(スナックミー)」をご紹介しました。

season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


【編集後記】

「熱量の高いお客さまへ、事業を寄せていく」という服部社長の一言が、とても印象的だったので、「それを測るための指標を、何かお持ちなのですか?」とさらに突っ込んだ質問をしてみた。まず、「熱量」というものをいかに測るのか、が分からない。事業に対する服部社長の体温から想像するに、購入頻度や購入金額といった定量的なものではなさそうだ。ファンレターの記述やSNSへの書き込みに対して、AIを駆使した定性的な分析を行う、ということでもないだろう。おまけに「寄せていく」だ。新進気鋭のカリスマ経営者の発言としては、額面通りに受け取るなら、いかにも拍子抜けだ。それに対する服部社長の答えは、目からウロコなものだった。

「ギャップ、でしょうか」という返答に、思わず聞き返した。「ギャップ、といいますと?」と。「僕らのサービスに刺さっている人のことは、わざわざ調査をするまでもなく肌感覚として分かる。僕が注目しているのは、むしろ刺さっていない人なんです。人というよりは、刺さっている人と刺さっていない人とのギャップ。それが大きければ大きいほど、この商品やサービス、いけるぞ!という確信が持てる。ネガな意見を背に受けて、進むべき方角を向いて帆を掲げられる。一番怖いのは、無風ということですね。いい意見も、悪い意見も、全く上がってこない。それって、無難な商品やサービスを、波風立てることなく提供している、というだけの話ですから」

「売る側がワクワクしないで、ワクワクが売れますか?」という信条と共に「ゴールを目指す」のではなく「ゴールに寄せていく」というニュアンスの真意も、じわじわと伝わってきた。「何がなんでも宝島を発見してみせる!」といった悲壮感は、そこにはない。「目指す方向は間違っていないのだから、航海そのものを一緒に楽しもうよ」と言われている感じ。それは、snaq.meのBOXを開けたときの、あの、なんとも言えない幸せな気分に通じるものだと思った。