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なぜか元気な会社のヒミツseason2No.9

2021/05/24

日本の血流となる、現代の遊牧民たち

「オリジナリティー」を持つ"元気な会社"のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第9回は、空き家を活用したサブスクリプション型住居サービスを展開する「ADDress(アドレス)」による、人生そのものを再定義する革新的な事業に迫ります。


「ノマドランド」という映画を見た。トレーラーハウスでアメリカ大陸を転々とする人たちの悲壮感と孤独、そして自由を描く作品だ。家(ホーム)の概念を問い直す佳作だった。その映画と同時期に知ったのが、今回お話を伺った佐別当隆志社長が運営するADDressだ。全国どこでも住み放題を掲げるこのサービスは、私たちがリモートワークで得た「流浪する自由」への一つの解答だと思う。それは地域コミュニティを放棄することではなく、むしろ多数保有するという発想の転換だった。インタビューの中では、移動、家、テクノロジー、コミュニティなど、これからの日本におけるキーワードが夢物語ではなく実体と手触りを持って語られていく。「人の動きは、国の血流」と言う佐別当社長の描くビジョン。ぜひ読んでいただきたい。

文責:諸橋秀明(電通BXCC)
 

ADDress:2018年11月創業。「いつもの場所が、いくつもある、という生き方。」をビジョンに多拠点シェアハウスを提案。暮らし方はもちろん、生き方までをサポートするその事業で、注目を集めている。
ADDress:2018年11月創業。「いつもの場所が、いくつもある、という生き方。」をビジョンに多拠点シェアハウスを提案。暮らし方はもちろん、生き方までをサポートするその事業で、注目を集めている。
 

いつもの場所が、いくつもある、という生き方

「月額4万円の定額で、全国どこでも住み放題」というのが、ADDressが仕掛けたビジネスモデルだ。これまでの「多拠点生活」とどこが違うのか。それは、多拠点シェアハウスともいうべきコンセプトにある。シェアハウスといえば、家賃の高い都市部で生活するために編み出された苦肉の策、のようなイメージがあるが、佐別当社長による提案はそういうことではない。いうなれば、住まい×コミュニティ×テクノロジーの方程式の答え、といったイメージだ。

ポイントは「シェアする」というところ。「暮らしをシェアするといわれると、生活のためにそうせざるを得ない、といったような窮屈なイメージだと思うのですが、人生をシェアする、それも全国さまざまな人と場所で、と考えると、なんだかワクワクしてきませんか?」

ポイントは、もう一つある。いつもの場所が、いくつもある。そこまでは、分かる。でも、それに続く佐別当社長からのメッセージが、「という暮らし方」ではなく「という生き方」だという点だ。この「生き方を、シェアする」という考え方が、今回の取材を通じての最大の発見だった。シェアする相手は、人ばかりではない。地域、自治体、企業、学校、さらには歴史、風土、文化など、ありとあらゆるものが佐別当社長の提案する「シェア」の対象なのだ。
 

2000年ガイアックスに入社。事業開発を経て、2016年一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し事務局長に就任。 2017年内閣官房IT総合戦略室よりシェアリングエコノミー伝道師を拝命。総務省、経産省のシェアリングエコノミーに関する委員を務める。2018年定額制の多拠点コリビングサービスを展開するアドレスを創業し、代表取締役社長に就任。2020年シェアリングシティ推進協議会代表に就任。
2000年ガイアックスに入社。事業開発を経て、2016年一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し事務局長に就任。 2017年内閣官房IT総合戦略室よりシェアリングエコノミー伝道師を拝命。総務省、経産省のシェアリングエコノミーに関する委員を務める。2018年定額制の多拠点コリビングサービスを展開するアドレスを創業し、代表取締役社長に就任。2020年シェアリングシティ推進協議会代表に就任。

スローガンは、「全国創生」

佐別当社長に「全国創生」の意味を、もう少しかみ砕いてご説明いただいた。「ポイントは、『都市か、地方か』ではなく、『都市と地方』で暮らすということなんです。別の言い方をするなら、都市と地方の人口をシェアするための分散型の共同体を全国に作る、ということになります」。

私自身も地方の出身なので、よく分かるのだが、地方創生はときに都会を仮想敵にしてしまう。いかに都会に出ていかないようにするか。いかに都会から戻ってきてもらうようにするか。その概念をADDressはひっくり返している。
限られた財や人を都市と地方で奪い合うのではなく、win-winの関係になる。そのためにデジタルテクノロジーを活用する。これは、とてつもなく夢が広がる話ではないだろうか。
 

二子玉川でのBBQの様子
二子玉川でのBBQの様子

ハブとなるのは、家守(やもり)という存在

「ADDressが提供する多拠点シェアハウスのハブとなるのは、家守(やもり)と呼ばれる方々です。家守は、単なる大家さんや管理人ではありません。その地域で暮らしを支える、言うなればコンシェルジュのような存在です。現在、我が社は全国150カ所ほどの家屋や宿泊施設とオーナー契約を結んでいますが、そのオーナー契約と並行して募集する家守という仕事には、すでに400人超のご応募をいただいています」。

例えば、サウナ部、ゆるヨガ部、日本酒部といった「部活」。例えば、農業や林業、伝統工芸といったその地域ならではの就業を支援する「ADDressアルムナイ」。こうした、主に会員の方々からの起案による活動のハブとなるのが、家守だ。住まいというハードに付随するソフトの面を、デジタルと人の手を融合させながら充実させていく。それが、ADDressが創造するコミュニティなのだ。「実際、賃貸借契約をしていただいている会員の80%の方に、『地域の人たちと仲良くなれた』ということをご実感いただいています」。
 

ADDressのビジネスモデル図
ADDressのビジネスモデル図

社会は、「新たな血液」を求めている

地域とのふれあいの大切さを、佐別当社長はこう表現する。「高度経済成長時代から現在に至るまで、社会を動かしてきたのはおカネでした。おカネが血液となって、人やモノの流れを生み出し、それが社会に活力を与えてきた。その一方で、おカネという血液に頼りすぎた結果、大都市一極集中や地域の過疎化といった問題が浮き彫りとなっている。社会は今、なにかしらの新たな血液を求めているのだと思います」。

佐別当社長のお話を伺っていて、思い出したことがある。中国の文化発展にモンゴルの遊牧民の存在が大きいという説だ。彼らが中国各地の定住民と交流する中で、文化が混ざり発展を遂げたという。人と人が混ざり合うことで、社会、経済、文化が発展していくとしたら、ADDressは、単なる住まいのサービスではなく、日本の国としてのレベルを一つ上げるプロジェクトと言ってもいい気がした。
 

2019年10月の記者発表会の様子
2019年10月の記者発表会の様子

人生のプラットフォームを作りたい

「一言で表現するならば、人生のプラットフォームを作りたいんです」と、佐別当社長は言う。「そしてそのプラットフォームは、おカネの力だけで成り立っているものではない。働き方改革というワードは定着しつつありますが、暮らし方改革、もっと言えば生き方改革といったものにまでは、まだ昇華しきれていない。逆に言うと、私たちの社会には、まだまだ成長するだけのポテンシャルが残されている、ということだと思います」。

定まった住所があって、定まった会社や学校に通い、地域の行政サービスの恩恵を受ける。私たちは、生まれたときから、「住む家とその付近」というプラットフォームに何の疑問も持たず暮らしてきた。ADDressは、そこに新しい選択肢を提供する。生きる場所の再定義だ。話は冒頭の「ノマドランド」に戻る。映画の登場人物たちは皆それぞれの場所に「帰る」のだが、それは生まれた故郷に戻ることを意味しない。家(ホーム)とは何か。ADDressの描く未来はその概念を大きく変える壮大なものだ。
 

 家は一つ、住所も一つという常識は過去のものにできる時代がやってきました。都市か地方かではなく、都市にも地方にも暮らす。この豊かな国で、幸福度の低い、手触り感のない生活から、住所を追加「ADD」する生き方を提供したい。全国各地で、家守と、会員と、地域の人たちとの暮らしは、一人ひとりが帰属するコミュニティとなり、自分のいつもの場所がいくつも持てるようになる。そんな想いでネーミングしました。
家は一つ、住所も一つという常識は過去のものにできる時代がやってきました。都市か地方かではなく、都市にも地方にも暮らす。この豊かな国で、幸福度の低い、手触り感のない生活から、住所を追加「ADD」する生き方を提供したい。全国各地で、家守と、会員と、地域の人たちとの暮らしは、一人ひとりが帰属するコミュニティとなり、自分のいつもの場所がいくつも持てるようになる。そんな想いでネーミングしました。

ADDressのホームページは、こちら


なぜか元気な会社のhミツロゴ

「オリジナリティー」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく連載のseason2。第9回は、空き家を活用したサブスクリプション型住居サービスを展開する「ADDress(アドレス)」をご紹介しました。

season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


【編集後記】

取材の終わりに、編集部から佐別当社長へ、やや長めの質問を投げかけてみた。「震災やコロナを経験する中で、私たち日本人は、母国の国土とか文化といったものに余りにも無知であるということを思い知らされたように思うのですが、その点についてどのようにお考えでしょうか?たとえば、日本の国土の67%は森林であるとか、南北にとてつもなく長い国であるとか。そういったことを平時の暮らしでは、すっかり忘れていたように思うのですが」と。

それに対する佐別当社長の答えは、とても深遠なものだった。「それは、人と生きる能力が低下している、ということだと思いますね。国土というものは、単なる場所じゃない。その地域に根付く風土や文化というものを、土地の人、とりわけ先駆者の方とのふれあいを通じて体験し、学ぶことで培われていくものだと思います。家屋にしても、そう。日本の家屋の寿命は60年ともいわれていますが、古民家のリノベーションに見られるように、いいものは時を経ることで、その魅力が増していく。何世代も前の人が暮らしていた空間や質感、そこに残された思いといったものに直に触れることで、今この瞬間の暮らしというものの味わいが、より深く、より魅力的なものになっていくのではないでしょうか」。

震災やコロナを経験する中で、私たちは大切な多くのものを失ってきた。そうした犠牲の上で、「人生で、本当に大切なものとは何か」という、これまで目を背けてきたテーマについて、深く考える機会を得ることになった。その答えは、日々の暮らしの中にある。そしてその暮らしとは、同じ時代を生きる家族や仲間、先達やこれから生まれてくる人たちとの「ふれあい」によって成り立っているのだということを、改めて考えさせられた。                                 

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