DEIな企業風土の耕し方No.2
DEIな企業風土の耕し方。パナソニック コネクトの場合
2024/11/05
DEIの取り組みを精力的に行い、インクルーシブな企業風土を育てている企業の皆さまにお話を伺うことで、「DEIな企業風土の耕し方」のヒントを探る本連載。第2弾は、経営戦略の柱のひとつにDEIを位置付ける、パナソニック コネクトです。
お話を伺った人:パナソニック コネクト 人事総務本部 DEI推進室 油田 さなえさん、古山 雄也さん、池松 奈穂さん
聞き手:中川 紗佑里、硲 祥子、菅 巳友(いずれもココカラー編集部)
※この記事はココカラーの記事をもとに編集して掲載しています。
DEI推進は企業の土台
──パナソニック コネクトのDEIに関する取り組みの全体像を教えてください。
油田:2017年に現CEOの樋口が当社の前身であるパナソニック コネクティッドソリューションズ社の社長に就任したときから、組織文化を企業競争力の源泉に位置付け、社内外に発信するようになりました。
こちらが2017年から進めている3階層の企業改革です。土台となる1階の風土改革を、当社では「カルチャー&マインド改革」と呼び、7年以上推進しています。DEIは、そのカルチャー&マインド改革の3本柱のひとつです。
──DEI推進は企業の土台である、ということですね。DEIがそのような重要な取り組みとして認識されている理由はなんでしょうか?
油田:大きく2つの観点があります。まずは、「企業競争力の向上」。例えば、ダイバーシティが進んだ組織の方が、イノベーションが生まれやすく、意思決定の質が高まると言われています。今の日本では、この観点からDEIを進められる企業が多いですよね。
ただ、それと同じぐらい、もしくはそれ以上に、「人権を尊重する」という観点を私たちは大事にしています。人権の尊重というのは、フェアな労働環境を整えていこうとか、差別のない職場を作っていこうとか、本当に基本的なことです。この「人権の尊重」と「企業競争力の向上」という2つの観点を、DEI推進の前提としています。
──人権の尊重なくしてDEIは実現できないということが、社内の共通認識になっているということですね。それ以外に、パナソニック コネクトならではの特徴はありますか?
油田:よく特徴的だと言われるのは、人事担当ではない役員がDEIを担当している点です。現在は、CMO(Chief Marketing Officer)の山口と、CFO(Chief Financial Officer)の西川、CLO(Chief Legal Officer)の玉田がDEIの担当役員を務めています。これにより、人事の視点だけでなく、パナソニック コネクト全体としてDEIを推進していく体制が取れていると感じています。
また、リーダー層だけでなく現場の体制にも特徴があります。当社は九州・沖縄から北海道まで多くの拠点があり、製造のメンバーもいれば、エンジニアも営業もSEもいて職種もバラバラです。職場・現場ごとにDEIに関するその時々の課題が異なる中、私たちDEI推進室のメンバーが全社一律で進めるDEIの取り組みには限界があります。ですから、事業部門ごとに「Champ」と呼ばれる職場でのDEI推進リーダーを設置しています。
キャリアオーナーシップがDEI推進につながる
──トップダウンとボトムアップの両方があることで、DEIがより推進しやすくなるということですね。具体的には、どのようなDEI推進の取り組みを行っていますか。主な活動を教えてください。
油田:毎年さまざまなゲストをお招きして、DEIについて社員全員で学ぶ「DEIフォーラム」というイベントを行っています。昨年は初めて介護をテーマにしました。
池松:介護というテーマをきっかけに、関心層が広がったとすごく実感しています。今はまだ問題を抱えていない人も、もうすぐ自分ごとになりそうだという感覚があるのだと思います。DEIに関する興味や関心は人それぞれ違いますし、「DEI=女性・LGBTQ+の話で、自分とは関係ない」と思ってしまう人も多いです。介護はそういった方々も含めマジョリティにも当てはまる問題意識をテーマアップできたという点で、あなたも当事者なのだと伝えられた意義が大きかったと思っています。
油田:昨年の10月からは、卵子凍結の助成制度も導入しました。1回限りではありますが、採卵や凍結にかかる費用を40万円を上限に補助するもので、社員からの関心も非常に高く、私たちが予想していたより多くの方に活用されています。
池松:ただし、「卵子凍結してどんどん働いてね」というメッセージとして間違って受け取られないよう、自律的に考えて、卵子凍結にトライしてみたいという方がいらっしゃれば活用してくださいということはセットで伝えるようにしています。その根底にあるのは、パナソニック コネクトが大事にするキャリアオーナーシップという考え方です。個人が生涯のキャリアにおいて「どうありたいか」を意識し、その実現に向けて主体的に行動すること、自律的なライフプランを考えることを推奨しています。
現場の声をアクションに
──DEIの取り組みを考える上で、キャリアオーナーシップの考え方が通底している、というのはとても興味深いです。DEI推進の先にある自分の将来のキャリアまで考えるきっかけになりそうですね。こうしたDEIの取り組みをきっかけに、何か社内で変化はありましたか?
油田:2017年から毎年実施しているDEIキャラバンをきっかけに、全社プロジェクトに発展したことがありました。このキャラバンは、DEIの担当役員が年1回拠点を訪問して現場の生の声を聞き、次のアクションにつなげていこうという活動です。毎年テーマや参加者を変えながら、感じていることを気軽に話せる場を提供しており、赤裸々な意見が出てきます。
2022年度のキャラバンは女性が対象だったのですが、「管理職、マネージャーになりたくない」という声が多くあがりました。その理由をひもとくと、管理職の業務負荷が非常に大きいことが一因になっていると明らかになったんですね。これはDEIだけの課題ではなく、全社を巻き込んで解決すべきだということで、担当役員の2人が経営会議に起案する形で、「マネージャー業務負荷低減プロジェクト」を発足させました。
古山:人事や経理をはじめとした各職能を巻き込んで業務プロセスの見直しを行い、承認プロセスの整理や、会議時間の短縮など、実際にいくつか改善アクションが生まれました。DEIキャラバンで出てきた社員の意見を聞きっぱなしにせずに、次の施策につなげていくことが大事だと思っています。
未来の家族の在り方から制度を考える
──「マネージャー業務負荷低減プロジェクト」の他にも、現場の声を反映した取り組みがあれば教えてください。
油田:2023年4月に生理休暇の名称と内容を変更したのですが、その際も現場の声を重視して進めました。当社は管理職に占める女性の割合が6.9パーセント(2023年度)で、多くの女性にとって生理休暇を申請する相手である課長は男性です。「生理休暇という名称が直接的なため、申請を上げるハードルがある」という声があり、名称変更をDEI推進室から労政部門に提案しました。
その際、せっかくなら休暇の名前を公募してみようということになり、たくさんの応募の中から「たんぽぽ休」という名前に決定しました。365日かたちを変えるたんぽぽを、日々異なるホルモンバランスや生理と戦う女性になぞらえています。たんぽぽの「T」を取って、通称T休と呼ばれています。また、今まで1日単位だった生理休暇を半日でも取得できるようにし、PMS(月経前症候群)でも取得可能にしました。
──素晴らしいアクションですね。ちなみに、どのような形で現場の声をヒアリングされているのですか?
油田:年に1回行っているDEIキャラバンや、メーリングリスト、労働組合、社内アンケートなど、さまざまな入り口を設けています。それに加え、今年の1月から役員と公募で集まった社員が議論する、「Gemba Roundtable」という取り組みを行っています。目の前の困りごとについて話すのではなく、少し未来の働き方を見据えて議論します。
設定したテーマは、「2040年、私たちは『多様な家族』を前提とした働き方ができているか?」。2040年には、高齢で単身の人、共働き育児をしている人、同性パートナーのカップルがもっと増えているかもしれない。多様な家族をもつ人がパナソニック コネクトで働いていると考えて、現行制度を見つめ直してみると、いろいろな意見が出てきました。これまでは基本的に制度を管轄する部門だけで制度を考えるのが通例で、社員自らが考えるような機会がなかったので、このような機会が作れたのはよかったと思います。
どうやって、自分ごと化させていくか
──さまざまな取り組みを進める中で、一筋縄ではいかないなと思うこともありますか?
池松:LGBTQ+に関する活動でいうと、取り組みに参加・協力してくれる人の輪を広げていくのに難しさを感じています。
私たちDEI推進室からの情報発信だけでは限界があります。取り組みに参加・協力している一人一人が周りの人を巻き込んでいくような工夫ができれば輪が広がっていくのではないかと考えています。
また、可能性を感じているのは、東京レインボープライドなどリアルな体験が伴う場所に来てもらうこと。参加してみると大事なことだと気づいてくれる人が多いので、どうやってリアル参加を促すか、問題意識を維持していくか、というところは課題だと思っています。
古山:2024年度は「障がい」をDEIの重点テーマとしています。マイノリティカテゴリの中でも、まだまだ理解が進んでいないテーマのひとつです。まずは、意識の面から、各拠点で障害者の疑似体験ができるワークショップなどを開催することで、よりよい理解促進ができればと思っています。役員に対しても同様のワークショップを実施し、トップとボトムの両方から推進していくことが、今まさに行っているチャレンジです。
──DEI関連のイベントに参加・協力してくださる方の輪を広げていく難しさはわれわれも感じていることであり、とても共感します。通常業務もある中で、こうした取り組みへの参加を促すための工夫は何かされていますか?
油田:基本的に、DEIの活動は業務であるというメッセージを出すようにしています。とはいっても、業務との兼ね合いで参加できない人も多々出てくるので、残せるものはしっかりアーカイブに残して、字幕もつけることを徹底しながら、だれもが見たいタイミングで見られるようにする工夫をしています。
また、介護に関するDEIフォーラムを開いた際、自分ごと化して聞いてくださった方が多くいたことからも、業務が忙しくてもとっかかりさえあれば、自分に直結する問題として、DEIという世界に足を踏み入れてみよう、と思ってもらえると実感しました。そこを入り口に、さらに他の問題に興味を持つこともあるでしょうし、 自分や周りのメンバーがDEI活動に参加することにも寛容になれると思います。そういう人が1人でも増えていくといいなという願いも込めて、まだまだチャレンジし続けていきたいです。
他企業や団体との連携へ
──最後に、 今後のパナソニック コネクトのDEI推進について、ご担当者としてどのような思いや考えがあるか、教えてください。
油田:DEIは取り組む領域が幅広いので、いろいろなことにチャレンジし、領域を広げていきたいです。「パナソニック コネクトって、DEIが進んでいるよね」と言ってもらえることがここ数年で非常に増えてきたので、今後は他の企業と一緒に、さらにいろいろなチャレンジをし続ける存在であり続けたい。そうすることで、社会を変えていく一助となりたいと思っています。
古山:障がいのある方が働きやすい環境づくりは、結果的に、誰もが働きやすい環境づくりにつながると思うので、そこを突き詰めていきたいと思っています。ただ、障がいのある方の就労は日本社会全体の課題なので、1社の企業では解決しきれない課題が山積しています。だからこそ、他の企業、大学などの組織と連携して、社会課題の解決につなげていきたいと思います。
池松:LGBTQ+の取り組みや卵子凍結の制度を担当していると、社外の方と関わる機会がすごく多く、やはり協力すべきだと強く感じます。情報交換やイベントで会うだけでなく、Pride Action30 のような取り組みを通じて、もっと一緒にアクションをとれる機会を作れたらと思っています。
まとめ:パナソニック コネクトの事例から学ぶ、DEIな企業風土の耕し方
今回はパナソニック コネクトの皆さんに話を伺い、DEIな企業風土の耕し方のヒントをいただきました。この記事を読んでいただいている皆さんの組織でも、何か取り入れられる糸口が見つかれば幸いです。
※Pride Action30について
https://connect.panasonic.com/jp-ja/brand/prideaction