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DEIな企業風土の耕し方No.1

DEIな企業風土の耕し方。アマゾンジャパンの場合

2024/10/16

人的資本経営、社員のダイバーシティ、インクルーシブな価値提供……。企業にとって、対顧客、対社員、対株主、さまざまな視点でダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(以下DEI)の取り組みの重要性は増す一方。ただし、日本ではいまだ多くの企業がDEIを風土・文化として浸透させきれていない現状があるのも事実です。そこで、すでにDEIの取り組みを精力的に行い、インクルーシブな企業風土を育てている企業の皆さまにお話を伺うことで、「DEIな企業風土の耕し方」のヒントを探る連載をスタートします。

第1弾となる今回は、先日東京レインボープライド2024にてゴールドスポンサー協賛をされていたことも記憶に新しい、アマゾンジャパンの事例をお伺いしたいと思います。

お話を伺った人:塩澤絵衣子さん(アマゾンジャパン Glamazon Japan Co-lead)、青木萌さん(電通 アマゾンジャパン担当プロデューサー)

聞き手:硲 祥子、半澤絵里奈(いずれもココカラー編集部)

※この記事はココカラーの記事をもとに編集して掲載しています。


LGBTQIA+を支援する有志団体「Glamazon」

──塩澤さんの職務におけるミッションを教えてください。

塩澤:現在、私は、アマゾンジャパンのGlamazonというアフィニティグループ※1のJapan代表を務めております。GlamazonというのはAmazonに勤めているLGBTQIA+の方々を支援するためのボランティア団体のようなもので、有志の社員が集まって、東京レインボープライドスポンサーをしたり、社内でいろいろなLGBTQIA+向けのイベントを開催したりしています。

※1=国内外の拠点を超えた、有志社員のグループ。社内ネットワークの構築や奉仕活動の主導など重要な役割を担っている。Amazonには現在、13のアフィニティグループがある。https://www.aboutamazon.jp/affinity-groups
 

少しさかのぼって話をしますと、私は5年前にアマゾンジャパンにDEIプログラムマネージャーという肩書きで入社しました。Amazonは「ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)」が会社を支える重要な土台であると考えており、全事業にわたってDEI推進に取り組む役職を定めているのですが、アマゾンジャパンでは5年前にそのような役職が初めて創設されたタイミングでした。就任した当時は、初期のDEIプログラムマネージャーの一人として、進むべき最良の道がわからない状況でした。まだDEIについての日本語の文献も少なく、ネット記事を検索したり、facebookの元COOシェリル・サンドバーグさんの「LEAN IN」を読んだり……。そういったところからヒントを得つつ、どうすればDEIを社内で浸透できるかを、ゼロから試行錯誤してきたという経緯があります。

一方で、Amazonは、上司や上層部が、DEIをとても重要な位置付けとして捉えているので、DEIを浸透させるという私の仕事はすごくやりやすかったという側面もありました。通常は、営業目的や利益が優先されるなど、どうしてもDEIは日々の業務の中で埋没してしまいがちです。ですがAmazonでは、社として年間のダイバーシティカレンダーが組まれおり、3月は必ず国際女性デーを、4月はアースデイのアクションを、5月はGAAM (Global Accessibility Awareness Month)に合わせて障害者のための支援に関するアクションを、6月はPride Monthを……という形で、月ごとに取り組みが決められています。そんな中で、DEIについて四六時中考え、いろいろな文献を調べ、上層部に対して提案・実施を行う、という一連の仕組みやポジションが整っていたことは、とても恵まれていたと思います。仕組みの時点で、しっかりDEIプログラムマネージャーというポジションが必要だと、組織の皆さんが強く認識してくれている環境かどうかというのは、非常に大きいと思うんですよね。

──そもそも、DEIプログラムマネージャーというポジションが作られた背景はどこにあったんでしょう。

塩澤:部署ごとのチームでは解決できない、横断的なプログラムを組む必要があるタイミングがありますよね。たとえば、物流拠点で働く人が本社に異動したいとき、その人に合うポジションがなかったり、どんなスキルを身につけたらいいのかわからない、ということで悩んでいたりする場合です。そのときに、スキルアップやキャリア形成などを目的に、部署やチームを横断したトレーニングやプログラムを作ったり、社内のトークセッションを設けたりなどが、プログラムマネージャーとしての役割になります。DEI領域において横断的なソリューションが必要な事象がさまざま発生していた背景もあり、DEIプログラムマネージャーが作られました。

DEIプログラムマネージャーに取り組む中で、LGBTQIA+の方々の支援を特化して行いたいと思い、本業とは別にGlamazonという社内団体にボランティアとして加入し、3年前からGlamazon Japanの代表を務めているという流れになります。

東京レインボープライドが重要な場

──Glamazonは今年の東京レインボープライド(以下、TRP)のゴールドスポンサーをされていましたが、どういった経緯でレインボープライドへの協賛を決めたのか教えてください。

塩澤:Glamazonとして、毎年社員サーベイを実施し、AmazonがLGBTQIA+の社員にとって働きやすい職場かどうかをさまざまな項目で調査しています。アマゾンジャパンは2020〜2021年のコロナ禍で、TRP参加を見送ったのですが、その年のサーベイの結果を見たら、皆さんすごくそれに「がっかりしました」という意見が多かったんです。やはりTRPはすごく大きなイベントですし、そこにアマゾンジャパンがスポンサーとして入っているということは、会社として本気で取り組んでいるという姿勢を表明する大事な機会だと改めて感じました。その結果を持って、社長のジャスパー・チャンに、社員にとってもTRPはすごく大事な位置付けなので、スポンサードをしたいと直談判しました。ジャスパーも快諾してくれ、昨年はパレードに参加できるシルバースポンサー協賛を実現できました。

ですが、終わってみるとブースの大きさや造作などについて、社員の方から「Amazonブースがもう少し本気度が伝わるものであってほしい」というシビアなフィードバックが数々ありました。改めてリーダーシップにそういった社員のフィードバックを伝え、今年初めてゴールドスポンサーとして参加することができたという形です。

──なるほど。社内からのフィードバックやサーベイをとても重視されているんですね。

塩澤:Amazonでは、データドリブンであることが重視されています。何か提案をする際には、関連するデータやファクトで裏付けることが重要です。

──日本企業であっても、経営層を動かすときには数字も根拠にして説得する必要があるという状況は一緒だと思うので、とても参考になります。

Amazonの価値が伝わるDEI活動

──また、今回TRPへブースを出展される際、どのようなメッセージを伝えようとしていたのか、ということも教えていただけますか。

青木:Amazonのロゴは「矢印が「a」から「z」に伸びており、Amazonには、「A」から「Z」、つまり全ての商品がそろっていることを意味していると同時に「お客さまの満足を表す笑顔」が表現されています。それはLGBTQIA+関連の商品、サービスであっても同じです。

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昔は手に入れたいものがなかなか手に入れられなかった人にとっても、今はAmazonで誰でも簡単にどんなモノ・サービスにもアクセスできる。全ての人のためにあらゆる商品をそろえているということこそが、Amazonがビジネスを通してお客さまに提供するインクルーシブネスであり、AmazonとしてのLGBTQIA+コミュニティのサポートの仕方です。今回、ブースでは「Unbox Our Pride! さあ開けよう、自分らしい毎日。」をメッセージに、実際にAmazonサイトで売られているLGBTQIA+関連の商品をGlamazonの皆さんにピックアップしてもらい、それらをご来場者の皆さんに紹介しつつ、Amazonとしての思いを伝える仕立てにしました。

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その結果、今年のTRP Amazonブース参加者に対する調査では「自分に関係のある製品を提供してくれる」に対し、そう思う・計94%との回答を得られた

──なるほど、Amazonらしい取り組みだったのだと、とても納得感があります。

DEI活動メンバーを増やし続ける

──先ほどお伺いした通り、Amazonの中でGlamazonの果たしている役割はとても大きいと思いますが、今のGlamazonのチーム運営に対して課題感などはありますか?

塩澤:われわれが常に悩んでいることとしては、メンバーの脱退が多いことです。結局、ボランティアで有志が集まってやっていることなので、強制力が働かず、どうしても業務優先になってしまう。どうしたらメンバーを定着させられるか、もしくは、常に新しいメンバーに参加してもらうにはどうしたらいいか、考えています。

そんな中、やはりTRPというイベントがひとつの大きな要になっているのは確かです。みんなでひとつのことを作り上げ、成功体験を味わえる、そういった達成感がチームの一体感を作っていると思います。もちろん大変なこともたくさんありますが、それを乗り越えるだけの、絆みたいなものはみんなで作り上げることができているのかなと。今年のTRPのGlamazonメンバーも本当に仲が良くて、TRPが終わってからもみんなで飲みに行ったりしています。みんな多分集まりたいんですよね。そういう雰囲気をずっと保てるといいなと思っています。

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文化的に日本人は比較的カミングアウトされていない方が多く、Amazonの社員の中にもなかなか胸を張って自分はGlamazonのメンバーだと言うのが難しい人がいるようです。私はアライ※2で、当事者ではない。それもあって代表というポジション顔出しをし、メディア出演もしているのですが、当事者の方たちはそういったことを躊躇される方がまだまだいらっしゃるというのが実情です。

※2 =LGBTQIA+の人々を理解しようとする姿勢をもち、社会的不利な立場を正すために、自分にできることを考えて行動する支援者のこと。
 

今後のミッションとしては、アライをどんどん増やしていきたい。当事者だけではなくて、 アライに参加してほしいというのが私の願いです。もちろん当事者であるとかアライであるとかを、メンバーになるために開示しなきゃいけないということは一切なく、カミングアウトもしなくてもいいですし、安心してどなたでも参加できるというのが前提です。

アライを含め、メンバーを継続的に増やすためにわれわれがやっていることのひとつは、新卒社員向けのオリエンテーションへの参加です。Glamazonのメンバーとして、“こういったアフィニティグループがあります、われわれの活動に賛同してくれるなら、ぜひメンバーになってください”と社内PR活動を行っています。「会社にこんな取り組みがあるんだ」と加入する新卒社員も多いです。あとは、社内のさまざまな部署から、全社会議でGlamazonの活動について話してほしいといったリクエストがあったりもします。

──新卒向けのオリエンテーションでプレゼンを行うのは、確かにいいアイデアですね。

塩澤:そうですね。いろいろなことをやっている会社なので、オリエンテーションも1週間ぐらい続くんです。Amazonの歴史から始まって、AWSやTwitchなどの買収、関連会社の説明に至るまで。その一環として、Glamazonのみならず、Women at AmazonというAmazonで働く女性、ノンバイナリー社員、そしてそのアライのためのグローバルなアフィニティグループや、PWD(People With Disabilities)という精神的および/または身体的な障害のある社員やお客さまをサポートするアフィニティグループ、最近立ち上がったアフィニティグループで、Mental Health & Well-Being(MHW)というメンタルヘルスを推進するものなど、さまざまな社員有志のグループを紹介しています。

トップのコミットメントが企業DEI推進の鍵

──どこの組織でもやはり、熱を持った人たちの数は限られてくるので、その熱をどこまで伝えられるか、その火をどうやって途絶えさせないか、などが活動の肝なのでは、とお話しを伺って感じました。企業DEIを推進するために、他に留意すべきことはありますか。

塩澤:企業DEIの推進は、誰か特定の役割を持つ人だけがやることではないんですよね。社員全員がDEIを常に意識しながら仕事に取り組むというのがAmazonの姿勢なので、全員がDEIに責任を持つメンタリティが大事です。

とはいってもやはり難しいのが、ビジネスとの優先度合いですよね。私自身、忙しくて目の前の業務が終わらないのに、どうして国際女性デーのプレゼンテーションの準備をしないといけないんだろう、と思ったこともあります。ダイバーシティに関する取り組みは、どうしてもマイノリティの方に負担がかかることも多い。たとえば、採用面接ではジェンダーダイバーシティのために必ず面接官としてある程度の役職を持った女性が一定数担当しないといけないというルールがあります。ですが、現状はどうしても人数的にそういったポジションの女性が少ないので、比較的女性への負担が重くなりがちです。ダイバーシティを唱えながらも、結局マイノリティの人たちの負担になっていることもある。そういった矛盾も生じてしまうので、バランスが難しいですよね。

──バランスという面では、DEIと、売り上げをどう折り合いをつけているのか気になります。こちらを立てればあちらが立たない、というトレードオフの関係ではないと理解していますが、売り上げへの責任と、DEIに対するコミットメントについては社内でどのように説明されていますか。

塩澤:Amazonの場合は、16項目の「リーダーシップ・プリンシプル 」という行動規範が大きな役割を果たしていると思います。このリーダーシップ・プリンシプルはあらゆるミーティングで伝えられ、オフィスの壁にも書いてあります。その項目の中に、“Hire and Develop the Best(採用や昇進において、すべての社員がさらに成長できるようベストを尽くす)”、そして“Strive to be Earth’s Best Employer(地球上で最高の雇用主になる)”というものがあります。それを実現するためにはダイバーシティは絶対欠かせないですし、ダイバーシティが確保されたあとのインクルージョンも、同じく欠かせないですよね。社員がみんな「自分はインクルードされている」と誇りを持って働くためには、全員が意識して誰もが働きやすい職場環境を作らなければならない、という考え方の啓発にAmazonは非常に力を入れています。

──お話を伺っていると、アマゾンジャパンのさまざまな取り組みの背景には、リーダーシップ・プリンシプルを含め、元々の出自であるグローバル(アメリカ)のAmazonの持つコアバリューがすごく強いと感じます。それがベースにあるからこそ、DEIが皆さんに浸透しやすいという傾向もあるのかもしれません。

逆に、そういったグローバルの背景を持たない、いわゆる日系企業で、DEIの文化を育む、根付かせるために、塩澤さんの視点から見て、何かアドバイスいただけることはありますか?

塩澤:Amazonには多様な社員がいるため、人種、国籍、文化的背景を超えて協業する必要があります。私の経験では、Amazon社員の多くは、詳しく説明するまでもなく、DEI推進の取り組みの重要性を認識しています。お互いの違いを受け入れることが、効果的なチームワークとイノベーションに不可欠だという一般的な理解があるようです。ただ当然、日本社会や日本企業の中でもLGBTQIA+の方、障害者の方もいらっしゃいますし、女性も役職や業界によってはまだまだ活躍されている方が少ないですよね。それぞれの組織の中で、そういったマイノリティに目を向ける姿勢を、トップの方が率先して取っていくことで、社員が追随できる空気が作られると思います。

──たしかに、トップが率先してDEIにコミットメントをすることで、社員が追随していくモデルというのは、伝統的な日本の企業であっても、ひとつの突破口になる気がします。

塩澤:ダイバーシティの問題は、マイノリティだけの問題ではなく、経営に直結する問題である、とわれわれもよく言っています。多様性が増えれば増えるほど、ビジネスの判断がより良いものになり、利益率が上がるなど、実際の経営にも直接的に影響があるものです。そういう観点からも、経営層がぜひDEIに積極的に取り組んでいただきたいと思っています。

まとめ:アマゾンジャパンの事例から学ぶ、DEIな企業風土の耕し方

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今回はアマゾンジャパンの塩澤さんにお話を伺い、DEIな企業風土の耕し方のヒントをいただきました。この記事を読んでいただいているみなさんの組織でも、何か取り入れられる糸口が見つかれば幸いです。

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