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LGBTQ+調査2023No.4

LGBTQ+に関する各地の世論は?~2023調査 地域別の分析比較

2024/04/24

電通では昨年で5回目となる「LGBTQ+調査2023」を実施しました。本連載では調査結果をさまざまな切り口から分析します (前回の記事は、こちら)。

今回の調査では、日本各地の世論を比較するため、アンケート対象者の数を47都道府県で均等になるよう割り付けし、それぞれ120人の回答を得ています。各都道府県でのLGBTQ+を取り巻く環境の違いに、電通ダイバーシティ・ラボの岸本かほりと菅巳友が迫ります。

〈目次〉
LGBTQ+のサポート世論およびサポート行動のスコアが高い都道府県は?
LGBTQ+当事者層にサポーティブなクラスターの方が、幸福度が高い傾向
LGBTQ+当事者の望むサポートの在り方とは?


LGBTQ+のサポート世論およびサポート行動のスコアが高い都道府県は?

渋谷区と認定NPO法人虹色ダイバーシティが実施した、全国パートナーシップ制度共同調査によると、2023年6月28日時点で、同制度を導入しているのは328自治体となり、人口カバー率は70.9%。パートナーシップ証明の交付件数は2023年5月31日時点で、5171組となりました。この制度によって、LGBTQ+当事者・非当事者の暮らしや意識は影響を受けているのでしょうか。

LGBTQ+
(c)渋谷区・認定NPO法人 虹色ダイバーシティ 2023

まず、LGBTQ+に対する意識を比較してみます。

LGBTQ+への意識に関する下記5問について、回答の平均点をスコア化しました。さらに都道府県で比較をしたところ、最もLGBTQ+サポート世論が強い都道府県は、沖縄県(65.7pt)となり、次いで、新潟県(63.9pt)、徳島県(63.4pt)、熊本県(63.3pt)、島根県・福岡県(62.4pt)という結果となりました。

※算出方法:下記5問についての回答を平均点でスコア化
①LGBTQ+などの人々も含め、全ての人が安心して過ごせる環境を作ることが大事だと思う
②LGBTQ+の当事者に不快な思いをさせないために、LGBTQ+について正しく理解をしたいと思う
③LGBTQ+など多様なセクシュアリティ(性)の人たちも、基本的人権が尊重され、平等に扱われるようにする必要があると思う
④LGBTQ+の当事者の人たちへの、職場や社会での差別は今も存在するので改善するべきだと思う
⑤婚姻や共同親権など、異性のパートナー同士が持つ権利を同性カップルが持てないのはおかしいので改善するべきだと思う

 
LGBTQ+

今回5位にランクインした島根県は、2023年10月に県内全市町村でパートナーシップ制度を導入(2022年12月表明)しています。2023年には県内初のレインボーパレードが実施されるなど、自治体の制度導入による情報量の増加やLGBTQ+当事者による発信が、人々の理解や世論形成の後押しにつながったのではないかと考えられます。

※島根県のパートナーシップ制度導入は2023年10月のため、全国パートナーシップ制度共同調査の地図の表記は、「制度のない都道府県」となっています。


次に、LGBTQ+フレンドリー(LGBTQ+を差別することなく、友好的な関係を築こうとする)な行動について比較します。

下記5問についての回答の平均点をスコア化。都道府県で比較をしたところ、最もLGBTQ+フレンドリーな行動をとっている都道府県は、佐賀県(41.1pt)となり、次いで、徳島県(40.4pt)、和歌山県(38.8pt)、香川県(37.1pt)、長野県(36.8pt)という結果となりました。

※算出方法:下記5問についての回答を平均点でスコア化
①LGBTQ+の当事者が生きやすくなるなら、LGBTQ+について学ぶことは苦ではない
②「彼氏、彼女」ではなくて、「パートナー」や「恋人」など性別を特定しない言葉を使うようにしている
③ 目の前で誰かが差別的な言動をとった時は、話題を変えたり、注意をする
④LGBTQ+について正しく理解できるよう、情報収集や、当事者の声をしっかり聴くようにしている
⑤LGBTQ+の当事者の人が生きやすい世の中になるように、情報発信をして支援している


LGBTQ+


意識に比べると行動のスコアは低いものの、トップ10にランクインしている佐賀県・香川県・茨城県は、県内全域でパートナーシップ制度が導入されており、それぞれの県内の人々が、当事者が身近にいることを意識しながら言動をとっている可能性が示唆されます。

LGBTQ+当事者にサポーティブなクラスターの方が、幸福度が高い傾向

2020年調査に続き、LGBTQ+非当事者のクラスター分析を行ったところ、下図の結果となりました。

LGBTQ+


・アクティブサポーター層(25.3%):課題意識が高く、積極的にサポートする姿勢がある。身近な当事者や、海外コンテンツを通して理解を深めた。

・天然フレンドリー層(9.3%) :知識のスコアは低いが、課題意識や配慮意識が比較的高く、ナチュラルにオープンマインド。

・知識ある他人事層(34.6%):知識はあるが、当事者が身近にいないなど、問題意識を覚えるきっかけがない。現状維持派。

・誤解流され層(19.6%):少子化といった社会への影響を懸念するなど、誤解が多いため一見批判的だが、もともと人権意識はある。

・敬遠回避層(5.4%):積極的に批判はしないが、配慮する意識が乏しく関わりを避ける。知識はある程度あっても、問題と感じていない。

・批判アンチ層(5.7%) :生理的嫌悪、社会への影響懸念が著しく高い。人種差別や環境問題などの社会問題に対しても興味を持たない。

前回の2020年調査と比較すると「アクティブサポーター層」が29.4%から25.3%に減少し、「誤解流され層」が16.2%から19.6%に増加しています。そのほかの層の割合に関しては大きな増減は見られませんでした。

今回は、各クラスターの幸福度の差についても確認しました。幸福度に関しては、1を「全く幸せではない」、10を「とても幸せ」として、10段階で自分自身がどれだけ幸せと感じるか?の回答の平均値を算出したものです。

LGBTQ+

「天然フレンドリー層」と「アクティブサポーター層」の幸福度が非当事者の平均幸福度6.5よりも高い結果となり、よりLGBTQ+にサポーティブな層の方が幸福度は高いことがわかりました。

幸福度を決定するものとしてはさまざまな要因がありますが、他者とのつながりとは強い関係性があるといわれています。自分と異なる他者に対して関わる意識・姿勢は、LGBTQ+当事者のみならず、LGBTQ+非当事者の人生へもたらす影響もあると考えられます。

全国8つのエリアで比較すると、「アクティブサポーター層」は九州・沖縄に多く、「知識ある他人事層」は関東、「誤解流され層」は四国が多いという結果でした。前回調査では「アクティブサポーター層」の割合が多かった北海道ですが、今回の調査では「誤解流され層」と、「知識ある他人事層」が増加しています。

LGBTQ+

今回も、割合として多い「アクティブサポーター層」「知識ある他人事層」「誤解流され層」について、都道府県ごとに見てみました。

問題意識が高く、積極的にサポートする姿勢がある「アクティブサポーター層」の割合が多い都道府県を比較したところ、トップは沖縄県(36.9%)となり、次いで、京都府(34.1%)、佐賀県(33.4%)、鹿児島県(33.0%)、福岡県 (31.9%)という結果でした。

このトップ10のうち、6府県(沖縄県、京都府、佐賀県、鹿児島県、福岡県、宮崎県)が、サポート世論が強い都道府県の10位以内にもランクインしており、「アクティブサポーター層」が多いと県全体としてもサポート世論が広がりやすい可能性が考えられます。

LGBTQ+

知識はあるもののLGBTQ+当事者が身近にいないなど、問題意識を覚えるきっかけがない、いわば他人事(ひとごと)と捉えている「知識ある他人事層」の割合が多い都道府県を比較したところ、トップは埼玉県(43.0%)、次いで、島根県(41.7%)、滋賀県(41.1%)、茨城県(40.3%)、富山県 (39.2%)という結果でした。

今回の調査結果では、調査対象者の約10人に1人はLGBTQ+当事者であることから、身近に存在していると考えるのが自然ですが、他人事であると考えているゆえにその事実に気が付かず、知らぬ間にLGBTQ+当事者を傷つけている可能性があります。
 

LGBTQ+

人権意識はあるものの、LGBTQ+の社会的影響として少子化が加速するといった誤解をしている「誤解流され層」の割合が多い都道府県のトップは栃木県(29.9%)、次いで、岩手県(29.5%)、高知県(27.7%)、福井県(27.2%)、三重県・徳島県 (26.3%)という結果でした。

三重県はパートナーシップ制度の人口カバー率が100%であるにもかかわらず、「誤解流され層」の割合が多いことから、制度の導入で終わりにせず、非当事者に対する正しい知識の啓発・理解促進を進めることも課題であると考えられます。

LGBTQ+

 

 


 

LGBTQ+当事者の望むサポートの在り方とは?

LGBTQ+当事者に「LGBTQ+当事者が住みやすい街になるために取り組んでほしい点」を聞いたところ、「学校での教育」に関するニーズが高く(26.6pt)、教育現場におけるLGBTQ+に関する知識の啓発・普及に課題意識がある人が多くいることが明らかになりました。

LGBTQ+

LGBTQ+非当事者においても、最もスコアが高かったのが「学校での教育(27.3pt)」で、学校教育での取り組みは、当事者・非当事者双方から求められていることが分かります。

LGBTQ+当事者を守る条例の制定や、公共施設・トイレなど施設面の改善が話題に上ることは多く、重要な取り組みですが、そもそもなぜそれらがLGBTQ+当事者にとって必要なのか?を正確に知り、理解する機会の不足が問題として双方から挙げられたと考えられます。

「学校教育で、LGBTQ+をはじめとする『性の多様性』について教わったこと」があるか?という質問に対する回答をエリア別に比較すると、最も多かったのは近畿地方でも「ある」と答えた人は9.8ptと10%以下に留まっています。

LGBTQ+

パートナーシップ制度は人口カバー率が70%を超えるなど、普及が進んでいます。一方で、制度が普及したとしても、なぜその制度が必要なのか?LGBTQ+当事者にどのような困りごとがあるのか?という知識を身に付けることは必要不可欠です。偏った情報や間違った情報が溢れている社会の中で、正確な知識が確実に手に入る環境が整備されることで、当事者を含む全ての人が生きやすい社会に一歩近づくのではないでしょうか。

【調査概要】
「電通LGBTQ+調査2023」概要
調査主体:dJサステナビリティ推進オフィス
調査協力:電通ダイバーシティ・ラボ

<スクリーニング調査>
 調査対象:20~59歳の個人5万7500人
 調査対象エリア:全国
 調査時期:2023年6月14日~19日
 調査方法:インターネット調査

<本調査>
 調査対象:20~59歳の個人6240人(LGBTQ+層該当者600人/非LGBTQ+層該当者5640人)
 調査対象エリア:全国
 調査時期:2023年6月14日~19日
 調査方法:インターネット調査

※LGBTQ+当事者層割合、人口構成比に併せて、都道府県、性別、年代(20〜30代/40〜50代区切り)でウェイトバックをかけています。
※当事者の子どもを持つ親のデータについては回答数が少ないためウェイトバックはかけていません。
 

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