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LGBTQ+調査2023No.3

子どもにLGBTQ+だとカミングアウトされたら。理想と現実の乖離

2024/01/16

電通では昨年で5回目となる「LGBTQ+調査2023」(※)を実施しました。本連載では調査結果をさまざまな切り口から分析します (前回の記事は、こちら)。

今回の調査の結果、LGBTQ+当事者層の割合は9.7%でした。これは自分の友達や同僚など、プライベートや社会で関わる方はもちろん、例えば子どもを持ったときにその子どもがLGBTQ+当事者となる可能性もある数字だと思います。

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調査対象:2023年/20~59歳・5万7500人、2020年/20~59歳・6万人、2018年/20~59歳・6万人

自分の子どもからLGBTQ+の当事者だとカミングアウトされたら、あなたはどのように感じますか?

2023年調査では「LGBTQ+調査」として初の試みとなる、自分の子どもがLGBTQ+当事者であったときに関する質問や、当事者の子どもを持つ親に対する質問を設けました。結果には理想と現実の乖離(かいり)が見えてきました。

この結果は親ではなく周囲の環境や社会の在り方にまだまだ課題があることの表れだと思います。LGBTQ+当事者の子どもを持つ親がどのような意識をもっていて、周囲や社会に何を求めているかについて、調査結果から紹介します。

※ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン課題に対する研究やソリューション提供を行う電通ダイバーシティ・ラボ協力のもと、電通グループのdentsu Japan内の組織であるdJサステナビリティ推進オフィスが主体となり、調査を実施。
〈目次〉
当事者の子どもを持つ親としての、理想と現実の意識の乖離
当事者の子どもを持つ親のサポーティブな行動への変化
求めているものは周囲と社会のサポート

当事者の子どもを持つ親としての、理想と現実の意識の乖離

LGBTQ+非当事者の83.8%が「仮に自分の子どもがLGBTQ+であったとしても、愛をもって接したいと思う」と回答しました。大多数の方々は「支えたい」という気持ちを持っていることが分かりますが、実際に当事者の子どもを持つ親は同じ質問に対して、66.8%にスコアが低下します。また「性的マイノリティーとしての困難はあるかもしれないが、子どもの人生を精一杯応援してあげたいと思う」と回答した当事者の子どもを持つ親は67.4%でした。

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非当事者はマイノリティーを「支えたい」という理想を持っていますが、現実に当事者の子どもを持つと「支えたい」という人の割合が低減します。これらの結果から理想と現実が乖離していることが読み取れます。実際に当事者の親になると、想像していなかった困難や障壁が生まれている可能性が考えられます。

例えば当事者の子どもを持つ親の56.5%が「自分の住んでいる地域では、性的マイノリティーの家族がいる家庭は暮らしにくいと感じる」と回答しています。一方、LGBTQ+の当事者は「自分の住んでいる地域では、LGBTQ+などの性的マイノリティーが暮らしにくいと感じる」が40.3%の結果となりました。地域による差はありつつも、当事者以上にその家族が暮らしにくさを感じていることがこの結果から分かります。

その他にも「子どもの性自認や性的指向に関する悩みを相談できる人が、自分の周りにいない」が51.3%、「自分の子どもが性的マイノリティーであることを伝えていない人に子どものことを聞かれたとき、嘘をついてしまうことがある/気まずく感じてしまうことがある」が53.9%と、子どもの悩みを抱え込んでしまうことで生きにくさを感じていることがうかがえます。

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当事者の親の中には、不安や生きにくさを当事者と近い視点でリアルに感じ、抱え込んでしまったことで、子どもを「支えたい」という気持ちが弱まってしまった方もいるのかもしれません。

当事者の子どもを持つ親のサポーティブな行動への変化

子どもを「支えたい」気持ちが弱まってしまう家庭がある一方で、LGBTQ+に対してのサポーティブな行動への変化が起きている家庭が増えていることも調査結果から分かりました。身近な行動では「『彼氏、彼女』ではなくて、『パートナー』や『恋人』など性別を特定しない言葉を使うようにしている」が非当事者で17.0%なのに対し、当事者の子どもを持つ親は38.3%と2倍以上の結果となりました。

また「レインボープライドパレードなどのLGBTイベントに参加したり、手伝ったりして支援している」と答えた非当事者は6.7%だったのに対し、当事者の子どもを持つ親は26.9%でした。「LGBTQ+をサポートする企業の商品・サービスを積極的に利用しますか」という問いに「利用する」と回答したのが、非当事者は44.0%でしたが、当事者の子どもを持つ親は61.1%でした。身近な行動の変化だけでなく、LGBTQ+をサポートするための社会への働きかけを行うという変化が起きていることが分かります。

他にも「知り合いや友人にLGBTQ+の当事者がおり、相手を知らずに傷つけてしまう言動をとってしまい後悔した経験がある」と答えた非当事者は8.0%だったのに対し、当事者の子どもを持つ親は28.5%でした。アクションの変化の裏には自分の言動を見直すきっかけがあったこともうかがえます。

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このようなサポーティブな行動への変化から、LGBTQ+インクルージョン意識への「自分ゴト化」が子どもを通して起こっていることが分かります。現実として当事者が不安や生きにくさを感じてしまう社会であることによって、その親も同じように不安や生きにくさを感じてしまうことがあるのも事実です。しかしそこで何も行わないのではなく、子どもが生きやすくなるためにアクションを起こす(起こしたいと感じている)家庭があること、そしてそれが少なくないことも調査結果から見えてきました。

求めているものは周囲と社会のサポート

ではLGBTQ+当事者の子どもを持つ親は、社会にどのようなことを求めているのでしょうか。

学校に対して望むことについては、「教員や部活動の指導者はLGBTQ+に関する基礎的な知識を身につけてほしい」「性別に関係なく着られる体操着やユニフォーム(露出の少ない水着など)を採用してほしい」という声が上がっており、メディアに対しては、「ホモネタなど性自認・性的指向を笑いのネタにした表現はやめてほしい」「古いジェンダー観や家族観に基づいて、有名人のプライベートを報道するのをやめてほしい」といった、子どもの価値観形成が影響を受ける場面でのインクルーシブな変化を求めていることが分かります。

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他にも、今回の調査結果では、「第三者に子どもが性的マイノリティーだと伝えても、これまでと変わらず自分と接してくれたらありがたいと思う」と約7割が回答しており、周囲から自身へのサポートも求めていることが分かります。

冒頭でもお伝えしたように今回の調査ではLGBTQ+当事者の割合は9.7%という結果になりました。当事者のカミングアウトの有無にもよりますが、当時者の親を含めると世の中の2~3割は当事者や当事者家族としての不安や生きにくさを感じる可能性があるともいえます。

社会には当事者としての不安や生きにくさを感じる場面が、まだまだたくさんあると前回の記事で紹介しました。今回の記事では当事者の子どもを持つ親に焦点を当てて調査結果を紹介しましたが、当事者の親も同じように不安や生きにくさを感じており、そして一部ではインクルーシブな社会を求める行動を取っていることが明らかになりました。

こういった行動によりインクルーシブな社会への変化が起こることは当事者のためだけではなく、当事者の親、そして未来に当事者としての生活を始めるかもしれない子どもたち、またその親というように多くの人たちの生きやすさにつながっていくと言えるのではないでしょうか。

【調査概要】
「電通LGBTQ+調査2023」概要
調査主体:dJサステナビリティ推進オフィス
調査協力:電通ダイバーシティ・ラボ

<スクリーニング調査>
 調査対象:20~59歳の個人5万7500人
 調査対象エリア:全国
 調査時期:2023年6月14日~19日
 調査方法:インターネット調査

<本調査>
 調査対象:20~59歳の個人6240人(LGBTQ+層該当者600人/非LGBTQ+層該当者5640人)
 調査対象エリア:全国
 調査時期:2023年6月14日~19日
 調査方法:インターネット調査

※LGBTQ+当事者層割合、人口構成比に併せて、都道府県、性別、年代(20〜30代/40〜50代区切り)でウェイトバックをかけています。
※当事者の子どもを持つ親のデータについては回答数が少ないためウェイトバックはかけていません。
 

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