LGBTQ+調査2023No.2
LGBTQ+当事者と非当事者、両者の気持ちを可視化してみた
2023/11/27
電通では今年で5回目となる「LGBTQ+調査2023」(※)を実施しました。本連載では調査結果をさまざまな切り口から分析します (前回の記事は、こちら)。
LGBTQ+当事者と非当事者は、それぞれどんな気持ちを抱いているのか?
今回は、調査結果をベースに作成したデジタルハンドブック「実はずっと聞いてみたかったこと」から、一部を紹介します。
※ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン課題に対する研究やソリューション提供を行う電通ダイバーシティ・ラボ協力のもと、電通グループのdentsu Japan内の組織であるdJサステナビリティ推進オフィスが主体となり、調査を実施。
当事者と非当事者、それぞれの気持ちが可視化されていないゆえの行き違い
調査では、47.2%のLGBTQ+当事者が「当事者であることで不安や生きにくさを感じることがある(やや感じることがある)」と回答しました。これは2020年調査の48.9%とほとんど変わりません。
LGBTQ+という言葉の認知が広がり、企業でのダイバーシティ&インクルージョンの取り組みなども目にする機会が増えているように感じますが、当事者にとっての不安や生きにくさはまだ続いていることがうかがえます。
では、その不安や生きにくさは何なのか。当事者の声を聞いてみると「将来を考えた時、自分は家族を持てないと感じ不安になる(20代・L)」といった婚姻の問題だけでなく、「差別や偏見をもたれそう(40代・G)」「気持ち悪いと思われたり扱いにくいと思われるのが嫌だ(20代・B)」といった、差別や偏見とそれらに付随した”世の中が実際はどう思っているかわからないという恐怖感”を感じていることも傾向の1つとしてあることがわかりました。
一方で非当事者層では84.6%の方が「もしLGBTQ+であるとカミングアウトを受けたら、ありのまま受け入れたい」と回答しており、当事者と非当事者、それぞれの気持ちが可視化されていないゆえの行き違いが生まれている可能性があります。
これは当事者と非当事者がお互いの気持ちを伝え合う機会が十分にないために起こっていることではないかと、私たちは捉えました。そこで、お互いの気持ちをデータで可視化することで対話のきっかけを作りたいと考え、デジタルハンドブック「実はずっと聞いてみたかったこと」を作成しました。
このハンドブックは「LGBTQ+調査2023」の定量的な結果に加え、追加で実施した定性調査から得た当事者と非当事者双方の具体的な声を紹介することで、より立体的な意識の可視化に取り組んでいます。構成は「COMING OUT(カミングアウト)」「COMMUNICATION(コミュニケーション)」「DAILY LIFE(生活・暮らし)」「LOVE(恋愛)」の4つのテーマから成り立っています。ここでは、その一部を紹介します。
非当事者の約8割がカミングアウトをポジティブに捉える
1つ目のテーマである「COMING OUT(カミングアウト)」では、当事者はカミングアウトにどのような不安を抱えているのか、非当事者はカミングアウトをどのように受けとめているかを可視化しました。
結果を見ると、当事者層はさまざまな不安を抱えている一方で、非当事者はカミングアウトしてもらえることをポジティブに捉えている方が多数を占めていることがわかります。
例えば、当事者の約43.3%は「カミングアウトしたら重荷に感じてしまうのではないか」という不安を感じている一方、非当事者の77.7%は「信頼されていると感じてうれしい」と回答しています。
定性調査から得られた当事者の声では「今まで通りの関係性でいたいけど相手に過度に意識される心配もあり言いにくい」といった、他者がLGBTQ+をどう捉えているかわからないがゆえのカミングアウトへの不安が上がっています。
一方、非当事者からは「自分だったらとても勇気がいることだと思うし、誰にでも話せることではないので信頼してくれてるんだなと思う」といった、両者の関係性の上に成り立つポジティブな捉え方をする声も聞かれました。
また、非当事者の87.6%は「カミングアウトするかどうかは、本人の意思が尊重されるべきだと思う」と回答しています。カミングアウトをしてもらう/してもらえないといった二極的な考え方ではなく、当事者の意思を尊重した上でカミングアウトをしてもらえることをポジティブに捉えている人が多数を占めていることもわかりました。
一方で当事者の36.1%は「カミングアウトできていない職場や学校などでは、うまく意見を言えなかったり、自分を出せないことがある」と回答しており、カミングアウトをすること・しないこと、どちらを選択しても悩みや不安を抱えていることがわかります。
このように当事者はカミングアウトに対してさまざまな悩みや不安を抱えている方がいることも事実として認識すべきことですが、非当事者の多くはカミングアウトの有無にかかわらず寄り添いたいというポジティブな気持ちを抱いており、それが周知されることも当事者の不安や生きにくさを払拭していく過程で大事なことだと捉えています。
意識の違いによるもったいないすれ違い
2つ目のテーマである「COMMUNICATION(コミュニケーション)」では、当事者と非当事者間でコミュニケーションする際に感じている意識を可視化しています。
ここでは当事者と非当事者、どちらも相手とのより良い関係を築いていきたいという気持ちがある一方で、傷つくこと(傷つけてしまうこと)への不安や恐れがあることも明らかになりました。
例えば、当事者の58.0%が「LGBTQ+の当事者ということを過度に意識しないで会話してほしい」と回答している一方で、非当事者の77.3%は「当事者との会話では、どの程度踏み込んで良いかわからない」と回答しています。
当事者の声では「カミングアウトしている相手であれば今まで以上にプライベートも含めて色々なことをお互いに話したいなと思う」といった、より親密なコミュニケーションを望んでいる声も上がっていますが、非当事者の声からは「自分の発言で不快な気持ちにさせたくないので、どこまでプライベートなことに踏み込んでいいのか不安になるときもある」といった、当事者の気持ちに寄り添うがゆえの不安を抱く声が上っています。
一方で非当事者の78.4%が「LGBTQ+の当事者を傷つけるようなことを言っていたら、教えてほしいと思う」と回答していますが、当事者の48.9%は「自分の性自認や性的指向に関して失礼だと感じることを言われたら、その人に悪気がなかったとしても距離を置いてしまう」と回答しています。
このように当事者も非当事者も(カミングアウトが前提になる場合もありますが)親密な関係性を望むからこそ生まれる思いやりは、言語化されないことで逆に関係性の溝を生んでしまう可能性があり、お互いに言葉にして伝え合っていくことが大事であるとわかります。
両者共に良い関係を望んでいるにもかかわらず、このようなもったいないすれ違いを生まないためにも当事者、非当事者どちらか一方ではなく双方で「どのようなコミュニケーションを取っていきたいか(取ってほしいか)」を伝え合うことがより良い関係性を築いていくためには必要なことがうかがえます。
この記事で紹介したデータ以外にも、デジタルブック「実はずっと聞いてみたかったこと」では、さまざまな視点から当事者と非当時者の気持ちを可視化しています。同性カップルの子どもを取り巻く未来や、同性同士での恋愛に関することについてなど、世の中であまりアプローチされていない事柄についても調査しました。デジタルブックはこちらからダウンロード(無料)できます。ぜひご活用ください。
最後にどのデータにおいても共通して言えることはLGBTQ+の人たちが不安や生きにくさを感じる場面は、まだ多くあるのが現実だということ。一方でどのテーマにおいても「協力したい、寄り添いたい」という思いを抱く人が多数を占めているということです。
今回は言語化されていない気持ちに焦点を当て、データを活用することでの可視化に取り組みましたが、こういった気持ちが正しく言語化され正しく伝わっていくことが何より大事だと考えています。当事者の不安や生きにくさが少しでも払拭される一助になることを望んでいます。