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LGBTQ+調査 2020No.5

都市圏は「知識ある他人事層」、地方部は「誤解流され層」が多い⁉LGBTQ+調査2020 地域別の分析比較

2021/11/15

ダイバーシティ&インクルージョン領域(各人の多様な個性を尊重し、すべての人の社会参加を目指す考え方)の研究を行っている電通ダイバーシティ・ラボでは、2020年12月にLGBTQ+を含む性的少数者=セクシュアル・マイノリティに関する大規模調査「LGBTQ+調査2020」を実施しました。

今回の調査では、日本各地の世論を比較するため、47都道府県ごとにサンプルを均等に割り付けし、それぞれ各120人の回答を得ています。LGBTQ+の最新動向を読み解く本連載。今回は、地域別のLGBTQ+世論について同ラボリサーチャーの吉本妙子氏が分析していきます。

分析①:パートナーシップ制度は、ストレート層の意識も変える

渋谷区・虹色ダイバーシティによる、全国のパートナーシップ制度の共同調査によると、2021年10月11日時点で、導入しているのは130自治体となり、人口カバー率は41.1%。交付件数は2021年9月30日時点で、2277組となりました。このような取り組みは、各都道府県の意識にどのような影響を与えているのでしょうか。

LGBTQ+調査 2020
始めに、「LGBTの意味を理解していたか」という問いに対し、「そう思う」「ややそう思う」と回答した人の比較をしました。最も高かったのは京都府(87.3%)、次いで東京都と神奈川県(86.9%)、沖縄県(85.7%)という結果となりました。最も低かったのは福島県で、65.8%にとどまりました。
LGBTQ+調査 2020

次に、LGBTQ+サポート世論を比較してみます。

LGBTQ+に対する意識に関する下記5問についての回答の平均点をスコア化。都道府県で比較をしたところ、最もLGBTQ+サポート世論が強い都道府県は、沖縄県(66.2pt)となり、次いで、京都府(61.6pt)、山形県(61.2pt)、和歌山県(60.7pt)、宮崎県(59.7pt)という結果となりました。

算出方法:下記5問についての回答を平均点でスコア化
①LGBTQ+などの人々も含め、全ての人が安心して過ごせる環境を作ることが大事だと思う
②LGBTQ+の当事者に不快な思いをさせないために、LGBTQ+について正しく理解をしたいと思う
③LGBTQ+など多様なセクシュアリティ(性)の人たちも、基本的人権が尊重され、平等に扱われるようにする必要があると思う
④LGBTQ+の当事者の人たちへの、職場や社会での差別は今も存在するので改善するべきだと思う
⑤婚姻や共同親権など、異性のパートナー同士が持つ権利を同性カップルが持てないのはおかしいので改善するべきだと思う

LGBTQ+調査 2020

また同じ分析を、自分の住んでいる自治体にパートナーシップ制度があると回答したストレート層(※)と、ないと回答したストレート層で比較しました。

その結果、パートナーシップ制度がない自治体に住んでいる人が54.8ptであった一方、パートナーシップ制度がある自治体に住んでいる人は64.6ptと、約10ptの開きがありました。パートナーシップ制度は、当事者だけでなく、そこに住むストレート層の意識を変えていくことにも効果がありそうです。

※ストレート層:異性愛者であり、生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致する人、と定義。


LGBTQ+調査 2020


分析②:クラスター分析 都市圏は「知識ある他人事層」、地方部は「誤解流され層」が多い

続いて、連載第2回で解説しましたが、2012年から始まった本調査で初めて、ストレート層のLGBTQ+に対するクラスター分析を実施しました。20~59歳のストレート層5685人に対し、LGBTQ+に対する意識や知識を問う数十問の質問を用意。課題意識、配慮意識、生理的嫌悪、社会影響懸念、知識の5つの因子で分析し、6つのクラスターにグループ分けしました。今回は、これらのクラスターを、各地域間で比較します。

https://dentsu-ho.com/articles/7812

・アクティブサポーター層(29.4%):課題意識が高く、積極的にサポートする姿勢がある。身近な当事者や、海外コンテンツを通して理解を深めた。

・天然フレンドリー層(9.2%) :知識のスコアは低いが、課題意識や配慮意識が比較的高く、ナチュラルにオープンマインド。

・知識ある他人事層(34.1%):知識はあるが、当事者が身近にいないなど、課題感を覚えるきっかけがない。現状維持派。

・誤解流され層(16.2%):少子化といった社会への悪影響を懸念するなど、誤解が多いため一見批判的だが、もともと人権意識はある。

・敬遠回避層(5.4%):積極的に批判はしないが、配慮意識が乏しく関わりを避ける。知識はある程度あっても、課題と感じていない。

・批判アンチ層(5.7%) :生理的嫌悪、社会への影響懸念が著しく高い。人種差別や環境問題などの社会課題に対しても興味を持たない。

首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)と、それ以外の道府県を比較したところ、首都圏は「知識ある他人事」が比較的多く、それ以外の都道府県は「誤解流され層」が比較的多い結果となりました。

LGBTQ+調査 2020

また、8エリア(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄)で比較すると、北海道と九州・沖縄では「アクティブサポーター層」が多く、関東は「知識ある他人事層」、中部は「誤解流され層」が比較的多い結果となりました。

LGBTQ+調査 2020

都市圏の人は知識はあるものの、課題意識は低く無関心である人が比較的多く、地方部のエリアでは、自分事とし、サポートしていく課題意識は強い人も多いものの、比較的正しい知識が浸透していないということが課題であることがうかがえます。

特に6つのクラスターのなかでも、ストレート層のなかで多くの割合を占める、「アクティブサポーター層」「知識ある他人事層」「誤解流され層」について、都道府県ごとに見てみます。

まず、課題意識が高く、積極的にサポートする姿勢がある「アクティブサポーター層」ですが、熊本県(38.7%)が最も高く、次いで北海道(37.8%)、大分県(36.7%)となりました。8エリアでみると北海道、九州・沖縄が高く、これらの都道府県、エリアは比較的、自分事と捉え、サポートしようという意識の人が多いようです。

北海道と、九州のすべての県は、パートナーシップ制度を定める都市を擁している道県であり、こうした自治体の取り組みにより課題意識が啓発されたこと、また、制度導入にあたり議論がなされ、それに伴い情報が増えたことなどが、サポート意識が強くなった要因と考えられます。

LGBTQ+調査 2020

続いて、知識はあるが当事者が身近にいないなど、課題感を覚えるきっかけがない、いわば他人事と捉えている「知識ある他人事層」ですが、都道府県別に比べると、最も高いのは神奈川県(48.0%)、次いで秋田県(43.9%)、島根県(39.8%)となりました。東京都も39.4%と高く、首都圏は比較的高い結果となりました。

LGBTQ+に関する情報と接してはいるものの、自分と関わらないことにはあまり興味を示さない、コミュニティーへの意識が低いといった傾向があるのかもしれません。これらの県、エリアには、課題の共有や自分事と感じてもらえるきっかけが必要でしょう。

LGBTQ+調査 2020

最後に、もともと人権意識はあるものの、少子化といった社会への悪影響を懸念するなど、誤解が多い「誤解流され層」を見てみます。最も多かったのが山梨県(23.5%)、次いで高知県(23.1%)、滋賀県と奈良県(22.7%)でした。中部、近畿エリアが比較的多い結果となりました。

これらの県、エリアでは、正しい知識の浸透により、世論の改善につながることが考えられ、メディアからの情報発信や、講演・研修などに期待をしたいところです。

LGBTQ+調査 2020

 

分析③:当事者の声:カミングアウトしやすいか

連載1回目で紹介した通り、20~59歳の個人60,000人に調査を行った結果、LGBTQ+層に該当する人は8.9%(約11人に1人)という結果となりました。その一方、当事者が身近(家族、友人、知人)にいるか、という問いに対し身近にいると回答した人は全国平均で24.9%にとどまっています。8エリアで比較をすると、最も高かったのは九州・沖縄(27.2%)で、最も低かったのが中部(21.0%)となりました。首都圏とそれ以外の道府県で比較すると、首都圏では27.9%、それ以外の都道府県では23.7%と少し開きがありました。

LGBTQ+調査 2020

また、「あなたは、LGBT当事者であることをカミングアウト(実名で自分のセクシュアリティを他者に伝えること)していますか?」という質問に対し、首都圏とそれ以外の道府県で比較をすると、首都圏以外では56.3%の人がカミングアウトをしていないと回答したのに比べ、首都圏では50.1%にとどまり、首都圏の方が少しカミングアウトが進んでいることが分かります。

LGBTQ+調査 2020

前回の2018年調査でも同じような傾向がありましたが、人口が少ない地方部では、コミュニティーが小さく、一度カミングアウトすると、すぐにうわさが広まるなど、住みづらいという声も聞かれます。そういったことがカミングアウトを思いとどまる要因となっているのかもしれません。

分析④:自治体に求められるもの

最後に、当事者の人に、住みやすい街になるために取り組んでほしい点を聞いたところ、多かったのが「学校での教育」や「地域の人たちの意識改革」といった意識の改善について、また「施設面の改善や、権利を守るための条例制定」といった回答が続きました。当事者にとって住みよい街づくりのためのキーとなるのは、「意識改革」と、「施設・法制度の改善」の両輪が必要だと言えます。

LGBTQ+調査 2020

今回の分析で、パートナーシップ制度は当事者だけでなく、地域の意識の改革にも寄与することが分かりました。2015年に東京都渋谷区で始まったパートナーシップ制度は、今では人口の41.1%をカバーする自治体が制定するまでに急激に増えており、認知度、理解度へ貢献していると考えられます。誰もが平等に住みよい街にするために、今後の自治体の取り組みにも期待が集まります。

<事前スクリーニング調査概要>
・ 調査対象:20~59歳の個人60,000人
・ 調査対象エリア:全国
・ 調査時期:2020年12月17~18日
・ 調査方法:インターネット調査

<電通LGBTQ+調査2020概要>
・ 調査対象:20~59歳の個人6,240人(LGBTQ+層該当者555人/ストレート層該当者5,685人)
・ 調査対象エリア:全国
・ 調査時期:2020年12月17~18日
・ 調査方法:インターネット調査

※ LGBTQ+層割合、人口構成比に合わせて、都道府県、性別、年代(20~30代/40代~50代区切り)でウェイトバックをかけています。

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