これからのDEIの話をしようNo.1
国際女性デーにジェンダー課題チャートで探る“男らしさ”のこれから
2025/03/07
シリーズ:これからのDEIの話をしよう
dentsu DEI Innovationsメンバーが、DEI(多様性・公平性・包括性)について改めて身近な視点から探求し、新しい気づきを発信するシリーズ記事第一弾。
■ジェンダー課題チャートとは

ジェンダー課題チャートは、dentsu DEI Innovations(旧電通ダイバーシティ・ラボ)が制作したジェンダー・ギャップ(性別による不平等や差異)の解決に向けた施策の一つで、アイデア発想を支援するツールです。2022年にvol.1(女性版)、2023年12月にvol.2(男性版)をリリースしました。世の中に広く公開されている各種データから84個の課題を抽出し、健康や教育など、12のテーマに整理。男性版・女性版を比較することで、同じテーマを違った視点で課題を捉えることが可能になっています。
今回、dentsu DEI Innovationsでは、ジェンダー課題チャートvol.2(男性版)※を見ながら、dentsu Japanの男性社員が集い、「これからの“男らしさ”について考える」座談会を開催しました。本記事は座談会の一部を掲載しています。
※ 以降、「課題チャート」と記載。

【座談会参加者プロフィール】
A 地方都市のクライアントを開拓し、ビジネス拡張領域で活躍中。社会における男性同士の連帯や関係性、ビジネスとジェンダー領域の掛け合わせに興味関心がある。
B ジェンダーとマーケティングの関係値や、昨今話題になりやすい「ルッキズム」について造詣が深い。
C ジェンダー、LGBTQ+の社会的課題に関心が高い。地方に住んだことのある経験から、日本全体のジェンダー平等は、実現に時間がかかりそうだという実感がある。
D 「ジェンダー」という言葉が世の中に浸透する前から、ジェンダー平等を目指す活動をし、包括的な性教育などの啓発活動なども行ってきた。
聞き手 detnsu DEI Innovations 國富(6CRP)・硲(2BX)
■「男は弱みを見せない」という空気
國富:本日は課題チャートを見ながら、皆さんが気になる項目について話を伺いたいと思います。女性に比べて、男性は「意思伝達」の課題項目が少し多いのが特徴的でした。この領域で何か気になる項目はありますか。
A:男性は「人に助けを求めることにためらいを感じる」という規範意識がある点に関心があります。私自身、年次や役職の役割を気にして弱音を吐けないと感じるところがあります。
國富:上下関係がはっきりしている男性優位社会においては、上の立場の人が弱みを見せないと、下の人もその風土を継承しやすかったりするのかもしれませんね。
A:「縦社会」そのものは現代はフラットになっている気がしますが、地域に根付く意識のギャップは存在すると思います。ある地域では、学歴や就職、家族の在り方の「王道」とされるようなロールモデルが今も浸透していて、時代が変化する中で、ロールモデルが重荷になってしまったとき、誰に頼ったら良いのか、悩ましいのではないでしょうか。
C:私の住む地域もまさにそういった傾向があると感じます。ステレオタイプな“男らしさ”や、ジェンダーバイアスは未だに根強く残っています。「女は大学に行かなくて良い」というような言葉を令和の時代になっても耳にすることがあったりします。“男らしさ”に負担を感じたときも含めて、私も人に助け求めることにためらいを感じています。課題チャートの「健康」の項目に、「男性は人に弱みを見せてはいけないという規範がある」とありました。弱音を吐けないことが包括的に健康リスクにも影響を及ぼしているという点に、関心を寄せています。

B:弱みを見せちゃいけないという点、大変共感します。仕事の愚痴を言う習慣が私はあまりないです。好まれる男性像を意識すると「リーダーシップ」や「決断力」が、その男性像に投影されている気がします。パートナーとして「弱い男性」を好む人は少ないのではと思います。
■“男らしさ”と「感情」について
國富:弱さのひとつの発露として、私は愚痴をこぼします。硲さんは言いますか。
硲:友達やパートナーに、愚痴も含めていろいろな話を共有する習慣はあります。傾向として、言語化して吐き出す習慣の有無は、男女非対称なのかもしれません。
國富:言語化することで、感情を整理できますよね。
B:愚痴って自己開示の一つだと思うことがあって、自己開示をし合うほうが、会話は弾むということに最近気づいてきました。
D:弱音を含めて、自分の状態を言語化して人に伝えることが私は苦手で「なぜ本音を伝えないのか」と家族に純粋に聞かれたことがあります。守秘性の高い職業柄、話さない癖がついていたこともあります。今では、会社の中で雑談をするときは、男性同士より女性と話すほうが気が楽だったりします。
C:男は弱音を吐かないことが常識であり、感情をあらわにしない生き物だという感覚がありました。
D:弱音=人と共有するものではない、という感じですよね。
A:私も自分の状況を言語化するのが苦手です。難しいですよね。練習したことがないから。家でひとりで泣いていたところを妻に見られたことがあります。心配されたと同時に、抱え込まずに妻に話せば良いと勧められました。「男性は人前で泣くべきではない」という規範を内面化していたのだと思います。
■感情表現は、令和のコミュニケーションの鍵
硲:「涙を見せてはいけない」「感情的になってはいけない」「ロジカルでなければいけない」という規範が男性にはあって、対照的に「女性は感情的だ」というバイアスも存在しますね。男女で同じ課題が対称でふりかかる例ですね。
國富:私は感情の語彙が少なくて、「怒」にもおそらく10種類くらいレイヤーがあっても細かく分けて表現できません……。「悲」もそうかも……。
硲:感情表現はこれからの社会で生き抜くコミュニケーションの鍵だと自分では思っているので、大切な人には、恥ずかしがるのではなく、なるべく出して良いもの、抑えなくて良いものだと思ってほしいです。
B:他者との関係構築では、互いのすれ違いが起きてしまうことへの目配せや、理解が不可欠ですよね。もしかすると私は、感情を言語化しなくてよいことを“男らしさ”として捉えている部分があったかもしれません。
■“男らしさ”の再生産と呪縛
國富:課題チャートの中で「時には暴力も必要だという規範がある」という項目に驚きました。

B:SNSで飲酒している街中の知らない男性が喧嘩している動画が回ってきたり、暴力を目にする機会はありますよね。
D:暴力って連鎖する怖さがありますよね。
國富:ジェンダーについて考えを深める人が増えて、有害になってしまうステレオタイプな“らしさ”が見直されていますが、暴力はネット上での攻撃やDVなど、社会の中で増長している傾向があるような気がします。
A:多様な情報や暴力的なコンテンツが氾濫していて、子どもに見せるのを制限しようにも対応が難しく、親が管理できない領域で自我が芽生えていくことに、親としては不安を抱きます。
國富:最近は中高生のうちから「筋トレをして、テストステロン値をあげていこう!」みたいなコンテンツに触れるらしいです。鍛えることは悪いわけではないと思いますが、“男らしさ”の再生産が若年化しているのでしょうか。
■これからの男性と労働と生活

硲:「男性のほうが労働時間が長い」というテーマに関連して、無償労働やケアワークに対する男性の価値観の変化について考えてみたいと思います。
C:有償の労働時間と、介護や育児、家事などのケア労働時間を含む私生活を、今までは女性だけが天秤にかけて時間をやりくりしてきましたが、最近は男性もそうするようになってきたのではないでしょうか。
D:私が新入社員だったころの時代は、男性は仕事優先なのが世間ではデフォルトとされていて、堂々と私生活を優先することができませんでした。「男性の育休」という言葉を耳にするのも、ここ10年の話ですよね。もしも時代が許すなら、私も育休を取得したかったです。

國富:「生活より仕事を優先すべき」と考えている男性がいる一方で、実は女性も男性に対してそれを要求している部分があって、社会全体の圧になっていますよね。逆に女性はその逆の「仕事より生活を優先すべき」という価値観にさらされやすいです。
B:ひとつの価値観の変化のために、他の価値観も連動して変化をする必要があることは、私がコーポレート業務を通じて実感しているテーマです。所属している企業が変わっても、たとえば配偶者、配偶者が務める勤務先など、それ以外のステークホルダーや社会全体も共に変化しないと、本当の変化にはつながらない。ケア領域に従事する男性が少ないこと、育児をする男性向けのサービス・商品が乏しいという点にも関わります。
硲:子どもをもつと収入が下がるチャイルドペナルティは、女性だけでなく男性にも育休の普及によって起こっている可能性があります。仕事を頑張らなければいけない、という価値観にさらされながら、育休を選択することの負担について考えさせられます。
■男たちの飲みニケーション

國富:「アルコール依存症罹患率は男性のほうが高い」という課題があります。経済的不安や弱音を言語化しづらい“男らしさ”の中で、頼れる先がなくて、アルコールに依存する傾向に陥ってしまいやすい負のスパイラルが伺えます。
D:同世代の友人に大量に飲酒する人はいて、もしかしたら依存傾向かな、と心配していますが、介入は難しく感じます。
硲:心配していても言いにくいことはありますよね。
A:私はラグビーをやっていたこともあって、見た目では飲酒量が多そうに見られますが、実は居酒屋よりカフェ派です。晩酌はしないけど、家でドリップコーヒーを習慣にしています。
B:男だとお酒飲めるでしょう、という感じに思われるけど、私もカフェ派です。
硲:課題チャートを作った際には調査データを見つけられなかったですが、お酒の場が好きじゃない男性も実は多いかもしれません。
國富:お酒に強いことが“男らしさ”と思われる時代もあったのでしょうか。
B:そうそう。最近はその圧も下がってきましたが、逆に甘いものが好きだと「スイーツ男子」、美容が好きだと「美容男子」みたいにラベルを付けられたりします。「外見を気にしすぎる男性は男らしくない」という意識もあるようです。

硲:スイーツ好き=“女らしい”という固定観念があるのでしょうか。
C:少し脱線しますが、北海道には「しめパフェ」という文化があって。お酒を飲んだあとに、コーヒーとスイーツを一緒に楽しみますよ。
國富:しめパフェは良いですね。昔「草食男子」という言葉があったけど、それも言葉の裏側には、男性は女性をがつがつ口説くべきだみたいな固定観念があって「スイーツ男子」同様に少し皮肉めいた表現でしたよね。働く男性はわざわざ「仕事男子」って呼ばれないのに。無意識のラベリングに気づかされます。
■これからの男性像について考える
硲:最後に皆さんが描く、これからの“男らしさ”や、過去に置いていきたい“男らしさ”があったら教えてください。
A:弱さを言語化できる男性が評価されるようになったら、良いなと思っています。
B:私は家事育児を男性が行うことが当たり前になると良いなと思います。
硲:Cさんのお話の中で、自分だけが変わるのではなくて、向き合う相手や、相手の所属する場所も同時に変わらないといけない、とおっしゃっていましたね。まずは、男性も女性もそれぞれが、自分が育児をするのは普通だよね、弱さを言語化するのも別に悪いことじゃないね、といった変化を受け入れることが大事ですね。
B:一人一人の意識変化が積み上がって、社会を変えていくしかないですね。
D:自省も含めて実感していることは、自分の思っていることをちゃんと言葉にする能力を高めたいなということと、目の前の相手と対話ができるようになりたいです。若い世代の人にはそれが当たり前にできる人が多いなと思う一方で、「論破」という言葉もあり、社会の分断が可視化されて、対話が成り立たなくなる風潮もありますよね。論破すると終わってしまうけれど、対話には続きがある。これからの男性には、「平和力」みたいなものが必要かもしれません。
國富:それは、男女問わず必要な力ですね。
C:改めて課題チャートを全部眺めて、ジェンダー・ギャップがあらゆる場面であるということを数字で押さえておくということが大事だと思いました。数字がバイアスを思い出させてくれるし、さらには壊してくれる気がします。
B:私たちが、無意識的に男性像や女性像を固めたものでコミュニケーションを作ってしまうと、それが社会の負の遺産になっちゃうという恐ろしさに気を付けていきたいです。
國富:今日はお集まりいただき、いろいろなお話をありがとうございました。令和の“男らしさ”について話し合う機会になり、とても学びになりました。
■ジェンダー課題チャートvol.2のダウンロードはこちらから
https://www.dentsu.co.jp/sustainability/sdgs_action/pdf/gender_issue_chart_2023.pdf
■dentsu DEI Innovationsについて
dentsu DEI Innovationsは、dentsu Japan横断でDEI課題と向き合うコンサルティングやソリューションを提供するプロジェクトチーム。旧電通ダイバーシティ・ラボの系譜を受け継ぎ、多様なバックグラウンドを持つメンバーが、企業や組織におけるインクルーシブな環境を構築するための支援を提供し、より良い社会の実現を目指しています。
https://www.dentsu.co.jp/sustainability/sdgs_action/thumb05.html

問い合わせ先:diversity@dentsu.co.jp