ソーシャルデザインの時代を生きるNo.4
ロンドンで受けた衝撃
2013/07/11
書籍『希望をつくる仕事 ソーシャルデザイン』は日本の読者を対象に、日本での取り組みを中心に紹介しました。では、世界の潮流はどうなっているのでしょうか。ソーシャルデザインの最先端都市はロンドンだと言われています。そこで私は、広告業界最大のコンクール、カンヌライオンズの開催時期に合わせて、ロンドンを訪れ、その実態を視察してきました。
実はロンドンには4年前に、NPO「2025プロジェクト」のメンバーと共に訪れたことがありました。当時はソーシャルプロジェクトを専門に手がける「グリーンエージェント」が出現し始めたタイミングで、ソーシャルをクリエーティブな領域に積極的に位置づけていこうという姿勢に、とても刺激を受けました。しかし、今回あらためてロンドンを訪れ、トップクリエーターやデザインの権威と呼ばれる方々との出会いを通じて感じ取ったのは、予想を遥かに超えた、ソーシャルを中心とした社会全体の力でした。
ビジネス界においては、「企業としてソーシャル課題の解決に向けて何ができるのか」という大命題に応えるため、コンサルティングとクリエーティブがチームを組み、課題抽出からその解決に至るまで一貫して提供するスタイルが定着しつつありました。クライアント価値を高めること、それはつまり、社会課題を解決することでもあるということが、明確に認識されているのです。景気が悪いと言われる中、ソーシャル課題に取り組む企業には活気がある。社会に価値を提供し続けている企業こそ高く評価されるという構造が、イギリス社会に定着していることを感じさせます。
アカデミックの世界でも、デザイン学校でソーシャルデザインを教えることが当たり前と認識されているそうです。例えば、世界トップクラスと言われるゴールド・スミス大学にはコミュニケーションアート&デザインという専攻があり、そこではコミュニケーションプロセスの真ん中にデザインがあり、デザインこそが社会を変える原動力になると教育されています。自分の創造するものが社会にどんな意義をもたらすのか。そこまで考えることがデザインだという考えが徹底しているのです。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでも哲学的な教育が重視されており、アイデアを育てる教育を意味する「アイディエーション(Ideation:Idea Generation)」という言葉を何度も耳にしました。デザインは表面的なことではない、むしろしっかりした考え方の土台があるからこそ組み立てると考えられているのです。
このことは、日常生活においても感じ取ることができました。街を歩いていると、フェアトレードやオーガニックといった、ソーシャルを意識して開発された商品ラインアップが豊富に陳列されています。そして、そのパッケージデザインも非常に洗練されているのです。チャールズ皇太子自らがオーガニックブランドを展開しているということにも、とても驚かされました。