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連載アイコン#DEIな発信 [3]
公開日: 2025/11/12

多様な読者にそっと寄り添う。雑誌「Hanako」のDEIな作り方

真田奈奈

真田奈奈

株式会社 マガジンハウス

秋田 ゆかり

秋田 ゆかり

株式会社 電通

左から「Hanako」真田奈奈編集長、電通 秋田ゆかり
左から「Hanako」真田奈奈編集長、電通 秋田ゆかり

「DEIな発信」を実践する人物や組織に、リテラシーとアクションを伴うDEIマインドの育み方を伺う本連載。今回は、マガジンハウスが発行する雑誌「Hanako」の事例です。

読者の価値観が多様化する一方、雑誌は焦点を絞れば絞るほど強い企画になる側面もあります。多様性への配慮と雑誌としての強さ、そのバランス感覚が問われる今、「Hanako」の「DEIな発信」についてお話を伺います。

お話を伺った人:真田奈奈さん(マガジンハウス Hanako編集部 編集長)
聞き手:秋田ゆかり(電通 第2ビジネスプロデュース局 ビジネスプロデューサー)

「Hanako」が目指すのは、引率リーダーではなく寄り添う存在

「Hanako」真田奈奈編集長
「Hanako」真田奈奈編集長

──私は一読者として「Hanako」を読んでいて、多様性、公平、包摂といったDEIへの意識を感じます。真田さんは読者との向き合い方で、DEIの観点で気を付けていることはありますか。

真田:雑誌の企画としては、幅広い読者を想定するよりも、より焦点を絞ったほうが“強い企画”になるのですが、私たちはあえて読者の生き方を限定しないようにしています。「Hanako」のコアターゲットは働く30代・40代ですが、子どもがいるかいないか、結婚しているか独身か、仕事をしているかしていないかなど、さまざまな生き方がありますよね。ですから、「~していて当たり前」という書き方にならないようすごく気を付けています。

──たしかに、「Hanako」の誌面は、多様な読者に寄り添っている印象があります。

真田:はい、寄り添いたい!読者を引率するリーダー的な立ち位置ではなくて、寄り添える立場でありたいという意識は、編集部で共通して持っています。今まで、雑誌の立ち位置としては、「今これがはやっているから、ついておいで!」というものが多かったと思いますが、私たちは「今はこういうトレンドがあって、Hanakoはこういうことがすてきだと思ってる。どう思う?」というスタンス。

もちろん、「編集者が面白いと思ったもの」を共有するワクワク感も大事なので、「ついておいで」な側面もありつつも、選択肢を提示できるような作り方をしています。いろいろな方にいいなと思ってもらえるようにしているというよりは、どう表現したら「意図せず排除してしまう人」を減らせるか、という意識のほうが近いかもしれません。

──誌面に通底する寄り添いの感覚こそが「Hanako」らしさなんだと、改めて感じました。寄り添う観点で、具体的に誌面に反映されている点はありますか。

真田:言葉遣いには気を付けています。過去にあった例だと、猫特集で、猫の“エサ”ではなく“ごはん”、猫を“飼う”ではなく“家族として迎える”と表現しました。猫好きの読者からしてみたらどういう気持ちになるかを考えた結果です。

あとは編集長になってから意識的に気を付けているのが、「こういうことを知っているべき」「こういうことを知っていたほうがいいでしょう」という言い方をしないことですね。実は「Hanako」の表紙はすべて私が作っているのですが、上部に入っている文言も、鎌倉特集なら「鎌倉散策のお供にどうぞ」、喫茶店特集なら「マイ喫茶店を見つけませんか」、レストラン特集なら「年末年始のレストランとギフトを一緒に選びませんか」みたいに、読者に委ねる言い回しにすることが多いです。

──たしかに……!“言い方”の部分に、すごく真田さんらしさが出ていますね。

真田:今、強い言葉を使えば使うほど注目されるというか、SNSでは強いですよね。でも私たちはバズるのが目的じゃないので、読者を排除したり、限定したりしないように気を付けています。

ちなみに表紙は私が作っているというお話をしましたが、スタイリングもほぼ全部やっているんですよ。「Hanako」は一般的な女性誌と比べると、男性が読んでいる比率が断然高くて、「京都特集」や「鎌倉特集」は読者の4割弱くらいが男性でした。なので、男性が手に取って小脇に抱えてもそんなに違和感がないように、女性的・男性的ではなく、一般的に見てかわいい表紙にしています。

「Hanako」

──男性読者が多いというのは驚きました。書店に行くと「Hanako」の表紙は目を引きますよね。

真田:くすっと笑える要素のある、ヘンテコ表紙を作るのが好きなんですよね(笑)。

価値観の共有や共感を求めている読者がたくさんいる

電通 秋田ゆかり
電通 秋田ゆかり

──国際女性デーの記事が印象的だったのですが、女性と社会にまつわるテーマの特集もよく組まれていますよね。そうした記事への読者の反響はいかがですか?

真田:国際女性デーって女性の権利や生き方を見直していこうという話だと思うのですが、女性が根本的に抱えている社会での生きづらさについての記事は、長く、深く読まれる傾向があります。誌面は反応がわかりづらいのですが、ウェブはわかりやすくページビュー数に反映されますね。

先ほど、読者の生き方を限定せずに寄り添うというお話をしましたが、実は誌面とウェブでは意識的にスタンスを変えていて、ウェブではあえてものすごく読者をセグメントした記事にもチャレンジしているんです。

例えば、最近ウェブで「子どもと行きたい私の口福レストラン」という連載をはじめました。子どものいる女性もファミレスばっかり行かなくてもいいよね、という考えから、子ども連れの女性が入りやすいレストランを紹介する企画になっています。

他にも独立を選んだ人にお話を聞く連載「わたしたちの無加工な『独立』の話」や、子育てとの両立に関する話、女性の生きやすさに関連した映画の話など、先人たちの向き合い方が語られた記事はよく読まれている印象があります。

なぜだろうと考えてみたのですが、消費だけではなくて、価値観の共有や共感みたいなものを求めている読者がたくさんいるんだろうなって。夫の愚痴を記したエッセイがすごく読まれるのもそうだと思いますし、面白い傾向ですよね。

──ウェブのほうが能動的に検索されやすかったりしますし、もしかしたら「自分により刺さる、狭いテーマ」が好まれるのかもしれませんね。

真田:そうですね。私はウェブも誌面も編集長として関わっていますが、みなさんウェブと誌面は、ちがう切り口で読んでいるんだと感じます。

──読者の悩みや気になる物事については、どうやってリサーチするのでしょうか。

真田:読者コミュニティ「ハナコラボ」というものがあって、世代も職種もさまざまな女性たちが所属してくださっています。その方々にアンケートや定期的なミーティングにご協力いただいて、参考にさせてもらっています。

──多様性という観点でいうと、「Hanako」は掲載される方々のジェンダーや価値観が多様で、なおかつ皆さんとてもすてきです。私はそこも「Hanako」の強みだと感じていますが、どういった観点で掲載される方を選ばれているのでしょうか。

真田:そこはあえてフラットに選んでいます。あくまでも各号のテーマに合った方を選んでいて、ジェンダーも年齢もあまり気にしないことが多いんです。候補者の中から、著作やSNSを拝見して、「このテーマなら、この方に取材させていただきたいな」という方にお声がけしています。変なしがらみにとらわれるのではなく、フラットに考えるようにしているからこそ、すてきな方々に出会えるのかもしれません。

──あくまでテーマありきなのですね。最近はまずジェンダーバランスを気にしたキャスティングをするケースもよく見るのですが、より本質的で読者思いのように感じます。

真田:ただ、性別がものすごく偏る、みたいなことは避けています。例えばバーテンダーさんに焦点を当てる特集となると、どうしても男性が多い職業なので、切り口によってはフラットに選ぶと全員男性になってしまうこともあります。でも、バーテンダーの道を切り開いた女性の言葉を聞きたい読者もいるかもしれないので、そういうときは意図的に女性を入れたりはしています。

読者に起こりうるリスクに対する“備え”を深掘りたい

真田奈奈編集長、秋田ゆかり


──今後「Hanako」で取り組みたいテーマを教えてください。

真田:読者が生きていく中で、これから起こりうるリスクにどう備えるかを深掘っていきたいです。直近でそれが実現したのが2025年5月号「人生を拓く、学びの教科書。」です。「学び」をキーワードに働き方、カラダ、お金、防災の4つの視点から、読者がこれから直面するであろう課題について考えた特集でした。

「Hanako」

真田:例えば、女性は子どもを産む産まないに関係なく、ホルモンバランスがどんどん変化して体調を崩したりしますよね。自分の体の仕組みや状態を知り安定へと導くヒントになるような記事にしました。他にもリスキリング、保険、投資などについて、もう少し考えてみませんかと投げかける内容でした。

社会的によしとされている物事は、「こうすべき」と伝えることもできると思います。ただ、それだと読者が自分ゴトとしてとらえようと思ったときに、「うるさい!」と感じる人もいるかもしれません(笑)。そうではなく、「こうすることで、きっと今後の人生が豊かになるよ」と上手に伝えていけたらいいなと思います。

──私も「学び特集」を読ませていただいて、押しつけがましくないのがすごくいいなと思いました。まさに「Hanako」が読者に寄り添って、一緒に歩んでくれているような感じでしたね。本日は素晴らしいお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました!

(取材後記)
「働く30代・40代女性向けのライフスタイル情報誌」という軸がありつつも、ジェンダーや生き方などの面で、多様な読者を置いていかない「Hanako」。それを実現しているのは、雑誌のビジュアルから細かなテキストまで、細部に宿る編集部の「寄り添う」気持ちでした。より多くの人によいと思ってもらうというより、意図せず排除してしまう人を一人でも減らすという意識は、業界を問わず生かせるのではないでしょうか。

「Hanako」
「Hanako」
毎月28日発売。
「YOUR go-to guide」をコアバリューとし、旅や食などをテーマにした特集を月刊で発行。ウェブサイト「Hanako Web(https://hanako.tokyo/ )」やSNS、読者組織「ハナコラボ」など多角的な展開を行う。

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著者

真田奈奈

真田奈奈

株式会社 マガジンハウス

2008年マガジンハウス入社。7年間のHanako編集部勤務を経て、Casa BRUTUS編集部へ。2015年Casa BRUTUSキャップに就任。「カフェ」「パン」「ホテル」「温泉」「猫」など、主に食と旅に関わりながら、 幅広い特集を担当。2024 年より現職。

秋田 ゆかり

秋田 ゆかり

株式会社 電通

交通広告などOOHメディアを担当後、現在はビジネスプロデューサーとして食品・外食業界の企業を担当。dentsu DEI innovationsに所属し、ダイバーシティ課題に取り組む。

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