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“子どもの心”を忘れない大人 「キッズ×アダルト=キダルト」が持つ欲望とは?

電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。

第21回からは、DDDが実施している「心が動く消費調査」を分析。調査結果から得られたインサイトやファインディングスをお伝えしています。

今回は、“子どもの心”を忘れない大人「キダルト(キッズ×アダルト)」がテーマ。DDDの金沢佑希人が、2025年5月に実施した第10回の調査結果と合わせて、玩具市場における消費行動の特徴をひもときます。

国内玩具市場規模は1兆992億円!
ロングヒットコンテンツ由来の「カードゲーム」が好調をけん引

最近、注目している「キダルト」という言葉。これは「キッズ×アダルト=キダルト」という造語で、子どもの時に好きだったおもちゃやゲーム、アニメ、キャラクターグッズなどを大人になってもさまざまな形で楽しむ人々のことを指すそうです。かくいう私も、今でもアニメやゲームなどを楽しんでいるので、この「キダルト」に該当するのでしょう。

第21回の記事にもあったように、日本では物価高もあって、したいことや欲しいものがあっても、そのためのお金がないと感じる人が多いということが分かりました。一方で、日本玩具協会の発表によると、2024年度の日本国内の玩具市場規模は前年度比107.9%と大きく伸び、1兆992億円に上るなど大変好調です。

2023年度には国内の玩具市場規模が初めて1兆円を超えたことが記憶に新しく、玩具の売り上げは少子化が進む中でも好調。2019年度から5年連続で伸びており、2001年に現在の形で市場規模調査を始めて以来、過去最高を更新しています。

好調の要因として大きいのは、「カードゲーム・トレーディングカード」。前年度より250億円伸ばして、今や3000億円市場にまで成長し、市場全体の27.5%を占めます。

次いで金額の伸びが大きかったのが「キャラクター」で、138億円伸ばして785億円市場に。「雑貨」もキャラクター雑貨を中心としたバラエティ商品が伸びたことで、124億円拡大して1047億円市場となっています。

このカードゲーム・トレーディングカードやキャラクターグッズは、長きにわたりヒットしているコンテンツが題材になっているものが多く、まさに当時の“子どもの心”を持って大人になった「キダルト」をターゲットにマーケティングをしていることが分かります。

「キダルト欲望」を持つ層は30代以上男性に多い傾向

これまではおもちゃやゲーム、アニメ、キャラクターグッズなどを大人になっても楽しんでいる人々は「オタク」と呼ばれてきました。現在でもこの呼び名は浸透していますが、ここにきて新たに「キダルト」という形で顕在化し、おもちゃ市場をけん引するまでになりました。この現象には、どのような人々の欲望が関わっているのでしょうか。2025年5月の「心が動く消費調査」の結果からひもといてみました。

まずは「最も心が動いた買い物をきっかけに、ご自身や生活でどのような変化があったか」という項目を見ていきます。その変化の中で、「自分が昔好きだった事を思い出してまたやりたい気持ちが高まった」という選択肢を設けたところ、多くの回答者があてはまると答えており、特に30代の男性が多い傾向にありました。

 

また、どのような商品・サービス・コンテンツが最も心が動いた消費だったかを聴取したフリーアンサーでは、主に30代の男性を中心に(上は60代の男性まで)、「ゲーム」と答えている人が多くいました。先の項目と合わせると、「キダルト欲望」の傾向は30代以上の男性の特にゲームへの嗜好(しこう)に顕著に現れていることが分かります。

具体的なゲームのタイトルには、もちろん新作もありますが、数十年以上前から人気のロングヒットタイトルや過去作のリマスターが多く見られました。フリーアンサーでも

「15年ぶりぐらいにやったゲーム。久しぶりに遊びたくなり購入した」
「小さい頃によく遊んだ懐かしさと新しいグラフィックや操作性のワクワク感を味わいたかった」
「昔遊んでいたゲームで懐かしい気持ちになった」
「懐かしい気分、ワクワクしたくて買った。日常を忘れて没頭できることを期待した」

といったコメントがいくつもありました。

ゲームやキャラクターグッズが“継続的に成長できる”ことが、玩具市場好調の要因に

玩具市場の好調は「キダルト」がけん引していることから、この層を狙った懐かしい商品やコンテンツを各メーカーも多く展開している状況もあると思います。30~60代は1980~2000年代に青春を過ごした団塊ジュニア~氷河期世代。同世代の人口ボリュームを考えると影響は大きいでしょう。

一方で、おもちゃやゲーム、アニメ、キャラクターグッズが継続的に進化し続けられる環境が整ったことも、好調の要因として考えられます。

環境整備の一つとして、サブスクリプションサービスの進化が挙げられます。アニメやマンガは言わずもがな、過去の名作を好きなときにいくらでも振り返られるようになっています。さらに、今は「Nintendo Switch Online」に代表されるゲームのサブスクもどんどん登場しています。私自身も過去の名作で当時プレーできていなかったゲームタイトルをむさぼるように遊んでいます。

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もう一つは、SNSで見られるようになった、「推し活」や「界隈(かいわい)」などのゆるやかにつながれるコミュニティの存在にあると考えています。自分の中で過去のものになっていたおもちゃやゲーム、アニメ、キャラクターグッズが実は再びはやっている、今も遊ばれている状況がすぐに目に見える世の中になり、“ノスタルジックな楽しさ”を感じやすい環境が整っていると言えます。

このような環境が整ったことで、今までは一度消費されると基本的には終わりを迎えるはずだった商品やコンテンツが、新たなバージョンや展開という形で継続的に進化し続けたり、リバイバルして復活を遂げたりする現象が増えてきているように感じます。

今後はファッションや食品分野でも?「キダルト」現象から広がる可能性

「キダルト」現象は、「過去の自分が買って遊んでいたもの」を懐かしみ、再び楽しみたいという心から発生しているものと考えられます。

一つの仮説ではありますが、その裏には昔の子どもたちが、当時欲しかった思い出の商品全てを手に入れられたわけではない状況があるのではないでしょうか。自分自身を思い返してみても、当時おもちゃやゲームなどは、親から禁止されるものでもありましたし、時がすぎると精神的に卒業を迎えて、改めて購入する機会もなかったわけです。

しかし、現在は前出の商品やコンテンツが継続的に進化し続けたり、復活を遂げたりする環境が整ってきました。その状況に後押しされるように、大人になっても購入欲を刺激され続け、自分のために使えるお金を持った大人「キダルト」たちが「昔の自分の欲望を迎えに行くように」商品を購入しているのではないでしょうか。

この現象が今一番活性化しているのは玩具市場ですが、ファッション分野でも「Y2K」※1や「アーカイブ古着」※2などが流行していることを考えると、近い消費行動を感じます。それを思うと、今後例えば菓子店や飲料などでも近い消費行動を促せるのではないかと感じています。

※1 Y2K:「Year 2000」の略で、2000年代に流行したファッションを指す
※2 アーカイブ古着:人気ブランドやデザイナーが制作し、現在は生産されていない貴重な服などのこと
 

今回は、第10回の調査結果やフリーアンサーから見いだした仮説を基に「キダルト」が何を考え、市場をけん引しているかを考えてきました。2025年11月に実施する第11回「心が動く消費調査」では、「キダルト」がどのような欲望を感じ、消費行動をしているのか、さらに詳しくヒアリングする予定なので、改めてその動向や欲望をひもといていきます。

引き続き「キダルト欲望」を考察していくことで、玩具市場はもちろん、それ以外の商材も含めた欲望の活性のポテンシャルなど、さまざまな可能性を見いだしていきたいと思います。

【調査概要】
第10回「心が動く消費調査」
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:15~74歳男女
・サンプル数:計3000サンプル(15~19歳、20代~60代、70~74歳の7区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2025年5月13日(火)~ 5月16日(金)
・調 査 主 体:株式会社電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:株式会社電通マクロミルインサイト

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著者

金沢佑希人

金沢佑希人

株式会社 電通

戦略から企画まで一貫したコミュニケーションプランニングを実践。 アニメやゲーム、ホビーなどのエンタメ領域のプランニングを得意としている。

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