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電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。

第21回からは、DDDが実施している「心が動く消費調査」を分析。調査結果から得られたインサイトやファインディングスをお伝えしています。

今回は、生活者の「キャリアアップ意識」にフォーカス。DDDの米谷彩加が、2025年5月に実施した第10回の調査結果を基に、主に30~40代の「キャリアアップに対する意識や行動」と「幸福度や社会に関する価値観」の関係性をひもときます。

「転職」が一大トピックに!生涯を通して「働き方」を考える時代

現在の日本は人口減少が続いており、特に生産年齢人口減少に伴う労働力不足は大きな課題となっています。そのため労働市場においては、求職者側が有利な売り手市場が続いています。また、ファッション雑誌でも転職が取り上げられるほどの一大トピックとなるなど、社会人にとって「仕事を変えること」へのハードルは低くなっているのではないでしょうか。

さらには、定年を60歳から引き上げる企業は3割を超え(引用元:マネーの達人シニア )、「リスキリング」といった言葉も聞かれます。今や、生涯を通して、働き方や生き方を考えなければならない時代となりつつあるのです。本記事ではそのような社会において、キャリアアップへの意識は、人生の幸福度や社会全体への意識・価値観にも影響しているのではないかと仮説を立て、「心が動く消費調査」を読み解いていきたいと思います。

30~40代の7割以上が、資格取得やスキルアップの必要性を感じている

まずは調査内の質問で、「副業、転職、就職のために資格取得やスキルアップをすること」への意識・行動について聞いた結果を見ていきます。

全体(15~74歳)での結果は「必要性を感じ、何かしらの対策をしている(以下、「必要かつ、対策あり」)」層が28.2%、「必要性を感じてはいるものの、対策まではしていない(以下、「必要だが、対策なし」)」層が32.2%、「必要性を感じていない(以下、「必要ではない」)」層が39.5%となっており、キャリアアップに向けて何かしらの「必要性を感じている」層が全体の約6割に上ることが分かりました。

DDD#27_図版01
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合や、テキストの記載と差が発生することがあります。(以降同様です)

 

以降は自身のキャリア選択について、より関心が高まるであろう30~40代にフォーカスし、分析していきたいと思います。再度、対象を30~40代のみに絞り、「資格取得やスキルアップ」に関しての回答をまとめたものが、図表2です。

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結果は「必要かつ、対策あり」層が33.3%(全体+5.1%)、「必要だが、対策なし」層が39.2%(全体+7.0%)、「必要ではない」層が27.5%(全体-12%)となりました。

キャリアアップに向けて何かしらの「必要性を感じている」層が72.5%と、全体と比べると10ポイントほど高く、反対に「必要性を感じていない」層が10ポイント以上下がる結果となりました。10代や70代の中には、働いていない人も含まれることを考慮しても、やはり30~40代は全体平均と比較し、キャリア選択についてより関心が高い様子がうかがえます。

「幸せ」や、自身の生活・社会への「希望」を感じにくいのは、断トツで“ある層”

続いて、30~40代における上記3つの回答層別に、幸福度や社会への満足度といった、意識価値観の違いを見ていきます。まず、「自分は幸せだと思う」かどうかの回答を、上述の3層別にまとめた結果が図表3です。

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資格取得やスキルアップが「必要かつ、対策あり」層では、「そう思う」「ややそう思う」と回答した人の割合が68.7%と最も多く、30~40代の全体平均値59.9%よりも、8.8ポイント高くなっています。次点が「必要ではない」層で56.7%、「必要だが、対策なし」層が、54.7%と最も低くなりました。

続いて、1年前と比較しての「自分の生活への希望」と「社会への希望」について聞いた結果です(図表4・5)。

DDD#27_図版04
DDD#27_図版04

 

自分の生活への希望においても、社会への希望においても、1年前と比較して「増えた」「やや増えた」と回答した人の割合は、「必要かつ、対策あり」層が最も高い結果となりました。次点が「必要だが、対策なし」層、最後に「必要ではない」層が続きます。

興味深いのは、自分の生活に対しても、社会に対しても、希望が「やや減った」「減った」と答えた人の合計値はスキルアップが「必要ではない」層よりも、「必要だが、対策なし」層の方が高いことです。

自身の生活への希望が下がる原因としては、さまざまな要因が複合的に絡み合っていると推測できます。ただ、そのうちの1つとして、「資格取得やスキルアップが必要と感じながらも、行動をしていない」、つまり意識と行動のズレがストレスや焦燥感となり、1年前と比較して、自分の生活への希望が下がった人々もいることが考えられます。また、それら自身の不安や焦燥感を、社会にも投影してしまっているのかもしれません。

資格取得やスキルアップが「必要かつ、対策あり」層は、「人事を尽くして天命を待つ」人々?

続けて1年前と比べた意識価値観に関する、他の質問結果も見ていきます。

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特徴的な点は、資格取得やスキルアップについて「必要だが、対策なし」と答えた層が、昨年と比較して、幸福度や欲望/ポジティブな気持ちの増加率(「増えた」「やや増えた」の割合)が最も低い傾向にあることです。一方で、いずれの項目においても「必要かつ、対策あり」層の増加率が最も大きくなっています。この層は、「ワクワクしたり、楽しみなことは」の回答で見られるように、他の2つの層と比較して、10ポイント以上高くなっている項目もありました。

以上を踏まえると、キャリアへの向き合い方が、幸福度や、昨年対比での生活/社会への希望に影響を与えていることが見えてきます。特に、全ての項目において、最もそれらを「感じにくい」層は、資格取得やスキルアップについて【必要だが、対策なし】層であることが明らかとなりました。

また、昨年からの意識変化以外に、いまのご自身の気持ちや、社会への意識についても聞いてみました。

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社会の治安や貧しさ/自分の老後への「不安・懸念」が最も高いのは、資格取得やスキルアップが「必要だが、対策なし」層となりました。

続いて、ポジティブ寄りの設問結果を見てみます。

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「必要かつ、対策あり」層においては、社会問題対策のために自分の負担が増えても仕方ない、将来(老後)のために自分が準備できることがあるなど、自己を「社会の一員」と位置付けているような意識が、垣間見られる結果となりました。

また、自身の意識や行動とは少し観点の異なる設問に対して、興味深い結果が見られたので、併せて紹介します。

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「努力よりも運で決まる」と考えている割合が、最も高いのは「必要かつ、対策あり」層だということです。他2つの層は、ほぼ同じ数値なのに対し、この層だけが、約6ポイント高い結果となっています。つまり人生は運要素が強いと考えている人が多いということになります。

一方で、「資格取得やスキルアップを必要と感じ、対策をしている=自分でコントロールできることは、きちんと準備をする」人々でもあります。この結果をひもとくと、「必要かつ、対策あり」層にはまさに「人事を尽くして天命を待つ」といった意識があるということかと考えられます。

自己認識と行動の“ズレ”を減らすことが、幸福度や希望の増加へとつながる

今回、キャリアアップへの意識が、その人の人生の幸福度や社会全体への意識価値観にも影響しているのではないかという仮説の下、30~40代を「キャリアアップ」に関する意識の差で3つのセグメントに分け、幸福度や社会全体への意識価値観を見てきました。

全体の傾向として、キャリアアップに関わる資格取得やスキルアップが「必要かつ、対策あり」層が、幸福度や社会全体への自己の役割を最もポジティブに捉えている様子が明らかになりました。

一方で、「必要だが、対策なし」層は、幸福度や社会への希望が低く、不安視している割合が最も高いことも分かりました。「必要ではない」層については、ポジティブ/ネガティブ両面において、3つの層の中で、真ん中となる傾向でした。

この状況をひもとくと、「必要だが、対策なし」層は、3つのセグメントの中で、唯一、自己が持っている意識と実際の行動に、ズレが生じている層と言えるのではないでしょうか。他の2つの層は、意識(スキルアップが必要かどうか)と行動(必要ならば対策をしている/必要でないので、そもそも対策も必要ない)にズレが生じていません。

つまり、資格取得やスキルアップが必要だと思っているにもかかわらず、実際に対策をしていない、というギャップがストレスとなり、幸福度や社会への満足度/不安感にも影響を及ぼしているのかもしれません。

逆に考えると、意識と行動のズレをできるだけ減らすことが、幸福度や満足度の向上につながるとも言えます。もし、自分の人生においてキャリアアップが必要だと感じているのであれば、対策のために1歩を踏み出してみることが、自己に向き合うことにつながるはずです。その結果、人生の幸福度や、ひいては社会を、より希望に満ちたポジティブなものへと変えていく力になるのかもしれません。

DDDでは引き続き「心が動く消費調査」から、さまざまな観点で生活者のインサイトを考えていきます。

【調査概要】
第10回「心が動く消費調査」
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:15~74歳男女
・サンプル数:計3000サンプル(15~19歳、20代~60代、70~74歳の7区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2025年5月13日(火)~ 5月16日(金)
・調 査 主 体:株式会社電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:株式会社電通マクロミルインサイト

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著者

米谷彩加

米谷彩加

株式会社 電通

1995年生まれ。新卒で化粧品メーカーに入社し、商品開発・マーケティング業務に従事。電通に入社後は、食品、飲料、洗剤、化粧品などの「Fast Moving Consumer Goods(FMCG)」領域を中心としたマーケティングプランニングを行うとともに、社内横断組織「電通デザイアデザイン(DDD)」にも所属。「韓国トレンド」「美容・化粧品トレンド」など、特に20~30代女性が夢中になっている事象/インサイトについて、詳しい。

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