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今年4回目となる本稿では、2024年にシンガポールでアジア初開催となったNRF APAC 2024に続き、ヨーロッパではパリにて初開催となった、 NRF EUROPE 2025(2025年9月16~18日) の模様をお伝えしていきたいと思います。これまで時系列で定点観測してきた米国と比較しても、日本からの参加者が少ないコンベンションとはなったものの、だからこそ、現地での店舗視察も含め、アジアやアメリカとも異なる欧州ならではの知見をお届けしたいと思います。

加えて、ことリテール・コマース領域に関しては、その根底に流れる哲学や思想が極めて日本と近く、2026年以降の当該領域のトレンドを構成する3つのエッセンス:リアル(タイム)・フィジカル(ストア)・ミューチュアル(ピープル)を、しっかりと踏まえた企業が多いということも見逃せません。

さらに後編では、フランスから少し足を延ばし、イギリスのロンドンで2003年に誕生し今年ではや20年以上を数える、世界最大規模のソーシャル・デザインイベント:London Design Festival2025(以降LDF、2025年9月12日~9月20日)についても、その取り組みをご紹介する予定ですので、併せて“欧州のリテール・コマースのいま”を少しでもご体感ください。
 

本連載では、1月:アメリカ、6月:シンガポール、そして9月:フランスと、1年に満たない短期間に、異なるグローバルマーケットでのリテール・コマース環境を俯瞰(ふかん)してきました。大手リテーラーCEOたちのDXの取り組み/マーケティング環境の変化に伴うデータ・マーケティング環境の変化/展示ファクトのテクノロジー進化……、21世紀に入ってはや四半世紀のいま、20世紀と比較するとデジタル・データ・テクノロジーという“3種の神器”は目覚ましい発展を遂げましたが、それらを上回る目覚ましいスピードで進展を見せるのが、「AI」です。前述の3回にわたるコンベンションのキーノート・フィーチャードセッションの中にもその一端を垣間見ることができます。本年のNRF全体のポイントを織り込みながら、NRF EUROPE 2025のポイントをご紹介していきます。

AI実装のリアルと、そのスピード

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①    1月:ニューヨークで開催されたNRF 2025では、Generative AIというキーワードが頻発されていました。バリューチェーンにおける川上~川下の広範囲にわたって、サプライチェーン・マーケティング・ストアオペレーションなどの課題領域ごとに、それが埋め込まれていることを示したのが上の画像になります。ただこの段階では、“部分最適なAI”の域を出ていなかった感があります。

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②    6月:シンガポールで昨年に続き開催されたNRF APACでは、Agentic AI※1という言葉が散見され、オープニングキーノートで強調されたその効用は、「データ・デジタル・テクノロジーという3点セットにより高度化された社会におけるさまざまな矛盾を、建設的にスピーディに解決する力」と結論付けられていたのが印象的でした。

※1 Agentic AI(エージェンティックAI/エージェント型AI)……「AIエージェント」は特定タスクをこなす自動化されたシステムであるのに対し、「Agentic AI」はそのAIエージェント群を統合し、“自律的な意思決定”“永続的な記憶”“マルチエージェントの協力”“動的なタスク分解”等を通じ、より複雑な目標を達成するためのフレームワークや分野を指し、後者は前者の高度な進化形態として、より柔軟で状況に応じた意思決定や行動判断が可能になっている。

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③    9月:そして今回のNRF EUROPEでは、グローバル企業における幹部職へのAIに関する取り組みアンケートの結果が紹介され、9割近くが取り組みスピードの重要性・それらがもたらす経営インパクト・その指数的な伸びしろについて疑う余地がないと考えていることが明白になりました。

NVIDIAのケーススタディ

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現時点で、AI実装のリアルを最も端的に体現している企業がNVIDIA※2であるということは、誰も疑う余地のないことでしょう。ロレアル、イケア、ウォルマート、ペプシコ……、さらにはいくつかのソリューションを持つ有力ベンチャー企業とも協働しながら、「I am AI」というスローガンのもと、バリューチェーンの広範囲にわたりAgentic AIの実装を推し進めています。

※2 NVIDIA……アメリカ合衆国に本社を置く、主にGPGPUやAI関連の半導体を開発・研究・販売する企業

加えてそれらは、いち消費者としてわれわれが知覚・体感できるデマンドチェーン(≒CX)というよりは、より上流のサプライチェーンや、それらを包摂するバリューチェーン全体で進行(≒BX)しています。

例えばペプシコとの協働では、①倉庫内物流の異常を探知するカメラワーク「Vision AI」、➁「デジタルツイン」を活用した、倉庫内導線のシミュレーション改善、➂専門性の高い従業員のやりとりを自社LLMの「PepgenX」に取り込みアシスタントエージェントとして創出、など3つの大きなピラーで構成される“倉庫の知能化”を既に10年以上前からローンチしているというから驚きです。

NRF EUROPE 2025のまとめ

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これまでの論点と各社におけるケーススタディを、スマイルカーブ※3のフレームに当てはめると、上記のような構造化ができると思います。付加価値を縦軸に、バリューチェーン(BX~CX)を横軸にしています。先程のロレアル×WPPの事例におけるデジタルクリエイティブのパターン制作、さらにはそれらを配信するための最適なメディアプランニング、戦略実施後の分析レビューやレポーティングなど。これまで人力・有償で提供してきたクライアントワークは、量・質・スピード・コストにおいて、AIがまさに人間を超える力を発揮できる領域となります。
これはとりもなおさず、“Agency”が価値提供してきたマーケティング・プロモーション領域はまさに“Agentic” AIによって付加価値低減が避けられない現実を突きつけられていることに他なりません。では“Agency”はこのままコモディティ化してしまうのでしょうか。

答えはNOです。逆説的ではありますが、バリューチェーンの広範囲にAIが影響を及ぼし、特にスマイルカーブがその“センター”から押し下げられるほど、相対的にAIで代替の効かない“エンド”の価値は向上すると考えられます。今回の欧州視察では、まさにそれを体現しているユニークなリテーラーに出会うことができました。そのいくつかを、トップキーノートの要点&ストア・ショップの視察と併せてお伝えします。

※3 スマイルカーブ……事業別の収益性を表す曲線。収益性を縦軸に、事業のプロセスを横軸に取ったグラフ上では、製品の企画・開発(川上)や販売・保守(川下)工程で高い収益性があり、中間工程の製造・組立工程の収益性が低い、U字型の収益構造を示す図。
 

 欧州のユニークなリテーラー ~その哲学とお店のリアル

【SEPHORA】

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1つ目はフランス発、グローバルマーケットで存在感を発揮するビューティコスメの雄、セフォラです。キーノートで強調されていたのは、店舗の持つポシビリティと店員の持つポテンシャル(ストアの持つ力)への全幅の信頼でした。

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実際にシャンゼリゼ通りにある旗艦店に赴くと、床面積・幅広い品ぞろえにとどまらない活気をつくり出しているのは、観光客を含む来店顧客と、シックな黒のユニフォームに身を包んだ店舗スタッフとの、多様性あるインタラクションであることに気づかされます。

【ACTION】

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2つ目はオランダ発、仏市場で急成長のハードディスカウンター(超安売りの小売業)。ローカル&スモールなHQではAI活用のプライスウオッチにより、商品を仕入れるメーカーに対しては、調達コストを抑え、お店は徹底的に合理化・効率化し、顧客の低価格志向に即時で応えることをアピールしました。

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しかし、話題のお店と期待しミネラルウオーター1本をコンビニ感覚で購入しようとした私は、集合住宅下にある店舗レジに20人近い待機列を見て早々に退店せざるを得ず、カルチャー&コマース(感覚・慣習)の違いを改めて感じた瞬間でした。

【SNIPES】

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最後は、ドイツ発の若年層向けストリートファッション・セレクトショップの仏市場進出へのケーススタディ。異なる文化や慣習が地続き・隣り合わせにある欧州社会では特に、参戦市場へのリスペクトを含め、“郷に入れば郷に従え”、奇をてらわない王道のブランディングが必須との認識を徹底する彼ら。“Reach without relevance is worthless”

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それをまさに具現化する場として、サッカーのパリ・サンジェルマンFCとコラボし、スタジアム内にファンゾーンを設置。スマンチェスター・シティFC戦時には勝利も相まって、話題となりました。彼らのお店は、カルチャー&コマースに加えてコミュニティとのコネクションマネジメントの巧みさにあふれているようです。

NRF 2025 ~3つのコンベンションを経ての総括

いかがだったでしょうか?フランスのリテール・コマースを牽引(けんいん)する3つの企業に共通するのは、データ・デジタル・テクノロジー・AIというチカラを多かれ少なかれ活用する点。これは、米国・アジアともそう変わりません。それを表にまとめたのが以下です。

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1月、米国でのNRF終了後にGame Changer=AIという総括を寄稿しました。しかし今回の欧州で思ったことは、ポスト・コロナ時代を経て2026年から始まる次の4半世紀への兆しです。私がそれを強く感じたのは今回フランスから、更に Go West !(西へ) もうひと足延ばしたイギリスにおいてでした。
後編では、こちらをご紹介していきます。

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著者

木村 仁昭

木村 仁昭

株式会社 電通プロモーションプラス

マーケティング事業部

部長

株式会社 電通 トランスフォーメーション・プロデュース局 シニアプロデューサー 電通入社後、関西支社マーケティング局に配属、マーケティング・メディアプラン・                   アカウントプランニングからプロモーション・コミュニケーション領域の企画に幅広く従事。2008年より東京本社にて、メガバンク等金融クライアント/パブリック系アカウント/大手通信キャリア担当を歴任し、2013年より国内大手流通のデジタル案件・マーケティング案件に従事したのち、現在は BX に特化した部門にて、「日本の流通小売業」の BX / DX 支援をリードするエキスパートとして講演など多数。2024年1月より現職。

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