カテゴリ
テーマ

ヨーロッパではパリで初開催となったNRF EUROPE 2025の模様をお伝えしている本稿。前半のフランス編に続き、後半はイギリスの店舗や世界最大規模のソーシャル・デザインイベント:London Design Festival2025(以降LDF)の様子もお伝えします。併せて“欧州のリテール・コマースのいま”を少しでもご体感ください。

NRF EUROPE 2025 ~前編の振り返りとキーノートの顔ぶれ

nrf2025-report05_01.jpg

前編で紹介したセフォラ(フランス)・アクション(オランダ)・スナイプス(ドイツ)の3社以外にも、初開催となったNRF EUROPE 2025では、スイス・イタリア・ドイツなど、欧州各国から多士済々な顔ぶれが参戦しました。

Onは自社独自のスプレー塗装技術によるイノベーションが、シューズ製造工程のバリューチェーンに与えるエコロジー&エコノミーな成果をアピールするとともに、直営店×アプリによるユニファイドコマースの未来をPRしました。これは欧州のGen Z世代に強い顧客基盤を持つプチプラコスメブランド:KIKO Milano(日本未上陸)でも同様でした。

また、ドイツのMETROは食品卸売業~業務用スーパー的なポジショニングを経て、米国のコストコのような会員制ホールセールクラブを運営する企業ですが、大型店舗・大量SKUを取り扱うリテーラーだからこそ、AIの果たす役割に期待はあるものの、「質の悪いデータからはどんなモデルを組み上げても、よい成果は望めない。(それを前提に)今後のビジネスチャンスとなっていく領域は恐らく、需要予測/デジタルツイン/スマート物流と在庫最適化/従業員労務効率化にある」と明言していたのが印象的でした。

これらに加えてぜひご紹介したいのが、イギリスのスーパーマーケットBig4(他の3社とそれらのシェアは、テスコ:27.9%・セインズベリーズ:15.2%・アズダ:12.5%)の一角を占めるモリソンズ(8.5%)です。市場シェアの上では、英国にとっては海外勢となるアルディ(11.0%)やリドル(7.8%)といったハードディスカウンター系に浸食されている現実はありますが、それでも英国民から根強い支持を集めているその理由は何なのでしょうか?

Morissons Magic(モリソンズ マジック)

nrf2025-report05_02.jpg

ストライキのあったフランス国内の公共交通機関の大幅な乱れで1時間遅れた最終日9月18日のキーノート。ラミCEOはそれにもめげず、「Morissons Magic ~モリソンズでお買い物をするには訳がある」と銘打ち、彼ら独自の企業戦略をいくつかの論点から語ってくれました。以下にそれを整理してみたいと思います。

①    Vertical Integration (垂直統合)
水平方向に分業化(専門化)が進む現代のマーケティングにおいて、真逆のアプローチを採るモリソンズは、店舗を起点とした販売はもちろん、そこに勤める従業員が主体的に選んだその商圏内地域貢献プロジェクトやその助成金サポートとしての基金設立(2015年スタート)に至るまで、あらゆるバリューチェーン上の機能・役割を自前かつ直接的に保有しています。ホリゾンタル(水平)ではなくバーティカル(垂直)、市場シェアの順位にはあらわれない非常に強固な顧客基盤を持つ同社の強みは次にも触れますが、特にスーパーマーケット業態においてキーカテゴリーとなる生鮮3品~食品の分野でいかんなく発揮されています。

nrf2025-report05_03.jpg


②    Marketstreet (食の専門コーナー)
店内に「市場」のような雰囲気を作り出し、顧客に新鮮な食材と専門的なサービスを提供することを目的とする生鮮食品専門(肉・魚・野菜・乳製品・パン……)の店内コーナーは、創業者の一人であるサー・ケン・モリソンによるアイデア。食品のプロである店員が顧客の要望に応じ肉や魚をカット・計量し、調理法のアドバイスなども行っています。昔ながらのマルシェのような対面販売を重視するその姿は、英国流の地産地消を体現する店頭として、他チェーンとの重要な差別化要素となっている点も見逃せません。

nrf2025-report05_04.jpg


➂ Affordability (誰もが手に届く価格)
同社は顧客提供価値として、プライス/ロイヤルティ/プロモーションという3つのバランスを常に取ろうとしており、それらのどれかが崩れ、顧客体験を損なうようなことがあってはならない、と歴代の経営陣が自らを強く戒めています。質の高い食品に加えてそれらのAffordability、このシンプルな概念こそが彼らにとっての最重要プライオリティであり、独自の自社教育プログラムを通じてあらゆる従業員に浸透させているところにモリソンズ流の経営哲学のすごみがあります。

nrf2025-report05_05.jpg


Britishness (英国らしさ)

①    Morrisons

nrf2025-report05_06.jpg


こちらが、フランス→イギリスまで足を延ばしてみて来訪することができた、モリソンズの店舗です。ロンドンシティなどの中心街から少し外れたカムデンという場所にあります。外壁に大きく描かれた子どもたちへの食育を説いた壁画イラスト(BREAD TALES)、中国人やハラルフードを求めるヒジャブをまとった女性などアジアン・オリエンタルな来店客層、道路の左側に止まっているネットスーパー用の配達トラックの右ハンドル……。日本人にとっては、何か親近感を感じるお店、それが筆者にとっての初モリソンズでした。

➁ Liberty

nrf2025-report05_07.jpg


日本でも人気の高い、老舗百貨店のリバティ。設立起源も非常に日本・アジアと近いところにあります。木組みは残るがエレベーターはないその質実剛健さには、ブランドのオリジンを大切にしながらも、温故知新の精神でそれを時代に合わせ、アップデートしてきたブランドの持つ歴史の重みというものをひしひしと感じました。

➂ Harrods  

nrf2025-report05_08.jpg


皇室ではなく“王室”用達のロイヤルワラントを授かっているハロッズ。日本では紅茶やテディベアのぬいぐるみなどの土産物・商品になじみがある中で、実店舗に赴き最も記憶に残ったのは、退店時に送り出してくれた緑のユニフォームに身を包んだベテラン・ドアマンのおじいちゃんの温かい気配りでした。

③    LDF 2025(London Design Festival)

nrf2025-report05_09.jpg


最後に、NRF EUROPEと同時期開催していた世界最大規模のデザインフェスティバルLDFは、「場としての都市ロンドン」をダイナミックに活用し、各地区・ゾーンごとにテーマを変えながらもさまざまな業態の、リテーラーだけでなく、ホテルや飲食店、決して大規模でない個人経営のギャラリーなどもが参画しながら、「ソーシャル・デザイニングというストーリー」を地域からグローバルへ発信する壮大な試みでした。

終わりに

2025年、アメリカ・シンガポール・欧州はフランスからイギリスと、短期間に全く異なる3つのマーケットへ実際に赴き、3現主義(現地・現物・現実)にのっとりそこでのリテール・コマース環境を俯瞰(ふかん)してみて思ったことがあります。欧州、中でも特にイギリスが、日本人の筆者にとって受け入れやすい環境であったのか?島国であり、加えてほぼ単一民族であったこと、故に明治維新以降の近代化のエッセンスを取り入れたこと。すなわち、地理・民族・歴史環境は極めて似ていることがその根底にあるからではないでしょうか。

モリソンズでの直感は、リバティ、ハロッズを経て直観へと変わり、LDF 2025を経て確信へと変わりました。すなわち、Britishness(英国らしさ)~それは同時に“日本らしさ”でもあるように筆者は感じているのですが~の本質とは、AIが広範に活用され、社会浸透していく中で、ビジネス上はその恩恵を十分に受けながらも、【逆にAIではできない領域】を探し・見つけ・大切にする矜持(プライド)です。

過去の寄稿で筆者は以下のような構造化した模式図を示しました。

nrf2025-report05_10.png

それに倣うと、2025年以降の時代はこのように描けるのではないでしょうか? 

nrf2025-report05_11.png

Retailの原義は、「re」が「再び」を意味し「tail」は「切る」を意味するとのこと、つまりretailは本来「再び切る」という意味であり「業者から仕入れた商品を消費者向けに再び販売する」ところから「小売」という意味になっているそうです。

しかし、Preコロナ⇒Postコロナ時代のリテールDXを経て、データ・デジタル・テクノロジーの力を借りれば、ECは手軽にオンラインで構築され(Store)、その瞬間にそれはD2C企業として成立し(Brand)、アプリやSNSを介すれば、一人の従業員オーナーは世界中のお客さまとつながれる(People)のが現代。そこにAIがGame Changerとして加われば、これらのギアはより高速・高度化することでしょう。

と同時に逆説的ではありますが、むしろAIで代替できない、「フィジカル(みせ):Story」・「リアル(とき):History」・「ミューチュアル(ひと):Memory」といった、従来「Retail」が担ってきた価値・意義が再定義され高まりつつある。それを前出の4事例は、これまでのどのエリアよりも雄弁に語ってくれたのです。

Retailは、企業が顧客一人一人に対して、“テイラーリング(個別最適化)”された“テール(ブランドとの関係性)”を紡いでいくステージへ、21世紀も次の25年へ。また2026年以降も引き続きNRFの定点観測を通じたリテール&コマースの最前線を、こちらから届けていきたいと思っています。

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

木村 仁昭

木村 仁昭

株式会社 電通プロモーションプラス

マーケティング事業部

部長

株式会社 電通 トランスフォーメーション・プロデュース局 シニアプロデューサー 電通入社後、関西支社マーケティング局に配属、マーケティング・メディアプラン・                   アカウントプランニングからプロモーション・コミュニケーション領域の企画に幅広く従事。2008年より東京本社にて、メガバンク等金融クライアント/パブリック系アカウント/大手通信キャリア担当を歴任し、2013年より国内大手流通のデジタル案件・マーケティング案件に従事したのち、現在は BX に特化した部門にて、「日本の流通小売業」の BX / DX 支援をリードするエキスパートとして講演など多数。2024年1月より現職。

あわせて読みたい