NRF2024 ~リテール・コマース領域の最新&最前線レポートNo.1
ブランド・ストア・ピープル、この3つからコロナ明けの新しい購買体験がはじまる
2024/02/29
今年で113年目の歴史を誇る全米小売業協会(NRF)主催の世界最大の流通小売分野における大型コンベンション「NRF 2024: Retail's Big Show」。2024年のキーワードは、「Begin with Brands」「Start with Stores」「Play with People」の3つ。これまでの流通小売業やリテールメディアを活用したマーケティングが、どう変わるのか。現地に赴いたからこそわかる最新トピックスや潮流を、電通で流通小売業のBX・DX支援を行う木村 仁昭氏がレポート形式でお送りします。
初回となる本稿ですが、大きな流れをつかむために、あえて“番外編のまとめ”から。電通グループとして定点観測をしてきた NRFにおけるここ数年の“リテールアジェンダ”を振り返りながら、構造化していきたいと思います。
<目次>
▼NRFにおける、リテールアジェンダとキーワードの変遷(2018年~2024年)
▼流通小売業とお客さまとの、関係性変化(2019~2022年)
▼最終日に示された、“隠れアジェンダ”
NRFにおける、リテールアジェンダとキーワードの変遷(2018年~2024年)
私は2020年から、NRFに赴き、当該領域における世界的な変化をみてきました。その記録から、2018年から2024年にかけての NRF における“リテールアジェンダ”の変遷を、独自に整理しました。
パンデミックという社会危機がここに入ってくるとは、2020年以前に誰も想定していなかったと思いますが、その結果「リテールDX」が進んだこともまた事実です。
コロナ以前とコロナ以後。 NRFの中でも取り上げられていたキーワードをPreコロナvs. Postコロナに分け時系列で並べてみると、以下のようにプロットができます。
以下では、それをもう少し構造化し時系列でその遷移を整理してみたいと思います。
流通小売業とお客さまとの、関係性変化(2019~2022年)
①2019年~2020年
テクノロジーとデジタルは、一般消費者のお買物行動において、特に Eコマースの進展とともに、そこにおける不便さや彼らの負の体験を解消するCX(顧客体験)の向上へと原点回帰していきました。しかしコロナによって、リテールDXの進むべき未来が、店舗・従業員を持つオフライン・リテーラーを中心に、地域社会のライフラインを支える従業員(=同時に顧客でもある)の EX(従業員体験)へと向けられるようになります。
➁2020年~2022年
予想以上に長引いた3年強のパンデミックを経て、ビジネスサイドもコンシューマーサイドもともにリテールDXの恩恵を享受するようになり、オフライン・リテーラーは自身のフィジカル・アセット、オンライン・リテーラーは逆にデジタル・アセットとおのおのの強みを起点としながら、しなやかさとスピード感をもってリテールDXを継続的に進めていきました。
その過程で、消費者はそうした買物環境に慣れ親しみ、買物環境への目線が厳しくなり、より多くのものを求めるようになるとともに、ビジネスサイドは取捨選択や統廃合を伴いながら、リテールDXにより磨きをかけるようになります。
③2023年
その結果、オン/オフ、O2O、オムニチャネル……といったチャネル主語ではなく、本当の意味で顧客主語となる消費社会構造が出現し、その状態(形容詞)を表す【フィジタル(フィジカル×デジタル)】という言葉が、具現化されてきました。
コロナが収束に向かう中で、抑圧されていたデマンドチェーンが解放され、更にはそこにインフレや世界情勢不安なども重なり、サプライチェーンの逼迫という問題も新たに浮上してきましたが、さまざまな企業は、自社のバリューチェーンをレジリエントに適応させる努力をしてきました。最も早く対応してきたのはライフライン企業として社会・生活の根幹を支えてきた、オン・オフラインの区分にとらわれない広義の意味での“リテーラー”であり、そのキープレイヤーがAmazon(+ Whole Foods Market)とWalmartです。
④2024年
コロナ収束が見えてきて以降は、お客さまがより自身の消費行動に目的と意味を求めるようになってくると、「製・配・販」というバリューチェーンの川上プレーヤー~メーカーや卸売業も、20世紀型のマス・マーケティング時代以上のブランド・トランスフォーメーションが求められるようになってきます。
そのドライバーは、(1)パーパスを伴った強い個性あるブランド、(2)21世紀型のエクスペリエンス&エンターテインメントを提供できるストア、(3)いち消費者ではなく、1人の顧客としてのピープルという、この3つが今後は非常に重要になってきます。
2019年から2024年まで、このような構造化ができるのではないでしょうか?
NRF2024最終日に示された、“隠れアジェンダ”
いろいろなコンベンションでありがちなこと。キーノートをいくつも聴講し、会場展示の写真を撮りまくり、街中の社会観察もやって、ビジネスネットワーキングもこなしていったん終わる……疲れもたまってきて、初日の熱意も収束気味なあっという間の最終日。
NRF2024でもそれは同様でしたが、最終3日目・最後のクロージング・キーノートにおいて、リテール・コマース業態の本質的なアジェンダであり、私たちdentsuにとっても重要なテーマを見だすことができました。
最終日のキーノートのタイトルテーマである「Market Makers (市場創造者たち)」。
「Market Makers」とは、楽しみながら共鳴し合える頼れる仲間とともに、ビジネスターゲットだけではなく、コミュニケーションターゲットとして、社会そのものをきちんと狙い、関わる幅広いステークホルダーを意識して、ブランドをつくることです。
2000年初頭のブランディングブームと異なるのは、これらパーパスを伴ったブランドビルディングによって、ブランドのみならず、(新しい)市場そのものを創出するところにあります。リテール業態は、自身の強みを生かしながら、消費者(顧客)や「製・配・販」を巻き込み、市場をつくっていくチャレンジが求められていると考えます。
私たちdentsuが掲げるビジョン「IGP(Integrated Growth Partner)」も、新規市場創造にまでコミットし、クライアントや協力会社の皆さまに伴走しながら実現する、ということが1つの解だと、私は思っています。このビジョンの達成を、今後もNRFと関わりながら引き続き模索していきたいと考えています。
次回からは、各日のキーノートのレポートをお届けします。