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NRF2025 ~ポスト・コロナ時代における、リテール・コマース領域のパラダイムシフトNo.3

“Possibilism(ポシビリズム)”~AI時代のリテール・コマースの新たな可能性は、米国ではなくAPACから(後編)

2025/10/07

2025年も、はや終盤戦ですが、「250年」「80年」「60年」、これらの数字それぞれは何の区切り・節目なのか、皆さまはお分かりでしょうか?

米国は、来る2026年7月4日に「建国250周年」という大きな節目を迎えます。それに伴い米国各地で本年夏から2026年初頭にかけ、新たなランドマークの誕生や世界的イベントの開催が相次ぐそうです。また、日本人にとっては「戦後80年」。かつて高度経済成長を経て「世界第2位の経済大国」へと成長した日本も、現在は世界のGDP総額に占める割合が、日本:日本以外のアジア全体で1:7。アジアから日本への関心は、昨今急速に低くなってきてもいるそうです。最後に、シンガポールは1965年8月9日にマレーシアから独立し今年で建国60周年。「SG60」を迎える特別な節目の年にあたります。2026年には日本とは外交関係樹立60周年でもあり、「Co-imagine, Co-create, Co-evolve/共想、共働、共進」というテーマのもとで各種交流事業が実施されるとのこと。

そんな、さまざまな節目となる今年。筆者がNRF Retail's Big Show(以下、NRF)視察を通してみてきた上記の国々の社会環境を、定番となった?!4通フレームワークで比較すると下記のように整理できます。

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米国・台湾・シンガポール・マレーシアの消費社会比較(「4通」視点から)

前編でお伝えした通り、リテール・コマース領域ではいま、米国の超大手グローバル企業の先進的なリテールDXよりも、APACエリアの「ポシビリティ・ポテンシャル」に注目が集まっています。後編のレポートでは、昨年11月以降に訪れる機会を得た、台湾・シンガポール・マレーシアの3カ国における、店舗視察を紹介しながら、節目を迎えたこれらの国々におけるリテール・コマース環境をコンパクトにお届けします。

(1)台湾の店舗視察

無数の専門店や伝統的な市場を中核に、それらを取り巻く形で「4大CVSチェーン」が起点となって発展した、超高密度・小商圏・リテール(実店舗)大国。特に医食同源の文化を色濃く反映してか、漢方・乾物の専門店が健在で、医療・美容カテゴリーへの意識が比較的高いと言えることが特徴です。

①CVS:Hi-Life(萊爾富便利商店) 
imageセブン‐イレブン、ファミリーマート、OKマートと4大チェーンの一角を形成する台湾発祥のCVSチェーン。店内に休憩室(現在のイートインコーナー)を設けたり、コーヒーの寄杯(数杯分を先払いすると割引になり、次回以降はレシートを見せるとコーヒーを受け取れる制度)を開始したり、4℃生鮮食品を扱うなど、彼らが始めたサービスも多い。

➁ブランド旗艦店:DAYLILY(デイリリー)/台湾漢方 
image台湾では、迪化街(てきかがい)と呼ばれるような茶葉、漢方薬、乾物、布地等を取り扱う昔ながらの問屋街が有名だが、スタンド・アローンの調剤漢方薬局のようなお店も多い。その中でもD2Cを起点に学生時代の同窓である台湾人・日本人の共同経営により立ち上げられた台湾漢方ブランドDAYLILYでは温故知新(台湾漢方らしいストアインテリアを、スタイリッシュ・モダンにアレンジ)×和洋折衷(日本人デザイナーを起用、パッケージ・カラーを日本人にも受け入れられるようポップに)な品ぞろえで、ファミリービジネスならではの温かいホスピタリティが人気。

➂スーパーマーケット(SM):PX Mart(全聯福利中心) image台湾コングロマリット潤泰グループと仏企業の合弁によって運営されていたRT Mart(大潤發)を、全聯が2025年8月に買収完了。日本の流通小売業に明るく、台湾に日本的CVS業態の定着を成功させた徐氏のリーダーシップの下、台湾全土に及ぶスケールとネットワークを生かしてコロナ期に急速なリテールDXを推進した。名実ともに台湾№1リテーラーとなっている。

(2)シンガポールの店舗視察

マレーシアから、中華系民族が分離独立を認められ今年で60年。急速な近代化も相まって熟成されたリテール・コマース環境は、“SIN-Retail”とも言うべき独自の発展を遂げています。その一翼は、日本の百貨店や新興勢力のDON DON DONKI、豪州企業などによっても担われています。

①ブランド旗艦店:BACHA COFFEE/コーヒー
image1910年にモロッコのマラケシュにあるダール・エル・バシャ宮殿内に創立され、ルーズベルト大統領やチャップリンなども出入りした伝説のカフェへのオマージュとして、アラビカ種のみを取り扱うハイエンドコーヒーブランド。紅茶で有名なTWGブランドを擁するV3グルメグループのタハ・ブクティブCEOが2019年にプロデュース。シンガポールを起点に世界展開しており、2025年銀座にも旗艦店オープン。

➁モール:Raffles City(LUMINE)iamge2024年8月26日にオープン。日本から海外へ、グローバルで初となる旗艦店としてショップインショップ形式で、セレクトショップブランド群を筆頭に、日本の独自性の高いファッション文化や食文化を扱うセレクトショップブランド群を筆頭に、クラフトマンシップが光る日本各地の伝統工芸品が置かれている。東南アジア初上陸のBLUE BOTTLE COFFEE店舗もテナント格納。

➂ディスカウントストア:DON DON DONKIimage2017年にシンガポール初上陸し、「24時間営業」という利便性を武器にローカライズ。「マルシェ」と呼ばれる飲食スペースを併設し、買い物と食事を同時に楽しめる点もシンガポールでは差別化ポイントとなった。独自のサプライチェーンによりユニークな商品バラエティが豊富に取りそろえられ、「ジャパンブランド・スペシャリティストア」としてのポジショニングを明確に打ち出す。

(3)マレーシアの店舗視察

“メガ・モール・カルチャー”がけん引する消費社会・経済。高温多湿な気候の影響もあり、暑さをエコノミカル&エコロジカルにしのぐため、お買い物以上に涼みにお店へ来る、“クールシェア”感覚の来店客が多数。マレー人がリードしつつも、多民族・複数の宗教の中で成熟された“マイルド・ハラル”にあって、バラエティ豊かな売り場や寛容なお買い物環境が特徴となっています。

①ディスカウントストア:AEON BIGimageイオンがマレーシアで展開する食品を、重点強化したディスカウントストアであり、カルフール(仏)のマレーシア事業を買収して2012年にローンチ。日用品やホームファッションまでワンストップショッピングが可能な大型店で、トップバリュなどのPBや現地アレンジした寿司が人気のデリカなどがキラーアイテム。昨今は都市部から郊外店舗に注力。

➁モール:IOI City Mall 
imageプトラジャヤ地区にあるマレーシアで最大級のモール。映画館やスケートリンク、ゴーカート、屋内テーマパーク「District 21」などの娯楽施設もあり、ゴルフ場も控えるリゾートシティとして、大規模開発の現地成功事例(居住棟も伴った開発はAPAC全域で流行している)。イオン店舗や高級ブランドショップも入居、旅行者~食事を楽しむ地元の人々まで多様な顧客層を多数吸引。

➂グロッサリーストア:JAYA GROCER image2007年創業、マレーシアで50店舗ほど展開されている現地で最も勢いのある高級グロッサリーストア。宅配事業&小売り分野参入を企図したGrabが2021年12月に買収。ハラル対応はもちろん、生鮮食品や日用品に加え、日本食材専用コーナーを設け、在マレーシア日本人の間でも利用頻度が高い。

韓国・フィリピン・タイ・インドネシアにおける「Commerce×Culture」

フィールドワークを実施できた台湾・シンガポール・マレーシアの3カ国以外にも、今回コンベンションにて登壇したAPACを代表する4カ国のトップリテーラー幹部によるキーノートから読み解くと、韓国・フィリピン・タイ・インドネシアにおける「Commerce×Culture」は以下のように整理できます。

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日本のリテール・コマース環境への示唆

いかがだったでしょうか?概観してきたこれら“7カ国”の中からシンガポール・マレーシアを引き合いに出しながら、APACの中では最も独自性があると言っても過言ではない日本のリテール・コマース環境への示唆を4つお伝えします。

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(左上・左下)シンガポール:マックスウェル・ホーカー(屋台街)とラッフルズホテル・ロングバー(右上・右下)マレーシア:イオンモール IOI CITY Mallのノンハラル売り場
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(左上・左下)シンガポール:Grabアプリの画面UI(右上・右下)マレーシア:タクシー内のMAP画面はGoogleマップと、マレーシア独自のMyCartoGo(マイカルトゴー)
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(左上・左下)シンガポール:オープンからまだ年数の浅い、TANGLIN MALL(右上・右下)マレーシア:クアラルンプール最大級のTHE GARDENS MALL 内、イオン店舗の大型サイネージ付きタッチパネル
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(左上・左下)シンガポール:DON DON DONKIのサントリー洋酒群の配架(右上・右下)マレーシア:甘い物好きの現地が好むCHOYAの梅酒のサイネージはpublikaモールにて。

最後に、数年前まで大手流通小売業のAPAC拠点を統括されていた方の所感をお伝えします。

“シンガポールは小売業とデジタルの進化だけでなく、生活スタイルも日進月歩で進んでいるなという印象を受けました。同時にマレーシアでは、生き残るための施策を国主導&民活で確実にプロセス管理できているのが強いと思いました。

日本の「何となくうまく行くだろう」という方針では本当に将来が危ないと感じた次第です。そういった意味でも、NRF APACに日本企業が参加するとすれば、単なるソリューション提供でなく、各国生活者に対する未来志向での提案が具体的にできないと評価されないと危惧しています”

APACの一員・日本の流通小売業・メーカーの皆さまと共に、欧米にはない新しいポシビリティを探索する試みはまだまだ始まったばかり。

次回は「Culture×Commerce」が交錯するAPACから、今年2025年に仏・パリでようやく初開催となるNRF EUROPE 2025のコンベンションと、欧州での店舗視察の模様を、皆さまにお届けします。

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