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NRF2025 ~ポスト・コロナ時代における、リテール・コマース領域のパラダイムシフトNo.1

Story, Memory, History ~ Brand, Store, People, ポスト・コロナとその先にあるもの

2025/04/15

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NRF 2025 オープニングキーノート WalmartとNVIDIA幹部対談

21世紀に入り4半世紀、コロナ禍を経て5年。そんな節目の2025年1月に実施された第115回となるNRFは、100カ国から4万人以上の参加者を集め、175を超えるセッションが450人以上の登壇者によって行われ、例年を上回る盛況となりました。6月に第2回のAPAC開催、さらには9月に第1回となるEU開催と今年は年3回を実施するNRFは、CESやSXSW、MWCにも引けを取らない、グローバル・コンベンションとしての地位を確実に築きつつあると感じます(加えて今回はタイミングにも恵まれ、東海岸のNYのみならず西海岸のLAにまで足を延ばして、最新のリテール・コマース環境に触れることができました)。

私は、これら海外コンベンションへの参画や現地視察において、特に以下の4つの行動プロセスを重視しています。それは、

「歩く」:五感を研ぎ澄ませ、いち消費者としての購買体験を実践する
「聴く」:言語理解は二の次、著名経営者の熱意・会場の熱気を吸収する
「観る」:ブース外でなく中に入る、第3者視点を忘れず、タッチ&トライする
「遭う」四方分け隔てなく、同業・競合会期外・会場外でも交流する

これに沿って、今回のNRF2025/米国視察を数字で振り返ると以下のようにまとめられます。

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ここからはそれぞれの視点に沿って、4つを順番に深掘りしていきましょう。

NRF2024のレポートはこちら:https://dentsu-ho.com/booklets/630
 

①「歩く」 ~ショップ&ストア編

(1) Amazon

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上段からamazon fresh, Whole Foods Market, amazon goの3業態

今回はNYC郊外まで足を伸ばして、amazon freshのお店にも初めて立ち寄ることができました。最新のレジカートや整然とした電子棚札満載の店内に興味深々でした(隣接するハード・ディスカウンター業態のグロッサリーストア、ALDIの方がにぎわっていた気もしますが)。日本のみならずインフレの影響があるのは米国も同様、そのような中でもコロナ禍を経ての数年間で買収したWhole Foods Marketとのシナジー(店舗におけるEC返品)・スターバックスへの無人店舗一体型ソリューション(Amazon Just Walk Out)の社会実装も併せ、オンライン出自の彼らが、オフライン領域へ異なる3フォーマットを提供している果敢な姿勢には驚かされました。


(2) Walmart

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インストアサイネージが拡充された、NJ州 North Bergen店

今回の視察店舗では、Walmart+のApp画面上というよりも、インストアでの大画面&大量サイネージを活用したリテールメディアが、一定の成熟ステージに達したような印象を持ったのは筆者だけでしょうか。ペットフードコーナー&ベビーカーの大陳スペース直下での展開にも彼らなりの意図がありそうです。加えて、昨年末完了したスマートテレビメーカー VIZIOの買収の影響ということも見逃せません。GMS(総合スーパー)が自社PB(プライベートブランド)のTVを販売するということ自体も驚きですが、リモコンボタンに“Walmartボタン”が装着される日も近いのではないでしょうか?リテールメディアの拡張をあくまでリアル(店員)・フィジカル(店舗)領域において進めていくその先には、顧客接点をインストアからインホームへと深耕していく野望が、垣間見えるような気がするのです。

➁「聴く」 ~キーノート&フィーチャードセッション編

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キーノート:Pattern Beauty, Rent The Runawayなど、スタートアップ女性経営者も

オープニングキーノートは、NVIDIA幹部によるAI活用3事例として①ロレアルによる、プロダクションスタジオ:広告用クリエイティブの制作スピードと質を高める生成AIプログラム、➁ロウズにおける、デジタルツイン:ウエアラブル・デバイスとセットで立ち上がる全店舗ARにおける業務最適化やOJT・顧客導線シミュレーション、➂Walmartが実践する、スマートフォーキャスティング:店舗ごとでの需要変動への即応&適正在庫実現による統合的サプライチェーン最適化について話されました。しかし個人的には、登壇者の多くを占める女性経営者のリーダーシップ、ともすると筆者より若い30〜40代も含めた彼女たちのスタートアップスピリットに触れ、米国におけるアントレプレナーシップを改めて痛感した次第です。

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フィーチャードセッション:“リテールデタント(融解)”に触れたセッション(左下)

リサーチファクトやケーススタディなどを小中規模会場で披露するフィーチャードセッションで目立っていたのは、海外流通小売市場の主戦場といえるグロッサリーストア(食品を主とするGMS)のトレンドを分析した、“North American Grocery Trend for 2025”。当該セクターを「カスタマーサイド」「ビジネスサイド」別に分け、複数の比較軸においてフレームワーク整理し、パンデミックにより食料品購買にもデジタル化の波が押し寄せた結果、ポスト・コロナ時代でもブランドやお買い物体験に対する期待値はより高まっていくなか、特に「リテーラーはよりブランド(メーカー)に、メーカー(ブランド)はよりリテーラーに」と結論付けている点を興味深く感じました。後段で整理しますが、ディスラプトというよりは双方向的にデタント(融解)が進むイメージとして筆者は捉えています。

➂「観る」 ~テクノロジー&ソリューションonエキスポ編

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テクノロジー:近年活況の、飲食事業者向けテクノロジー展示ゾーン(Foodservice Innovation Zone)

1000以上の大型展示ゾーンとなるエキスポ、AI、拡張現実、機械学習、顔認識、ロボティクスなど、さまざまな革新技術が紹介されているInnovators Showcase、スタートアップ企業が軒を連ねるStartup Hub、という、主たる会場構成の3エリアは従来通りでしたが、コロナ明けから存在感を増しているのがFoodservice Innovation Zone。モバイルオーダーやセミオート・ドライブスルーなど、パッと見て理解でき、直観的かつ分かりやすいテクノロジー群こそ、このゾーンでの展示の持ち味といえるのではないでしょうか?同時に米国で「リテール」という言葉が指し示すのは、日本でいう流通小売業店舗にとどまらず、飲食ビジネス領域をも包摂しているということを、ここで強調しておきたいと思います。 

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ソリューション:左上から時計回りに、Google/AWS/Salesforce/Microsoft

当該レポートでも何度か取り上げさせていただいているリテール・コマース領域のプラットフォーマーとして、GAFAならぬ“GAMS(Google/Amazon/Microsoft/Salesforce)”。名称は各社により、Gemini/Rufus/Copilot/Agentforceと異なりますが、4社が共通して展示訴求していたのは、自社クラウドを基盤としたAI技術の在り方と、導入先企業におけるケーススタディでした。それだけを見ても、もはやAIが未来の技術ではなくビジネスサイドとして競争優位を確立する上での必要条件であること。それらが社会実装された消費環境が、オンラインECでもオフライン店舗であってもカスタマーサイドに十分提供されていること。これらが明確になったのが、NRF 2025であった、といえるのではないでしょうか?

④「遭う」 ~Outコンベンション(NRF会期中の、オフサイトセッション)編

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電通USAでNRF会期中に行われた、恒例のDentsu Nightの模様

最後になりますが、電通グループは今回もこれまで同様、会場外でオフサイトの勉強会兼ビジネスネットワークパーティを電通USAのオフィスで実施しました。リテーラーの皆さまはもちろん、メーカー、ソリューションベンダーの皆さまも含めてのべ100人近い方の参加に加えて、電通データテクノロジーセンター濱口洋史MD(局長)、電通USA ブライアン・モナハン(リテールメディアソリューションのトップ)、IBAカンパニー射場さまにもご登壇いただき、北米のリテールメディアトレンドやNRF 2025の超速報を交え、和やかな中にも熱気あふれる雰囲気で、活発な情報交換が行われました。2月末に実施された日本での事後セミナーも盛況となり、改めて日本でのリテールメディアへの関心の高さがうかがえました。

⑤「まとめ」 ~AI基盤が社会実装フェーズに

既述の4視点を踏まえた上で、NRF 2025で提起された今年のリテール・コマース環境をまとめると「2025年は、あらゆる商品・商材でコンシューマー・マーケティングがカスタマー・マーケティングへとトランスフォーメーションする中で、お客さまはお店・店員・ブランド……それら購買環境に対してより目が肥えてきた。売り場・売り手としてのリテーラーもメーカーはAI実装を基盤として対応、2者間の垣根が融解しつつある」といえるのではないでしょうか?それを時系列でコロナ前からも含めて再整理したものが以下です。

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コロナ前後の期間において、NRFで取り上げられたテーマの時系列整理

リテールメディアというキーワードに象徴される、本業に根差した自社アセットを「ピボット(基軸を持ちながら、その強みを生かして、他ビジネス領域に拡張する)」して第2のマネタイズエンジンを創ることがトレンドとなったのが2024年。それに対して2025年は、例えば、大手流通におけるPB商品やD2Cでビジネスを成立させる新興ブランドなどの「デタント(メーカーやリテーラーといった従来的な業界の垣根が融解する様子)」により、バリューチェーン内で本来的に求められる企業役割を超えて、顧客期待に応えることがフィーチャーされました。そしてその原動力は本年度のタイトルワードとなった“GAME CHANGER”=AIである、という構図です。

6月にシンガポールで開催される第2回NRF APACでは、どのようなリテールアジェンダが提起されるのでしょうか?ますます盛り上がるこのコンベンションから、引き続き目が離せません。

NRF2024のレポートはこちら:https://dentsu-ho.com/booklets/630
 

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