「もっと関わりたいのに踏み出せない」若者。すれ違う職場コミュニケーションの今
2025/10/21
電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は高校生、大学生、社会人1~3年目の若年層を中心に、2年ぶりとなる大規模調査を実施(調査概要はこちら)。その結果をもとに、若者の価値観をひもといた「若者まるわかりナレッジ2025」を作成しました。(お問い合わせはこちら)
連載初回の記事では、若者のあいだで広がる「感情汚染を避ける」行動価値観、そしてその裏にある「本音でつながりたい=人間回帰」の志向をひもときました。しかし、この本音でつながりたい志向がもっとも実現しにくい場所が、世代を超えた職場の人間関係ではないでしょうか。
「ハラスメントにならないか不安で、後輩に何を話していいか分からない」
「先輩は仕事も家庭も忙しいだろうから、失敗したり迷惑をかけたりすると嫌われそう」
ベテランの先輩も若手の後輩もそれぞれが配慮を重ねるあまり、本音を言い出せず、距離だけが広がってしまう。
しかし、電通ワカモンが調査した結果を見てみると、それぞれの気持ちは、ただすれ違っていただけでした。先輩も後輩もお互いに「本当はもっと踏み込みたい」と思っている人が多いことが見えてきました。今回は、調査から生まれたナレッジ「すれ違う先輩と後輩の本音」の一部を紹介しながら、職場でのコミュニケーションをアップデートするヒントをお届けします。

もっと教えてほしい後輩たち~遠慮と不安のすれ違い~
「後輩への指導をどのようにしたらいいか分からない」
「ハラスメントにならないか不安」
職場で若手と接するとき、そんな気持ちを抱いたことがある方も多いのではないでしょうか。ハラスメントに気を付けることは、人との関係値を築く前提としてとても重要なことです。実際、「ハラスメントになるのが怖いので、できるだけ指導しないようにしている」と答える先輩層は45.9%と半数近くに上りました。これは、相手のためを思っても、「もし地雷を踏んでしまったら……」という不安が先立ってしまう、現代の職場ならではの空気感を表しているのかもしれません。
しかし、その一方で後輩たちは、本当に指導されることを嫌がっているのでしょうか?電通ワカモンの調査では、「ハラスメントを避けるあまり必要な指導をしてもらえていないと感じる」後輩が42.4%に上ることが分かりました。

さらに、「人生の先輩としての教養や学びをもっと教えてほしい」と回答した人は68.8%。これは単なる仕事のノウハウを教えてほしいというよりも、「自分の知らない世界をもっと先輩から知りたい」「先輩たちの経験を学んで人として成長したい」という意思の表れです。

プライベートな話題も同様です。「結婚の話なんて、今の若者は嫌がるのでは?」と感じている先輩も多いかもしれませんが、調査によれば「恋愛や結婚、子育てに関する知見・学びであればもっと教えてほしい」と答えた若手は65.3%もいます。つまり、単なる雑談ではなく「学びの文脈」があれば、そういった話題も受け入れたいと感じている後輩が一定数いるということです。

では、なぜこんなにも両者の意識はすれ違ってしまっているのでしょうか。その背景にあるのは、先輩たちの「過剰なハラスメント意識」と後輩たちの「感情汚染を避ける(頼って相手の感情に迷惑をかけたくない)意識」です。
後輩側のデータを見ると、「優しい先輩や上司には負担をかけたくないので頼りにくい」と感じている人が58.8%にも上ります。頼りたいけれど、迷惑をかけてしまったら、と思うと踏み込めない。先輩・上司側も「触れない方が安全」と感じてしまえば、自然と距離が開いてしまいます。そんな遠慮と不安のすれ違いが、職場のあちこちで静かに生まれているのかもしれません。

飲み会そのものが嫌なわけじゃない。大事なのは関係値
「最近の若者は、飲み会に誘っても来ない」
「そもそも誘うのも気を遣う」
そう感じている先輩は多いのではないでしょうか。しかし電通ワカモンの調査ではその印象とは異なる後輩たちの本音も見えてきました。
たとえば、「仲の良い先輩や上司であれば食事や飲み会にもっと行きたい」と答えた後輩は64.8%。これはつまり、飲み会そのものを避けているわけではなく、“誰と行くか”を重視しているということです。気を許せる人との場であれば、むしろ積極的に関わりたいという気持ちがあるのです。しかし、そこに一歩踏み出せないのは、やはりすれ違いの構造があるからだと捉えます。

後輩側の70.6%が「仕事や家庭で忙しいと思うので、自分からは食事や飲み会に誘いにくい」と答えており、さらに60.5%は「食事や飲み会に誘ってくれても、それは社交辞令だと思う」と回答しています。つまり、「(関係を深めたい先輩や上司であれば)本当は行きたいけれど、素直に誘えない/誘いを受け取れない」若者も多いということです。

一方で、先輩に目を向けてみると、58.9%が「後輩から食事や飲み会に誘ってもらえたらうれしい」と感じており、それに加えて71.0%が、「(後輩は)職場の食事や飲み会は本当は行きたくないのではないかと思う」と考えていることも分かりました。つまり距離を縮めたいけれど、嫌がられるのではないかという思い込みと葛藤の壁が先輩側には存在しているのです。

後輩は遠慮して声をかけられず、先輩も「最近の若者は誘われるのを嫌がるかも」と思ってしまっている、このお互いを思いやるがゆえの遠慮が、結果として距離をつくっているのです。
職場の人との食事や飲み会はただの懇親イベントではなく、信頼構築の機会にもなりえます。しかし、今の若手は同じ職場だからといって誰とでもその関係を築きたいとは思っていない。「この人となら」「もっと話を聞かせてほしい」と思えたときに、はじめて一歩を踏み出そうとしています。
全員が全員、職場の人との食事や飲み会が嫌いなわけじゃない。ただ、行きたいと思える関係値がまだ築けていないだけなのです。
失敗すること・頼ることへの極度な不安。関係値を築くには
「いつも優しい先輩にこそ、これ以上負担をかけたくなくて頼りづらい」
「もっと親密になりたいけど、忙しい先輩を食事や飲み会に誘うのは申し訳ない」
こういった若者の声の背景には、「感情を持ち出すことで相手の気持ちを汚してしまうのではないか」という感情汚染への恐れがあると、電通ワカモンでは考えています。(感情汚染の詳細についてはこちらの記事をご覧ください)
誰かに迷惑をかけてしまう・フォローをしてもらうことを極度に避けたがるのは、若者たちが「失敗したら切り捨てられるかもしれない」と感じているからです。
実際、「失敗したら失望される/切り捨てられるのではないかと感じる」という後輩の回答は64.0%。これは、「失敗してもフォローしてくれる」「何度でも学ばせてくれる」といった安心感が職場に十分根付いていない現状を示しています。

こうした状況を前に、私たちはどう若者と関わっていけばいいのでしょうか。結論からいえば、「頼っても大丈夫だ」と若手が実感できる関係値を、日々の中で少しずつ地ならししていくことが大切です。たとえば先輩や上司に対しての後輩の気持ちについて、下記の調査結果があります。

これらのデータから見えてくるのは、「信頼できる先輩や上司となら、きちんと関係を築きたい」という姿勢を持っているということ。つまり、信頼を積み重ねたその先にこそ、踏み込んだ会話や相談への安心が生まれるのです。
関係値は、いきなり築けるものではありません。日常の雑談やちょっとした会話、一緒に過ごした小さな経験こそが、信頼の土台をつくります。たとえば、
- 「あの資料、いい仕上がりだったね」と、一言伝える
- 「一緒に飲み物買いに行かない?」と、軽く誘ってみる
- 打ち合わせ前に「あの映画見た?」と、話を振ってみる
こうしたささいな行為の積み重ねが、「この人には頼っていいのかもしれない」という感覚をつくっていきます。
初回の記事でも触れたように、若者たちは「人間回帰=本音でつながれる関係性」を求めています。ただしそれは、“安心できる土壌”があってこそ実現されるものです。だからこそ、先輩ができるのは、いきなり踏み込んでいくようなことではなく、「頼っても大丈夫」「失敗しても大丈夫」と思える関係性を、日常の中で丁寧に育んでいくことなのではないでしょうか。
もちろん、「ハラスメントになってしまったらどうしよう」「どこまで関わっていいのか分からない」と、慎重になってしまう先輩たちの気持ちもあるでしょう。ですが、だからといってすべてを避けてしまうのではなく、「学びになる話なら聞いてもらえるかもしれない」「頼り方が分からないだけかもしれない」と、少しだけ視点を変えてみることが大切かもしれません。
とはいえ、頼りやすい関係性を上手に構築できないのは、先輩・上司だけの責任ではありません。電通ワカモンの調査では、63.9%の先輩層が「悩みや不安があったら気にせずもっと頼ってほしいと思う」と答えています。つまり、後輩が遠慮して声をかけられないことを、むしろ寂しく感じている先輩も少なくないのです。後輩たちは失敗や迷惑を過度に恐れすぎず、「負担になるかもしれないけれど不安を聞いてほしい」「仕事以外のことも相談したい悩みがある」と思ったときには、一歩踏み出してみてほしいと思います。
もったいないのは、お互いが「言わなくても分かるだろう」「気を遣わせたら悪い」と遠慮しすぎた結果、せっかくの信頼構築のチャンスを失ってしまうことです。小さな声かけ、小さな頼り、小さな受け止め、その積み重ねが、世代を超えて本音でつながるきっかけになると、電通ワカモンは考えています。
本記事で紹介したデータ以外にも、「すれ違う先輩と後輩の本音」では多数のデータとナレッジをまとめています。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。(※お問い合わせはこちら)