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公開日: 2026/01/21

障害者雇用の新しいモデル確立を! 32社がワンチームで社会の意識変革に挑戦

インクルーシブな社会の実現に向け、障害者雇用の推進は企業にとって非常に重要なテーマとなっています。「企業アクセシビリティ・コンソーシアム(以下、ACE)」は、この課題に取り組む有志企業のトップが集結して設立された団体です。

“人起点の社会変革”という理念のもと、本業での障害者雇用はもちろん、特例子会社や農福連携など、多様な雇用のあり方を追求してきたdentsu Japanもこの活動に賛同し、2023年に加入。以来、同団体と共に「障害者雇用の新しいモデル確立」の実現に向けて取り組みを続けてきました。

2025年11月10日に行われたACE主催のパネルディスカッションには、ACE代表理事として団体を束ねる日本IBMの山口明夫氏、理事を務める清水建設の宮本洋一氏に加えて、dentsu Japanのチーフ・ダイバーシティ・オフィサーである口羽敦子氏が参加。モデレーターとして、同じくdentsu JapanでDEI推進を担当する濱崎伸洋氏も登壇し、障害者雇用の現状と課題やACEの進むべき方向性などを語り合いました。

「企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)」とは
2013年9月、「障害者雇用の新しいモデル確立」を目指し、業種・業態を超えて志を一つにする大手企業24社によって設立。2025年9月1日現在で会員数は32社。会員企業担当者が主体となり、障害のある社員のロールモデル創出や障害のある学生のキャリア支援を目的としたセミナーの開催、経営者や関係省庁・教育機関と連携した、社会への提言などに取り組む。

誰もが共生する社会の実現という難しい課題に挑み続ける

セッションは、ACEの理念を改めて振り返ることからスタートしました。

濱崎氏がACE行動指針(ACE憲章)について、「約10年前に策定された行動指針であるにもかかわらず、現在直面している課題にも合致した内容になっています。ACE設立当時から、未来を見据えていたのか。それとも、われわれの進化が遅れているのか。どのようにお考えですか」と、3名のパネリストに質問を投げかけました。

これに対して山口氏は、「ACE憲章は、本質を突いた言葉。私自身も、『障害のあるなしにかかわらず、全員が共生する社会を実現していきたい』という思いで活動を続けてきました」と、ACEの活動に向けた決意を表明。

左から、宮本氏、山口氏、口羽氏、濱崎氏

続けて宮本氏が、「まだ達成できたとは言えず、我々は非常に難しい課題に対峙しているのだとも感じています。さまざまなバリアを取り除き、真の意味でのインクルーシブな社会を1日も早く実現させたい」と語りました。

口羽氏は、電通グループの特例子会社である「電通そらり」が、清掃から農業、カフェと業務を拡張してきた事例を紹介し、「最も心を打たれたのは、『新しい障害者雇用のモデルを提案します』という言葉。『社会を変える』という強い意志を感じました」とコメントしました。

障害者の社会参加を支える、学校教育の可能性

では、「誰もが共生する社会」の実現に向けて、どのような課題があるのでしょうか。山口氏は、学校教育のあり方が大きなポイントになると話します。

「現在日本には約1100万人の障害者が暮らしていますが、就業している人は約2.4%、高等教育機関の学生は約1.7%と非常に少ない現実があります。障害者が安心して社会とつながるためには、小学校の段階から教育を通して社会とつながる仕組みをつくっていく必要があります」(山口氏)

また、企業からは「人材不足で障害者を支援するスタッフがいない」という声も多く聞かれます。これらの課題を解決するために、「企業だけでなく、関係省庁にも働きかけ、必要であれば政策提言まで踏み込んでいきたい」と山口氏は語りました。

この発言を受けて、「ACE 学との連携部会」のリーダーでもある濱崎氏は、障害者自身にも大きな苦しみがある点について触れました。「自分の障害を受け入れられない」「障害による偏見・差別に直面し、自分のキャリアを踏み出せない」という声も多く耳にするといいます。

さらに、自分の障害を隠すために「障害者手帳を申請したくない」と考える若者が多い現状にも山口氏が言及。就職を機に初めて手帳を申請したという社員に、「障害の有無にかかわらず、世の中にはさまざまな支援策がある。そういった仕組みのメリットは堂々と活用していこうよ」と声をかけた自身のエピソードを紹介しました。

教育と就労の課題をつなぎ、社会全体で解決する仕組みを

学校教育においては、どのような具体的な取り組みが求められるのでしょうか。

宮本氏は、「小学校の頃から、障害のある人たちへの合理的な配慮を自然にできるような教育を推進することが大切。そうすることで、高等教育機関への障害者の進学率向上も期待できます」と話します。

さらに、行政への働きかけや教育機関との連携とともに、雇用を生み出すための『新しいモデル』を模索していく必要性も強調しました。現在、段階的に法定雇用率が引き上げられていますが、障害者雇用に熱心な会社でも、一般社員の採用を促進すると相対的に障害者雇用率が低下してしまうという課題も生じています。

口羽氏は、障害者の学生一人ひとりの特性に合わせた教育システムを開発している企業を例に挙げ、「教育現場と同様に、企業も障害者に対して個別にアプローチする姿勢が求められています。教育と就労の現場で分断されている課題をつなぎ、社会全体で解決していくことが大切だと思います」と語りました。

企業のトップを巻き込み、体験と議論を重ねて「自分ゴト化」させる

濱崎氏は、「障害者雇用を推進するために、企業内でどのようなリーダーシップが求められているのでしょうか」と問いかけました。

山口氏は、「共生する世界をどう実現するかという課題を認識し、経営者を巻き込んで議論を重ねることが重要」だと語り、IBMでの取り組みを紹介しました。

「IBMでは障害者をPwDA(People with Diverse Abilities)と呼び、『PwDA+コミュニティ』という有志のグループが活動しています。そこでは当事者にしか分からない悩みがたくさん語られていますが、その声はアクションを起こさなければ経営層には届きません。だからこそ、受け身にならず経営者自身が積極的に情報を取りに行くべきなのです」(山口氏)

宮本氏も清水建設での経験を振り返り、「障害者雇用の推進には、上司や経営層にその必要性を理解してもらうことが不可欠です。そのためには、体験を共有することが大きなちからになります」と述べ、自身のACE参画のきっかけとしてACEフォーラムや「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(完全に光を遮断した空間の中へグループを組んで入り、視覚障害者のアテンドによって中を探索し、さまざまなシーンを体験するワークショップ)」の体験を語りました。

口羽氏も「経営者の心を動かすには、障害者の立場を理解する体験をどれだけ作れるかが大きなポイントになる」と語り、事例として15人ほどの役員が電動車椅子に乗ってオフィス内を移動し、通路幅や扉の重さなど当事者の視点を自分ゴトとして捉えた上で解決策を協議した経験を紹介。「さまざまな当事者と共創することの大切さを実感しています」と述べました。

さらに山口氏は、「経営者同士が協議する場も大切です。ACEの活動に共感する多くの経営者と、今後も対話を重ねていきたい」と語りました。

多様な企業の多様な経験を共有しながら、持続的な成長を

「私たちは非常に困難な取り組みに挑戦していますが、多様な企業が参画する団体だからこそ成し得ることが必ずあるはずです」と濱崎氏。

この発言を受けて山口氏は、「障害者だけではなく、その家族もサポートできる仕組みを作っていきたい」と述べ、IBMで実施した障害者向けインターンシップのエピソードを紹介。社会に出て働くことに加え、毎日両親に「行ってきます」と「ただいま」の挨拶ができたことに大きな喜びを感じたという障害者からの報告を受け、障害者の日常は家族の支えがあったからこそ成り立っていることを改めて認識したといいます。

宮本氏は、「障害者の能力を見出すことが大事」だとし、再び「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」での体験談を紹介しました。宮本氏をアテンドした障害者は完全な暗闇なのにもかかわらず、宮本氏の声のする方向から氏の背の高さを、声の響き方から空間の広さを察知していたといいます。

「一人一人が発揮する力はそれぞれ違います。その多様な能力を企業の活動に生かし、障害者と周囲の人びとが手を取り合って一つの組織をつくり上げていく。こうした企業こそ、持続的に成長していくのだと考えています」(宮本氏)

ACEは一つの「チーム」。活発に意見交換しながら、社会に大きなインパクトを

質疑応答の時間には、「障害者雇用を組織としてしっかりと考えていかなければという意識が、社会に少しずつ広がっているのを感じています。私自身も、社内の認知拡大のための活動を継続していきたい」と語る会員企業の担当者に対し、山口氏は「資本主義のもとでビジネスを行っている以上、企業には経営上の結果が求められます。しかし、人に対しては温かく優しく、誰もが受け入れられる環境を整えるべき。このように考える経営者との対話を続けたい」と回答しました。

加えて宮本氏は、清水建設で毎年開催している「チャレンジフォーラム」を紹介。障害者の活躍推進と従業員の障害への理解促進を目的としたこのイベントを通じて、障害者の受け入れが難しい建設現場にも雇用の枠を広げようという意識が、社内に確実に浸透しつつあると語りました。

続いて、パネリスト3名から会場にメッセージが送られました。

口羽氏は、「ACEに賛同する企業の方々の情熱と強い意志を感じました。女性活躍では経営層が集まり議論する場がありますが、障害者雇用ではACEがその役割を担っていけるのではと思います。今後、経営者同士の議論が広がれば、社会にさらに大きなインパクトを生み出せるはずです」とコメント。

宮本氏は、「ACE会員企業がそれぞれの意見を発信し、各社に持ち帰って障害者雇用を推進していく。このような活動が社会全体を動かす原動力になると信じています。これからも皆さんと一緒に取り組んでいきたいです」と、会場に呼びかけました。

最後に山口氏は、「本日お話しした内容は、理想や正論と感じられる方もいらっしゃるかと思います。しかし、これらは企業として取り組むべき重要な活動であると同時に、人として当たり前に意識し、取り組むべき内容であると考えています。ACEの活動に共感いただいた企業のみなさんと一つのチームとして前進していけば、きっと新しい突破口が開けると信じています」と語り、セッションを締めくくりました。

障害のある社員が制約を機会に変え、社員全員がともに企業の成長と社会の発展を目指す仕組みを模索し続けてきたACE。誰もが個の力を発揮できるインクルーシブな社会の実現に向けて、今後の活動に大きな期待がかかります。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

飯沼 瑶子

飯沼 瑶子

株式会社 電通

第8マーケティング局

プランナー

営業局にてマスコミュニケーション、商品開発、PR施策のプロデュースを担当したのち、プランナーとして、幅広い業種のコミュニケーション戦略立案、PR戦略立案、商品ブランディングに従事。dentsu DEI innovations(旧 電通ダイバーシティラボ)の副代表として、ジェンダー・世代・障害・多文化など多様性にまつわるさまざまなテーマを取材、発信しているほか、社内外でのDEI推進にも携わる。

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