友人の社長に勧められて手に取った伊丹敬之「経営戦略の論理(第5版)」(日経文庫)。自宅の本棚を探しても見つからなかったけれど、昔のバージョンは読んだ気もするし、シリーズ初の「文庫」だし、とにかく軽い気持ちで読み始めたのですが、これがなかなかの大仕事でした。
本書は冒頭で「事業活動の設計図」である「戦略」の全体像を、「製品・市場」「ビジネスシステム」「能力基盤」という3つの要素に関する「ありたい姿(基本戦略)」と「変革のシナリオ(展開戦略)」という6つのマスで整理しています。
そしてその上で、成功する戦略に共通する論理を(市場の側面から)1.顧客適合、2.競争適合、(内部の側面から)3.能力適合、4.心理適合に整理しながら論じています。
これを見ただけでも「経営戦略」という大きな概念が網羅的に、丁寧に語られていることが想像できるでしょう。と同時にそれらを論じる際、単に市場で利潤を追求する「経済(カネ)の論理」からだけでなく、「見えざる資産(情報)の論理」と「人間心理(感情)の論理」からも考察されているため、日々のリアルに直面する実務家にも共感されるはずです。AIが発達しようが、競争環境が激変しようが、簡単には揺るぐことのない「経営戦略の本質」が描かれています。
では、なぜこの本を読むのに、そんなに苦労したのか?
それは決して「難しく書かれているから」ではありません。むしろ豊富な事例と平易な言葉づかいで、きっと高校生にもわかるように記されています。その原因はむしろ読み手であるぼくの戦略観に“歪み”があったからだと思われます。
ぼくが依頼されることが多いのは、老舗企業などの「組織の(再)活性」といった案件です。その際、最も注力するのが「コンセプト創造」(この本の分類でいえば「顧客適合」)であり、その実践を通じた「組織の創造力強化」(「能力適合」の一部)です。
「ビジョンの設定」(「心理適合」の一部)にも注意を払いますが、残念ながらその組織特有の価値観が存在していることの方がまれなので、まずはコンセプトを優先します。そしてすぐれたコンセプトが手に入りさえすれば、それが示す新しい視点に従って必要とされる「ビジネスシステム」や「能力基盤」を整備していくという順番で、プロジェクトを進めていきます。
このアプローチ自体に問題があるとは思いませんが、この繰り返しの中で「顧客適合」を優位だと考える「くせ」が付いているからなのでしょうか、この本のように「競争・能力・心理」といった適合と並列に語られると、どうにも理解するのに時間がかかるのでした。
一方であきらめず粘り強く読み進めることによって、たとえば台湾の電子機器受託製造企業ホンハイの「金型内製化」というビジネスシステムの戦略的構築による成功(=必ずしも「創造」と関係のない「能力適合」)の事例などから、日ごろ軽視していたかもしれない多くのポイントに気づかされました。
昔読んだであろう〈第三版〉を急遽取り寄せたのですが、若いころは何の疑いもなく、スルスル読み進めていた気がします。しかしその分、実は内容を理解していなかったのかもしれません。
せんえつですがぼく自身も含め 広告会社の人々は、「経営戦略」の中でも、たとえば従業員のモチベーションアップといった「心理適合」に多くの関心を割く傾向があるように思います。経営の「全体観」を持つためにも、そういう方にこそオススメしたい一冊でした。
幸せなことに今年のお正月も、家族そろっていつも通りのお重を囲めました。日ごろの食卓だとナンプラーとかオイスターソースとか柚子胡椒とか、なんか「隠し味」の自己主張をしたくなっちゃうのですが、新年のおせちだけは(たぶん)親に言われた、そのまんま。新参者の「あん餅の雑煮」だって、高松出身の妻のご指導、そのまんま。つまらないと言えばつまらないけれど、それでもなぜか出来不出来のばらつきがあるのが面白いです。
もしかしたら自分の料理の“歪み”を見直す、よい機会になっているのかも。
どうぞ、召し上がれ!
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著者

山田 壮夫
株式会社 電通
第1CRプランニング局
クリエーティブ・ディレクター
明治学院大学 非常勤講師(経営学) 「コンセプトの品質管理」という技術を核として、広告キャンペーンやテレビ番組製作はもちろん、新規商品・事業の開発から既存事業や組織の活性化といった経営課題に至るまで、クライアントに「棲み込む」独自のスタイルで対応している。コンサルティングサービス「Indwelling Creators」主宰。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員等。受賞多数。著書「〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考」、「コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法」(ともに朝日新聞出版)は海外(英語・タイ語・前者は韓国語も)で翻訳・出版 されている。









