「その手があったか!」と言われるようなアイデアを考えるのは、簡単ではありません。
なぜなら、知らず知らずのうちに自らを縛っている「常識」を打ち破らなければならないからです。大学の教室にいる学生ですら、その場の空気に支配されてついつい「まとも」な、つまり常識に従順な意見を言ってしまうことがあるのですから、会社の会議室ではなおさらでしょう。
そんな時、発想のノウハウ本には、しばしば「いったん、極端に考えてみよう」というコツが紹介されています。「相手にするお客様の想定を大胆に変えてみよう。たとえばいったん、それが『アラブの王様』相手ならば、どんなビジネスが生まれるか考えてみよう」といった取り組みです。
ところが実際にやってみると、これがなかなか難しいのです。ありがちなのは「アラブの王様は『金ピカ』好きだから、価格を考えないでいろいろなものを金ピカに仕立てたらいいんじゃない」といった発想です。
これはきっと、どこかで聞いた事例を、(もしかしたら無意識に)背景にしているのでしょう。すでに誰かが通った道ですから、「その手があったか!」なアイデアにはつながりません。
あるいは先日、大学の講義で「アラブの王様は日ごろ威張ってばかりだから、実は汗水たらして肉体労働に励みたいと内心で願っている」という「謎のインサイト」を出発点に企画を進めた学生がいました。スタートから実感が失われているのですから、やはり「その手があったか!」なアイデアは生まれないでしょう。
それでは、どのように考えてみると、このノウハウを生かせるのでしょうか。ここで大切なのは、巨万の富を持つ「アラブの王様」という極端な存在を肯定も否定もせず、まずはそのまま「カッコ」つきで自分の中に受け入れてみることで「自分事」化する姿勢です(※)。
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LPガス業界が毎年行っているビジネスコンテストで、昨年、優勝したのは星槎大学石塚夢露さんの「AURORA WARM DOME」でした。
これはオーロラ観測可能地域に訪れた際、「快適性を重視した滞在型の鑑賞ではオーロラを見られないことがある一方、車両で移動しながらオーロラを追いかける(見られる確率は格段に高い)オーロラハンティングは、快適性に欠ける」いう問題意識から、LPガスの可搬性と設置の簡易性、環境負荷の小ささを生かした「移動型ドームテントによる快適な鑑賞」を提案したものです。
「LPガスといえば都市ガスが整備されていない地域のエネルギー源」という常識の思い込みを軽々と打ち破った、見事な企画です。学生からは縁遠い「莫大(ばくだい)な時間とお金があったらどんなことをするかな?」というアラブの王様的な感覚を「カッコ」つきで取り入れた上で、そこで出合うモノ・コト(この場合は旅行プラン)を自分事としてウソをつかず、ていねいにブラッシュアップした様子がうかがえます。実際の発想プロセスはわかりませんが、「アラブの王様」的な「極端」を活用する際の、ひとつの成功イメージとして使えそうです。
話は変わりますが、通称「バターマニア」こと長尾絢乃さんをご存知ですか?各種メディアにも登場している、バター好き。ぼくは、とある酪農乳業界の集まりで知り合ったのですが、このバターマニアさんが監修したヤマザキビスケットの「魅惑のバタークランチ」がすごいのです。まさに衝撃的。まるでバターをそのまま齧(かじ)ったような背徳感であふれています。
これは逆にバターマニアさんご自身の中にある「極端」を、「わたし、ちょっと変わっているから」と切り捨てず、カッコに入れて取り出してみた結果なんだと推察します。そうやって、その事象(感覚)をあるがままに観察すると「あれ?バターって悪者扱いされることも多いけれど、そのまま齧ってみたいって、意外に多くの人が抱えている願望なんじゃない?」という発見につながったのではないか、と。
これをバターマニアさんに聞いてみたところ「だってみんな、おいしいバター好きでしょ?焼き菓子から香ってくるバターの香りも、一口食べたときに口の中いっぱいに香る味も。その幸せを味わえるお菓子なんて、おいしくないわけないと思うんですよ」とバター愛にあふれたお答えでした。
その後もシリーズ商品が展開されているところを見ると、この恐るべき誘惑に乗った人がたくさんいるということでしょう。たとえば、同シリーズの一つ「レーズンバター」はお菓子としての完成度も高いので、食べ比べてほしいです。
どうぞ、召し上がれ!
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著者

山田 壮夫
株式会社 電通
第1CRプランニング局
クリエーティブ・ディレクター
明治学院大学 非常勤講師(経営学) 「コンセプトの品質管理」という技術を核として、広告キャンペーンやテレビ番組製作はもちろん、新規商品・事業の開発から既存事業や組織の活性化といった経営課題に至るまで、クライアントに「棲み込む」独自のスタイルで対応している。コンサルティングサービス「Indwelling Creators」主宰。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員等。受賞多数。著書「〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考」、「コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法」(ともに朝日新聞出版)は海外(英語・タイ語・前者は韓国語も)で翻訳・出版 されている。





