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公開日: 2026/04/03

「地域」と「人」を起点にメディアの可能性を考える シリーズ: 「人」の探究

村上圭子

村上圭子

東京財団

須賀 久彌

須賀 久彌

dentsu Japan

※2025/12/10公開 DHBRオンライン広告より転載

 


サマリー:地域メディアの存在意義の再定義が求められる中、メディア自身が「公共性と収益性の両立」について深く自問することが求められる。この対談では、地域メディアが課題解決型プロデューサーへと進化する道筋を示す。


人口減少や大規模災害、都市と地方の格差など、日本社会が抱える課題は複雑さを増している。こうした中、地域に根差したメディアは、その役割の再定義を迫られている。長年メディア研究に携わってきた村上圭子氏と、dentsu Japan グロースオフィサーの須賀久彌氏が、「地域とメディアの可能性」をテーマに対談した。地域メディアが向き合うべき「公共性」と「経済性」の両立から、地域課題を解決するソリューションプロバイダーとしての可能性まで、両者の視点が交錯する。
 

 


経済循環の促進が地域の「公共性」を支える

須賀:村上さんはNHKで報道番組のディレクターをされた後、NHK放送文化研究所で地域メディアの研究に取り組んでおられました。これまでも、地域メディアについていろいろと情報交換させていただいてきました。

村上:私は当初から地域メディアを専門にしていたわけではなく、NHKの地域放送局の役割を考える必要に迫られたのが、研究のきっかけです。私は、NHKは民間のメディアができないこと、つまり“引き算の公共性”を考えることが大事だと思っており、そのために地域の民間メディアの営みを学んできました。特に民放ローカル局から学んだのは、経済循環の促進が地域を豊かにし、そこに住む人たちの暮らしや誇り、尊厳を確保していくことにつながるということでした。

かつては公共性をもっと狭く捉えていたのですが、いまは「公共性と収益性を両立させる」、あるいはその2つを掛け合わせることが、地域メディアの持続可能性を高める最大のカギだと考えています。広告収入に加えて、地域活性化や課題解決のための公的財源なども活用しながら、地域メディアが社会的企業としてしっかり収益を上げていくこと。いまは、そこに最も関心があります。

須賀:経済を循環させることで、救えるものは非常に多いということですね。メディアの構造で言えば、米国はほぼ商業メディアだけで回っていて、公共放送の存在感は非常に小さい。逆に欧州は受信料の徴収率が高く、英国BBCをはじめとして各国とも公共放送の存在感が非常に大きい。

日本では、放送法第1条に「健全な民主主義の発達に資するようにすること」と明記されており、民放もNHKも同じ法律に規定されています。NHKと民放の二元体制があったからこそ、米国型でも欧州型でもない、独自の総合編成が日本で守られてきた側面があります。

村上:公共の電波を用いて多くの人々に情報・番組を届けているという点で、NHKにも民放にも“放送の公共性”があり、その二元体制によって、日本では多様な情報・番組が視聴者・国民に提供されてきました。しかし、21世紀に入りインターネットやスマートフォンが普及し、視聴習慣も広告ビジネスも激変する中で、自分たちが果たすべき本当の役割とは何か、つまり、“メディアとしての公共性”というテーマに向き合わざるをえなくなりました。私が、ローカル局をはじめとする地域メディアから学びが多いと感じるのは、「自分たちにとっての公共性とは何か」を、肌感覚で捉え続けている企業が多いからです。

須賀:「公共」の定義自体が非常に難しいですね。災害時に全番組を止めて緊急編成するのはもちろん公共ですが、一方でスポーツ中継やバラエティ番組も、人々の生活を豊かにしているという点では公共の一つといえます。

公共という概念は狭く捉えられがちですが、経済を循環させ生活を豊かにすることも含めて、公共を再定義すべき時代に来ているのかもしれません。

村上:それぞれのメディア企業が「自分たちにとっての公共性とは何か」を、熟慮のうえで明確に言語化することが求められていると思います。


地域メディアに求められる「9つの機能」

須賀:私はTVerへの出向から戻ったいまも、ローカル局の皆さんとローカル局の存在意義を議論する機会も多いのですが、村上さんがまとめられた「今日的な地域メディア機能の9分類」がわかりやすく、何度も紹介してきました。

 

村上:一つの会社が全部の機能を担う必要はなく、メディアごとの役割分担や重みづけがあっていいと思います。民間メディアはこれまでも、③暮らしに役立つ情報や④文化・娯楽の創造の機能を積み上げてきましたし、事業拡張という意味では、⑦地域プロモーター、⑧地域プロデューサー、⑨地域住民のサポーターの機能が、これまで以上に重要になってくると思います。

一方、公共性の観点から言えば、①ライフライン情報提供と②地域の民主主義の基盤は欠かせません。「地域の民主主義の基盤」は、まさにジャーナリズムの役割ですが、日々のニュースが行政や警察の「発表原稿」をわかりやすく伝えるだけに留まっていませんか、という問題提起をしたいです。放送局が最も試されるのは、やはり毎日のニュースです。日々をいかに記録していくか。その結晶が地域の民主主義の基盤となります。

たとえば、地域の行政や議会の話は、関心を持ちにくいものです。だからこそメディアには、「市民にいかに自分事化してもらえるか」という自治意識の醸成が求められます。

須賀:「自分事化してもらう」とは、情報を伝えることで人の気持ちや行動を喚起できるかということであり、これは我々広告会社が日々考えているマーケティングにも通じます。

必要とされている情報を、必要な人に、必要なタイミングで、適切な形で届ける。単に届けるだけでなく、それによって何らかの変化を起こさなければ意味がありません。そういう観点では、地域メディアにもマーケティング的な発想が不可欠になると思います。

村上:おっしゃる通りです。夕方のニュース番組では遅いなら、インターネットで速報するのは当然です。ここ数年でローカルニュースのネット配信やアプリ展開は格段に進みましたが、メディアとしての信頼に直結する「質」の部分がどうか。そこはまだ試行錯誤の段階だと感じています。

須賀:ローカル局や地方新聞社は、一つの県全体をカバーしていることが多いですが、たとえば長野県は北信、東信、中信、南信と4地域に分けられ、それぞれ特性が異なります。ケーブルテレビやコミュニティFMなど、県域よりさらに細かいエリアのメディアと補完し合うことはできないでしょうか。

村上:すでにそうした動きもあります。たとえば、鹿児島の南日本放送や北海道放送などは、実際に他の地域メディアと連携し、自分たちだけではカバーできない情報を、放送やネットで発信しています。

私は、ローカル局は、地域のさまざまなメディアや自治体の情報を束ねる「プラットフォーム」になることが、一つの生き残り策だと考えます。網目の細かいプラットフォームを形成することによって、人口が少なく資源の乏しい地域も取りこぼさない、そして、共通する課題を見つけて解決につなげやすくなると思うからです。


「叱咤激励」し、地域課題を解決する

須賀:地域課題の話が出ましたが、その点についてメディアはどのような役割を果たしていくべきでしょうか。

村上:人口減少社会の最大の課題は、かつてのような経済成長が望めない中で、全体としては経済合理性を担保しつつ、地域で暮らす人々が誇りを持って生きることをいかに保障できるか、という点に尽きると思います。

過疎化が進む地域でインフラを維持するのは難しいため、各地で「コンパクトシティ化」が議論されています。能登半島地震後にもそうした議論が起きました。たしかに経済合理性はあるかもしれませんが、住み慣れた故郷を壊された人たちの心にはまったく寄り添っていない。人々の尊厳を守りながら次に進むには、それぞれの地域課題の自分事化と、「合意形成」を図っていくプロセスのデザインが重要です。

メディア研究者(東京財団上席フェロー) 村上圭子氏

 

須賀:その合意形成にこそ、民主主義の基盤を支えるメディアとしての大きな役割がありますね。行政や議会で論じられている政策のメリット、デメリットを吟味し、住民が自分事として検討できる材料を提供していく。政治的分断が深まるいまだからこそ、コンセンサスづくりのためのメディアの役割がクローズアップされます。

村上:石川テレビに、「能登デモクラシー」など3本のドキュメンタリー映画をつくった五百旗頭幸男さんという制作者がいます。彼は地域メディアの果たす役割として「権力を監視するだけでは不十分で、評価することも重要。しかし、ほめることがメディアにとって一番難しい」と述べています。

権力を追い込むことはメディアとして「かっこいい」かもしれない。しかし、その結果、地域行政が機能不全に陥って困るのは市民です。だからこそ、監視しつつ応援する、いわば叱咤激励する視点が地域メディアには特に必要ではないかと思います。

須賀:解決が難しい課題ばかりの中、これからの行政は誰からも受け入れられる正解を実行するのは難しいですからね。

村上:だからこそ、メディアも地域の一員として責任を持ち、よりよい解決策を一つずつ考えていくことが重要です。たとえば、地域資源を広域な市場に展開すること。これはすでに多くのローカル局が取り組んでおり、まさに得意とする領域ですが、資源が豊かな地域はむしろ少数でしょう。より困難な課題に対しては、行政やITに強いスタートアップなどと協業しながら、地域メディアはその解決に積極的に参画してほしい。デジタル技術で徘徊老人を見守る、熊の出没情報をリアルタイムでモニタリングする、農林水産業の業務をセンサーで管理するといった取り組みが、すでに始まっています。

それらの機能は、先ほどの9分類でいう「地域プロモーター」「地域プロデューサー」「地域住民のサポーター」です。地域を全国に売り込むプロモーターに留まらず、汗まみれになって一緒に地域課題を解決するプロデューサーとして、その延長線上で一人ひとりの困り事を解決するサポーターとなる覚悟で臨めば、他地域にも横展開できる新たなビジネスの創造にもつながる。そして、その取り組みは、地域の民主主義の基盤となる報道番組の眼差しにも活かせると思います。

須賀:ビジネスチャンスは十分にありそうですね。ある地方都市では、銀行がATMにお金を補充する手間をかけられなくなったため、キャッシュレス決済をエリア内の店舗や高齢者に広めて、手元に現金がなくても生活できるようにした事例があります。地域においても、テクノロジーで解決できることはたくさんあると思います。

dentsu Japan グロースオフィサー 須賀久彌氏

 

コンテンツの革新と合意形成の場づくりに期待

須賀:既存メディアとネットメディアの境目がますます曖昧になっています。ネット時代に、既存のメディアはどう変わっていくとお考えですか。

村上:私はそれほど悲観していません。テレビ放送業界は20世紀にメディアの王様であったことで、思考停止していた部分があったと思います。その間に、ネットではユーザーとつながる面白いコンテンツがどんどん増え、若い層を中心に視聴されるようになりました。しかし、揺り戻しも起きつつあります。ネット上の偽・誤情報の拡散や、対立・分断を増幅させるエコーチェンバーといった問題が認識されるようになりました。

ネットメディアとの競争環境の中で、既存メディアはもう一度コンテンツのイノベーションを起こそうとするはずですし、それによって魅力的なコンテンツが生まれてくるでしょう。むしろ、適正な競争環境ができたと前向きに捉えるべきです。

そのうえで、既存メディアがもう一歩踏み込んで考えなければならないのが、「言論空間の形成」のために何ができるかです。放送法は、意見が対立する問題については、多角的な論点を提示することを義務づけていますが、単純な意見の羅列や、平板な討論番組では関心を持ってもらえないでしょう。

須賀:視聴者に受け入れてもらえるコンテンツとしてどう成り立たせるか。そのアイデアやノウハウは、バラエティ番組の制作者たちが豊富に持っています。彼らの知見を活かす余地がありそうです。

村上:たとえばAIを活用し、多様な意見がどう分布し、自分の意見はどこに位置づけられるのかをデータで可視化できれば、相互理解や合意形成を促進できるかもしれません。単なる効率化ではなく、制作のブレインとしてのAI活用です。そこに、クリエイターのアイデアを加味し、コンテンツの魅力を高めることが考えられます。

先ほど須賀さんがスポーツやバラエティの公共性について言及されましたが、報道もスポーツもバラエティも、「自分たちにとっての公共性とは何か」を突き詰めて考えることで、いまの時代に合った新しいコンテンツが生まれてくるはずです。

須賀:メディアとしての「広義の公共性」を探求するために、自分たちは何のために存在しているのかを自問し、言語化していくこと。それが非常に大切だと理解しました。

 

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著者

村上圭子

村上圭子

東京財団

上席フェロー

須賀 久彌

須賀 久彌

dentsu Japan

グロースオフィサー (メディアビジネスイノベーション)

電通入社後、システム開発室配属。 その後、メディア・コンテンツ企画局、テレビ局ネットワーク1部(現ラジオテレビ局テレビビジネス1部)、メディア・コンテンツ計画局を経て、2006年にプレゼントキャスト(現 TVer)の設立に携わり同社に出向。2008年6月に同社代表取締役社長に就任し、gorin.jpやNHK「らじる★らじる」、TVerの立ち上げに関わる。2018年に電通ラジオテレビ局に帰任後、 2019年にラテBP局長に就任。2020年7月からTVerに取締役として出向。2025年1月より現職。

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