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電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。

今回は、DDDが実施している「心が動く消費調査」を分析(調査概要はこちら)。調査結果から得られたインサイトやファインディングスをお伝えします。本記事では、2025年11月に実施した第11回の調査結果に基づき、DDDの米谷彩加が転職とキャリアの幸福観の関係性について読み解きます。

「転職」が、生活者側にとっても企業側にとっても、より一般的な選択肢に

近年の日本では、「転職」が一般化しています。正社員の転職率推移は2025年に過去最高の7.6%(推計:約207万7000人※1)となっています。

※1 出典:マイナビ転職動向調査2026年版(2025年実績)速報

過去最高といっても「正社員の転職率」の計測は、2018年頃からとここ10年以内に始まったものです。これは逆説的に、2018年以前にも転職する人は存在していたものの、近年特に転職市場の変化や人材流動化への関心が高まったことから、転職率を定点的に把握する取り組みが広がってきたと考えられます。つまりこうしたデータ整備の動き自体も、日本において「転職」がより一般的なキャリアの選択肢として認識され始めたことを示す一つの兆しと言えそうです。

また企業側でも「人材の流動化」を前提とした採用が広がっています。約8割の企業が中途採用を実施しており、特に従業員5000人以上の企業では実施率が95.9%に達しています。大企業ほど中途採用を積極的に行う傾向も見られます。(※2)

※2 出典:リクルートワークス研究所 中途採用実態調査(2023年度実績、正規社員)

「新卒一括採用」「終身雇用」といったいわゆる「日本型雇用」が変わり始めている中で、こうした企業側の変化は、働く人々にとっても転職の心理的ハードルを下げる要因になっていると考えられます。

今回は、そのような日本社会において、転職についての考え方の違いが、その人を形作っている他の意識・価値観の差にも表れているのではないかと仮説を立て、「心が動く消費調査」を読み解いていきたいと思います。

約4割が「転職をして複数の会社で働く経験をする方が幸せ」だと考えている

まずは転職に関する調査内の質問で、
「【A】転職をせずに一つの会社で働き続ける方が幸せだと思う」
「【B】転職をして複数の会社で働く経験をする方が幸せだと思う」
のどちらの気持ちに近いかを聞いた結果を見て行きます。

全体(15~74歳)の結果では、「【A】転職をせずに一つの会社で働き続ける方が幸せだと思う(以下、「一社キャリア志向層」)」が58.2%、「【B】転職をして複数の会社で働く経験をする方が幸せだと思う(以下、「複数社キャリア志向層」)」が41.8%となりました。

 

さらにこれを男女別、年代別に見た結果が下図です。

 

男女別では、女性の方が男性に比べて、「複数社キャリア志向層」が2.8ポイント高くなっています。年代別では、60代以上のシニア世代のみ「複数社キャリア志向層」が4割弱、それ以外の15歳~50代はいずれもの層において4割を超えています。

これまで一般的に「日本型雇用」とは、新卒で一括採用され、定年まで働く終身雇用であると言われてきましたが、今回の結果で、世代別での数字に大きな差はないことを踏まえると、以前から「複数社キャリア志向層」が一定数存在していたことは明らかです。

また冒頭で触れたように、社会全体として「転職」がより一般的なキャリアの選択肢の一つとなってきた潮流を反映する形で、今まさに社会人となった若手の世代である20代においては「複数社キャリア志向層」が、拮抗しつつあります。その結果、他世代と比較し、やや割合が高くなってきているのかもしれません。今後は、人材/雇用の流動化が加速することで、「複数社キャリア志向層」が拡大する可能性もあると考えられます。

では、こういった就労意識について、「一社キャリア志向層」と「複数社キャリア志向層」といった全く別の価値観を持つ人々は、どういった特徴があるのか。ここからは他の意識価値観に関する設問の回答からその違いを紐解き、それぞれの層への理解を深めたいと思います。

“つながりや安定”を求める「一社キャリア志向層」と、“変化や拡張”を求める「複数社キャリア志向層」

調査では、生活者のさまざまな意識価値観項目について聴取していますが、まず「複数社キャリア志向層」と比べて「一社キャリア志向層」の方が「そう思う」「ややそう思う」の合計数値が高い項目について見ていきます。

※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、差分の数値記載に差が発生することがあります。(以降同様です)

 

図を見ると、「一社キャリア志向層」は、組織内の人間関係や地域コミュニティとのつながりを強く重視しており、同じ目的を共有する仲間と長く関係を築くことに価値を感じるといったペルソナ像が浮かび上がってきます。例えば「複数社キャリア志向層」と一番差が大きかったのは「学校や会社などの組織内の人間関係は自分にとって大切である」の回答で、その差分は11.2ポイントでした。

また「親の介護」や「社会問題への負担」を受け入れる姿勢に見られるように、家族や社会に対する責任を重視する価値観も特徴的です。生活面では、「身の丈に合った生活」や「節約志向」がより強く、「老後不安」の高さとも相まって、キャリアにおいても、変化/拡張より継続/維持、自己より役割、挑戦より安心といったものを重視する傾向と読み解けます。

反対に、「複数社キャリア志向層」については、これらの項目が「一社キャリア志向層」よりも数値として低い、つまり意識価値観が弱いということになります。継続/維持より変化/拡張、役割より自己、安心より挑戦といったものを重視する傾向があるということです。

次に、「複数社キャリア志向層」の方が「そう思う」「ややそう思う」の数値が高い項目は下図のとおりです。

 

「複数社キャリア志向層」は、人と違うことに金銭を投じたい、結婚や子育てへの関心が低めであるといった特徴がみられ、前の図と合わせて推察すると共同体の中でも自己や自己の価値観を重視していると言えそうです。キャリアの面でも、個人の可能性や経験を広げていくことに価値を感じやすいと言えるのではないでしょうか。

さらに今回のデータで特徴的だったのは、「複数キャリア志向層」の方が高い項目が少なく、また上記に記載した「複数社キャリア志向層」の方が高い項目においても、数値としては「一社キャリア志向層」とそこまで大きな差は見られなかった点です。これは「複数社キャリア志向層」が、そもそも特別強い価値観を持っていないということの証左になります。

言い換えると、「一社キャリア志向層」は社会/組織/地域/家族……といった社会規範をある程度強く内面化している一方で、「複数社キャリア志向層」はそれらを必ずしも、自分の価値観として持っていないことが見えてきました。

キャリア観そのものの多様化は、人生観を見直すきっかけにも

以上の結果から、転職がより一般化するなど、キャリアが流動化する現在の日本社会では、「共同体の中で安定して生きることに価値を置くことで幸福を得られるキャリア観」と「社会規範にとらわれすぎず、自己を拡張しながら生きることに価値を置くことで幸福を得られるキャリア観」という二つの価値観が共存していることが読み解けます。

転職をするか、一つの会社でキャリアを積むかという選択は、単なるキャリア戦略だけの話にとどまらず、その背景にある「自分はどのような人生を送りたいのか?」「どこに幸福を見いだすのか?」という人生観そのものも含めて、今後のあなたの人生の方向性を考えるきっかけとなるかもしれません。また転職市場に関わる企業にとっても、二つのキャリア幸福観モデルの存在を認識することが、人材とのマッチングをより高めるヒントになるのではないでしょうか。

DDDでは引き続き「心が動く消費調査」から、さまざまな観点での生活者のインサイトを考えていきます。

【調査概要】
〈第11回「心が動く消費調査」概要〉
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:15~74歳男女
・サンプル数:計3000サンプル(15~19歳、20代~60代、70~74歳の7区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2025年11月7日(金)~ 11月12日(水)
・調 査 主 体:電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:電通マクロミルインサイト

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著者

米谷彩加

米谷彩加

株式会社 電通

第2マーケティング局

1995年生まれ。新卒で化粧品メーカーに入社し、商品開発・マーケティング業務に従事。電通に入社後は、食品、飲料、洗剤、化粧品などの「Fast Moving Consumer Goods(FMCG)」領域を中心としたマーケティングプランニングを行うとともに、社内横断組織「電通デザイアデザイン(DDD)」にも所属。「韓国トレンド」「美容・化粧品トレンド」など、特に20~30代女性が夢中になっている事象/インサイトについて、詳しい。

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