電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。
今回は、DDDが実施している「心が動く消費調査」を分析(調査概要はこちら)。調査結果から得られたインサイトやファインディングスをお伝えします。
本記事では「人生100年時代の過ごし方」にフォーカス。消費者の背中を押す“欲望”との関係についてDDDの山田茜が考察します。
「人生100年時代」を生活者はどう受け止めているのか
「人生100年時代」という言葉が浸透して久しくなりました。1950年には、日本人の平均寿命は男性約58歳、女性約61歳でしたが、2025年7月に厚生労働省が発表したデータでは、男性は約81歳、女性は約87歳。およそ75年で、平均寿命は20年以上延びたことになります。
90歳まで生きることが特別ではなくなった今、長くなった人生をどう設計するのかという問いは、個々人に投げかけられています。この状況に対する戸惑いや模索が、「人生100年時代」という言葉が広く語られる背景にあるのではないでしょうか。
しかし、生活者がその長い人生を実際にどう受け止めているのかは、まだ十分に読み解かれていません。長寿化が進む社会では、“長い人生の時間をどう使うか”という感覚が、行動を左右する軸になり得ます。
そこで今回の調査では、「人生100年時代」について質問しました。具体的には、生活全般に関する考え方や行動について、次の二択のどちらが近いかを尋ねました。
【A】人生100年時代とはつまり、働く時間が長くなるということだ
【B】人生100年時代とはつまり、のんびりする時間が長くなるということだ
結果、「Aに近い」「ややAに近い」と答えた人の合計が67.5%、「Bに近い」「ややBに近い」と答えた人の合計が32.5%でした。

「働く時間が長くなる」と考える層(以降「働く時間予測層」)と、「のんびりする時間が長くなる」と考える層(以降「のんびり時間予測層」)。他の調査結果も合わせて分析し、読み解いていくと、2つの層には、消費行動の面で興味深い違いが見えてきました。
ここからは、2つの見通しの違いが、暮らしにおける価値観や行動の中でどんな差として表れるのかを、消費行動に関わる設問を手がかりに整理していきます。
「働く時間予測層」と、「のんびり時間予測層」、性年代構成比の特徴は?

今回の調査対象者全体(サンプル数3000)における性年代構成比を見ると、男性が49.9%、女性50.1%と約半々。それに対し、「働く時間が長くなる」と考えている層は女性52.1%と、全体よりやや高くなっており、中でも女性30~50代の割合が特徴的です。
たとえば女性40代は、調査対象者全体での割合が9.9%に対して、働く時間予測層では11.1%。女性30代も全体7.6%に対して働く時間予測層は8.3%。働く時間が長くなると考えている層は、現役世代の女性比率がやや多いことが分かります。
一方、のんびりする時間が長くなると考えている層の性別構成比は男性が54.2%と、やや高めです。男性20代も調査対象者全体での割合が6.8%に対してのんびり時間予測層8.1%と、少し高くなります。
性年代構成比の違いを押さえた上で、次は2つの層の特徴を、他の質問項目の調査結果と照らし合わせて見ていきましょう。次の結果にも性年代構成比の違いが影響している可能性はありますが、今回はそれだけでは説明しきれないほど差が出ている設問、具体的には両者の差が10ポイント前後ある項目に着目します。
物価高に対する意識から見えた違いとは
まず、両者の回答の差の大きさで注目したのは、物価高の局面で消費活動を調整する必要性を感じるかどうかです。物価高に対する意識を質問したところ、全体を見ると、「物価高で消費活動の制限をする必要性を感じている」は55.9%、「物価高でも消費活動は変わらない」は17.9%でした(無回答26.2%)。

働く時間予測層は「制限をする必要性を感じている」の回答割合が60.5%と全体の傾向よりも5ポイントほど多く、「変わらない」は14.6%と、全体の傾向よりも少なめです。
一方でのんびり時間予測層は「制限をする必要性を感じている」が46.4%と全体の傾向よりも10ポイントほど少なく、「変わらない」は24.7%と、全体の傾向よりも7ポイント近く多くなりました。
物価高で消費活動の制限をする必要性を感じている人の割合は、働く時間予測層の方が、のんびり時間予測層よりも14ポイントほども多くなっています。
働く時間予測層で顕著に表れている消費見直しの意識は、実際の行動として、購入頻度や購入先、容量、代替の選択など、何らかの“やりくり”につながる可能性があります。一方、のんびり時間予測層は物価高を前にしても生活スタイルを大きく変えない人が一定数いることが示唆されます。
つまり、物価高をどの程度「生活を見直す出来事」として受け止めるか、また、こうした変化をどれほど織り込みながら暮らしを運用するか、という姿勢の違いが見えてくると言えます。
買う前に確かめる?口コミ・レビューの使い方に差が出る
次に、購入前の情報行動に対する質問で両者の特徴が見える回答がありました。「SNSや評価レビューなど、口コミ情報をよくチェックする」という設問では、「そう思う」「ややそう思う」と回答した人の合計は全体で47.9%。働く時間予測層が51.0%、のんびり時間予測層は41.7%でした。

SNSや評価レビューなど、口コミ情報をよくチェックする人の割合は、働く時間予測層の方が、のんびり時間予測層よりも10ポイント近く多いことが分かります。
ここで見えてくるのは、買う前に確かめて失敗を減らそうとする姿勢だと考えられます。物価高で消費の調整を考える割合が多い働く時間予測層は、1つ1つの買い物においても、できるだけ判断材料を揃えて納得して選びたい人が多いのかもしれません。また、物価高などの変化に対応して消費を調整しようとする姿勢は、レビューや口コミ情報のチェックというしっかりした事前準備を通して買い物に向き合い、選択の判断材料を増やす姿勢に通じるものを感じます。
この設問の回答については、そもそも冒頭の性年代構成比の違いが影響している可能性も考え、2つの層それぞれを性年代ごとに比較してみました。その結果、同じ性年代であってもやはり働く時間予測層の方が、のんびり時間予測層よりもレビューチェック率が高いことが分かりました。
まとめ:「見直し」と「確かめ」に表れる人生100年時代の捉え方
今回のデータ分析で見えてきたのは、人生100年時代を「働く時間が長くなる」と捉えるか、「のんびりする時間が長くなる」と捉えるかによって、物価高を前に消費を見直す必要性を感じる度合いと、購入前に口コミ・レビューを確認する度合いが異なるという傾向でした。前者は「制限が必要」と感じる割合と口コミチェックの割合が高めで、後者は「消費活動は変わらない」の割合が相対的に高く、口コミチェックは低めでした。
ここから、人生100年時代をどう見積もっているかが、日々の意思決定のスタイルにも表れているのではないかという示唆を得ることができました。つまり、物価高のような変化を“生活を見直すきっかけ”として受け止めるか、また、購買行動の前にどれだけ情報を確かめるかといったスタイルです。
企業が生活者の捉え方を直接把握するのは簡単ではありませんが、購買行動の一部として表れやすいと考えられる「見直し方」と「確かめ方」に合わせて、商品やサービスの選び方を複数用意しておくことは、1つ有効な手段だと考えられます。
例えば物価高の際にも、それぞれのタイプが選びやすいような見せ方の工夫を検討できると良いでしょう。具体的には、比較ポイントを整理し、レビューを見つけやすくし、価格や容量、プラン変更などを分かりやすく提示する。そうすると、「働く時間予測層」に多い、確かめて納得して選びたい人は迷いにくくなります。
一方で、選択肢を増やしすぎず、定番やおすすめを明快に示せば、「のんびり時間予測層」に多い、生活を大きく変えたくない人には喜ばれるでしょう。どちらの人にも「決めやすい体験」を用意できるかが、設計のポイントになりそうです。
比較ポイントやレビュー導線を整えて納得して選びたい人を支えつつ、大きな変化をつけずに「定番」で決めたい人も迷わせない。人生100年時代の市場では、双方の選び方に寄り添える体験が鍵になりそうです。
【調査概要】
〈第11回「心が動く消費調査」概要〉
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:15~74歳男女
・サンプル数:計3000サンプル(15~19歳、20代~60代、70~74歳の7区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2025年11月7日(金)~ 11月12日(水)
・調 査 主 体:電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:電通マクロミルインサイト
著者

山田 茜
株式会社 電通
第4マーケティング局
1989年生まれ。電通グループ横断組織「未来事業創研」で、未来の暮らしの可視化からのバックキャストでの事業開発に従事。週末はママインスタグラマー。トレンドを読み解くこと・インサイトを分析することが好きです。育休中に国家資格キャリアコンサルタントを取得し、今日から始められる社会貢献やキャリア教育もテーマ。
