JR北海道が、DEIアクションの点と点をつなげていく。

「DEIな発信」を実践する人物や組織に、リテラシーとアクションを伴うDEIマインドの育み方を伺う本連載。今回は、北海道旅客鉄道(以下、JR北海道)の事例をご紹介します。
インフラとして、旅客事業は人々の生活に欠かせない存在です。鉄道事業も、街づくりに携わる開発事業も、「誰も取り残さない」発想が大切です。
今回、JR北海道のDEIアクションに伴走したのが、電通の増山晶、電通北海道の田中直也、寺岡真由美です。dentsu Japan横断のDEI組織「dentsu DEI innovations」に所属する3人が、どのように伴走したのかもお伝えします。
北海道で広がる「DEIの追い風」
北海道では、インバウンドの回復や鉄道・街づくりの再開発機運を背景に、職場やサービスにおけるDEIへの配慮が、これまで以上に求められています。
そんななか、JR北海道のDEIシンボルアクションとも言えるのが、「札幌駅改札内トイレリニューアル」です。

北海道最大のターミナル駅である札幌駅では、北海道新幹線札幌延伸に向けた整備が進んでいます。こうした動きに合わせて2025年3月、建築部門の社員70人を対象に、社内公募型プロジェクトを立ち上げました。
そのアイデアを反映して改修した在来線改札内のトイレには、新たにキッズトイレや男性トイレのパウダーコーナー、個室完結型の共用トイレなどを整備。
清潔感と温かみを大切にし、子ども連れの方や高齢の方、旅行者など、国内外のさまざまな人が使いやすい設計にしました。「多様なお客様を迎え入れる『温かみ』のあるトイレ」のコンセプトは、社内のDEI意識も高め、アワード(※)も受賞しています。
※2025年度JTA(一般社団法人日本トイレ協会)トイレ大賞建築作品部門で奨励賞と一般投票賞(投票第一位)を獲得。同賞の鉄道会社からの入選は初。https://info.jp.toto.com/com-et/jirei/2611/ より
以下、寺岡、増山、田中の3人の電通人の視点から、札幌駅改札内トイレリニューアルに続く、今回のJR北海道のDEIチャレンジを解説。また、私たちがどのように伴走したのかと、DEIマインドを育むための気づきをお伝えします。
JR北海道のDEI研修に電通が伴走(寺岡真由美の視点)
私は、普段は電通北海道でプランナー、クリエイティブ職として働きながら、有志のDEIプロジェクトである電通北海道全員活躍推進プロジェクト(ゼンカツ)にも参加しています(※)。
また、dentsu DEI innovationsでは、dentsu Japanが持つさまざまなDEIソリューションの周知・活用のための体験会を開催したこともあり、北海道にいながら電通グループにどんなソリューションがあり、それぞれ誰が詳しいのかを知ることができていました。
ゼンカツでは、電通北海道公式note「北海道キカクラブ」内のDEI連載「てやんDEI!」の発信のほか、ジェンダーギャップ指数の低迷が続く北海道の女性活躍をはじめとした、DEI課題解決に向けて力を注いでいます。
これまでゼンカツでは、JR北海道開発事業本部の皆さんと、DEI関連の異業種交流などで接点を重ねてきました。
※電通北海道公式note:てやんDEI! byゼンカツ https://note.com/kikakulove/m/m7ae9e37e9c62

そんな交流をきっかけに、JR北海道有志の皆さんから、社内DEI研修のご相談がありました。「開発事業本部から、社内と社外へのDEI変革を始めたい」という思いを受け、セミナーとワークショップを提案しました。
今回私はこのプロジェクトで、プロデューサー的立ち位置で全体進行を担いました。DEIセミナーやワークショップ経験が豊富な増山、電通北海道で人事としてDEIに取り組んでいる田中(ゼンカツメンバーでもあります)らとチームを編成。JR北海道担当のビジネスプロデューサーも巻き込み、JR北海道のDEI啓発と、企業のインナー/ビジネス両面の課題に合う内容を練りました。
このような座組みで取り組んだのは、2つ理由があります。一つは、これまでのゼンカツやdentsu DEI innovationsでの活動で生まれた縁をつなぎ、最良な形で実らせたいと思ったこと。もう一つは、「DEIは社内ごと」と考える電通北海道メンバーもまだまだ多いなか、「DEIは社内の取り組みだけでなく、クライアントやその先の社会を良くする仕事にもつながる」と実感してほしいという思いもありました。
そして、初めてDEI研修に取り組むJR北海道の有志メンバーの方々にも同様に、「社内外に好影響を与えられる施策になった」と感じてもらいたいと考えました。そのため、課題を丁寧にヒアリングし、打ち合わせを重ねました。
まず「DEIって何?」という方でも楽しく参加できるよう、基礎セミナーを実施。続くワークショップでは、さまざまな課題に網羅的に触れられる「ココカラ ジャーニー」(※)の実施を提案しました。
※ココカラ ジャーニー=
DEI推進を支援するワークショップ型ソリューション
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0627-010529.html
今回実際に実施してみて、「ココカラ ジャーニー」は、クライアントの課題発見やビジネスのグロースにとても役立つと実感しました。組織の課題解決や社会に対する価値提供の仕方を模索できるという意味で、dentsu Japanが掲げるIGP(Integrated Growth Partner)としての一歩が踏み出せた感触もあります。私の職務としても、今年から「IGプランナー」(※)という役割になったので、なおさらそう感じました。
※IGプランナー=Integrated Growth Planner。広告のみならず、クライアントの事業成長に伴走する戦略プランナー。
これまで電通北海道がクライアントに向き合い続けたこと、ゼンカツが地道にDEIの活動を重ね発信し続けたこと、そしてdentsu DEI innovationsが「ココカラ ジャーニー」のようなクリエイティブでキャッチーなソリューション開発を通じて知見をためてきたこと、この3点をつなげられたことは、今回の私にとって大きな収穫になりました。
基礎と事例で“自分ごと化”を促す(増山晶の視点)
私はDEIセミナー経験が多いことから、dentsu DEI innovationsを代表してJR北海道開発事業本部内で行われるDEIセミナー講師を担当しました。
北海道と、私の勤務地である大阪は離れていましたが、リモートでの事前打ち合わせを重ねました。また、セミナー前日も設営やリハーサルまでJR北海道有志の方々と協働し、JR北海道として初めてのDEI研修に向けて準備を進めました。
当日は、初めてのDEI研修に、開発事業本部社員の約9割が参加。「組織一丸となって本気でDEIを自分ごととし、またビジネス課題として取り組む」という強い意志を感じ、私たち電通メンバーも身が引き締まりました。
セミナーは、性別や年齢、役職などの一般的な属性ラベル「以外」をルールに会話するアイスブレイクから始めました。これは、一般的な属性除外というルールを設けて、趣味や好きな本について会話することで、属性にひもづく「無意識の偏見」に気づき、それから解放されるというもの。その結果として、新たな人間関係やコミュニケーションが生まれることを体験してもらうワークです。「この人とこんな会話で盛り上がるなんて!」という驚きが、自分自身の視野を広げることにつながります。
硬かった表情も次第にほぐれ、なかなか話が終わらないほどのにぎやかな盛り上がりとなり、すでに社内で良好なコミュニケーションが実現されている様子も見受けられました。

DEI基礎知識のセミナーでは、DEI(Diversity/多様性、Equity/公平、Inclusion/包摂)について、一人一人にできるだけ自分ごととして考えてもらえるように解説しました。
たとえば街づくりのインフラに欠かせないユニバーサルデザインのトピックでは、スタイリッシュな大階段に潜むDEI課題を考えます。

合理的配慮が求められる事例として、
- 「バリアフリー」は後付けの昇降機対応
- 「ユニバーサルデザイン」はあらかじめエスカレーターを併設する
- 「インクルーシブデザイン」は「みんな」のアクセシビリティが基本になるので、さまざまな当事者がデザイン時点から参加する
といった考え方を共有しました。

また、セミナー翌々日の国際女性デーにちなんだ、北海道ゆかりの企業を中心とした女性活躍事例では、JR北海道に近い業態の元国営・大規模企業事例から、北海道企業事例まで紹介。
身近な広告事例では、社会の高齢化や同性パートナー、シングルペアレントなどのリアルを反映しているCMを紹介すると、DEIは思っていたよりも日常的な課題だと気づいたという感想をいただきました。
障害領域では「日本の障害者は何人に一人の割合?」、ジェンダー領域では「日本でLGBTQ+は何人に一人の割合?」といったミニクイズでのデータの確認から講義がスタート。客観的な事実を押さえることが、できるだけ多くの「みんな」について改めて考えるきっかけになります。
「人の数だけふつうがある」というDEIの考え方は、業務だけでなく対人関係の基本として欠かせないと感じた、という感想もいただきました。

続いて、このDEIセミナーをガイドに、カードゲーム形式のDEIソリューションワークショップ「ココカラ ジャーニー」にチャレンジ。今回のワークショップでの共通テーマは、「JR北海道が向き合うべきDEI課題とその解決策」です。
「社会の課題」「企業の課題」「当事者の課題」など、各自の興味関心、業務関連性に応じた課題やカードをヒントに、5つのチームに分かれて具体的なアクションを議論しました。

カードからは、QRコードでさまざまなDEI記事にリンクしています。例えば、「できていない社会の課題」のカードの一つは、「高齢者の意欲と自信を引き出すテレビゲーム」という記事を読むことができ、社会が提供できるアクティビティの可能性のヒントを得ることができます。
寺岡さんのパートでも触れられていた通り、ココカラ ジャーニーは「自社の課題」「社会の課題」「当事者の課題」を結びつける有効な手法です。今回も、日常業務から考えたアイデアが活発に飛び交う場となりました。

DEI伴走で企業に寄り添っていく(田中直也の視点)
私は普段、電通北海道で人事の立場からDEIを推進しています。自社における「働きづらさ」などに関するインナー課題の抽出から、施策の企画・進行までを長年担当してきました。また、DEI関連の公的認証の取得経験も踏まえ、具体的なKPI設定や伴走のイメージを持ちながら、JR北海道の皆さんのディスカッションを見守りました。
ワークショップの最後には、それぞれのチームから課題感の共有と同時に、経営視点を踏まえながらもすぐに始められるような具体的なアクションプランが、次々に発表されました。
アクションプランの例としては、
- 社屋を地域の子どもたちの居場所として開放し、子ども食堂やアクティビティを提供し地域貢献する
- 鉄道事業と開発事業の部門間のコミュニケーションを活性化することで、新たな価値を創造する
など、今日からできそうなアイデアから、経営課題としてまず一歩踏み出すためのアイデアまで、たくさん出そろいました。
企業やチームが持っているアセットやリソースを、部署の垣根を越えて、どう生かし合うかを一人一人が考え・話し合うことで、新しい事業や価値が生み出せる。DEIは、社内のあらゆるステークホルダーの視点や気付き、アイデアを引き出す切り札になるのかもしれません。

アンケートでは、「セミナー前後でのDEI意識変化」「セミナー&ワークショップ感想」ともに8割超が満足となり、JR北海道のDEI改革のヒントをご提供できた、うれしい結果となりました。
事前アンケートでは「DEIリテラシーに自信がない」「会社に推奨されたので来た」と答えていた方も、セミナーとワークショップを経て「視野が広がった」「関心が高まった」と、DEIという幅広いテーマをそれぞれの切り口で自分ごと化していただけたことにも成果を感じています。
多くの研修を手掛けてきたわれわれにとっても驚きだったのは、フリーアンサー回答がとても多かったことです。
「DEIは、人口減少や高齢化が進む日本で非常に大切な考え方だと思った」
「セミナーを通じて価値観をアップデートできてよかった」
「ワークショップでいろいろな人の考えを聞くことで、とても参考になった」
「定期的にDEIについて個人や全体で考え、ディスカッションすることが理解を深める第一歩と感じた」
など、DEIを自分ごととして理解し、ワークショップでの意見の共有等によりさらに視野が広がったことが分かります。
今回、電通のメンバーが研修を担当して改めて感じたのは、研修で終わらせず、「次のアクション」につなげることの大切さです。その場での企業のインナー課題・ビジネス課題の抽出に加え、「DEI意識」という企業や社会の変革のための要となる点と点をつなぎ、確かな道筋にする必要があるのです。
「えるぼし」「くるみん」などの公的認証の取得によって構造を整えることも大切ですし、さまざまな立場の人が「インクルージョン」を感じられるように、一人一人の課題に向き合うことも大切です。
dentsu Japanとしても、グループ全体の取り組みを進めながら、実践で得た知見をもとに、企業のDEIアクションをインナー/ビジネスの両面で支援していきます。
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著者

田中 直也
株式会社 電通北海道
経営管理局 総務人事部
1991年生まれ。明治大学農学部卒業。イベント/セールスプロモーション、屋外/ラジオ/テレビメディア、総務/人事を経て、採用・育成・DEI推進を担当。dentsu DEI innovations・電通北海道全員活躍推進プロジェクト(ゼンカツ)所属。自社のインナー/アウター双方の課題解決の知見を活かし、組織の課題解決に伴走。キャリアコンサルタント。

寺岡 真由美
株式会社 電通北海道
エクスペリエンスプロデュース局 グロースプランニング部
IGプランナー
1986年生まれ。京都大学工学部卒業。プロモーション、デジタル、クリエイティブを経てプランナーとして活動中。DEI関連では、dentsu DEI innovations・電通北海道全員活躍推進プロジェクト(ゼンカツ)に所属。電通北海道公式note「北海道キカクラブ」にてDEI連載「てやんDEI!」を執筆。総合旅行業務取扱管理者の資格も保有。

増山 晶
株式会社 電通
第6マーケティング局
クリエイティブディレクター
dentsu DEI innovations所属。 クリエイティブディレクターとして、ナショナルクライアント中心に50社以上担当。国内外でクリエイティブ、メディア、デジタルでの広告賞多数。各賞審査員歴任。マスからデジタル、プロモーション、ソーシャル横断の多様なクリエイティブ経験と、DEIコンサルタントとしての専門知見に基づく課題発見とソリューションに携わる。dentsu DEI innovations(旧電通ダイバーシティ・ラボ)では、LGBTQ+をはじめとし、さまざまなダイバーシティ課題に取り組み、セミナー講師、ワークショップ経験多数。ジェンダー表現、UD手法のコンサルにも携わる。ダイバーシティ・アテンダント、電通Team SDGsコンサルタント。代表・共著に各5巻シリーズの児童書「みんなで知りたいLGBTQ+」(2022、文研出版)、「みんなで知りたいダイバーシティ」(2023、同)、「みんなで知りたい生物多様性」(2024、同)。



