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公開日: 2026/04/24

全社員の妄想から、事業が動き出した。 大京「THE LIONS」、リブランディングのすべて。

高橋愛莉

高橋愛莉

株式会社大京

榊 良祐

榊 良祐

株式会社電通

オリックスグループの不動産部門で住宅事業を担う大京は分譲マンション事業の開始から55年経った2023年、分譲マンションブランドのリブランディングに踏み切りました。長年親しまれてきた「ライオンズマンション」を、「THE LIONS」へと刷新。その象徴的なアクションとして選ばれたのが、デザインとアートの祭典「DESIGNART TOKYO」への出展でした。

2023年のDESIGNART TOKYOでは、海に浮かぶ移動型レジデンス「THE LIONS JOURNEY 未知をゆくレジデンス」を発表。続く2025年には、LDKの概念を一新する居室の提案「Relation Wall」を発表。いずれも単なる話題づくりではなく、ブランドイメージの刷新、社員の意識変革、さらには事業化の推進にまでつながっています。

左:“THE LIONS JOURNEY 未知をゆくレジデンス “ 右:”Relation Wall“のメインビジュアル。革新的なマンションの構想が、いずれもDESIGNARTで発表された。


なぜ、DESIGNART TOKYOへの出展が、社員や事業まで動かすことにつながったのか。リブランディングを推進した大京の高橋愛莉氏と、電通のクリエイティブ・ディレクター榊良祐氏に話を聞きました。

DESIGNART TOKYOとは、2017年にスタートした、来場者のべ25万人規模のデザイン&アートフェスティバル。世界中からインテリア、アート、ファッション、テクノロジー、フードなど、多彩なジャンルの才能が集結し、都内各所で展示を開催している。グランドコンセプトは「INTO THE EMOTIONS 〜感動の入口〜」。


9割が課題を感じ、9割が愛着を持っていた

株式会社大京 ブランド推進課 高橋愛莉氏


――ライオンズマンションのリブランディングは、どのような背景から始まったのでしょうか。

高橋:最も大きな理由は、市場環境の変化です。マンション市場の寡占化が進み、競争は激化しています。スペックだけで競えば、いずれはコモディティ化してしまう。だからこそ、ブランドの思想で選ばれるマンションでありたい。そんな思いが、今回のリブランディングの出発点でした。

もう一つ重要だったのが、社内の空気です。社内アンケートを取ったところ、9割の社員が「ライオンズマンション」というブランドに課題を感じている一方で、同じく9割がブランドに誇りや愛着も持っていることも分かりました。課題はあるけれど、深く愛されてもいる。その状態を見て、このブランドをもっと成長させるために、今こそ変えるべきだと思い電通に相談しました。

榊:最初にお話を伺ったとき、これはかなり大きな挑戦になると感じました。日本のマンション文化をつくってきた代表的なブランドが変わるわけですから、そのインパクトは大きい。しかも大京の皆さんの中にも、「変えたい」という前向きな意思がありました。だからこそ、トップダウンで決めるのではなく、全社員を巻き込みながら丁寧に進めていく。そんなリブランディングが必要だと考えたのです。


ブランドの答えは、社員の中にある

――全社員を巻き込むリブランディングは、どのように進めていったのでしょうか。

高橋:最初に取り組んだのは、大京社員とともに「これからどんな住まいをつくっていきたいのか」「どんな人に住んでほしいのか」を考え、可視化していくことでした。そこから生まれた新しいターゲット像や理想の住まい像を全社員で共有し、意見を集めてブラッシュアップしていきました。時間はかかりましたが、このプロセスを丁寧に積み重ねたことが、ブランドを自分ごと化してもらう上で大切だったと思います。

榊:僕は、ブランドの答えは社員の皆さんの中にあると思っています。クリエイターが勝手につくるものではなく、核になるのはそこで働いている一人一人の本音です。「本当はこういうマンションをつくりたい」「こういう人に住んでほしい」。そうした本音を引き出すワークショップにすることを重視しました。

高橋:全社を巻き込んだワークショップを重ねる中で、言葉や事例イメージを手がかりに、目指すブランドの輪郭が明確になってきました。たとえば、新たなターゲットである「パワーカップル層」について議論を深めることで、従来のライオンズマンションとは大きく異なる、「クリエイティブカップル」といった新たな顧客像が浮かび上がってきたのです。こうした議論を通じて、社員の中に「変わりたい」という確かな意思があることがより明確になりました。

社員自らが目指したいビジョンを元に広告素材が作成された。

榊:議論を通じて、最終的にたどり着いたのが「人生には価値がある」というTHE LIONSのブランドステートメントでした。この言葉には、単に性能のいいマンションをつくるだけではなく、住む人の人生の価値を高めるブランドでありたい、という思いが込められています。
しかし、ビジョンは掲げるだけでは浸透しません。働く皆さんが、「人生の価値を高めるマンションとは、具体的にどういうことなのか」「自分の仕事にどうつながるのか」を考えられるようにする必要があります。

高橋:そこで次に立ち上げたのが、「DAIKYO NEXT ONE PROJECT」でした。このプロジェクトでは、①インプット、②アウトプット、③発信という循環を回していきました。まず、有識者やクリエイターから学び、社員ワークショップで「人生の価値を高めるマンションとは何か」を考え、アイデアを形にする。そして最後に、社会へ発信する。その発信の場として選んだのが、DESIGNART TOKYOでした。

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いいビジョンは、妄想×専門性でつくる

――DESIGNART TOKYOへの出展まで、具体的にどのように進めたのでしょうか。

高橋:まず、「人生の価値を高める究極のマンションとは何か」という問いを設定するところから始めました。その上で、有識者によるインプットを通じて視野を広げ、理想の住まい像について社員と議論を重ねていったのです。そうした中で見えてきたのが、「未知と出合い続けること」「多様な居場所があること」「自然と共生すること」という3つの要素でした。これらを起点に未来のマンションを妄想し、最終的に「THE LIONS JOURNEY未知をゆくレジデンス」という旅するマンションのコンセプトにたどり着きました。

 

THE LIONS JOURNEY 未知をゆくレジデンス プロジェクトムービー

榊:議論にあたっては、2050年という時間軸を設定しました。短期的な視点に立つと、どうしても業界の常識や技術的な制約にとらわれてしまい、自由で魅力的なビジョンを妄想しにくくなるからです。一方で、妄想するだけでは地に足がついたアウトプットにならないので、建築トレンドや未来のメガトレンド、ウェルビーイングの知見などをしっかりインプットすることも重視しました。さらに、DESIGNARTから紹介していただいた建築家の豊田啓介氏の協力を得て、住まいとしてのリアリティを細部までつくり込んでいきました。

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高橋:アウトプットのための社員ワークショップでは、「四季を入れ替えたい」「景色を変えたい」といった、とても無邪気なアイデアがたくさん出ました。それを電通のクリエイターと豊田さんが一つ一つ丁寧に拾い上げてくださり、結果として「海の上を移動し続け、各地を巡りながら暮らすマンション」という、不動産の概念を覆す構想へと昇華してくださいました。

榊:こうした独自性のあるアイデアが形になったのは、クリエイターとともにビジョンの具体性を高めていくことができたからだと思います。ビジョンは具体性が薄いと、どの企業も似た未来像になってしまいます。特にAIの時代は、それっぽいアウトプットならすぐに出せてしまいますが、それだけでは既視感が強く、企業独自のビジョンとして発信できるレベルにはなりません。豊田さんのような専門性の高いクリエイターと組んだことで、「THE LIONS JOURNEY 未知をゆくレジデンス」という飛躍性と現実性が両立した提案になったと思います。

建築家・豊田啓介氏との共創で描かれた2050年のマンションビジョン。外観のデザインだけでなく、居室内、共用施設、居住者の生活、環境に配慮された設計まで、具体的に描かれた。


DESIGNART TOKYOへの出展が、社員のDNAを刺激する

――「THE LIONS JOURNEY 未知をゆくレジデンス」を発信する場として、DESIGNART TOKYOを選んだ理由について教えてください。

高橋:私たちが目指したのは、住宅設備の提案に留まらず、人の価値観や環境の変化を踏まえながら、「未来の豊かさ」そのものを問い直すことでした。だからこそ、不動産業界の中だけで発信するより、建築、アート、デザイン、インテリア、文化など、さまざまな視点が交差する場所で発信したいと思いました。DESIGNART TOKYOは不動産業界に限らず、多様な視点を持つ人たちと思いやアイデアを共有できる場所として、とても相性が良かったと思います。


――出展に対する反響はいかがでしたか。

高橋:不動産の文脈だけではなく、多方面から反響をいただけました。これまでのライオンズマンションのイメージではなく、上質で洗練された新しいTHE LIONSのイメージとして見ていただけた感覚があります。

加えて、社内への影響も大きかったです。大京にはもともと、「イノベーションのDNA」を持つ社員がたくさんいます。宅配ボックスやオートロックシステムを業界で初めて導入してきたように、新しいことに挑戦していく企業文化があるのです。その社員たちがDESIGNART TOKYOで自社の展示を見ることで、イノベーションのDNAが刺激され、新しいブランドを自分ごととして考え始めるきっかけになったと思います。

榊:自分たちのブランドが、感度の高い来場者に向けて展示されている。その光景を会場で目にするだけで、「自分たちの仕事は、こんな未来を語ってもいいのだ」と、社員の意識が大きく変わります。全社を巻き込むインナーブランディングとして機能するのです。

2050年のビジョンから、2030年の実装へ

――続く2025年のDESIGNART TOKYOでは、「Relation Wall」を発表されました。こちらはどういう経緯で生まれたのでしょうか。

高橋:2050年のビジョン「THE LIONS JOURNEY 未知をゆくレジデンス」を発表した後、次はそのビジョンの解像度をさらに高めようという話になりました。そこで、より具体的な生活を想像しやすい「居室」にフォーカスし、社員を巻き込んだアイデアワークショップを行いました。

そうして生まれたのが、「間取りからの解放」という考え方です。昨今の住宅には似たような間取りが多いですが、実際の生活には、画一的な間取りでは収まりきらない多様性があります。共働きが当たり前になり、リモートワークも増えた今、完全に一人の世界に閉じたいときもあれば、ゆるやかにつながっていたいときもあります。それぞれの暮らし方に合わせて空間をデザインできることが、これからの住まいには大切だと考えました。

榊:昭和に生まれた「LDK」という価値観から住まいを解放し、グラデーションのある暮らしを実現する。その発想から生まれたのが、可変式の壁「Relation Wall」というアイデアでした。これまで人と人を隔てていた壁を、シチュエーションに応じて動かし、人と人の関係性そのものをデザインする。マンションの中でも大きな面積を占める「壁」という要素を変えることで、いわばマンションの再発明を目指したのです。

「Relation Wall」を実装するにあたり、DESIGNARTから紹介いただいた建築家・永山祐子さんにご協力いただきました。ここで大事にしたのは、このプロジェクトの思想や進め方に合う方とタッグを組むことです。永山さんは、ご自身の住まいでも壁が動く空間を実践されているとDESIGNARTの方から伺っており、Relation Wallを一緒につくるパートナーとして非常に相性が良かったと思います。

 

Relation Wall のプロジェクトムービー

DESIGNART TOKYOで集めた共感が、実装の原動力に

――「Relation Wall」にはどのような反響がありましたか。

高橋:会場では「うちにもこの壁欲しい」という声をたくさんいただきました。今後はさらに技術面の検証を進めながら、2030年ごろの実装を目指して具体化していきたいと考えています。

榊:Relation Wallは、すでに発売してもおかしくないレベルまで完成度が高まっていました。そこまで解像度が上がると、社内でも「これは実現に向けて本気で動ける」という感覚が生まれてきます。僕はここがとても重要だと思っています。

DESIGNART TOKYOで発表することで社会の反応を得る。その反応とプロダクトの完成度が、今度は社内を動かしていく。ブランド推進部門の主導で始まったプロジェクトが、他部署や経営層まで巻き込みながら実装へと進んでいく。この流れが、画期的な事業や商品を生み出していくのだと思います。

最初から商品開発を目的に取り組むと、どうしても制約にとらわれやすいものです。けれど一度、飛躍したビジョンを描き、社会から共感を得ることで、斬新なアイデアだとしても実現に向けて組織は動きやすくなります。ビジョンドリブンの事業開発が可能になるのです。

Relation Wall のプロトタイプをDESIGNART TOKYOメイン会場で展示し多くの反響があった。


――最後に、リブランディングや事業開発にDESIGNART TOKYOの活用を考えている方へ、一言お願いします。

高橋:DESIGNART TOKYOは、さまざまなジャンルから集まった出展者や来場者と対話できる、ユニークなプラットフォームだと思います。こうした場を活用し、ワークショップで生まれた自分たちのアイデアが社会に発信されているのを見ることで、社員も大きな達成感を得ることができます。

新しいブランドの可能性や事業の未来を考えている企業にとって、DESIGNART TOKYOは出展だけでなく、そのプロセスも含めてインナーブランディングに活用できる価値のある場だと思います。

榊:今は、ただ正しいものをつくるだけでは差別化が難しい時代だと思います。技術やスペックだけでなく、美学や感性、企業としてどんな問いを持っているかが重要になってきています。DESIGNART TOKYOは、そうした問いを社会に投げかけることができる数少ない場所です。

会場には、先端テクノロジーを提案する企業もいれば、伝統工芸の作り手、デザイナー、アーティストなど、さまざまな立場の人たちが集まります。そうした多様な人たちが混ざり合うことで、思いがけない化学反応が生まれ、新しいものが生まれていく。そうした場に一度参加してみること自体が、ブランドや事業を前に進めるきっかけになると思います。何かを変えたいと考えている企業の方は、ぜひ一度ご相談いただけたらうれしいです。

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著者

高橋愛莉

高橋愛莉

株式会社大京

事業管理部 事業企画室 ブランド推進課

係長

大京に入社後、商品開発、建築企画、インテリア業務、販売など、住宅事業における幅広い実務を経験。現在はブランド領域を主軸に、事業と生活者の関係性を捉え直しながら、ブランドの存在意義やコンセプトの再定義を推進する。商品・空間・体験・コミュニケーションを横断した表現開発を通じて、ブランドの新たな価値創出を実践している。

榊 良祐

榊 良祐

株式会社電通

クリエイティブ・ディレクター

アートディレクターとして電通入社。多様な企業の広告キャンペーンを手がける。現在は「企業の飛躍可能性をデザインする」を軸に、建築家やアーティストなど世界のクリエイターと企業をつなぎ、新たな価値を生み出すブランドデザインを実践。OPEN MEALS、Future Vision Studio発起人。東京大学非常勤講師。グッドデザイン金賞、iFデザイン賞など国内外受賞多数。

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