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新しすぎるコンセプトや商品は、どうやって社会に届ける?LIXILに聞いてみた

井上 貴之

井上 貴之

株式会社LIXIL

長瀬徳彦

長瀬徳彦

株式会社LIXIL

大森槇人

大森槇人

株式会社LIXIL

榊 良祐

榊 良祐

株式会社電通

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住宅設備・建材メーカーであるLIXILは、これまでDESIGNART TOKYO(デザイナートトーキョー)に三度出展してきました。いずれも、単なる商品発表ではなく「これからの住まいはどうあるべきか」と社会に問いかけるような作品を発表し続けています。なぜLIXILは、革新的な新商品や、コンセプト展示をDESIGNART TOKYOで発表し続けるのか。LIXILのLHTデザインセンター長 井上貴之氏、bathtopeプロジェクトリーダー 長瀬徳彦氏、浴室事業開発部にてオーダーバスブランド「aq.(エーキュー)」を推進する大森槇人氏の3人に、電通のクリエイティブ・ディレクター榊良祐氏が話を聞きました。

DESIGNART TOKYOとは、2017年にスタートした、来場者のべ25万人規模のデザイン&アートフェスティバル。世界中からインテリア、アート、ファッション、テクノロジー、フードなど、多彩なジャンルの才能が集結し、都内各所で展示を開催している。グランドコンセプトは「INTO THE EMOTIONS 〜感動の入口〜」。

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(左から)電通 榊良祐氏、LIXIL 井上貴之氏、長瀬德彦氏、大森槇人氏

未来のために、「第3の箱」を持ち続ける

――LIXILは、これまでに三度、DESIGNART TOKYOに新しい商品やコンセプトを出展されています。こうしたイノベーティブな取り組みが盛んな会社なのでしょうか。

LIXIL長瀬:LIXILには「3BOX理論」という考え方が根付いています。1つ目の箱には「今の強み」が、2つ目の箱にはその中で「捨てるべき要素」が、3つ目の箱には「未来の新規事業」が入っている。3つ目の箱を生み出し続けないと、1つ目の箱はどこかでコモディティ化してしまうという考え方です。社長の瀬戸が起業家出身ということもあり、全社的に3つ目の箱にあたる「未来をつくる」ことへの意識はかなり強いと思います。 

僕らがDESIGNART TOKYOでやってきたことは、まさにこの3つ目の箱の領域であり、デザインとも密接に結びついていると考えています。新しい挑戦に対して、「思う存分やってこい」と、会社から大きな裁量を与えられ、背中を押してもらえる土壌がありました。

電通 榊: それはすごくいい環境ですね。大企業だと、新しいことをやろうとしても、どうしても既存事業との整合性や短期的な収益性が問われがちです。けれどLIXILさんは、未来に向けた実験の余白をちゃんと持っている。それが、DESIGNART TOKYOでの継続的な発信にもつながっているのだと思います。


「LIXILにデザインセンターがあったんだ」

――DESIGNART TOKYOへの出展を決めた背景を教えてください。

LIXIL井上:最初に出展したときは、一人のデザイナーの強い思いが出発点でした。社内で進めていたカーボン素材を使ったコンセプトワークを対外的に発表して、世の中からどんな反応が返ってくるのか聞いてみようと考えたのです。それで2019年のDESIGNART TOKYOで、「間の間(あいだのま)」を発表しました。

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「間の間」は、空間の区切り方を根本的に見直すことで生まれた展覧会。光や風を通すフェンスなどを用い、光、影、気配を感じながら、空間と空間を心地よく響かせる新しい関係性を提案した。

最初にDESIGNART TOKYOと聞いたときは、正直かなり不安もありました。クリエイターとかアートが主役のイメージが強かったので、「私たちのような住宅建材メーカーが出て大丈夫なのかな」と思ったのです。

ですが、私たちが持っていた新技術や新しい発想を、広くデザインの業界に伝えたいという思いと照らし合わせると、すごくフィットする場でもあるなと感じました。結果として、最初の心配よりも「ここなら伝えられるかもしれない」という期待の方が大きくなっていきました。 

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――実際に展示してみた手応えはいかがでしたか。

LIXIL井上:既存のLIXIL商品とは異なるかなりコンセプチュアルな展示だったので、新しいLIXILのイメージを世の中に発信できたという手応えがありました。「間の間」に続いて、2025年に「無為に斑(むいにむら)」という展示をしたときには、お客さまから「LIXILにデザインセンターがあったんだ」と言われたことが印象に残っています。

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「無為に斑」は、空間の均一性や画一性を超えて、「斑」という概念を導入することで、これまでの空間の概念を解体し、再構築しようとしたプロジェクト。空間を構成する要素の本質を見つめ直し、そこから価値を抽出していく。

LIXILは、住宅設備や建材といった一般的なイメージが強く、デザインの印象はあまり持たれていなかったのかもしれませんね。最初に、「LIXILにデザインセンターがあったんだ」と言われたときは、正直あまりいい気分ではありませんでした。でも、その方は最後に「本当にすてきですね」と言ってくださったのです。「もっと工場から出てきたものをそのまま売っている会社かと思っていたけど、こんなふうに考えているんですね。これからが楽しみです」と。そういう言葉を、表現は違ってもたくさんいただきました。今までとは明らかに見られ方が変わってきた手応えがありました。

実はこの「LIXILにデザインセンターがあったんだ」という言葉は、10年くらい前にも別の方から言われたことがあるのです。そのときから、いつか「デザインのLIXIL」と思ってもらえるようにしたいという思いはずっとありました。DESIGNART TOKYOでの取り組みを通じて、その思いを少しずつかなえられている実感があります。

電通 榊:今の時代、コンセプチュアルなデザインを通じて、企業の考えを発信することの重要性が増していると思います。技術や機能がコモディティ化する中で、その企業が未来に何をつくりたいのか、どんな美学を持っているのかを発信することで、「このブランドが好きだ」とか、「この会社に期待したい」と感じてもらえる。その積み重ねが、購買や投資にもつながっていく時代なんじゃないかと。今のお話を聞いていると、まさにLIXILさんの中でも、ブランドの美学を発信したいという意識が高まっていたのだろうなと感じます。 

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LIXIL井上: 本当にそうだと思います。たとえば窓って、正直どこの企業がつくった窓かなんてぱっと見では分からない。でも、細部を見ると、実はかなりこだわっています。その思いやこだわりといった違いが、最終的にはブランドへの共感や信頼として効いてくると思っています。だからこそ、単に商品を売るだけではなく、その背後にある考え方や美意識を伝えていかなければいけないと思うのです。


展示会場は、新しい売り方の起点

――2024年には、ブランドの思想を込めた革新的なプロダクトとして「bathtope」をDESIGNART TOKYOに出展されました。これはどのように生まれたのでしょうか。

LIXIL長瀬:「bathtope」は、LIXIL社内の公募制度「ミライBOX」で最優秀賞を受賞したアイデアです。LIXILではイノベーションの創発に力を入れていて、2021年に未来のビジネスアイデアを募集する「ミライBOX」を立ち上げました。その中で、デザインメンバーと一緒に応募した原案が、事業化に進んだのです。

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photo by ナカサアンドパートナーズ
「bathtope」は、布製の浴槽を取り外しすることで、コンパクトな浴室空間でも広々と使える、バスルームとシャワールームの中間のような位置づけの新カテゴリー商品。忙しい日にはシャワーで効率性を、休日にはお湯に包まれる極上の入浴体験をかなえる。

発想のきっかけはシンプルでした。浴室って、1日の中でせいぜい1時間とか、本当に短い時間しか使われない空間ですよね。だったら、浴室をもっと長い時間使ってもらえないかと考えたのです。趣味を楽しんだり、オンライン会議をしたり、もっと自由に使える空間にならないか。そのときに、浴槽を取り外しできれば空間の他用途利用が可能となり、浴槽を着脱する行為が入浴習慣を柔軟にするきっかけになると考えついたのです。

平日の忙しい日はシャワーで済ませて効率性を優先し、休日など時間がある日は、日光浴やキャンプに出かけるような感覚で“ファブリックバスに包まれる豊かさ”を楽しむ。そういう新しい入浴習慣を提案しました。

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――新商品「bathtope」を、DESIGNART TOKYOで発表した狙いを教えてください。

LIXIL長瀬:「bathtope」に関しては、DESIGNART TOKYOを明確に「新商品発表の場」として活用しました。メディアの皆さんを招待し、その後にSNSで広がっていくことを最初から想定していたのです。今までのBtoBのビジネスとは違って、今回はtoCの文脈で、お客さまに「欲しい」と思ってもらいたい。そのためには、インパクトのある展示と商品の本質的な価値を届けるための緻密な言葉、そしてユニークで洗練されたビジュアルが必要でした。そこで電通さんにお声がけして僕たちの思いを伝え、試作体に入浴もしていただき、最終的には「bathtope」のネーミングからムービー制作まで伴走していただきました。

結果として、展示にはかなりの効果がありました。複数のメディアで取り上げていただき、その反響がそのまま新規受注にもつながりました。さらに、展示をご覧になった建築家の方を通じて、マンションのリノベーション案件で「bathtope」が採用されるという具体的な成果もありました。 これまでとは異なるチャネルからの引き合いも確実に増えています。

電通 榊:いわゆるショールームで接客して売る、という従来の導線ではなく、新しい顧客との接点をDESIGNART TOKYOでつくり、新しい売り方の起点にしたということですよね。

LIXIL大森:はい、今までの建材ビジネスでは、流通店さんや代理店さん、工務店さんに「こんなのができたので使ってください」とお願いする形が中心でした。でもそこには、お客さま自身の「これが欲しい」という意思がありません。そうした構造を変えたかったのです。お客さま側から「これを絶対家につけたい」「家の形状に合わせるのは少し大変でもこれがいい」と言ってもらえる状態をつくりたかった。もちろん、まだ完全に実現できているわけではありませんが、スタートとしてDESIGNART TOKYOはすごく意味のある場でした。 

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――bathtopeの発表をともに進める中で、電通の伴走にどのような価値を感じられましたか。

LIXIL長瀬:一番良かったのは、コピーやネーミングなど、言葉を一緒に練り上げられたことです。あそこまで1つの商品名を徹底的に議論したことはほとんどなかったですし、名前を議論しているようでいて、実際には商品の性格そのものを議論していたのだと思います。最終的に決まった「bathtope」という名前の強さは、このプロジェクトにとって非常に重要な意味を持っていました。

電通 榊:電通としても、ただ名前を付けるというより、その手前にあるまだ言語化されていない課題感や願望を丁寧に引き出していくことを意識していました。既存のお風呂に対して本当はどんな違和感があるのか、どんな未来をつくりたいのか。そういう感覚的な部分を掘っていくと、当時ちょうど広がっていた「風呂キャンセル界隈(かいわい)」のような生活者インサイトともつながってきました。

そこから、「お風呂はもっと、自由でいい。」というメッセージが立ち上がってきたり、どのメディアにどう出すと一番響くのか、どんな動画素材があると拡散しやすいのか、どういう言葉なら世の中に引っかかるのか、といった立体的な設計ができました。プロダクトの開発フェーズでは、企業の中にあるまだ言葉になっていない感覚を翻訳し、発表フェーズではそれを社会に届く形に変換していく。その翻訳者のような役割が、電通が提供できる価値なのだと思います。

 


成功の秘訣は、目的を見失わないこと

――最後に、これからDESIGNART TOKYOへの出展を考えている企業へのメッセージをお願いします。

LIXIL 長瀬:個人の作家さんが作品を出すような空気の中で、企業のメッセージも自由に、肩肘張らずに発信できるところがDESIGNART TOKYOの魅力だと思います。実際、今までLIXILがDESIGNART TOKYOでやってきたことって、かなり両極端だと思います。1つは「間の間(あいだのま)」や「無為に斑(むいにむら)」のような企業やデザイナーの姿勢を見せる展示。もう1つは「bathtope」のように、新しいコンセプトやプロダクトの可能性を、広く世の中に問うための展示。その両方を自由に発信できる場として、DESIGNART TOKYOは本当に懐が深いと感じます。

LIXIL 大森:海外の展示会だと、どうしてもLIXILというブランドを背負って失敗できないですし、ある程度しっかりした未来像を見せなければいけない。けれどDESIGNART TOKYOなら、1プロジェクト単位でも出せるし、企業ブランディングという単位でも出せる。企業のどの単位でも、自分たちに合った出し方を検討できるのです。さらに、リクルートの面でも効果があると思っています。インターンに来た学生が、「DESIGNART TOKYOで見て興味を持ちました」と言ってくれたこともありました。

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LIXIL井上:ここまでお話ししてきたように、DESIGNART TOKYOへの出展にはさまざまな効果があります。だからこそ、出展の目的はしっかり持った方がいいと思います。何のために出すのか、何を伝えたいのか。その軸があると、展示内容がぶれません。そして、その目的を見失わないためにも、電通さんのように伴走してくれる人たちが横にいてくれると心強いですね。

電通 榊:DESIGNART TOKYOは、まだ形になりきっていない企業の問いから、新商品の発表まで、幅広く社会に投げかけられる場だと思います。LIXILさんのように、一社員の思いからでも、企業ブランディングの取り組みとしてでも構いません。世の中に伝えたいビジョンや技術をお持ちの企業の方は、ぜひ一度ご相談いただければと思います。

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著者

井上 貴之

井上 貴之

株式会社LIXIL

Design & Brand Japan LHTデザインセンター

センター長

2015年株式会社LIXIL入社。LHTデザインセンターにてハウジングプロダクトのリーダーを務めた後、現在は同センターのセンター長。テクノロジー機器から生活用品、住空間までを横断するデザイン実践と、組織におけるデザインマネジメントの両面から、新たな住体験を形づくる活動を推進している。

長瀬徳彦

長瀬徳彦

株式会社LIXIL

bathtopeプロジェクトリーダー

2008年株式会社LIXIL入社。水まわり製品の企画・デザインを歴任。2021年「SPAGE」 でユニットバス初のグッドデザイン賞BEST100を受賞。イノベーション テーマ「bathtope」を主導し、iF、reddot、GermanDesignAwardGOLDのほか、2025年日経優秀製品・サービス賞トレンド部門賞等を受賞。デザインを切り口に新たな住文化の創出を牽引する。

大森槇人

大森槇人

株式会社LIXIL

浴室事業開発部aq.ビジネス推進グループ

aq.プロジェクトマネージャー

2010年、設計事務所勤務を経て入社。浴室商品を中心に新商品企画・プロモーションを担当。 2022年より「bathtope」や、オーダーバスルーム「aq.」など、今までには無い新たな商品の企画・プロモーションを主導。LIXIL浴室事業での新たなビジネスの創造を牽引している。

榊 良祐

榊 良祐

株式会社電通

クリエイティブ・ディレクター

アートディレクターとして電通入社。多様な企業の広告キャンペーンを手がける。現在は「企業の飛躍可能性をデザインする」を軸に、建築家やアーティストなど世界のクリエイターと企業をつなぎ、新たな価値を生み出すブランドデザインを実践。OPEN MEALS、Future Vision Studio発起人。東京大学非常勤講師。グッドデザイン金賞、iFデザイン賞など国内外受賞多数。

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