dentsu Japan(国内電通グループ)は、重点領域を切り開く事例創出を担う役職として、グロースオフィサー(GO)を設置しており、2026年度には、各領域から7人が選出されています。本連載では、電通が掲げる「真のIntegrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」を体現するGOたちの、未来に向けての視点と思考に迫ります。
今回登場するのは、dentsu Japan横断でクライアント企業の成長支援や事業変革を推進する山本初直GO。dentsu Japan戦略顧客ルームを通じた大企業への価値提供、AIを活用したマーケティング・事業変革、スタートアップとの共創、人財育成など、複数の領域を横断しながら、dentsu Japanの多様な機能をどう掛け合わせ、成長を実装していくのか。その現在地と構想とは。
山本初直(やまもと はつなお) dentsu Japan グロースオフィサー。電通入社後、大手化粧品会社・大手製薬企業などを担当。2019年6月より、NTTドコモと電通のJVであるD2Cに出向し、代表取締役副社長として事業領域を管掌。2022年1月よりスタートアップグロースパートナーズ局長として、100社以上のスタートアップ企業の成長支援や事業共創を推進。2026年1月より現職。現在は、dentsu Japan横断でのクライアント成長支援をテーマに、dentsu Japan戦略顧客ルーム、AIを活用したマーケティング・事業変革、スタートアップ共創、人財育成など複数領域を横断して推進している。dentsu Japanを掛け合わせて新しい価値を“つくる”
──最初に、グロースオフィサー(GO)としての現在の役割について教えてください。
山本:グロースオフィサーの役割は、電通単体ではなく、dentsu Japan各社を掛け合わせて、お客さまにどのような新しい価値を提供できるかを構想し、実行することだと考えています。私自身は、dentsu Japanの多様な機能を掛け合わせながら、企業の成長にどう実装レベルで貢献できるか、その具体的な事例をつくることに最も重きを置いています。
現在取り組んでいるプロジェクトは多岐にわたりますが、一つは「dentsu Japan戦略顧客ルーム」をオーナー責任者として統括するものです。これは、dentsu Japanにとって重要なお客さまに対し、電通、電通デジタル、電通総研、セプテーニ、イグニション・ポイントなどが集まり、一丸となって価値提供を考える取り組みです。
また、AIを切り口にしたビジネス革新や、スタートアップ領域での人財育成など、常時5〜6個のプロジェクトを並走させています。
──スタートアップとの取り組みも、そうした成長支援の一部として位置付けられるのでしょうか。
山本:そうですね。スタートアップ領域は、私がこれまで深く関わってきた重要なテーマの一つです。ただ、今のグロースオフィサーとしての役割は、必ずしもスタートアップだけではありません。大企業も、スタートアップも、どちらも成長や変革を必要としている。その両方に向き合いながら、dentsu Japanとしてどう価値提供できるかを考えています。
スタートアップとの共創には、大きく二つの意味があります。一つは、未来のステークホルダーとのリレーション構築です。将来、日本を代表する企業になる可能性を持つスタートアップと早期から連携し、共創パートナーとしての関係を築くこと。もう一つは、dentsu Japan自身のイノベーションです。スタートアップが持つとがった技術や能力を取り込むことで、dentsu Japanの中だけでは生まれない新しいビジネスチャンスをつくることができると思っています。
一方で、dentsu Japan戦略顧客ルームのように、大企業のお客さまに対してdentsu Japan各社が横断して価値を提供する取り組みもあります。さらに、AIを活用してお客さまのバリューチェーンのより上流に入り、マーケティングだけでなく事業そのものの変革に貢献していくテーマも進んでいます。
スタートアップにも大企業にも必要な「成長を実装する力」
──スタートアップを取り巻く環境は、ここ数年でどう変化したと感じていますか。
山本:この10年くらいで見ると、日本のスタートアップをめぐる環境は確実によくなっていると感じています。国の支援制度も整ってきましたし、エコシステムも少しずつ厚みを増してきました。世の中全体として「スタートアップを育てていこう」というモメンタムができているのは、とても大きいと思います。
※参考:経団連「スタートアップ躍進ビジョン レビューブック2026」
ただ、その一方で、課題も見えてきました。スタートアップの数は増えていても、本当に大きく成長できているかというと、まだ十分とは言えません。日本ではユニコーン企業の数が限られていますし、IPO後にスケールしきれないケースも多く、上場がゴールのようになってしまって、その先で企業価値をどう伸ばすかに悩む会社も少なくありません。優れた技術を持っていても、それがどのような事業になり、誰のどんな課題を解決し、どう市場をつくっていくのかが十分に言語化されていないケースも多いです。資本市場からのプレッシャーがある中で、いかにサステナブルな成長曲線を描けるか。この「上場後のグロース」は、現在のスタートアップが直面している大きな壁の一つだと感じています。
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──そうした課題に対し、dentsu Japanならではの「伴走型支援」はどう機能するのでしょうか。
山本:私たちが提供する伴走型支援は、単なるアドバイスや企画書ではありません。経営者の横に立ち続け、中長期的な視点で「何を解くべきか」を一緒に見極め、一つ一つの課題解決に対して向き合っていくことです。
経営者は、資金調達を行う「資本市場」、優秀な人財を集める「労働市場」、そしてお客さまに向き合う「財市場」という三つの異なる市場を同時に見ています。私たちは、この三つの視座を統合し、今解くべき問いの優先順位を整理します。その上で、戦略を描くだけでなく、実際のデリバリーまでやり切る。ここに、dentsu Japanが持つ強みがあると思っています。
スタートアップはフェーズも業種も本当に幅広いです。シード期なら、価値や可能性をどう物語るかというナラティブ設計が重要になることもある。一方で、レイター期なら、戦略を実装に移す力が問われます。その間の1→10、10→100の局面では、GTM(Go-to-Market)、つまり市場にどう出していくかがカギになる。dentsu Japanには、そのそれぞれの局面に対応できる幅広いアセットがあります。
そしてこれはスタートアップに限った話ではありません。大企業の新規事業や変革テーマでも、同じ課題が起きています。だからこそ、スタートアップ支援で培ってきた知見は、dentsu Japan全体の成長支援にもつながると考えています。
──大企業とスタートアップの連携については、どこに難しさがあると感じていますか。
山本:大企業もスタートアップも、お互いに関心はある。イベントもたくさんありますし、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)も増えています。でも、その先で本当に事業化まで進むケースは、まだ多くありません。いちばん大きい要因は、PoCで止まってしまうことだと思います。
何が足りないのかというと、私は結局「人と人」だと思っています。大企業側にも、本気で事業を変えたい人がいる。スタートアップ側にも、本気で世の中を変えたい人がいる。その熱量のある個人同士が出会い、意思決定できる状態で議論できるかどうか。それがないと、どうしても「試してみました」で終わってしまう。PoCを回すこと自体が目的になってしまうと、本当の意味でのイノベーションにはつながりません。
──その壁を越えるために、どのような場が必要でしょうか。
山本:私は、熱量がある人たちが、継続的に意見交換できるコミュニティやプラットフォームが必要だと思っています。今あるイベントの多くは、接点をつくるところまではできても、そこから先の事業化を支える仕組みまでは持てていない。だからこそ、意思決定ができる人、投資できる人、本当に事業を興したい人たちが、少数精鋭でもいいから集まれる場をつくるべきではないか、と考えています。
同時に、事業化まで進めるためには、大企業側にも、スタートアップのスピード感や、アジャイルに試行錯誤しながら前に進める文化を理解し、そこに適応していく姿勢が求められます。dentsu Japanがそのすべてを主導するかどうかは別として、少なくともハブになれる可能性はあると思っています。大企業にもネットワークがあり、スタートアップにも接点があり、その両方の論理を理解している。だからこそ、単なる紹介ではなく、事業を立ち上げるところまで視野に入れた連携のあり方を、これから形にしていきたいと思っています。
AI時代のビジネスプロデューサーは「総合格闘技型人財」へ進化する
──これからの日本の産業界において、スタートアップと大企業の連携はどう変わっていくのでしょうか。
山本:スタートアップの存在感は、今後さらに大きくなっていくと思います。ただ、単体で伸びるだけではなく、大企業との接続の仕方がますます重要になるでしょう。大企業には顧客基盤や事業資産があり、スタートアップには技術や機動力がある。その両方がきちんと連携できれば、新しい事業がもっと生まれるはずです。これはM&Aのような資本の話だけではありません。むしろ、その後にどう事業をつくるのか、どう未来を形にするのかまで含めて支援していく必要があると思っています。
技術を持つスタートアップと、顧客接点や事業実装力を持つ大企業が深く組み合わさり、世の中のスタンダードを書き換えるような事例をつくっていく。そのときに、dentsu Japanが両者をつなぎ、事業として結実させるハブになることができるのではないかと考えています。
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──AIの登場によって、ビジネスプロデューサーの役割は、今後どのように進化していくのでしょうか。
山本:これからのビジネスプロデューサーは、今まで以上に入り口と出口の価値を担う存在になると思っています。
つまり、最初に「解くべき問いは何か」をお客さまと一緒に定めること。そして最後に、それを本当に形にしてやり切ることです。中間の作業の一部は、これからAIやテクノロジーによって効率化されていくかもしれません。でも、問いを立てることと、複雑な利害関係を調整しながら実装まで持っていくことは、むしろ価値が高まっていくはずです。
「オリエンをいただいて、つくって納品する」という仕事の比重は、相対的に下がっていくと思います。代わりに求められるのは、お客さまと同じ目線で戦略ポジションに立ち、何をやるべきかを一緒に考え、さらにそれを実装までやり切る力です。私はそれを、ある意味で“総合格闘技型人財”だと思っています。
加えて、ジェネラリストの価値も上がるでしょう。AIを使えば、専門的な知見にアクセスしやすくなる。ただし、AIが答えを出してくれるから人の役割が小さくなる、ということではありません。むしろ重要になるのは、現場で得られた問いを起点に、AIを最大限活用しながらも、AIだけでは到達できない知見や発想を持つ専門家と協働し、解決に導いていくことです。
専門家をバラバラに並べるのではなく、人とAIの力を組み合わせながら、問いを価値へと変えていく。複数のステークホルダーを巻き込み、前に進める人。その意味で、ビジネスプロデューサーという仕事は、これからもっと面白くなると思います。
──最後に、グロースオフィサーとして、今後の役割についてどのように考えていますか。
山本:まず、私には物事を判断して進める上で大切にしている軸が二つあります。
一つは、徹底的にお客さま目線に立つことです。仕事の価値は、最終的にはお客さまが決めるものだと思っています。だから何かに迷った時は、目の前のお客さまにとって何がいいのかだけではなく、その先にいる生活者や社会から見て、本当に正しい判断は何か、というところまで立ち返って考えるようにしています。
もう一つは、プロセスを含めて、すべてを堂々とお客さまに見せられる仕事をすることです。どんな思いで考え、どんなメンバーと議論し、どういうプロセスを経て形にしてきたのか。裏表なく中身まで、すべてを開示しても恥ずかしくない仕事をすることが、信頼の土台になると考えています。
その上で、これからのグロースオフィサーに求められるのは、人や能力を掛け合わせて、今までにない新しい価値を具体的な形にしていくことだと思っています。掛け声だけで終わるのではなく、「実際にできた」と言える事例を一つ一つ増やしていく。価値を“つくる”組織へと変わっていく、その変化を実例で示していくことが、自分たちグロースオフィサーの役割だと思っています。
目指しているのは、dentsu Japanを、クライアントの事業成長そのものに伴走するIntegrated Growth Partnerとして、より実体のある存在にしていくことです。広告やマーケティングの支援にとどまらず、戦略、データ、テクノロジー、クリエイティブ、事業開発などを組み合わせながら、構想から実装までを支える。その具体例を積み重ねることが、これからのdentsu Japanの価値につながると考えています。
同時に、そのすべての起点になるのは、やはり目の前のお客さまから信頼されることです。どれだけ時代が変わっても、信頼関係が次のビジネスにつながっていく。その積み重ねが、企業の力になり、ひいては社会に対して価値を返していくことにもつながる。新しいことに挑戦する時代だからこそ、足元にある信頼を、これまで以上に大切にしていきたいと思っています。
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「結局は人と人なんだと思います」と語る山本GO。スタートアップと大企業、経営者と現場、異なる立場や機能をつなぎながら、事業成長を“つくる”こと。その話しぶりは終始穏やかだったが、そこには確かな熱量があった。若い起業家たちとテニスを通じて関係を築いてきたという話にも、その姿勢はよく表れている。ビジネスの前に、まず相手を知り、信頼を育てること。遠回りに見えて、実はそれがいちばん強い土台になる。構えすぎず、でも本質を見失わない。そんな人柄が、そのまま仕事にも表れているように感じた。
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