2026年3月、グローバル拠点も含む電通グループ横断で各国のAIエキスパートを東京に集めた社内イベント「dentsu AI Meet-up」を実施しました。日本を含む15カ国・地域から、メディア、クリエイティブ、CXM(顧客体験マネジメント)、BXなど、さまざまな専門領域のAI人財約50人が参加。それぞれの取り組みや課題、ビジネスの可能性について議論を交わしました。
本記事では、電通グループ横断のAI利活用推進に取り組んでいる永尾が、今回のイベントを通して感じた、AI時代にわれわれに求められる価値や役割ついての考えをまとめます。
生成AIの普及により、AIは急速にビジネスの現場に浸透しつつあります。多くの企業において、業務効率化や自動化といった「最適化」の文脈でAI活用が進んでいます。しかし、AIの本来の可能性は、それだけにとどまるものではありません。むしろこれから問われるのは、AIを通じて単なる最適化を超えていかに新しい価値を生み出すか、という視点ではないでしょうか。
その鍵を握るのが、「人のネットワーク」です。
なぜ今、「人のネットワーク」が競争力になるのか
AIツールは日々進化し、誰もが一定レベルで活用できる、もしくは、活用を求められる時代になりました。一方で、ツールそのものの性能だけでは差別化が次第に難しくなりつつあります。
では、何が差を生むのでしょうか。
一義的には、独自データや競争力のあるソリューションが挙げられます。実際、多くの企業がその強化に取り組んでいます。また、個人レベルでも、AIをどのように業務へ活用し、効率化につなげるかが模索されています。しかし、それらは企業や個人それぞれが同様に取り組んでいる領域でもあり、突き詰めていくと、行き着く先は似通っていく側面もあります。
今回のイベントを通じて見えてきたのは、もう一つの重要な要素です。それが、異なる専門性や視点を持つ人同士がつながり、知見や課題を共有し合うことで生まれる「発想の広がりと、それによる提供価値の創出」です。
例えば、同じ国・部署・専門性など似たような知識を持った者同士で議論をすると、どうしても自分たちが得意とする話題に閉じがちです。しかし、異なる国・地域や専門性、クライアントと向き合っている、あるいは現場の課題を知っているなど、さまざまな立場のメンバーを交えて議論をすることで、新しい視点やアイデアを取り入れられます。
その結果、AIの使い道も「業務を効率化するためのもの」から、「新しい機会を見つけるためのもの」「クライアントへより高い価値を提供するためのもの」へと議論が広がっていきました。
「相互理解」がAI活用の可能性を広げる
こうした多面的なつながりを機能させるために重要なのが、「相互理解」です。
メディア、クリエイティブ、CXM、BXなど、さまざまな専門分野や国のAIエキスパートが、それぞれの取り組みや課題、関心を共有し合い、これまで接点のなかった情報・知識・視点に触れました。
自分が直面している課題に対して、他のマーケットではどのように対応しているのか。どのようなAIソリューションを開発しているのか。クライアントへどのような提案を行っているのか。どのような好事例があるのか。こうした具体的・実践的で生きた情報の共有は、単なる情報交換にとどまらず、新たな発想のきっかけとなりました。
実際の対話の中でも、互いの取り組みを共有したことで、似たようなAIソリューションが各マーケットで個別に開発されている事実が判明しました。同時に、それらのソリューションを活用したいと考えている別のマーケットのニーズも明らかになりました。
このような議論を受け、世界中でそれぞれ開発されているソリューションを可視化し重複開発を防ぐとともに、類似ソリューションを持つチーム同士の連携を可能にし、ソリューション自体の高度化を図る。さらに、必要とするマーケットでそれらを迅速に活用できる仕組みを整える、といったアイデアが議論されました。
幅広い視点や立場による知見の循環により、各国でクライアントへ高い価値を提供するとともに、組織全体がより強くなるきっかけが生まれました。
外の視点が、AIの可能性を一段引き上げる
今回、外部からベンチャーキャピタリストや最先端のテクノロジー企業など、AIに関するビジネスや技術開発の最前線にいる専門家を招待しました。こうした外部の知見は、普段われわれが行っているマーケティングビジネスのみでは気づきにくいトレンドや可能性を提示してくれます。日常業務の延長線上だけではたどり着けない視点や意見に触れることで、思考の前提そのものを更新できます。
また、クリエイティブ業務に関わる機会の少ないメンバーも含まれていたため、dentsu JapanのクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」への訪問も行いました。
研究開発や実証の現場で生まれている最新の技術や活用事例に直接触れることで、これまで気づかなかった新しい技術の活用方法やビジネスアイデアを得るきっかけとなります。AI時代においては、このような新しい気づきも競争力の源泉になっていくと実感できました。
議論から見えてきた組織の「共通課題」
多様な視点を持つAIエキスパートが一堂に会して議論をしたことで、個別の取り組みを超えたAI時代の共通課題も見えてきました。データ戦略、クライアント課題解決に向けた連携のあり方、人財育成といったテーマです。たとえば、AI活用における意思決定のスピードとガバナンスのバランスについての議論が行われました。
リーガルをはじめとする専門機能は、リスク管理と同時に価値創出を支えるイネーブラー(何かを可能にする(Enable)人、組織、手段)としての役割を担っています。クライアントの課題を解決するために単にブレーキをかけるのではなく、全員がワンチームとして協力し、適切なガバナンスを保ちながらより迅速に意思決定していく、そのようなガバナンスのあるべき姿についての示唆を得られました。
これらは一つの部門やマーケットだけでは解決できない課題であり、今後グループ横断で取り組んでいくべき重要テーマとして認識されました。
AI時代にこそ、「人」が価値になる
組織が大きくなり、課題が複雑化するほど、それを解決するためには個人の力だけでは不十分になってきます。顔を知っている、実際に会ったことがある、そして互いの専門性や考え方、立場を理解している。そうした、国や地域・組織・専門性・立場を超えた「人と人との関係性」こそが、複雑で変化の速い時代において、ますます重要になってくるのではないでしょうか。
AI時代において、競争力の源泉となるのは、独自の技術を前提に、AIを活用する「人」、知見をつなげる「人のネットワーク」なのかもしれません。電通グループが掲げる「Innovating to Impact」の実現においても、この人のネットワークこそが価値創出の起点になっていくと実感しました。
企画実施:(株)電通グループ グローバルAI戦略チーム(児玉拓也・山本朝子・永尾裕司)
著者

永尾 裕司
株式会社 電通グループ
グローバルAI戦略チーム
シニアマネージャー
グローバル横断のAI戦略およびAI活用促進を担当。AIを活用した社内アセットやナレッジの可視化・利活用を推進し、市場や専門領域を超えた連携を通じて、各マーケットの競争力強化とクライアント価値の向上に取り組む。近年はグローバルでのAI人材ネットワーク構築や知見共有を推進するプロジェクトをリードしている。




