電通の「都市の未来デザイン ユニット」は、都市やくらしの未来像を描き、構想から実現までをさまざまな領域で支援する専門チームです(詳細はこちらから)。
本連載では、これからの都市・まちづくりに求められること、また幸福度の高い都市について、さまざまな角度から探ってきました。
今回は、六本木ヒルズや麻布台ヒルズなど、東京のランドマークを多く手がけ、文化・コミュニティ・環境などを含めた長期的なタウンマネジメントにも取り組む森ビルが体現する、「街のメディア化」にフォーカス。
街の運営を通して価値向上やブランディングに取り組む意義や、自走する街に育てるヒントなどを、同社のタウンマネジメント事業部 メディア事業企画部 課長の土井岳史氏にお話しいただきました。聞き手は電通 嘉納靖治氏です。
(左から)電通 嘉納靖治氏、森ビル 土井岳史氏持続可能な街の運営を実現する「街のメディア化」とは?
嘉納:六本木ヒルズは20周年を超え、近年は虎ノ門ヒルズ ステーションタワー、麻布台ヒルズの開業など、森ビルは常に新たな街づくりを仕掛け、さまざまな話題を提供し続けています。森ビルの街づくりの特徴の一つとして、先進的なタウンマネジメントを駆使した情報発信が挙げられると思いますが、これらはどのようなお考えのもと進められてきたのでしょうか。
土井:2003年の六本木ヒルズの開業時から、私たちは「街全体をメディア化する」という考えのもと街づくりを推進してきました。当時は、「街をメディア化するってどういうこと?」となかなか理解してもらうことが難しかったのですが、街のにぎわい創出のための手段として長らく取り組んできました。
嘉納:空間や場所を情報発信の場にするという考え方は、当時珍しかったのではないでしょうか。
土井:そうですね。われわれは、六本木ヒルズなどの建物をつくって終わりではありません。デベロッパーとして、施設の運営をしながら街を育て、にぎわいをつくり続けていく必要があります。街がにぎわえば、お店はもちろん、住んでいる人や働く人……みんなが潤っていく。さらには、来街者にもワクワク感などの楽しい体験を提供できます。
こうしたにぎわいづくりを仕掛け続けていくためには、コストをかけてイベントを実施したり、広告を出したりするだけではなく、この街自体を情報発信のプラットフォームとして企業などのプロモーションに活用してもらい、活気を生み出していくことが大切です。そこにまた人が集まることで新たなにぎわいにつながります。

嘉納:催事やイベントだけでにぎわいをつくるのではなく、パートナーとなる協賛企業や広告主などを巻き込んで、一緒に街を盛り上げていくというのも森ビルさんらしい街の運営戦略だと感じます。
土井:街の運営にあたっては、まずこのエリアをどのような街にしたいのかを考え、その上でそれにふさわしい情報発信やイベント、プロモーションを企画検討します。また、街で働く人のサービスクオリティを維持するためのスタッフ研修の実施や、街中のベンチや植栽による景観などにもすべてに気を配りブランディングしています。
こうした「タウンマネジメント活動」によって、街の質や魅力がどんどん醸成されると、街自体に磁力が生まれ、人が自然と集まってくる。その結果、街に集まる人たちをターゲットにプロモーションしてみようという企業が出てくることで収益につながります。
そして、ここで得られた収益を次のブランディングに回していく、という循環をつくることが可能になります。
嘉納:街をブランディングしていくことで、ターゲットが明確になり、広告主やスポンサーとなるパートナー企業などを呼び込むことができるということですよね。
どうしてもイベントや催事などはコストをかけて実施するというイメージがありますが、運営側の資金力によるところが大きく、持続可能ではないという印象がありました。なので、街をメディア化し収益を確保することで、「自走する街」に育てていくというのは理にかなった仕組みだと感じます。
土井:六本木ヒルズでは、2003年の開業時からブランディングとマネタイズを両輪で回しながら街を運営しています。その積み重ねが今につながっていると思います。
「ブランドセーフティ」な街づくりでパートナー企業を呼び込む!
嘉納:六本木ヒルズの街づくりにおける具体的な取り組みを教えてください。
土井:六本木ヒルズでいうと、四季折々でさまざまなイベントを開催し、地域住民や来街者とのコミュニケーションにつなげています。中でも人気なのが、開業年の2003年から開催しているけやき坂のクリスマスイルミネーションで、「SNOW&BLUE」をテーマに青と白の光で街路樹を彩っているのが特徴です。当時の担当者やデザイナーがこの街に合うイルミネーションにこだわってつくりあげていて、今でもクリスマス時期の風物詩となっています。また、同時期に開催されるクリスマスマーケットに関しても、本場・ドイツのお店に出店してもらうなど、どのイベントもクオリティや本物志向を意識しています。
けやき坂のクリスマスイルミネーション
クリスマスマーケットこれらのイベントは、森ビルが投資して運営していますが、そこに協賛としてさまざまな企業にも入っていただき、一緒に街を盛り上げています。
嘉納:こうした徹底的なこだわりが、六本木を訪れる人のモーメントを捉え、「特別な日に訪れたい場所」「大切な人と訪れたい場所」という価値をつくり上げているのかもしれませんね。
また、協賛企業の誘致や、メディアへの出稿を募る際に、パートナー企業や広告主に対して大事にしていることなどはありますか?
土井:「街のメディア化」を推進してきた中で、私たちが大事にしていることは、協賛企業や広告主にとって「ブランドセーフティな街である」ということです。
六本木ヒルズは再開発でできているまちなので、400人の地権者やさまざまなステークホルダーがいます。ただ、地権者やステークホルダーがそれぞれに施設・設備などの管理をしていたら、防災や警備、景観などがバラバラになり、まちの質を維持することが難しくなります。そこで森ビルでは、「統一管理者」という仕組みをつくり、まち全体の運営や管理を一元化しています。
そのため、年間を通して展開されるさまざまなイベントやプロモーションに関しても、まち全体でコントロールすることが可能になります。
例えば、外資系の自動車メーカーがプロモーションをしているときに、別の外資系の自動車メーカーのイベントが近くのエリアで実施されている、といったことは起こらないように調整・管理されています。
嘉納:街全体でコントロールしているというのはすごいですね。それが街のブランディングにもつながっているのですね。
ブランディングというと、つい難しく考えてしまいがちですが、大事なのは、その街なりのにぎわいを創出することだったりするのでしょうか。
土井:そうですね。街づくりにおいては、オフィスワーカーだけ、居住者だけ、来街者だけなど限られた人たちがターゲットなわけではなく、そのエリアを利用するすべての人に楽しんでもらうという考え方が大事だと思っています。
六本木ヒルズにはクリスマスのイルミネーションのような世界中から多くの方にお越しいただくイベントもありますが、一方で夏の盆踊りや、自治会のお祭り、朝の太極拳、地域の清掃活動など、地元に密着したイベントもあります。単発の大きなイベントを仕掛けるだけでなく、こういった再開発前からの長い歴史とコミュニティを持つ土地ならではのイベントも大切にして、街全体を育てていくことで、「六本木ヒルズってこういう街だよね」というブランディングにつながっていくのかなと思っています。
嘉納:土井さんが所属されているタウンマネジメント部門では、自治会活動にも携わっていますよね。
土井:森ビルでは、地権者やさまざまなステークホルダーと共に、街の価値をつくっていくことを大切にしています。そのため、毎月の自治会活動やイベントなどを通じて、地域の方々とは密にコミュニケーションを図っています。
六本木ヒルズの盆踊りには、「六本人音頭」という曲があるのですが、実はこれを歌っている“六本木次郎”は、元森ビルの役員なんです。
今でもこの曲は引き継がれ、毎年夏の盆踊りを盛り上げてくれています。それくらい、地域に入り込んで、街づくりに取り組んでいるのは、森ビルの強みの一つですね。
企業とのコラボで、まちの価値を高め、新たな体験を提供する場に
嘉納:街をブランディングすることで、人が集まり、文化や豊かさが育まれ、新しいコトやモノが生まれる――。そこに企業が広告という手法で関わることで、その街を利用する人や訪れる人にまた新たな話題やワクワク感などを提供することが可能になります。
こうした相乗効果を生むためには、この街ならではの魅力や独自性を発信し、パートナー企業が入ってきやすい土壌をつくることも重要になってきます。
森ビルさんには、イベントなどに協賛する企業やメディアに出稿する広告主といったパートナー企業だけでなく、コラボレーションパートナーといった仕組みもありますよね。

土井:コラボレーションパートナーというのは、各ヒルズのコンセプトに共感していただいた企業さまに年間を通じて協賛してもらい、街づくりにも参画してもらう仕組みです。例えば、麻布台ヒルズは「Green & Wellness」を街のコンセプトに掲げており、これに共感いただいたスポーツブランドのNIKEさんにコラボレーションパートナーとして入っていただいています。
そして、コラボレーションパートナーの活動の一環として、麻布台ヒルズにある約1.2キロのランニングルートを使い、毎週火曜日に「麻布台ヒルズ×NIKE」によるランニングセッションを開催しています。他にもヨガやピラティスなどフィットネス系のイベントも定期的に開催しており、これらは誰でも自由に参加することができ、街のコンセプトの一つである「Wellness」を具現化しています。
嘉納:まさにNIKEさんがコラボレーションしたからこその取り組みですよね。
土井:そうですね。この街に来れば、買い物ついでにヨガをしたり、仕事帰りに走ったりといったウェルネスを体験することができます。また、NIKEさんにとっては、ランニングやフィットネスのセッションを実施することで、使用したランニングシューズやトレーニングウエアを購入してみようといったきっかけづくりにもなります。これは、利用者にとっても企業にとってもうれしい相乗効果になっている好事例だと思います。
ほかにも、2025年の7月にはエプソン販売さんとパートナーシップを結び、麻布台ヒルズにおける資源の再利用など、環境負荷軽減活動の推進を共に行っています。
具体的な取り組みとしては、エプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab」を導入し、使用済み用紙で再生紙を生成しています。森ビルのオフィスではこの再生紙を使用し、紙資源の循環を行っています。
ゆくゆくは、こうした資源をアップサイクルし、新たな付加価値をつけた商品を生み出していけたらいいなと考えています。
デジタルとリアルを掛け合わせると、より強い発信力が生まれる
嘉納:近年はデジタル化が進み、リアルの場の価値が再定義されつつあります。ネットでの買い物が当たり前になり、リアルでモノが売れなくなっている状況をみると、街をわざわざ訪れる理由って何だろう?と。
昔みたいに、「渋谷に寄って買い物していこう」というような感覚が薄れ、何事にもタイパ、コスパなどの効率性が重視される時代の中で、森ビルさんが注視している課題感などはありますか?
土井:六本木ヒルズの開業からの約20年は、にぎわいづくりのための「街のメディア化」に注力して走ってきました。ただ、これが未来永劫続くかというと分からない部分もありますし、世の中が変化していく中で、私たちも変化していかなければいけません。デジタル化の流れというのは、避けて通れませんので、ここはまさにわれわれが検討すべき課題の一つでもあります。
ただ、デジタルとリアルは、一見相反すると思われがちですが、実は相性がいいということも分かってきています。
リアルなイベントを体験したりOOHなどの広告を見たりした人が、それをSNSなどに載せると拡散され、より強い発信力が生まれることがあります。
最近は広告主の担当者さんとお話ししていると、「デジタルだけでなく、やっぱりリアルも必要だよね」とおっしゃる方も多く、リアルへの揺り戻しがきていることを実感します。
特にイベントなどはリアルで体験するからこその楽しみや価値提供もありますので、そういった現場感を大事にしながら、デジタルも取り入れた新たなメディア化のカタチを模索していけたらと思います。
ただ、ここで忘れてはいけないのは、「街のメディア化」で収益を確保することが目的ではないということです。デベロッパーとして大事なのは、魅力ある街づくりをすることであり、それらを実現し、自走する街をつくるための“収益確保”という考え方の軸はぶらさずに取り組んでいきます。
愛ある都市開発や街づくり、その先にあるものは?
嘉納:近年はウェルビーイング(幸福感)や暮らしやすさを追求した街づくりも増えていると思います。最後に、土井さんが考える幸福度の高い街とはどんなまちなのか、教えてください。
土井:難しい質問ですね(笑)。個人的な意見としてお話しさせていただくと、20年以上前に私が就職活動をしていたころにさかのぼります。当時、アークヒルズで森ビルの採用面接があったのですが、そのときの面接官が「街づくりは愛だ!」という熱い思いをもっている方でした。
面接の際中に突然、「君はこのアークヒルズを歩いたことがあるか?」と質問をされたんです。正直に「まだないです」と答えたら、「今から行くぞ」と、その面接官と一緒にアークヒルズを歩くことになりました。
嘉納:面接中にですか?
土井:そうなんです。その方がアークヒルズの街全体を案内してくれたのですが、そのときに街づくりの経緯をはじめ、「この花壇にはこういうコンセプトがあって」「このイベントにはこんな思いがある」など、アークヒルズの裏にある隠れたストーリーを丁寧に教えてくれたことがとても印象に残っています。
こういう熱い思いをもって街づくりに取り組む人たちが森ビルにはたくさん集まっていることが、私にとって誇らしいことでもあります。こうした思いや愛が、地権者や地域の方々、街に住んでいる方、オフィスワーカー、来街者など多くの人に伝わっていけば、みんなが幸せになり、幸福度の高い街につながっていくのではないかなと期待をもって、日々業務にあたっています。
嘉納:とてもすてきなお話ですね。私は、土井さんはじめ、森ビルさんのご担当者の方々とお話をする機会が多いのですが、皆さん街に対する愛がとても深いなと日頃から感じています。それが、先ほどもお話しいただいた、地域や自治会との関係性にも顕著に表れていますよね。
もちろんタウンマネジメントによるブランディングやそれに付随する街のメディア化といった取り組みも大きいと思いますが、その根幹には、開発する土地に対する愛や強い思いがあるということをあらためて実感することができました。

【編集後記】
「街のメディア化」という言葉からは、広告や情報発信の仕組みを思い浮かべる方も多いかもしれません。ですが、今回土井さんのお話を伺ってあらためて感じたのは、その本質が“露出を増やすこと”ではなく、“街の価値を育て続けること”にあるという点でした。人が集まり、企業が参画し、そこで生まれた収益が再び街に還元される。その循環があるからこそ、街は一過性のにぎわいではなく、自走する存在へと育っていくのだと思います。
また、私自身が印象的だったのは、そうした仕組みの土台に、地域やそこに集う人々への深い愛情があることです。効率や合理性が重視される時代だからこそ、人がわざわざ訪れたくなる街には、数字だけでは測れない熱量が欠かせません。森ビルの土井さんのお話からは、開発の先にいる生活者や来街者の体験を真摯に考え抜く姿勢が伝わってきました。今回のインタビューが、これからの街づくりを考える上でのヒントになればうれしく思います。
【本件に関する問い合わせ先】
都市の未来デザイン ユニット
HP:https://www.dentsu.co.jp/labo/futuredesign_unit/index.html
Email:futuredesign-unit@dentsu.co.jp