電通の「都市の未来デザイン ユニット」は、都市やくらしの未来像を描き、構想から実現までをさまざまな領域で支援する専門チームです(詳細はこちらから)。
本連載では、これからの都市・まちづくりに求められること、また幸福度の高い都市について、多様な角度から探ってきました。
今回スポットを当てるのは、「都市とアーティスト」。
「都市の未来デザイン ユニット」では、雰囲気やハード・センスだけでの都市開発には限界があると考えており、思想を形作る職業であるアーティストが参加することに意味があると考えています。そこで本記事では、現代アーティストRITSUKOとしても活動中の阪田里都子と、大学で特任教授としてマーケティングの教壇に立つ小宮信彦が対談。都市とアーティストのより良い関係について考えました。
(左から)都市の未来デザイン ユニットの阪田里都子氏と小宮信彦氏
画像はすべてShoudoh Galleryにて撮影

電通×都市開発の可能性を探る
小宮:阪田さんは、東京藝術大学を卒業後、電通社員として仕事をしながら、現代アーティストとして活躍されていますね。普段はどのような業務を担当されているんですか?
阪田:私は入社後すぐに電通デジタルに出向し、媒体のプラットフォーム担当やソリューション戦略担当として5年ほど在籍しました。2023年に電通に帰任し、DX業務を経て、現在はBX領域の仕事をしています。
大学では油画を専攻しながら立体物を作ったり、日本画を描くなど、本当にクリエイティブづくしの日々だったので、そのままアーティストとして活動する道も考えたのですが、もっとクリエイティブな業界を俯瞰(ふかん)した外の目線がほしいと考えました。そのため就職を希望し、電通入社後は、自分がものづくりをする側ではなく、クリエイティブの方々と協働する部署を志望しました。
小宮:俯瞰する視点、素晴らしいですね。「都市の未来デザイン ユニット」のチームに加わったきっかけは何ですか?
阪田:チームの中にアートのスペシャリストがいると面白いのではないか、と上司から声をかけてもらったのがきっかけです。私自身も、昨年MBAを取得した大学院での研究を通じて、都市の中では文化や芸術が十分に生かしきれていない現状があると思っていたんです。チームに加わることで、こうした課題解決に少しでも貢献できるのではないかと考えました。
小宮さんは、普段どのようなお仕事をされているんですか?
小宮:私は現在、クライアント企業の新規事業開発や、産官学民の共創を通じた都市開発の仕事をしています。ISID(現在の電通総研)に入社し営業として勤務していましたが、30歳でMBAを取得し戦略コンサルタントの道へ。その後、電通eM1(現電通デジタル)や電通コンサルティングの創業メンバーとして、ビジネス戦略や事業開発を行うようになりました。さらに、新たな都市のコンセプトメークから参画し、来街者と街の関係をデザインするなど、都市開発の業務も行っています。現在は関西を拠点に、さまざまな都市開発案件や地域創生を担っています。
阪田:コンサルティングから都市開発に広がりを見せて、さまざまな領域でデザインをされているんですね。その根底には、やはりクリエイティビティがあるように感じました。
小宮:実は電通のクリエイティブは、まちづくりと似ています。外部環境に沿って要件を整理し、クリエイティビティを発揮して組み立てていく。さらに完成した後も、提供価値を進化させる方法やコミュニケーションの取り方を思考するプロセスが両者に共通しているところです。
まちづくりにはいくつか種類があり、「グリーンフィールド」と呼ばれるさら地から街を造る事業においても、「ブラウンフィールド」と呼ばれる今ある街を再開発していく取り組みに対しても、電通の考え方や視点は適しています。
阪田:あまり知られていない視点かもしれませんね。
小宮:そうなんです。最近ではコミュニケーションデザイナーも活躍している領域なので、電通もより良いまちづくりに向けたサポートにもっと積極的に参入していくべきだと思います。
ただ、要件を取りまとめるだけでは、新たな価値創出は難しい。似たような都市構造があふれていく中で差異化を図るには、人の想いに触れることや心を動かすことが必要になると思います。そこで有用なのが「アート」ではないでしょうか。
多様なコミュニティが集まる都市は、アーティストが育ちやすい
小宮:都市からは少し話がそれますが、AIが進化すると、情報や表現をまとめることは容易になりますが、そこに「想い」を乗せることはチャレンジかと思います。つまり、左脳的なことは得意でも、右脳的な思考が求められるときに人の手が必要になるということです。
その点、アートはメソッドがあったとしても、表現内容については作り手の感性に委ねられています。そのため、必ず人の手が介在しますよね。
阪田:そうですね。AIに条件を与えて「最適な作品を作ってほしい」と依頼すれば、ある程度のものは作れると思います。ですが、「なぜこれを作るのか」という根源的な創作欲求がなければ、作品としての“意味”は生まれない。見た目が似ていても、そこに創作者による“意味”があるかないかによって価値は変わります。
そもそも、アートに正解の定義はありません。何を良しとするかは、アーティストとそれを受け取る生活者、および評価者に委ねられているのです。
小宮:そう考えると、アーティストは自身が出発点になりますよね。私たちのようなビジネスの場合、日々クライアントのニーズに応えるために、要望を受けてデザインし、形にして表現しています。そのクリエイティブは受注産業的なところがある。同じクリエイティブでも、アートはアーティストの生い立ちや経験、問題意識など、その人自身の内面から湧き上がる全てのものが、世の中との接点になります。自身の全てを使う表現が必要になるといいますか。
阪田:特に現代アーティストは、自身の生まれや宗教、価値観、視点、主張、といった背景を総動員することで、他者との差異化を図ることが多いです。単に技術的に優れているだけでは埋もれてしまいますし、学際的なルールにのっとって説明しないと国際的に評価されないこともあります。そうした意味では、自らが生み出すアートにも一定の制約はあります。
一方で、制約があるからこそ、発表の機会が多いに越したことはありません。現実的に、都市部の方が発表の場に恵まれているのも事実です。現にピカソやウォーホルなどの名高い現代アーティストは創作や発表の場を都市部に置いています。

小宮:「アーティストは都市で育ちやすい」ということですね。とても面白い視点だと思います。やはり地方だと、アーティストが生み出したものを受け取る評価者の数が圧倒的に少ない。量が少ないということは、多様性が少ないことを意味します。その点、都市部であれば多様なバックグラウンドを持った人が存在し、考えや価値観も豊富にありますよね。
阪田:そうなんです。もちろん、天才は都市部だけでなく地方にも存在します。ただし、その才能を見抜き、評価できる人の絶対数が少ないと、その才能は埋もれてしまいます。都市部では人口の多さも相まって、アーティストが育ちやすい環境が整っているんです。
また、成長のスピードも格段に違います。インタラクションの機会が多いほど、必然的にフィードバックを受ける機会も増える。そうした対話の中で生まれるものが、アートのコンセプトや内容に昇華されていきます。だからこそ、発表の場というのはアーティストにとって極めて重要なのです。
小宮:大学で「起業」について教えている立場から見ると、アーティストと起業家は多くの共通点があると感じました。どちらも世の中に影響を与え、何らかの功績や成果を生み出し、それが多くの生活者に評価され、消費されることで成立する。そして、表現のエネルギーの源が自分の想いや経験、あるいは社会に対する問題意識にある点も同じです。
また、とある大型複合施設の開発に携わった際に、都市の機能について発見がありました。そこでは、オフィススペース、商業施設、文化施設、さらには居住スペースまでを1カ所に集約していました。そうすることで、施設が多機能化し、集まるコミュニティも多様になります。さらに、生活に必要なものがそろうため、生活者の滞在時間シェアも最大化することができたんです。
このとき、この大型複合施設は都市の縮図を表していると感じました。多くの人が集まってとどまり、かつ多様なコミュニティが交錯する環境は、多種多様な機能を持った施設が集まる都市そのもの。そのため、都市は多様な生活者に評価され、消費される必要があるアーティストや起業家が育ちやすいと言えるのではないでしょうか。
アーティスト×都市の課題は、アーティスト不在のアート掲示とハードルの高さ
小宮:アーティストにとって都市が重要な場所である一方、現在のアーティストと都市の関係は、どのような課題を抱えているとお考えですか?
阪田:現状の作品展示は、まだ簡易的なものが多いと感じます。バーやカフェなどの壁に飾っているだけで、アーティスト本人が介在する発表の場は少ないまま。そのため、作品に込めた想いや背景を届けることができず、生活者にも受け取られにくい状況にあると思います。
また、アーティスト同士の交流の場が少ないことも課題として挙げられます。制作は基本的に個人で行うものですが、資本体制を整えるために、ギャラリーやキュレーターの最新情報など、業界について共有し合いたいことも多数あります。ただ、お互いにプライドがあって聞けないというケースも少なくありません(笑)。
小宮:スタートアップも同業者同士で情報交換をしているので、近いものを感じます。起業家の場合、投資家が産業としてスタートアップ企業をサポートする仕組みが機能しています。アーティストには、同じような産業としての投資家は存在するんでしょうか?
阪田:アーティストの場合は、いわゆるパトロンですね。実はアートの世界でも、2017年から2019年あたりにかけて現代アートバブルが起きていました。当時は、 現代アート市場や、アート投資に関連した本も発売され、投資の文脈で語られることが増えていたんです。作品を購入しておけば、将来的に価値が上がると考えられ、一種の投資商品として扱われていました。しかし実際には、価値は思ったほど上がらないこともありました。評価の仕組みが専門的で複雑なこともあり、一般的な投資商品のように安定しているとは言いづらい、というのが実情です。
小宮:なるほど。ただ、スタートアップ投資も元々は一部の人にしか認知されていなかったように、アートが投資商品になることを認知していた層は限られていたと思います。だからこそ、支援者を増やすためには、アートがより身近な存在になることが必要なのかもしれません。
阪田:そうだと思います。しかし、アート業界はまだハードルが高いとされています。かつては日本にもパトロンの方々がいて、ポーラ美術館や三菱一号館美術館を作り、アーティストを大々的に支援していたんです。現在、そういった資産家のパトロンがいなくなってしまったのも、アート市場が下火になっている要因の一つです。支援者の存在は、アーティストの成長や教育の機会を増やし、作品作りの意識を良い方向へと導く重要な役割を果たしているんです。このパトロン不足は、アーティストにとって痛手と言えるでしょう。
アーティスト×都市 必要なのは付加価値の教育
小宮:パトロン不足に関して、支援することでアーティストを育て、作品をプロデュースすることはもちろん大切です。しかし、もっと教育的観点からも育成制度を変えていく必要があると思いました。
例えば、スペインでは子どもたちが目指す職業として、サッカー選手以上にシェフの名を挙げるようになりました。これは、テレビ番組でスターシェフが取り上げられているためです。例えばサン・セバスチャンという地方都市では、産官学が連携して新たな大学の学部を創設し、料理の技量を向上させること以外に、資金繰りやサプライチェーンなどの経営的視点や環境問題への取り組みなど、シェフがもたらす世の中への影響力を体系的に教育したことで次々とスターシェフが生まれ、今では世界的な食の都と認知されるまでに成長しました。
同じように、アーティストにもさまざまな付加価値の教育を行い、育成する環境を整えることで、アーティストの聖地となる都市ができるのではないかと考えています。また、聖地にアーティストが集うことで、新たな競争軸が形成され、都市の活性化にもつながるのではないでしょうか。

阪田:確かに、アーティストが作品を展示してほしい、買ってほしいと受け身の姿勢でいるだけではダメなのかもしれません。私も、現代アーティストおよび、現代アート関係者に向けたアートリテラシープログラムを開発したいと考えています。これは、昨年卒業した大学院で研究していた内容になるのですが、アーティストも含め、現代アートの正しい知識やルールを共有するためのプログラムです。
現代アートってそもそも成り立ちが「哲学」なんですね。ギリシャ時代からの考え方で、全ての科目の原点をつかさどるものがArts。そこからユダヤ教的な考え方も入り、金融資産的な価値とアカデミックが融合した市場が現代アートと呼ばれるものになります。ただ、この系譜を理解せず、表面上の現代アートをまねするだけのアーティストも多数いるんです。
小宮:一番教えなければいけない科目ですよね。私たちは、良し悪しの価値判断などを無意識のうちに、哲学や宗教など先人たちが積み重ねてきたものの中で行っています。表現者は、それを自分なりに解釈し、のみ込んでいく必要があると思うんです。だからこそ、根源的な教育として哲学というか、リベラルアーツを学ぶ必要があるんですよね。
阪田:そうなんです。現代アートも中心にあるリベラルアーツ的な考え方のうえで、作品制作をする必要があると思います。
他にも、現在主流となっている貸しギャラリーではなく、ギャラリストが常駐するギャラリーを設立する方法も有効ではないかと考えています。そうすることで、アーティストにとって身近に相談できるキュレーターやギャラリストが、常に存在する空間を作ることができ、制作や発表のサポートが可能になります。
さらに、ボトルネックになっていたハードルの高さには、アーティスト同士で協働してワークショップを実施するなど、アートに親しむ人の裾野を広げるところから対策を始めていきたいですね。
小宮:素晴らしいと思います。先ほど話題に上がった食やスタートアップの分野でも、個々が活躍しながら自身の付加価値を高めていくために、仲間を集め、マネタイズ可能なコミュニティを形成していくことが多々あります。今後は、こうした仕組みをアートの分野に取り込むことができた都市こそが、より一層活性化していくのではないかと思います。
同時に、サポートやコミュニティ、場所に対して過度に依存するのではなく、アーティスト自身が主体的に表現の場を確立していくことも、求められるのではないでしょうか。
阪田:おっしゃる通りです。私自身なるべく自力で表現の場を確立しているのですが、今の美大の教育体制では、パトロン重視のままだと思います。なので、技術以外の体系的な育成制度を構築して、アーティスト自身がマネタイズできる環境を作る必要があると思いました。その場所が都市にあることで、必然的にアーティストたちが集まる理由にもなるので。その環境づくり、コミュニケーション設計の部分で、アートコミュニケーションサロン的な場を電通が担っていければと考えています。
小宮:なるほど。つまり、美術館でも、画廊でも、キュレーターでもない、新しいアートイノベーションセンターを考えていくということですね。 われわれのチームはアーティストもいれば、建築、ビジネス設計など多様な専門家がいます。チーム全員でアーティストの育成を担う場所を作り上げていきましょう。

飲食店と同じくらい、アートがある都市に!「幸福度の高い都市」のためにアーティストができること
小宮:では最後に、本連載のテーマである「幸福度の高い都市」のために、アーティストはどのようなことができると思いますか?
阪田:アーティスト自身は、社会を幸福にできるかどうかをあまり考えてはいないと思います。ただ、自分自身が楽しいと思うことを表現して、発表している。それが誰かに受け止められ、想いに共感してもらえたり、影響を与えることができたりして、幸福が伝染するのではないかなと考えています。いわゆるハッピー発信者のような感じですね。
ハッピー発信者のアーティストがたくさんいればいるほど、生活者の方の価値観や好みに合う相手が見つかると思います。そして、いろんな形の幸せが育まれていくのではないでしょうか。だからこそ、アーティストは都市に集う必要があるし、発信していくことで幸福度の高い都市に寄与できるのではないかと思います。
小宮:都市にたくさん存在することで社会インフラとなっている飲食店に相当するくらい、アーティストが発表できる場所を増やして、必然的にアートがある都市づくりが必要かもしれませんね。
少しAIの話に戻るのですが、今後は人間にしかできないものが価値を持つと思います。もちろん、料理や作品を機械が生み出すことは可能です。ですが、その人の生きざまや価値観、創意工夫が表れているからこそ、人は共感する。シェフやスタートアップを応援することと同じように、「この人が書いた作品だから買う」という“共感”が、消費行動の中に組み込まれていくと思います。
阪田:都市に暮らす生活者にとっても、アーティストの考えに共感して自己主張をしたり、アート作品を購買したりと、活性化につながると思います。
小宮:だからこそ、都市には人が集うことが大切です。今後は、全ての物が集約され効率化していく“コンパクトシティ”が都市開発の主流になります。機能的になる一方で、多様な人が集まり、コミュニケーションを取っていく、人間らしさも復活すると思います。そこで、人が生み出すアートやアーティストが重要な存在になるのではないでしょうか。
【本件に関する問い合わせ先】
都市の未来デザイン ユニット
HP:https://www.dentsu.co.jp/labo/futuredesign_unit/index.html
Email:futuredesign-unit@dentsu.co.jp