まちの幸せを追求する「都市の未来デザイン ユニット」No.9
東京ベイエリアの現在地~さまざまなプレーヤーが共に描く都市の未来
2025/07/17
電通の「都市の未来デザイン ユニット」は、都市やくらしの未来像を描き、構想から実現までをさまざまな領域で支援する専門チームです(詳細はこちらから)。
本連載では、これからの都市・まちづくりに求められること、また幸福度の高い都市について、さまざまな角度から探っています。
今回のテーマは、東京ベイエリア。2025年10月、トヨタ自動車が「トヨタアリーナ東京」を、2026年春、テレビ朝日が「東京ドリームパーク」をオープンする予定で、今あらためて注目度が高まっています。
開業準備が進む中、トヨタ自動車とテレビ朝日、周辺の企業が共にエリアの未来を構想するためのワークショップが実施されました。多様な企業・団体が集い、皆で描いた東京ベイの未来とは。
ワークショップでファシリテーターを務めたプランナーの小島成輝氏と、「都市の未来デザイン ユニット」リーダーであり、水都創造パートナーズ代表理事の夏目守康氏に、今回のワークショップの様子やその意義、東京ベイへの期待感について聞きました。

<目次>
▼ますます盛り上がりを見せる、東京の水辺エリア
▼東京ベイエリアの未来を構想するワークショップを実施
▼「思いの共有」は、都市開発プロジェクトの中でマイルストーンになる
▼都市開発に関わる多様なプレーヤーが「自分ゴト」としてアクションを起こせることが大切
ますます盛り上がりを見せる、東京の水辺エリア
──夏目さんには、2023年12月に本連載の中で「都市における水辺活用」(記事はこちら)についてご紹介いただきました。その中で東京ベイエリアについてもお話ししていただきましたが、あれから約1年半、どのような変化があったでしょうか。
夏目:前回の記事では、東京の水辺空間は大きく変わりつつあり、さまざまな企業・団体が都市再開発に参画し始めているという現状をお話ししました。その中で東京の魅力が高まる機運が生まれ、今後もさまざまなレイヤーでビジネスチャンスが見いだせるのではないかと提言させていただきました。
実際、この1年半の間にも東京ベイエリアではさまざまな動きがありました。2024年には「晴海フラッグ」がまちびらきし、有明地区で電気自動車レースの世界選手権「フォーミュラE東京大会」が開催され、アジア最大級のスタートアップカンファレンス「SusHi Tech Tokyo」なども実施されています。いずれも2025年は開催済みで、2026年も継続開催が決定しています。

そして今年25年10月には「トヨタアリーナ東京」、来年26年春には「東京ドリームパーク」が開業予定。この二つの施設のオープンは、東京ベイエリアのさらなる盛り上がりの大きなきっかけとなりそうです。

トヨタアリーナ東京
2025年10月開業予定の、Bリーグ・アルバルク東京のホームアリーナ。スポーツのみならず、さまざまな興行(コンサート等)に対応。ライブエンタメの興奮や感動を増幅させる圧倒的なLEDビジョンと、これまでにない上質なホスピタリティ・サービスが特徴。イベントがない日にも誰でも利用できる屋外バスケットコートも設置。
東京ドリームパーク
最大5,000人を収容する音楽ホール、1,500席の劇場、展示・イベントスペース、屋上広場、飲食店舗などからなる「有明発・複合型エンターテインメント施設」。1年を通じて多様な演目・コンテンツの実施が予定されている。
東京ベイエリアの未来を構想するワークショップを実施
──新しい施設をオープンさせるトヨタ自動車とテレビ朝日の二社とともに、東京ベイの未来を構想するワークショップを開催されたとうかがいました。実施の経緯を教えてください。
小島:テレビ朝日の方と話をする機会があり、開業に向けて周辺の施設事業者同士が協力しながらこのエリアを盛り上げたいとのお話を伺いました。東京ベイエリアはとにかく広いので、一つの施設だけでエリア全体を盛り上げるのは大変なんですよね。トヨタ自動車の方も同様に考えられていたので、「このエリアをどう盛り上げていくかを一緒に考えるワークショップをしませんか」と提案しました。
皆で一緒に目指すゴール像は、一部の人だけで概念や言葉だけ決めて上位下達しても、ほとんどうまくいかないですよね。だって、他人が決めた指示があっても、やらされ仕事でやる気は出ないじゃないですか(笑)。そこで、企業や団体のメンバーが所属や立場を取っ払って一緒に考えることで、多くの人が納得できる目指すゴール像を描けるのではと考えました。
──ワークショップでは、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。
小島:ワークショップは2回実施しました。1回目はトヨタ自動車とテレビ朝日の社員が計15人ほど、電通からファシリテーターを合わせて5人ほどのメンバーが参加しました。
内容としては、すでに各社が考えていたやりたいことに加えて「このエリアでこんなことをやってみたい」というアイデアを出し合いました。アイデアは、5年後くらいの少し先の未来で実現できそうなことと、20~30年後の遠い未来で実現できたらいいなと思うことの二つの軸で出していただきました。
ワークショップの中では電通が開発したカードゲーム「Breakthrough Bridge」も活用しました。カードを使って、「好き」という感情をもとにインサイトを掘り起こす手法で、アイデアを発想するときのヒントにしてもらいました。
会社の利益や地域のメリットなど正しいことも大切ですが、あえてそれらはいったん置いておいて、まずは自分自身の好きなことや楽しいと思うことを掘り下げてアイデアを考えてもらうため、カードを活用しました。参加者の皆さんには東京ベイエリアの未来を自分ゴトとして考えてもらえたのではと思います。

いくつかのグループに分かれてアイデアを出してもらい、その場で各グループが発表した内容を一枚のイラストに描き起こす「グラフィックレコーディング」も実施しました。東京ベイエリアも広いので、どの場所で実施するアイデアなのかが一目でわかるように、地図に落とし込む形にしたんです。

──ワークショップでの印象的なアイデアを教えてください。
小島:海があり、空が開けている場所だからこそできる「有明にビーチリゾートをつくる」というアイデアが個人的には面白いなと思いました。そのほかにも、橋の上で楽しむ美術館や、船や海の中でととのうサウナといった、ここの場所の特性を生かしたアイデアは数多くありました。
防災広場で「期限切れの近い備蓄食品を使った本格料理フェス」というアイデアも素晴らしいなと思いました。普通のフードフェスとは少し異なる、社会的にも意義のあるイベントになりそうですよね。そのほか、エリア内を移動できる「東京ベイジップライン」「バスケ×朝活のイベント」など、夢が広がるたくさんのアイデアが出てきました。
「思いの共有」は、都市開発プロジェクトの中でマイルストーンになる
──2回目のワークショップではどのようなことを議論したのでしょうか。
小島:2回目は、トヨタ自動車とテレビ朝日のほか、周辺事業者や行政の担当者にも参加してもらいました。1回目で話し合ったことを踏まえ、議論するエリアを少し絞り込んで実施しました。
トヨタアリーナ東京と東京ドリームパークをつなぐ夢の大橋を含むセンタープロムナードでのアイデアと、海面を使ったアイデアがたくさん出たので、それらを描けるスペースを広く取れるよう、準備もしました。マップを調整しながら、そこに落とし込むアイデアもブラッシュアップしていくことで、参加者たちが思い描く街の将来イメージをそろえていくことができたと思います。

──今回の2回のワークショップでの狙いと、実施したことでどんな成果が得られたかを教えてください。
夏目:ワークショップで出る一つ一つのアイデアが面白いに越したことはありません。ですが、大切なのは参加者たちが「こういうことができたらいいね」とイチ生活者としての思いや考えを共有し合うことです。実際、ワークショップを終えると皆さんの間で仲間感みたいなものが生まれていました。思いの共有をするためにワークショップを実施するのは、参加者たちの役割やバックグラウンドが異なれば異なるほど有効だと思います。
今後このエリアの都市開発についてさまざまな議論がされていくと思いますが、その時にも2回のワークショップで話し合ったことがベースになるはず。皆で思いを共有する時間は、全体のプロジェクトからするととても短い時間かもしれませんが、大きなマイルストーンの一つになると考えています。
都市開発に関わる多様なプレーヤーが「自分ゴト」としてアクションを起こせることが大切
──ワークショップをきっかけに、企業間での変化はあったのでしょうか。
夏目:今後、プロジェクトを進めていく上ではさまざまなチャレンジが必要になってくると思いますが、そこでも皆が知恵を出し合い、協力しながら進めていくための下地ができあがったのではと思います。「皆で一緒に盛り上げていこう」という共通認識を持ち、最短距離で協力し合える関係ができ始めていると感じました。
小島:ワークショップをきっかけに、このエリアが目指す方向性を言語化した「エリアビジョン」の検討もお手伝いさせていただきました。ワークショップで出たアイデアをあらためて整理して議論しましたが、ベースの考えは共有できていたので、皆さんにも納得感を持ってもらいながら進められたと感じています。まだ対外的には発表していないのですが、キャッチコピーとステートメントを作成しています。
──今回の取り組みを通じて、「都市の未来デザイン ユニット」の立場からどのようなヒントが得られましたか?
小島:今回のワークショップではその場でグラフィックレコーディングを行いビジュアル化しましたが、この手法はとても有効だと感じました。何十ページもある言葉だけの議事録よりも、一枚のイラストにまとまっている方が後から見返したときに「このとき皆が何を考えていたのか」が一目でわかりますよね。参加者からも好評で、折りに触れて活用していただいています。
ワークショップ後には、「東京ドリームパークがどんな施設か一目でわかるビジュアルをつくってほしい」という依頼も受け、私の方でクリエイティブ・ディレクションを担当しました。この中にも、ワークショップで出てきたアイデアがふんだんに盛り込まれているんですよ。クライアントとビジュアルを介して対話することで、お互いに発想が広がる良い刺激になると感じましたね。今回の手法は、東京ベイエリアに限らず、さまざまな場所で実践できると考えています。
夏目:ワークショップを通じてあらためて感じたのは、民間主体でさまざまな企業や団体が集まり、「皆で協力しながらこんな場所にしたい」と行動を起こしていくことは、都市や街づくりにおいて大変重要だということです。行政は立場上どうしても言及が難しいこともありますが、このような民間側の積極的な動きが起こることで協力もしやすくなると思います。
東京ベイエリアは民間主体でアクションを起こそうとしている稀有な例の一つです。今後の盛り上がりも、関わる企業や団体がいかに自分ゴトとして捉えて行動できるかにかかっていると思います。まさに今、いろんな種が生まれつつあり、今後も施設のオープンをはじめさまざまな予定が目白押しです。私たち電通もお手伝いしていきたいですし、皆さんにもぜひ期待して、注目してもらいたいと思います。
小島:何千万人もの人が住む大都市の中に、海や空の広がりを楽しむことができる東京ベイエリアのような環境があることは、世界的に見てとても珍しく、世界に誇れることだと思います。
それゆえに、トヨタ自動車やテレビ朝日だけでなく、今後もたくさんの投資や事業活動が行われていくエリアだと思います。近い将来、国内だけでなく海外の企業からも投資が集まり、世界中の人から「一度は行ってみたいTokyo Entertainment Bay」と憧れを持たれる場所になっていくことを期待しています!