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まちの幸せを追求する「都市の未来デザイン ユニット」No.5

水都東京。水辺エリアの魅力を高めるとどうなる?

2023/12/20

電通の「都市の未来デザイン ユニット」は、都市やくらしの未来像を描き、構想から実現までをさまざまな領域で支援する専門チームです(詳細はこちらから)。本連載では、これからの都市・まちづくりに求められること、また幸福度の高い都市について、さまざまな角度から探ってきました。

今回のテーマは都市における水辺利活用です。

私はこれまで2016年から7年以上にわたり東京都の舟運活性化・水辺利活用のプロジェクトに関わっており、その間の東京での水辺エリアの変化を見てきました。「都市の未来デザイン ユニット」メンバーであり、水都創造パートナーズ代表理事の夏目守康が、東京の水辺のこれからと、水辺エリアが都市の暮らしにもたらす可能性を考えます。「Urban Life Transformation」の兆しが水辺に見え始めています!

<目次>
都心でありながら空と水、自然に近い暮らし Urban Life Transformation

居心地のよい空間と活用の仕組みで都市の魅力と価値を高める

まだまだ変わる東京の水辺エリア

日本には東京以外にも水辺活用で価値を高められる都市がある

水辺エリアを生かすさまざまなアプローチ 「幸福度の高い都市・地域社会」へ

都心でありながら空と水、自然に近い暮らし Urban Life Transformation

週末の昼時、豊洲市場の周囲に広がる公園や晴海ふ頭では、家族連れ、仲間同士のグループ、ペットを連れて散歩をする夫婦、一人で自由な時を過ごす人などなど、都心の真ん中でありながら広い空と海という開放感あふれる空間を満喫する多くの人たちの姿を見ることができます。そして海側の目線の先にはレインボーブリッジがあります。

豊洲エリア

人工島である豊洲エリアは、2018年に豊洲市場が開場する前は、スポーツ施設、住宅展示場、企業のPR施設などが点在するものの、あまり日常的に人が訪れるエリアではありませんでした。その後、時間をかけてこの島の外周に「ぐるり公園」が整備され、島の先端にBBQ場も開設されるなど徐々に整備が進み、先ほど触れたような現在の姿になりました。

もともと工業地帯であったエリアがその役目を終え、1990年代前半から現在の豊洲駅周辺にオフィスビル、マンション、複合商業施設などの開発が進み、約30年後に豊洲市場が開業。公園の整備なども経て日常的に使われる空間へと進化しました。

エリアイメージ

晴海エリアは、さかのぼれば1996年に東京ビッグサイトにその役目を譲るまで「東京国際見本市会場」が存在しました。2021年に開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では選手村として活用され、2024年春に住宅5632戸からなる「晴海フラッグ」が街びらきを控えています。

東京、かつての江戸は、その成り立ちから水路と舟運によって栄えた都市でした。江戸時代、数多くの運河と川が交錯するこの地は、水辺の活動が経済と文化の中心であり、水の道は都市の命脈として機能していました。この時代、水辺は人々の生活空間としてだけでなく、交易や物流の重要な拠点として栄えていたのです。

時代が変わり、特に昭和時代に入ると、東京の水辺は大きな変貌を遂げました。都市の急速な工業化とともに、多くの水路や水辺は埋め立てられ、埋め立てられた土地は工業地帯や倉庫などへ、河川は高速道路が上空を覆い水路から陸路へと変わっていきました。かつての活気ある水辺の風景は、工業の発展に伴い徐々にその姿を変えていきました。しかし近年、再び人々の生活の場へと変化しようとしています。

現在の東京の水辺は、「Urban Life Transformation」ともよべる概念を体現しようとしています。都市の利便性と自然が近い開放感が融合した、ちょうどよい居心地が備わったバランスを持つ場所。住む、働く、遊ぶ、癒やされる、といったさまざまな機能が統合された水辺エリアは、都市生活に新たな価値をもたらしており、それに気づいた人たちが都市と自然が共存する生活様式を享受し始めています。また、内陸部においても、日本橋川の首都高速高架の撤去が進むなど、東京の水辺は、時代とともに変遷し、都市生活の中で重要な役割を果たし続けているのです。

居心地のよい空間と活用の仕組みで都市の魅力と価値を高める

東京の湾岸エリアと河川エリアは、その広大な空間とダイナミックな水辺の景観によって、都市開発の新たな機会を提供しています。これらのエリアは、既述のとおり伝統的に工業や物流の中心地としての役割を果たしてきましたが、近年ではレクリエーション、住居、商業が融合した多目的な利用が進んでいます。水辺の自然と都市の快適さが調和することで、住みやすさ、働きやすさ、そして遊びやすさが組み合わさり、都市の魅力と価値を大いに高めるポテンシャルを秘めています。

ニューヨークのブルックリン周辺の変化は、水辺を利用した都市開発の成功例として特筆すべきものです。豊洲周辺と同じように、かつては工業地帯として発展したこの地域は、近年積極的な再開発により、住宅、商業施設、公園などが混在する活気あるコミュニティへと変貌を遂げました。

ブルックリンのウォーターフロントは、それまで普段あまり人が立ち入らなかった場所が、現在は市民の憩いの場、観光の目玉としてニューヨークのブランド力を高める貴重な資産となっており、水辺の有効活用が都市にもたらす価値創造のよい実例となっています。

ニューヨーク

東京の水辺エリアの発展には、空間のアイデアに加えて交通基盤の整備が重要な課題となります。特に、湾岸エリアや河川周辺のアクセス向上は、これらのエリアの魅力を最大限に引き出す鍵です。ニューヨークでも朝の通勤時間帯にはブルックリンとマンハッタンを結ぶ船が頻繁に行き交い、市民の日常的な足としてはもちろん、町の風景を彩るアイコンにもなっています。

東京では地下鉄延伸などの公共交通の充実や道路網の改善が計画されていますが、歴史的にも重要な役割を果たしてきた舟運の再活用も有効な手段と言えます。舟運を活用した交通システムは、環境にやさしい持続可能な移動手段として、そしてその存在自体が水辺エリアの魅力を高める可能性を秘めています。

その可能性に着目した民間企業が、2023年10月に日本橋と豊洲をつなぐ定期航路を開設(観光汽船興業、三井不動産)、24年春には晴海フラッグの街びらきにあわせて晴海と日の出を結ぶ定期航路(東京湾クルージング、野村不動産)が開設されるなど新たな試みも始まっています。

定期航路

さらに筆者の想像する将来図は、港湾部や河川部をつなぐ自動運航船が24時間走っている姿です。たとえばこれから大規模な開発が進む築地と竹芝、晴海、豊洲、有明、台場などを結ぶ東京ベイルート、日本橋川(日本橋、丸の内)と神田川(後楽園、秋葉原)と隅田川をまわる東京リバールート。自転車も搭載可能な船であれば、電車やバスなどとの差別化も図れます。自動運航が可能になれば、人材確保と運航コストの低減などのメリットも出てきます。また現在大阪・関西万博に向けて開発の進む水素燃料電池船であればエンジン音もなく、マンション近くにおいての夜間就航も可能性がでてきます。

丸の内と日本橋でエリア内を無料バスが巡回する「丸の内シャトル」「メトロリンク日本橋」という素晴らしい仕組みがありますが、それらは周辺企業の協賛で成立しています。巡回船も同じような仕組みを都と民間で整備するという方法もあるかもしれません。

舟運は、電車などに比べると輸送人員、所要時間に劣る面はありますが、すでにある水路を使う舟運ルートは、地下鉄や高速道路の工事にかかる費用と期間と比較した場合、十分検討の価値はあると考えます。

まだまだ変わる東京の水辺エリア

東京の水辺エリアは、現在も進化し続ける大規模な開発地域です。この地域は、過去数十年にわたる変遷を経て、今後も住宅、商業、文化、エンタメ、公園などの施設が混在する多機能の都市空間として拡充され、これからの東京という都市の新たな顔になることが予想されます。

ロードマップ
水辺エリア開発ロードマップ 筆者作成

そして、東京の水辺エリア開発において、アクアテック(水関連技術)は非常に重要なテーマになりえるというのが筆者の考えです。これは水質の管理、洪水対策、海洋生物の保護、新エネルギーの供給地、食料工場、水上交通の効率化、空飛ぶクルマの拠点などなど、都市開発が直面するさまざまな課題に対応する新技術のことです。例えば、大阪・関西万博に導入される予定の新技術やサービスを社会実装していく場として活用することで、これらの技術の実用化と普及が促進できると考えます。

これはわれわれの実際の取り組みですが、デジタル化によって舟運の事務手続きを簡素化し、関係者の利便性向上、省人化などを進めている事例があります。船を動かすには船着場の予約がセットで必要となります。その予約管理はこれまで電話・FAXで受付・精算でしたが、それを常時オンライン対応できるシステムを構築しました。チケットの予約販売なども連動が可能で、すでに運用が始まっています。またこのシステムを軸に、船着場利用の際の鍵開閉もスマホでできるようにするなど、今後のさまざまな機能拡張も視野に入れています。

このような技術には都市機能の向上と省人化の両立、環境への影響も最小限に抑え、持続可能な都市開発を実現するポテンシャルがあり、アクアテックの積極的な導入と実用化を進めることで東京の水辺エリアを「テクノロジーと自然が調和した未来の都市の姿を示すモデルケース」として世界に発信することも期待できます。

日本には東京以外にも水辺活用で価値を高められる都市がある

①横浜
横浜のベイエリアは、かつての港町の雰囲気を残しつつ現代の都市開発が融合した地域です。みなとみらい21などの開発により、この地域はビジネス、ショッピング、娯楽の中心地として生まれ変わりました。海から都市を眺めるとその魅力が際立ち差別化されますが、横浜は水辺に面したランドマークタワー、客船ターミナル、観覧車、赤レンガ倉庫などがシンボルとなっており、海から見る風景は国際的にも引けを取らない競争力ある街だと感じます。

横浜

さらに、最近完成した2万人収容の音楽専用ホール「Kアリーナ横浜」などの集客施設に加え、水辺を生かした公園や緑豊かなスペースの整備は、都市の文化的・経済的価値を高め生活環境の向上につながるモデルです。

②大阪(万博、IRを起点に)
大阪は、2025年の万博や統合型リゾート(IR)開発を契機に水辺の再開発が活発化しています。これらのプロジェクトは大阪湾岸エリアの魅力を一新し、新たな経済的、文化的活動の中心へと進化させていくことが期待されています。実際に万博会場の夢洲と中之島の舟運ルートを復活させる動きは始まっており、府は中之島GATEというターミナル施設を計画しています。

万博やIRは「水の都大阪」を国際的な注目の場へと変貌させ、瀬戸内方面とも広く連携し、都市・地域全体のブランド価値向上に寄与する可能性をもっています。これらが、地域経済の活性化や雇用創出にも大きく貢献し、多くのビジネスと観光の機会を提供することが予想される注目エリアです。

③福岡
福岡市、特に博多エリアも、海に面した美しい景観と活気ある都市中心部との近さが魅力です。最近では「天神ビッグバン」構想による市中心部の再開発が進み、アジア方面のゲートウェイとしての地理条件も交え、ますます発展の可能性があります。博多港も、今後中心部の再開発に連動し、水辺に面した商業施設、レストラン、住宅地の開発が都市の魅力を一層高め、博多エリアを国際的な都市へと導く可能性を秘めています。

④その他:神戸、瀬戸内、名古屋港など
神戸は、その長い歴史を持つ港町としての魅力を生かした水辺開発が進んでおり、24年春にはB.LEAGUE、コンサート、イベントなど日常的なにぎわいを生む「神戸アリーナ」がオープン。アリーナ基点での新たな神戸のまちづくりを進めるとしています。

瀬戸内海エリアは、美しい自然景観とアートの融合により国際的な注目を集めており、それらの場所を舟運でつなぐ取り組みが広がっています。

名古屋港も、商業施設やアトラクションが充実した水辺エリアとしての再開発、そして名古屋中心部と港を結ぶ中川運河周辺の活用なども進行中です。これまで港湾都市としての印象がそれほど強くない名古屋も、大きく変わる可能性をもっています。

水辺エリアを生かすさまざまなアプローチ 「幸福度の高い都市・地域社会」へ

今後、デベロッパーやゼネコンなど、都市開発・建設に直接的に関与する業種以外の企業にも、さまざまな視点でまちづくりや水辺の利活用に進出する機会はあると考えます。

例えば、テクノロジー企業は、アクアテックおよびスマートシティの構築やデジタル技術を用いた環境モニタリングシステムの開発など。レジャー産業は、水辺エリアでの新しいアトラクションやイベントの企画、そして乗船体験自体を新しく開拓するなど、地域の観光資源を活発化させるチャンスがあります。また、ヘルスケア産業は、水辺を活用した健康増進プログラムやリハビリテーション施設の開発に関与することで、都市の福祉と健康増進に貢献することが考えられます。

これら多業種による水辺の利活用は、都市の多様性と魅力をさらに高める重要な要素となります。

水辺エリアと多様なビジネス開発シーン
水辺エリアと多様なビジネス開発シーン 筆者作成

2016年からわれわれは、東京における舟運活性化と水辺利活用をテーマとして各種の取り組みを東京都とともに行ってきました。この期間に東京の水辺でUrban Life Transformationが着実に進み、都市の価値がより高まる可能性がでてきたことを実感しています。特に、築地、豊洲、晴海、湾岸エリアの開発は、都市の利便性と自然の調和を模索する試みとして重要な意義を持ちます。

これからも、水辺の持つポテンシャルを再評価し、それがどのように都市の生活の質を向上させるかを引き続き観察していきます。水辺の自然と都市機能の統合は、地域住民の幸福度を高めるだけでなく、持続可能な都市開発のモデルとしても重要です。そうした視点をふまえ、皆さんもぜひ一度水辺エリアを体感してみてください。

【本件に関する問い合わせ先】
都市の未来デザイン ユニット
HP:https://www.dentsu.co.jp/labo/futuredesign_unit/index.html
Email:futuredesign-unit@dentsu.co.jp

 

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