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まちの幸せを追求する「都市の未来デザイン ユニット」No.6

若者がまちに求めるのは「ネットでは味わえないガチャ感」~ツギクルまちのカタチとは?

2024/03/22

電通の「都市の未来デザイン ユニット」は、都市やくらしの未来像を描き、構想から実現までをさまざまな領域で支援する専門チームです(詳細はこちらから)。本連載では、これからの都市・まちづくりに求められること、また幸福度の高い都市について、さまざまな角度から探ってきました。

今回のテーマは、若者が考える「ツギクル(次に来る)まちのカタチ」です。

まちは未来に続くもので、この先長い時間生活をしていく主人公はこれからの世代の若者です。しかし、有権者の人口バランスや経験豊かな企画者が主導するまちづくりの体制の中で、「若者の意見」がまちづくりに反映されづらい構造があると感じています。そのため、より幸福度の高い都市の未来を考えるときに、今一度、若者の視点で「ありたきまちの未来」を考えることに価値があると考えました。

そこで、若者のインサイトからさまざまな未来を探っている社内チーム「電通若者研究部(以下、電通ワカモン)」と共同で、「若者にとって居心地のよいまち」を考えるワークショップを実施しました。

本記事では、ワークショップから見えてきた「まちづくりのヒント」について、都市の未来デザインユニットの伊神崇氏と、電通ワカモンの大島佳果氏が語り合います。

伊神氏、大島氏
都市の未来デザインユニットの伊神崇氏(左)と、電通ワカモンの大島佳果氏
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<目次>
大学生が考えた「ツギクルまちのカタチ」とは?

まちには、ネットでは味わえないワクワク感を求めている

失敗しない安心感とガチャ感がある

自分らしく主役になれる、自分で答えを見つける

「答えのあるまち」から「答えのないまち」へ

大学生が考えた「ツギクルまちのカタチ」とは?

大島:電通ワカモンでは、学生との共創プロジェクト「βutterfly(バタフライ)」を運営しており、現役大学生約80名と日々関係性を築いています。今回はその中から12名の学生さんにワークショップへご参加いただきました。仕組みとしても、βutterfly活動の一環である「未来の兆しを学生と共に洞察する『ツギクル』」という座組みを応用して、今回のワークショップを設計しました。

伊神:ワークショップでは大学生が3つのグループに分かれ、下記のテーマについて考えてもらいました。

  • Aチーム……居心地よく学びたいまち、働きたいまち
  • Bチーム……居心地よく買い物したいまち、食事したいまち
  • Cチーム……居心地よく遊べるまち、余暇を楽しめるまち
Aチーム

伊神:Aチームには「学ぶ、働く」をテーマに考えてもらい、「好奇心が世代をこえて巡る」というキーワードが出ました。普段つながることができない人、例えば人生の先輩と出会って学べるなど、世代を問わずいろいろなことを吸収できるまちを望んでいるようでしたね。

大島:先輩から学ぶということについて、「年上の自慢話は聞きたくないが、失敗談は聞いてみたい」という回答が印象的でした。先輩が失敗したことをもとに自分がどう働くべきかを考える。そして自分の失敗を後輩に伝えていくといった体験ができる。失敗談を受け継いでリスクを回避していく仕組みをつくることで、ムダな失敗を避け効率よく世の中を改善していきたいというサステナブルな意識を感じましたね。

Bチーム

伊神:Bチームは「買い物、食事」がテーマで、「失敗しない大冒険ができる」というキーワードが出ました。

大島:学生のアウトプットでは、「失敗しない」と「大冒険」、「成功体験」と「未体験」、「再現性」と「ガチャ感」といった相反する要素があるまちを望んでいるところが興味深いですね。

伊神:失敗しない最低限の保障があったうえでの挑戦や冒険ができるまちということですよね。最終的には安心したいから、決断の要になるオーソリティのようなものが必要なのかなと感じました。

Cチーム

大島:Cチームは「遊びや余暇を楽しむ」がテーマで、「“楽しさ”が枝分かれする」というキーワードが出ました。このチームからは、偶然の出会いを求める声が結構上がっていました。

友達と出かけても、全く同じ体験をして楽しむ必要はなくて、ある人はおしゃれなカフェなど好きなお店を探して楽しみ、別の人はまちの雰囲気やそこで過ごす人の暮らしを見て楽しむといったように、自分なりの楽しみ方が見つけられる。そして、「決まりきったものでなく、いろいろな物事や人との偶然の出会いがほしい」という声が多く上がっていました。

伊神:そのような思いが、「いろいろな楽しみ方ができる公園や路地裏」というワードに表れている気がします。

大島:「公園」というワードは結構上がっていました。公園は目的があって行くわけではないけど、何かが偶然が起こりうる場所という前提があるようです。散歩しているかわいい犬を見つけたり、遊んでいる子ども見かけたり、四季を感じる景色に出会えたりして、そこでの偶然の出会いをネタに自分たちの話が盛り上がるといったような。

伊神:とはいえ、絶対こういうものを見つけたいというものがあるわけではないんですね。答えがないところに答えを探しに行くというか、ちょっと不思議な感じがしますね。

ワークショップ画像

まちには、ネットでは味わえないワクワク感を求めている

伊神:居心地のよいまちについて、「〇〇がある」「〇〇ができる」といった、もっと具体的な回答が出てくると思っていましたが、漠然とした感じだったのが少し意外でした。どのチームも、ネットではできない体験を求める傾向があると感じます。

大島:学生たちの提案の中に「映え」というワードが全くなかったことも意外でした。いまのまちづくりでは、「映えスポット」的なものがテーマの一つになりそうですが、今回のワークショップを見る限り、若者は「映えスポット」を求めているのではなく、「映え」を舞台にしてどんな未知の体験ができるのかを求めているように感じました。

伊神:「映え」は一過性のもので、一度訪れて写真を撮ればもうそのスポットには行かないことも多い。加えて、「こういう答えがある」と最初から分かっているものにはあまり魅力を感じないようです。SNSを見ると有名な観光スポットの動画や画像があふれていて、それを見て行った気分になれる。そんな時代だからこそリアルを求めていて、ネットやSNSでは体験できないワクワク感を求めている感じがしました。

大島:いまはタイパが重視される時代ですが、まちにもそういうことを求めていると感じます。使った時間でどんな有意義な体験ができるかが問われている。

伊神:「このお店に行きたい」などの目的はあるけど、プラスアルファがないとパフォーマンスが上がらないということじゃないでしょうか。「行ってみなければ分からないこと」が、そのまちにどれだけあるかがポイントのような気がします。

大島:ビジネスでは顧客体験価値がよく問われますが、まちづくりでも、出かけた人が目的を達成する前後でどんな体験ができるか。そこも踏まえて、まちをデザインしていくことが求められそうです。例えば最近のいわゆる没入型ミュージアムでもその場での体験だけではなくて、世界観に合わせて着ていく服装のテーマをみんなで楽しみながら決めたり、そこで撮影した写真をSNSに投稿して楽しんだりと、目的体験前後の余白を楽しめるかどうかが若者に選ばれる基準になっているように感じます。

伊神:現代社会は情報化が進んでいるので、そのまちに何があるのか調べれば分かることも少なくありません。なので、ネットに出ていないもの、おそらく自分たちしか知らないものに出会えたときが一番うれしいんじゃないでしょうか。

伊神氏

失敗しない安心感とガチャ感がある

伊神:ワークショップでは、まちに「ガチャ感」を求める声もありましたよね。これは、ネットでは味わえないワクワク感を言い換えたワードだと思います。まちに偶発性のようなものを求めているようです。

大島:いまはSNSでも広告でも、自分の好みにあったものがアルゴリズムやAIによって提示されることが当たり前になっています。それはつまり自分の趣味嗜好の外側にある新しい興味や発見には出会いにくくなってしまっているということでもありますよね。だからこそ、ある程度受け入れられる範囲ではあるけれど、自分の予想を超えたものに出会いたい、それがガチャ感を求めるということなのかなと思いました。

伊神:ワークショップの中では、「あえて下調べをせずにまちに出かける」といった声もありました。下調べをすると答えが分かって面白くない、と。

大島:少し話がそれますが、今回のワークショップを行う前に、学生たちには、「自分にしっくりくるまち」について考えてもらいました。新大久保や渋谷などの回答はなく、押上、浅草、日暮里などの回答が出てきたことに少し驚きました。

宿題シート

伊神:意外でしたよね。路地が結構あって、時間がゆっくり流れている下町のイメージが、しっくりくるのかもしれません。

大島:なんというか、まちに「余白」みたいなものがある感じがします。

伊神:ガチャ感、偶発性みたいなものは、「余白のあるまち」から生まれるのかもしれませんね。

大島:路地裏を歩いていると、店先にいた人と少し会話が弾んだとか、あまり知られていないお店を見つけたとか、素敵な景色を見つけたとか、そういうのは、映えを探しに行くのではなくて偶発性ですよね。そんな偶発的な出来事が自然と続いていく。そういうことを求めているのかなと感じます。

伊神:でも、偶発性を求める一方で、最低限の保障は欲しいという意見も印象的でした。

大島:確かに。まちに冒険を求める一方、失敗しない最低限の保障を求めている点も興味深いですよね。

伊神:このまちに行っても無駄だったという、お金や時間を浪費するリスクを回避したいのでしょうね。コスパやタイパを求めている姿が見えますね。「ここまでは保証されていて、ここから先は冒険」みたいな。例えば、自分の好きなお店や名の知られたチェーン店、話題のスポットなどがありつつ、路地裏に入ると少しディープな世界が広がっているといったような。安心と冒険とが一体になっていることを望むのはいまどきですね。

大島:出かけたけど、何も得られず疲れて終わった、といったことは避けたいのでしょうね。「自分にしっくりくるまち」について学生に聞いたとき、「渋谷や新宿は後ろ向きな選択」と答えた人がいました。「渋谷や新宿はお店がたくさんあってアクセスもよくて、大人数で集まるにはいいけど、少人数や自分一人で出かけるときは選ばない」。なぜかというと、「目的の場所に行くまでに人が多すぎて疲れてしまったり、そもそも人気のお店はすぐには入れないなど、目的を達成する前の段階から気持ちのパワーを使ってしまう」と。まちで得られる喜びよりも疲れの方が大きくなることは、若者にとってリスクの一つなのかなと思います。

大島氏

自分らしく主役になれる、自分で答えを見つける

伊神:ワークショップでは、まちに「自分らしさ」を求める声も多かったですね。つくられたものをただ体験するのではなく、自分が主役になれる、自分で答えをつくれるまちに、学生たちは魅力を感じていました。

大島:そうですね。「自分なりの楽しみ方ができるまち」というワードも結構ありました。ネットに載っているような楽しみ方だけでなく、自分がどういうふうに楽しめるのかが大事で、楽しみ方が一つに決まってないことが大事なのかなと思います。

伊神:まちづくりにおいて、施設や空間をつくったとき、楽しみ方は自由で、皆さんが考えてください、といったことが求められているというか。自分はこんなことができた、こんな楽しみ方があった、学びがあった、みたいなものを感じてもらえると受け入れてもらえる感じがしますね。

大島:若者が集まるいわゆる最近のオシャレな公園ではそういうことが体現されていることが多いですよね。TikTokを撮っている人もいれば、テイクアウトしたコーヒーを飲んでくつろいでいる人もいるし、スポーツをしている人もいたりと、なにか一つのことに規定されていない、いろんな楽しみ方ができる空間という感じがします。これってすごくSNSでのミームの遊びにも似ていて、ミーム化しているものってダンスやネット構文など特定のフォーマットは与えられるけど、それぞれをアレンジしていろんな楽しみ方をする。そういったみんなが個性を発揮するためのアレンジの余白があるフォーマットや舞台を、まちにも求めているのかもしれません。

「答えのあるまち」から「答えのないまち」へ

伊神:ワークショップで「居心地のよいまち」という視点で若者に考えてもらい、いろいろな意見が出ましたが3つのポイントがあると思います。

  • ネットでは味わえないワクワク感があるからこそパフォーマンスが上がる
  • 失敗しない安心感とガチャ感がある
  • 自分で答えを見つけられて、自分らしく主役になれる

大島:話し合いの中でどのチームも、偶然、冒険、好奇心といったキーワードがたくさん出ていて、不確実なものを楽しみたいという思いが強い印象だったかと思います。これまでZ世代は失敗を避けたがると言われることがありましたが、リスクに対しての価値観に変化の兆しがあったように感じました。失敗やリスクはただ避けるだけのものではなく、立ち向かいまではしないけど存在してしまっているものだから、それも込みで楽しもうという考え方に変わってきているのかもしれません。ツギクルでサマライズするフォーマットに乗っかると、リスクは「障害物」から「舞台装置」へといったところでしょうか。自分次第でリスクは楽しむものにも変えられるという考えが生まれてきているように感じました。

伊神:分からないことをなんでも避けてしまうと、あまり面白くないっていうのが分かってきた。ちょっとぐらいのリスクはテイクすることが、自分の成長にもなるっていうことなんだろうなと思いますね。

大島:そして、若者が自分なりのオリジナリティを加えられる余白みたいなものがまちに必要だと。

伊神:まちづくりでは、ある程度答えが見えていないと投資や意思決定がしづらく、他のまちの成功事例など定型的なものをベースに考えがちです。その一方で、答えがないものを求めている若者がいるという難しさも感じましたね。答えを自ら探しに行ける余白があるところとか、自分が主役になれる場所をつくることが大事なんですね。そのまちらしさを具体的な施設などに落とし込むだけでなく、「場づくり」にもっと集中する必要を感じました。発想の軸を変えていく必要もありそうです。

大島:規定の楽しみ方があるものをデザインするのではなく、多様な楽しみ方を生み出せる余白をデザインすることがまちづくりのカギのような気がします。

伊神:今回のワークショップを通して、若者が興味のあるものや、はやりのコンテンツに目を向けて施設やお店をつくるだけでなく、「なぜ若者はまちに出るのか」といった心理や行動をもっと掘り下げる必要がありそうだと感じました。

人の幸せの視点で「まち」を考える「都市の未来デザイン ユニット」では引き続き、若者のもつ「未来の視点」をワカモンメンバーと考えて「まち」について探求していきたいと思います。

【本件に関する問い合わせ先】
都市の未来デザイン ユニット
HP:https://www.dentsu.co.jp/labo/futuredesign_unit/index.html
Email:futuredesign-unit@dentsu.co.jp

 

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