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まちの幸せを追求する「都市の未来デザイン ユニット」No.4

全国に先駆けてオール福井でつくるデジタルプラットフォーム

2023/11/16

電通の「都市の未来デザイン ユニット」は、都市やくらしの未来像を描き、構想から実現までをさまざまな領域で支援する専門チームです(詳細はこちらから)。

本連載では、これからの都市・まちづくりに求められること、また幸福度の高い都市について、さまざまな角度から探っています。

今回は、ふくいのデジタル代表取締役社長の小林拓未氏に、都市の未来デザイン ユニットの谷口正哉氏がインタビュー。「DXを通して、福井に暮らす人、福井を訪れた人の幸せ(ウェルビーイング)を高めていく」というパーパスを掲げる同社の取り組みについて聞きました。
【ふくいのデジタル】
福井銀行と福井新聞社の共同出資により、2022年9月に設立。「DXを通して、福井に暮らす人、福井を訪れた人の幸せ(ウェルビーイング)を高めていく」というパーパスを掲げてデジタル施策を展開。その基幹事業として、福井のスマートライフ化を目指すさまざまなサービスのプラットフォーム「ふくアプリ」を開発・運営している。

小林氏と谷口氏
ふくいのデジタル代表取締役社長 小林拓未氏(左)と電通 谷口正哉氏
<目次>
全国でも珍しい、地方銀行と地方新聞社の共同事業

「ふくアプリ」の実績を積み上げながら、「オール福井」の輪を広げる

幸福度No.1の福井県を、もっと幸せにしたい

全国でも珍しい、地方銀行と地方新聞社の共同事業

谷口:ふくいのデジタルは、福井銀行と福井新聞社の共同出資により、2022年9月に設立されました。私たち「都市の未来デザイン ユニット」は、設立のお話が立ち上がったころからジョインさせていただき、小林さんはじめみなさんに伴走しながら、ふくいモデルのデジタル社会の実現のお手伝いをさせていただいています。今日は改めて、ふくいのデジタル設立の経緯やこれまで行った施策、理想とする幸せな街の姿についてお話を聞かせてください。

小林:よろしくお願いします。まず、設立の経緯からお話ししますね。福井銀行と福井新聞社はいずれも1899年に創業し、福井で事業を行ってきました。それぞれ提供するバリューは異なりますが、両社とも地域の発展と地域に暮らす人々の豊かな生活を実現することを企業理念に掲げています。

2016年には、地域活性化の基盤づくりで業務提携し、「ふくい価値創造プラットフォーム構想」を提唱しました。その具体的な取り組みとして、県内のキャッシュレス推進を目指して電子マネーカード「JURACA(ジュラカ)」を発行したり、福井県に特化したクラウドファンディングサービスを提供したりしました。

谷口:以前から、両社で福井の活性化のための取り組みを行ってきたのですね。

小林:2019年には「新・ふくい価値創造プラットフォーム構想」を発表しました。これは、福井県内の各事業者、自治体と連携しながらスマートフォンアプリを通じた地域マネー・地域ポイントシステムといった「決済のプラットフォーム」の構築を目指すものです。同時に人づくり・ものづくりの支援スキームといった「人・情報のプラットフォーム」構築も実現したいと考えています。

谷口:ふくいのデジタルの方向性が、この時すでに固まりつつあった、と。

小林:そうです。「新・ふくい価値創造プラットフォーム構想」のビジョンは、「生活者視点で新たな体験価値を提供することにより、サステナブルな社会をつくり上げていく」ことです。キャッシュレス化にとどまらず、もっと幅広い領域に目を向け、デジタルの力で地域を盛り上げていくことを目指しました。その基盤として、スマートフォンアプリを通じた、ふくいモデルのデジタルプラットフォームを構築しようとしたのです。その流れの中で2022年に、ふくいのデジタルが設立されて、「ふくアプリ」というスマートフォンアプリの事業がスタートしました。

福井モデルのウェルビーイング・デジタル社会

谷口:地方銀行と地方新聞社が共同事業を興して、県全体を発展させていこうという取り組みは、全国的に見ても珍しいのではないですか?

小林:なかなかないと思います。でも私たちは、2016年に「ふくい価値創造プラットフォーム構想」を提唱したときから2社だけで事業を展開しようとは考えていませんでした。県内のさまざまな事業者や自治体、シビックテックの関係者などあらゆるステークホルダーと一緒に「オール福井」で地域を盛り上げていくことを念頭に置いていました。これはいまも変わらない大事なコンセプトです。

「ふくアプリ」の実績を積み上げながら、「オール福井」の輪を広げる

谷口:2022年9月のふくいのデジタル設立から1年がたちました。先ほど、「生活者視点で新たな体験価値を提供する」というビジョンをご紹介いただきましたが、これまでどのような施策を行ってきましたか?

小林:最初の施策は、2022年10月7日から9日に福井県鯖江市、越前市、越前町で行われた産業観光イベント「RENEW」における、プレミアム付きデジタル商品券「RENEW Pay(リニューペイ)」の発売でした。「ふくアプリ」は2022年10月1日にリリースされましたが、このアプリのデジタル決済機能を利用する初めての企画で、5000円を払うと6000円分の「RENEW Pay」がチャージされる仕組みでした。

「RENEW」は、工房などものづくりの現場を見学・体験できるイベントで、マーケットも開かれました。「RENEWPay」は、このイベントでの物販や工房体験の支払いに利用できます。イベント期間中に約500人の利用があり、うち4割は県外の来訪者でした。

谷口:県外の方にも地域のローカルアプリである「ふくアプリ」をダウンロードして使っていただいたということですね。来訪者にとってはお得感のある企画ですね。

小林:そうですね。ただ、私たちは、単に消費喚起を狙うだけでなく、「RENEW Pay」を通して、当イベントにおける消費行動のさまざまなデータを集めたかったのです。実際にデータを分析してみると、どこから来た人がどんなものにいくらお金を使うのかがわかりました。さらに、女性よりも男性の方が決済金額が大きいこと、県内の方は飲食系の決済に「RENEW Pay」を使うケースが多いこと、決済金額は4000円台が多いことなど、いろいろな特徴が見えてきました。そして、われわれが集めたデータは、個人情報が特定されない状態でオープンデータとして地域に還元し、それぞれの事業に役立てていただく取り組みを進めました。

谷口:データを還元するというのは、例えば地域の伝統工芸をされている事業者の方が新たな商品開発やイベントの企画をするときにそのデータを活用する、といったことでしょうか?

小林:それもありますが、他にも、自治体が今後のイベントの施策を立てるときにもデータが活用できそうです。この「RENEW Pay」での実績をベースにして次に行ったのが、2023年1月から全国47都道府県で展開されている全国旅行支援事業への参画でした。旅行客が宿泊費の補助を受けられたり地域クーポンが付与されるといった内容ですが、1月から地域クーポンの配布は、原則的に電子クーポンに統一されました。そのとき、福井県の電子クーポンの発行を「ふくアプリ」が担当させていただきました。このような全国規模の施策において地域のローカルアプリが電子クーポンの発行を担うケースはまれです。観光連盟や地域の事業者と連携して事業を展開しました。

このとき、クーポンの発行に加えて、「ふくアプリ」で県内の観光情報やニュース、地域の防災情報を配信することにしました。観光に来られた方に決済の利便性だけでなく、さまざまな付加価値を提供できたのではないかと考えています。おかげさまでこの事業を通じて「ふくアプリ」の登録者数が15万人に達し、「ふくアプリ」の加盟店は約3000店舗まで拡大しました。

小林氏

谷口:全国規模の旅行支援事業ですから、一気にスケールしたのですね。そもそも、全国旅行支援事業に、なぜ「ふくアプリ」が選ばれたのでしょうか?

小林:ふくアプリでは電子クーポンシステム以外にも、観光情報や地域情報、旅行支援事業以外のクーポンなどを提供しておりました。決済機能だけではなく、利用される方にそのような付加価値を提供できることも「ふくアプリ」を採用いただいたポイントと認識しております。また、「RENEW Pay」で決済および決済データの利活用についてしっかりと実績を積んだことも大きな要因だったと思います。

谷口:「RENEW Pay」の施策が次の事業につながったわけですね。こちらは、「RENEW」より多くのデータを取得できますね。 

小林:おっしゃる通りです。2023年1月から7月までで7億円ほどの決済がアプリの中でなされましたので、観光客が福井のどこを訪れて、どのような場所でお金を使っているか、詳細な観光の行動データを得ることができました。こちらもオープンデータとして観光連盟や各地域の事業者に還元する取り組みをいま行っているところです。

さらに、2023年2月には、地元の武生(たけふ)商工会議所とふくいのデジタルが連携して、越前市での買い物をお得にできる電子優待(クーポン)企画「デジタルたけポン」を実施しました。これは、これまで紙で発行していたクーポンをデジタル化して、「ふくアプリ」で提供するというものです。デジタル化により、クーポンがどこでどのように使われたのかが把握できました。思ったよりも市外から来店される方が多いんですよ。こちらの施策で得られたデータも武生商工会議所と共有しつつ、今後の売り上げ拡大の施策を一緒に考えています。

谷口:観光事業のような全県レベルでの事業もあれば、この越前市のような特定の自治体単位の事業も行っているのですね。その中でいろいろなステークホルダーが加わり、オール福井の連携や取り組みがどんどん進んでいることがうかがえます。福井銀行と福井新聞社という、地元に根付いた歴史ある企業が腰を据えて取り組んでいるという信頼感も大きいでしょうね。

小林:そうですね。「ふくアプリ」を中心に、いろんな方がつながっていくことを実感しています。2023年11月に「ふくいはぴコイン」がローンチしました。

谷口:どのような事業ですか?

小林:福井県は現在、県内のデジタル地域通貨の基盤を整備しています。その過程で、県のデジタル地域通貨のプラットフォームに「ふくアプリ」が選定されました。

谷口:県内の各自治体がバラバラのプラットフォームで施策を行うのではなく、できるだけ一本化しようということですね。

小林:はい。これは全国でも非常に珍しい取り組みです。「ふくいはぴコイン」は、福井県内で利用できるデジタル地域通貨・ポイントのプラットフォームです。例えば、子育て給付金など、国や県の一部給付金の受け取りに利用できたり、ボランティア活動の対価として得られるポイントで買い物ができたりします。また自治体はデジタル地域商品券を「ふくいはぴコイン」を活用して販売できます。今後も各自治体のさまざまな施策で活用を考えています。

※ふくいのデジタル リリース(11月1日)
福井県・県内全市町の各種デジタル決済プラットフォームへ ふくアプリが大幅リニューアル

幸福度No.1の福井県を、もっと幸せにしたい

谷口:今後はどのような事業を考えていますか?

小林:福井県は、県内のデジタル地域通貨の基盤整備以外にも、デジタルの力をフル活用して、域内経済の活性化や、県民の行動変容の促進や、地域コミュニティの活性化、行政政策の高度化を、オール福井で一体となって推進しようとしています。

ふくいのデジタルも、教育、観光、交通などあらゆる領域で、さまざまなステークホルダーから相談を受けています。「ふくアプリ」を基盤にして、さまざまな社会課題の解決につなげていこうという流れが起きています。

谷口:「ふくアプリ」の事業を見た自治体や地域の事業者などが、自分たちの施策を「ふくアプリ」で実現したいと考える。そして、施策を実現してサービスが良くなる。さらにいろいろなステークホルダーを巻き込んで、オール福井の輪、福井のデジタル化、クオリティオブライフが向上するという好循環が生まれているのですね。福井県の大きなニュースといえば、いよいよ2024年3月に北陸新幹線が敦賀駅まで延伸します。これに絡めた施策も検討されていますか?

谷口氏

小林:じつは、福井銀行と福井新聞社と福井県北部の11市町の皆さんと、ふくいMaaS協議会を2022年に立ち上げました。協議会には、地域の交通事業者も入っていただいています。新幹線の延伸に合わせて、「ふくアプリ」で企画乗車券を発売したり、経路検索ができるようにしたり、MaaS機能を実装していく話が進んでいます。交通の領域でも「ふくアプリ」で利便性を向上させて、多くの人のウェルビーイングを高めていきたいと考えています。

谷口:最後に、小林社長、もしくはふくいのデジタルの考える、幸福度の高い街の姿とはどのようなものか教えてください。

小林:これは私見で抽象的な表現になりますが、街の中でいろいろなチャレンジが起きて、そこから新たな価値が生まれて、その価値が地域内でしっかり循環しながら拡大していく街だと思っています。福井県は現時点でも幸福度が高い県だと言われています。自然が豊かで、食べ物もおいしく、なにより住みやすい。そして、いい人が多い県です(笑)。日本総合研究所の全47都道府県幸福度ランキングでは、2014年以来、5回連続1位に輝いています。地元の方々に話を聞くと、福井に愛着があり、文化や経済環境に誇りを持っている方も多いです。

しかし、現状維持で満足しているだけでは少子化の波に飲まれ、これまで地域で生み出されてきた価値が失われたり、地域外に散っていってしまいます。恒久的に幸福度の高い街であり続けるためには、やはりチャレンジして、そこで生まれた価値が循環しながら拡大するモデルを構築していくことが必要です。

谷口:その通りですね。その価値をどうつくっていくかですね。

小林:2016年に「ふくい価値創造プラットフォーム構想」を提唱した時から私たちは、地域の産官学のさまざまなステークホルダーが共創して、地域社会や経済のサステナブルなエコシステムをつくり上げることこそ地域のあるべき姿だと考えていて、それは、ふくいのデジタルの事業の骨格になっています。そして、デジタルの力を活用しながら福井の未来をみんなでつくる私たちの取り組みは、先進的でチャレンジングなモデルだと自負しています。これからも、「オール福井」でチャレンジしながら、地域に新たな価値を生み出していきます。

谷口:「ふくいモデルのデジタル社会」が、他の地域の街づくりの参考にもなり、各方面に良い影響を与えられれば、さらにうれしいですね。本日はありがとうございました。

小林氏、谷口氏

【本件に関する問い合わせ先】
都市の未来デザイン ユニット
HP:https://www.dentsu.co.jp/labo/futuredesign_unit/index.html
Email:futuredesign-unit@dentsu.co.jp
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