左から、伊賀公一さん(カラーユニバーサルデザイン機構)、小林美穂さん(マテル・インターナショナル) DEIの取り組みを精力的に行い、インクルーシブな企業風土を育てている企業の皆さまにお話を伺うことで、「DEIな企業風土の耕し方」のヒントを探る本連載。第5弾は、ユニバーサルデザインに根差した玩具(がんぐ)シリーズの展開を通じて、多様性や個性の大切さを伝え続けるマテル・インターナショナルです。
本記事では、マテル・インターナショナルの小林美穂さんと、同社製品の色覚多様性の観点からのレビューを行ったカラーユニバーサルデザイン機構の伊賀公一さんに、「子どものDEI」の取り組みの現状と展望について聞きます。
お話を伺った人:小林美穂さん(マテル・インターナショナル株式会社 アソシエイトマーケティングマネージャー)、伊賀公一さん(特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長) 聞き手:海東彩加
遊びの輪をもっと広く――UNOとブロックスの再デザイン――はじめに、マテル・インターナショナル(以下、マテル)の主なDEIの取り組みについて教えてください。
小林:当社の玩具は、世界共通の仕様で展開していますが、より多くの方に遊んでいただけることを目指して、仕様の改善やアップデートに取り組んでいます。その一つとして、2024年から「UNO(ウノ)」「Blokus(ブロックス)」など、当社で展開するゲームの8割を色覚多様性に対応したデザインに変更しました。
――色覚多様性に対応するデザイン変更とは、具体的にどういうものですか。
小林:例えば、ウノとブロックスは、赤・青・黄・緑という4色のカードやブロックで構成されていますが、色覚多様性の観点で、赤と緑の識別がしづらいなど、人によって遊びにくいという状況がありました。
色の見え方のシミュレーション画像。P型やD型の色覚特性のある人では、赤と緑の違いが分かりづらい。※P型とD型は赤などで明暗の見え方の違いがあります。 小林:そこでウノは、赤のカードには丸のマーク、緑のカードには三角と、各色に対応したマークを追加。ブロックスは色ごとにブロックの形状を変えるといった形で、「色以外」の要素に工夫を加えて違いを識別しやすくしました。 また、これらのゲームが色覚多様性に対応していることが一目で分かるように、対応ゲームのパッケージには、アイコンを当社独自で付与しています。
(左)各色に対応したマークを追加した「ウノ」、(右)色ごとにブロックの形状を変えた「ブロックス」 色覚多様性に対応したマテル社商品には、同社が独自に策定したグローバル共通のマーク(ユニバーサルデザインのマーク)がついている。 ――このデザイン変更にあたり、カラーユニバーサルデザイン機構(以下、CUDO)とはどのような取り組みがあったのですか。
伊賀:CUDOでは、さまざまな製品や建造物などにおける配色の検証を行い、カラーユニバーサルデザインの基準を満たしているか否かを評価しています。ウノとブロックスの仕様が変わるタイミングで、小林さんからCUD認証のご相談を受けました。
小林:前職の家電メーカーで初めてカラーユニバーサルデザインを知ったのですが、実はその際にCUD認証をいただいたこともあり、ゲームの仕様変更が決まった際に真っ先にCUDOさんのことが思い浮かびました。認証取得には、どなたでも同じように遊べるかということが判断基準の一つになると思うのですが、ブロックスは色の濃淡や形状の違いで瞬時にブロックを識別できるという評価をいただき、CUD認証を取得できました。
※CUD認証=カラーユニバーサルデザイン機構(略称「CUDO」)が行う第三者認証。CUD認証を取得した製品に色覚の多様性に対応していることを保障する証しとして表示できる。
色覚多様性を考えることは、「分かる」「伝わる」を増やすこと――もしかしたら、お話に出た「色覚多様性」という言葉になじみがない読者もいるかもしれません。あらためて、色覚多様性とCUDOの活動について教えていただけますか。
伊賀:人間の色の見え方というのは、人が生まれ持った感覚でそれぞれ異なるものです。その多様性がある理由は、「いろんな見え方があった方が有利だったから」という人間の進化の結果だと、最近の研究では言われています。最も割合の多い一般色覚者(C型)と色覚が異なる人をここでは「色弱者」と呼びますが、色弱者は特に男性に多く、地域や人種による差もあるとされています(※)。
※色づかい(配色)の対応がなされていない社会において情報が伝達されにくい人を総称して、CUDOでは「色弱者」としています。 色覚型は大きく5種類に分かれ、最も割合の多い色覚型は「C型」で、色弱に分類される「P型・D型」は日本人男性の約20人に1人、女性の約500人に1人いるとされています。詳しくはCUDOサイトをご参照ください。https://cudo.jp/?page_id=84
伊賀:色覚多様性とは、血液型と同じで遺伝的多様性によるものであり、病気ではありません。それぞれ得手不得手の領域が違うというだけで、赤と緑が同じ色に見える人が、青と緑の分類は得意なこともあります。 しかしその見え方の違いによって、情報が正確に伝わらないことがあります。例えば、注意書きは赤字で目立たせて書かれることが多いですが、黒と赤の識別がしづらい人は、近寄ってみないと分からない。ある地下鉄路線では、当初色分け表示だけだったため、色の見分けができないために乗り間違える人もいたそうです。分かりやすく伝えるつもりで使用されている色だけでは、デザインとして機能しない場合があるのです。
カラーユニバーサルデザイン機構 伊賀さん 伊賀:当団体では、配色に関するコンサルティングを行うことで、世の中にある、このようなさまざまなデザインを「色覚多様性に対応したもの」にしていく活動を行なっています。CUDOの立ち上げのきっかけは1998年、全国の交通信号機の多くがLEDに変わる際に参加した色の見え方の調査でした。そこから色弱者と一般色覚者、色の専門家や医師などいろんな人と一緒に活動を広げ、これまで1万以上のアイテムを認証してきました。 認証したものの中には、ハザードマップやカーナビなど、色を正しく見分けられないと危険につながるものがあります。一方、ゲームの分野でも、色を識別できないと遊ぶことができないケースがあります。ある有名ゲームでは、赤を少しオレンジにするなど色を微調整しただけで、色を見分けることができ初めて遊び方を知った人もいました。そのゲームで遊べるか遊べないかということに、色は非常に深く関わっているんです。
小林:伊賀さんがおっしゃったように、たしかに注意書きが赤字で書かれていることは多いですよね。当社の玩具も、常に多様性に配慮した伝え方や工夫によってアップデートしていきたいと思っています。
――配色の違い一つで、情報伝達の精度も全く変わってくるということですよね。こうしたカラーユニバーサルデザインに対する意識は、玩具業界では広がってきているのでしょうか。
小林:使用する素材の環境配慮への関心は高い一方で、色覚多様性についてはまだ広く知られていない印象があります。ウノやブロックスの仕様変更を社内やお取引先にご説明する際にも、例えば日本人男性の約20人に1人が色覚の特性があるという話をすると、驚く方がとても多くいらっしゃいます。 保護者の方でも、お子さんがりんごの絵を赤色以外で描いた時に初めて色覚の特性に気づいたという話を聞きます。周りに当事者がいないとなかなか知るきっかけがないのかもしれませんし、実は同じ学級にいても、本人から語られる機会がないまま知られずにいることもあるのだろうと想像します。
伊賀:私は幼い頃から周りに自分が色弱者であることを公表していましたが、学校や職場でそれを打ち明けられずにいる人は、いまだに多くいます。その背景には、日本で長年、色覚検査が進学や職業選択の制限に用いられてきたという歴史があります。実際に、2000年代初頭まで、学校健診や雇用時の健康診断で色覚検査が必須とされ、進路に影響するケースも少なくありませんでした。 そうした経験から、不利益につながるという懸念を持ち、色覚の違いについて自ら語ることをためらってきた人も多いのだと思います。そうして当事者たちが色弱であることを隠しているため、一般色覚を基準にしたモノやサービスに対して声をあげられない状況があったのです。だからこそ、一般色覚の人たちが当たり前に使っている「色」を見直すことは、見え方の違いによる行き違いや困りごとを、未然に減らすことにつながるのです。
「誰もがバービー」を通じて表現し続ける、個の多様性――個の多様性を表現するマテルの代表的玩具としては、バービーの存在も欠かせません。さまざまな人種や職業、体型を表現した多種多様なドールの展開が印象的ですが、どんなブランド方針で取り組んでいるのでしょうか。
小林:バービーは「You Can Be Anything(何にだってなれる)」をコンセプトに、発売以降長い歴史の中で女性の多様性を表現してきました。ここ数年での大きな転換としては、2016年に、身長が低い・身長が高い・ふくよかな体型のドールが追加されたことでした。 「ファッショニスタ」と呼ばれるこのシリーズには、車いすや義足のドールもあるのですが、「バービーの友達の、車いすの◯◯さん」ではなく、全員が、誰もが「バービー」です。さまざまな特徴のあるドールがすべて「バービー」という名前であることで、バービーは特定の個人ではなく、美の多様性と「あなたは何にだってなれる」というコアメッセージをより強く伝えています。 車いすのバービーにはスロープが付属しており、車いすのままのれるエレベーターのついたドールハウスに自由に行き来ができたり、専門家の協力のもと常陽車いすのデザインにこだわって再現するなどリアルな表現にもこだわっています。ダウン症のバービーのドレスには、ダウン症の啓発シンボルである黄色と青の蝶々をあしらっています。こうして新たなドールを出す際は、関連する団体や専門家にご協力いただき、デザインに関するアドバイスをいただいています。
自閉症のバービーは、当事者による権利擁護団体(ASAN)との開発によるもの。外部の音を軽減するヘッドホンを着用している。 小林:またバービーは、さまざまな啓発や教育イベントなどでも多くご活用いただいています。先ほど紹介した色覚多様性のマークやダウン症のシンボルもそうですが、こうした玩具との触れ合いで、「これって何だろう」といった会話が生まれます。子どもたちが多様性に自然と触れ、会話のきっかけを持てる点で、玩具の役割は非常に大きいと感じます。
――そうした会話が家族間で生まれたら、子どもだけでなく大人にとっても新たな気付きがありますね。
小林:そうですね。私自身、仕事がきっかけで学んだ色覚の知識で、自分の子どもに説明することがあります。子どもから「あの色はみんな見えるの?」などと聞かれた時には調べ直したりして、そのうちに多様性の勉強がどんどん広がってきました。保護者も子どもと一緒に学ぶ姿勢を持てるといいですよね。 一方で、ファッショニスタシリーズなど多様なバービーについてお客さまに説明していると、保護者の反応が子どもに与える影響力の危険性を感じることもあります。保護者の意識は子どもの感情や反応につながるものなので、例えばある保護者の方が義足のバービーを「かわいそうだね」と仰っているのを目にしてしまいました。周りの大人の言葉や反応が子どもの中にも残ってしまいますよね。ある大学で長くバービーを使って研究してくださっている方からは、「義足ってかっこいい」「速く走れそう!」と言う子どもの反応を見て大人の方が学ぶこともあるとお聞きしました。お子さまにとっては“初めて”のきっかけになりやすい多様性の接点だからこそ、先入観なく会話ができるとフラットな視点が育まれるでしょうし、自分もその視点をこれからも大事にしていきたいと思っています。
マテル・インターナショナル 小林さん 気づきをアクションへ――子どものDEIを広げるためには――今後、色覚多様性をはじめとするDEIを広げる上で、目指しているものはありますか。
伊賀:私たちは世の中に「分かる」ものを増やすために、「色の見分けにくさ」を体験できるカラーシミュレータの開発協力をはじめ、配色の考え方や認証制度づくりなど、さまざまな取り組みを行ってきました。その中でまだ十分に整っていないと感じているのが、色弱の子どもが、自分の見え方を前提に「色」を学べる仕組みです。 多くの場面では、「この色はこう見えるのが普通」という前提で教えられており、見え方が違う子どもが、色そのものをどう理解すればいいのかを学ぶ機会は多くありません。だからこそ、色を感覚だけでなく、見え方の違いも含めて説明できる「知識としての色」として伝えることができれば、子ども自身が混乱せずに理解できるのではないかと考え、個人の活動として少しずつ取り組んでいるところです。 あともう一つは、色弱の人たちによる絵画展の開催です。色弱の人の絵を見ると「色使いがおかしい」と思う人もいるかもしれませんが、その独特な色使いは他にはない表現としてとても魅力的だと感じています。以前開催した際には、色弱を理由に絵を描くことから離れていた方にも多く参加していただけました。色覚多様性の表現の場として、また開催したいと思っています。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
伊賀:カラーユニバーサルデザインは、「誰もが分かりやすいものをつくる」ことを目指し、行政や企業が率先して進めてきたものです。CUDOはそのサポートをする立場で活動してきました。世の中に一つでも分かりやすい例を増やしていくために、今後も皆さんの活動を応援していきたいと思いますので、ぜひお気軽にご相談ください。
小林:この記事を読んでいただいて、「そういえば、うちの会社の商品は色覚多様性に対応していたかな?」と思うことがあれば、一度確認してみることをお勧めします。商品やサービスを一から変えることは難しいですが、身の回りで気づいた点を共有したり、少し見直してみたりすることの積み重ねで、世の中にも「変えよう」という自発的な動きが増えていくと思います。ぜひ知ったことを身近な取り組みにつなげていただけたらうれしいです。