「は・か・た・の・しお!」
誰もが一度は耳にしたことのある、わずか数秒のサウンドロゴ。そのフレーズが2026年2月に開催された「サウンドロゴカラオケAWARD 」をきっかけに、カラオケで“歌われる”存在となり、大きな話題を呼びました。
「サウンドロゴカラオケAWARD」は、企業や団体のサウンドロゴをJOYSOUNDでカラオケ配信し、店舗での歌唱回数や決勝ステージでのパフォーマンスを通じて、日本一のサウンドロゴカラオケを決めるアワードです。
なかでも大きな注目を集めたのが、伯方塩業の「伯方の塩」。SNSではカラオケの歌唱履歴が「伯方の塩」で埋め尽くされる様子が拡散され、テレビ番組などでも多数取り上げられました。
なぜ、企業のサウンドロゴがここまで熱狂を生んだのか。エクシング 専務取締役の安井正博氏、伯方塩業 プロモーション部 部長の井上純平氏、事務局の電通森本紘平による座談会を通じて、「サウンドロゴカラオケAWARD」の舞台裏と、企業×音楽の新たな可能性を探ります。
(左から)伯方塩業 井上純平氏、エクシング 安井正博氏、電通 森本紘平 前代未聞の“瞬間エンタメ”は、カラオケ業界から見ても異例だった森本:「サウンドロゴカラオケAWARD」の決勝が行われたのは2026年2月でしたが、数カ月経った今もテレビ露出やSNSでの話題が続いています。 SNSでのバズの起こり方やメディアでの取り上げられ方も含めて、企業のサウンドロゴがここまで熱狂を生む現象は、これまでなかったように感じています。カラオケメーカーであるJOYSOUNDから見ても、今回の盛り上がりは特殊な現象だったのでしょうか。
安井:ひと言で申し上げると、「異例中の異例」だったと思います。通常のカラオケは、アーティストの楽曲がリリースされ、皆さんがそれを聞いて覚え、歌うという流れがあります。近年は配信のスピードも速くなっていますから、楽曲を聞いてから歌うまでのスパンは短くなっています。 ただ、今回のサウンドロゴカラオケはそれとも違いました。もともと耳なじみのよいサウンドがあり、多くの人が知っているフレーズがカラオケとして配信されたことで、配信直後から一気に歌われたんです。これは、これまでのカラオケ配信の流れでは想定していなかった動きでした。
森本:SNSでの広がり方も独特でしたよね。カラオケの履歴画面が「伯方の塩」で埋まっている写真が投稿されて、それを見た人が「こんな曲があるの?」と反応し、さらに歌いに行くという循環が生まれていました。
安井:そうですね。カラオケの履歴に「伯方の塩」が並ぶ画面はだいぶインパクトがありますから(笑)。それを見た人が「何これ?」と思い、自分も歌ってみて、その様子をSNSに投稿する。そんな連鎖反応が、話題化につながった大きな要因だったと思います。 私自身も「1曲目、歌ってくださいよ」と言われて、「伯方の塩」を歌うことが何度かありました。すると一瞬で場の空気が変わるんです。「こんな曲、あるんですか?」と驚かれたり、そこから会話が広がったりする。通常のアーティスト楽曲とは違う、新しいコミュニケーションが生まれていた感覚があります。
森本:“推し曲”や“意外な選曲”というカラオケの楽しみ方の中に、企業や商品のサウンドロゴという選択肢が入ってくる。それがとても新鮮でしたよね。
「耳に残る広告」から「歌うブランド体験」へ。サウンドロゴカラオケ誕生の背景森本:「サウンドロゴカラオケAWARD」は、JOYSOUNDが持つカラオケ資産を、これまでとは違う形で企業コミュニケーションに生かせるのではないか、という発想から始まったプロジェクトでしたよね。
安井:はい。カラオケというと、3〜5分の楽曲を歌うイメージが強いと思います。アーティストが作った楽曲を、歌詞テロップや音源、映像と組み合わせて配信する。それが私たちの基本的なサービスです。一方で、今回のサウンドロゴカラオケは本当に短い。まさに“瞬間エンタメ”です。一瞬で始まり、一瞬で終わる。その短さの中にインパクトがあります。最近は、若い世代を中心に「タイパ」という言葉もよく使われますが、短い時間でも人の心を動かせるものがある。サウンドロゴは、その可能性を持っていると思いました。
森本:カラオケに行く機会が少ない人や、歌が苦手な人にとっても、すぐに歌い終われるサウンドロゴの存在はありがたいですよね。
安井:そこは大きいです。カラオケに行かない理由として、「最近の曲を知らない」「歌が長いと申し訳ない」「歌がうまくないから不安」という声をよく聞きます。でも、サウンドロゴなら歌のうまさはあまり関係ありませんし、数秒で終わり、ちゃんと盛り上がります。私はよく「記録よりも記憶に残るカラオケを楽しみましょう」と話すのですが、サウンドロゴカラオケはまさにそういう存在だと思います。点数を競うだけではなく、その場の空気をほぐしたり、会話のきっかけになったりする。カラオケは、マイク一つで誰もが主役になれるエンタテインメントです。ヘビーユーザーだけでなく、ライト層にも「カラオケって楽しい」と感じてもらえるきっかけになるのではないかと考えていました。
森本:JOYSOUNDは通信カラオケのパイオニアでもあります。そのJOYSOUNDが、歌が苦手な人も楽しめる新しいカラオケ体験をつくったことには、大きな意味があると感じています。
安井:私たちは「いつでも、どこでも、誰とでも楽しめるエンタテインメント」を大切にしています。エクシングという社名には、未知(X)へ挑戦し続ける(ING)という思いが込められています。通信カラオケを始めた当時も、まだ十分に許諾が得られない楽曲が多い中で、ユーザーが本当に歌いたい曲は何かを考え、挑戦を続けてきました。今回のプロジェクトも、そのチャレンジの延長線上にあると考えています。カラオケの楽しみ方はもっと多様であっていい。サウンドロゴカラオケは、その新しい楽しみ方を提案できる取り組みだと思います。
自社の“いのち”であるサウンドロゴを起点に、塩に興味を持ってもらいたい森本:ここからは、伯方塩業さんのお話を伺っていきます。最初に「サウンドロゴカラオケAWARD」の提案を聞いたとき、井上さんは率直にどう思われましたか。
井上:とても面白い話だと思いました。今、若い世代を中心に、食に対するこだわりが薄くなっていると感じる場面があります。その中で当社の商品を知ってもらうには、SNSで話題化され、自然に広がっていくきっかけが大事だと思っていました。 当社では2019年に「2代目声優オーディション」を実施し、ありがたいことにSNSを中心に大きな反響がありました。今回の話を聞いたときにも、サウンドロゴを起点にもう一度SNSを中心とした話題をつくり、伯方の塩に興味を持ってもらうきっかけをつくれるのではないかと感じました。
森本:そもそも伯方塩業さんにとって、サウンドロゴはどのような存在なのでしょうか。
井上:決勝ステージで「いのち」と表現したように、私たちにとって欠かせない存在です。伯方塩業は、法改正によって効率的な塩づくりが進められる中、昔ながらの塩田でつくられていた塩を残してほしいという消費者運動から生まれた会社です。創業当初は資金も十分ではなく、多くの方の支えがなければ立ち上げられませんでした。 テレビCMも同様で、最初は決して大きな予算があったわけではなく、多くの方の支えによって誕生しています。そのサウンドロゴを大切に、長く使い続けてきたことで、「伯方の塩」という商品名を多くの方に覚えていただけるようになりました。今では、小さなお子さんからご年配の方まで、幅広い世代に口ずさんでいただける。サウンドロゴは本当に大切な財産だと思っています。
安井:ちなみに、あの力強い歌い方は、最初から狙っていたものだったのでしょうか。
井上:当時、CM制作は代理店に依頼していたのですが、実は声の主が誰なのか、当社は把握していませんでした。判明したのは当社が50周年を迎えた2023年と、つい最近のことなんです。それまでに分かっていた情報と言えば唯一「シャウトができる方」を製作者は希望していたということです。放送当初は「なぜ怒っているんだ」「耳障りだ」と言われたこともあったと聞いています。ただ、その違和感も含めて記憶に残り、長く使い続けることで耳になじんでいったのだと思います。
森本:ヒット曲には「うまく歌いたい」というニーズがありますが、サウンドロゴには「叫びたい」というニーズもあるのではないかと思っています。「伯方の塩」は、その意味でもカラオケとの相性がとても良かったのかもしれません。
「伯方の塩」は、なぜここまで強かったのか森本:伯方の塩のサウンドロゴカラオケは、テレビ番組などで取り上げられる機会も多かったと思います。社内外からはどのような反響がありましたか。
井上:「テレビに出ていたね」という反応はもちろん、「すごい財産を持っていますね」「どうやって参加したんですか」と聞かれることもありました。地方のテレビ番組でも取り上げていただきましたし、反響は大きかったと感じています。
森本:JOYSOUNDから見て、「伯方の塩」はどれくらい異例の歌われ方だったのでしょうか。
安井:すごいことが起きています。JOYSOUNDには現在、44万曲以上の楽曲が配信されています。その中で「伯方の塩」は、週間ランキングで4位に入りました(集計期間:2026/06/15 - 2026/06/21)。さらに、デイリーランキングでは最高2位まで上がっています。これは、ランキングでいえば、Mrs. GREEN APPLEさんや米津玄師さんといったアーティストの楽曲に並ぶようなヒット度合いです。
森本:本当にすごいですよね。しかもテレビ露出の直後に一時的にランクインしたのではなく、ずっとランキング上位をキープし続けていますよね。
安井:そうなんです。何か大きな仕掛けをして瞬間風速的にバズったというより、アワードの反響やSNSでのバズが連鎖して、ずっと皆さんが歌ってくださっている。わざわざ「伯方の塩」を歌うために来店された方もいるでしょうし、カラオケ中に「こんな面白い曲があるなら試してみよう」と歌った方もいると思います。そして、実際に歌ってみると気持ちいいんですよ。シャウトするように歌った後、思わず笑ってしまう。何度もリピートした方も多いんじゃないかと思います。
森本:従来のテレビCMは、どれだけ認知されたかを測るケースが多いですが、今回は「どれだけ歌われたか」が見える。そこに、広告コミュニケーションとしての新しさもあったと思います。
井上:そうですね。テレビCMと違って、ランキングという形で可視化されるので、そこは面白いと思いました。実は、うちの経営層もカラオケに行ってたくさん歌っていたそうです。今回の取り組みをきっかけに、自社のサウンドロゴに対する愛着が深まった従業員も多いと思いますね。
決勝ステージで生まれた、企業同士の熱量とドラマ森本:決勝ステージについても伺いたいです。安井さんがこの企画に手応えを感じた瞬間はありましたか。
安井:まず、開催の挨拶で私がJOYSOUNDのサウンドロゴをお手本として歌った瞬間ですね(笑)。結果はまさかの採点不可だったのですが、会場がどっと笑ってくれました。その温かい空気感に、「これは楽しいアワードになるな」と確信しました。 その後、トップバッターのセルビスグループさんが漫才のようなプレゼンをされて、会場が一気に温まりましたよね。ほかのプレゼンも本当に素晴らしく、参加企業の皆さんがこのアワードに熱意を持って臨んでいることが伝わってきました。 私は審査員の立場でしたが、「次は何が来るんだろう」とずっとワクワクしていました。いろいろなカラオケ大会の審査を経験してきましたが、こんなに楽しい審査はなかなかありません。
トップバッターで漫才を披露したセルビスグループ 森本:リハーサルの段階から、感動的でしたよね。各社がウェブでの説明会やSNSでお互いの存在を知っていた中で、初めてリアルに一堂に会したこともあって、競い合う相手でありながら、一緒に新しいコンテンツをつくる仲間のような空気がありました。
安井:そこが本当に良かったですね。最初にアワードの話を聞いたときは、数秒程度のサウンドロゴカラオケをどう審査するのか、正直なところ想像しきれない部分もありました。でも、実際には歌唱だけではなく、プレゼンテーションや「自社にとってサウンドロゴとは何か」を語る時間がありました。そこに企業の想いや文化が表れる。単なるカラオケ大会ではなく、企業の魅力を伝えるコンテンツになっていたと思います。
森本:井上さんは、どのような戦略で決勝に臨まれたのでしょうか。
井上:正直に言うと、戦略はほとんど考えていませんでした。最初のセルビスグループさんのプレゼンが本当に立派で、私たちはかなり会場に飲まれてしまいましたね。当日は目をカチカチさせる小道具を持っていったのですが、少しおちゃらけすぎかなと思っていたんです。でも、他社さんのプレゼンを見ると、それでもまだおとなしいくらいでしたね。
森本:決勝ステージの参加メンバーはどうやって決めたのでしょうか?
井上:社長の石丸から「全社で希望を募って参加すれば、交流が図れるのではないか」という提案がありました。最終的には松山市の本社に所属する私と、瀬戸内海に浮かぶ大三島にある工場に勤務するメンバー、合計3人で臨みました。普段は本社と工場で人事交流が多いわけではなかったので、あまり接点のない工場のメンバーと一緒に取り組めたことはとても良かったです。
安井:カラオケや歌をきっかけに、同じ会社の中でも普段あまり話す機会のない方同士の交流のきっかけになったのであれば、それはすごくうれしいです。
井上:JOYSOUNDで配信が始まった後、これまで家族でカラオケに行く習慣がなかった社員が、子どもを連れてカラオケに行ったというエピソードも聞きました。私もつい最近、スーパーの塩売り場に行ったときに、小さい子が商品を見て「伯方の塩」のサウンドロゴを歌う姿を目撃したことがあります。これもカラオケ配信があったからこそ起きたことかもしれないと思いました。
森本:「伯方の塩」というフレーズが、いろいろな人との共通言語になって、そこから新しい輪が生まれていく。今回の現象は、まさにそれを示していたように感じます。
サウンドロゴカラオケは、企業コミュニケーションの新しい接点になる森本:最後に、サウンドロゴカラオケ、そして「企業×音楽」の可能性について伺いたいと思います。安井さんは今回を通じて、サウンドロゴカラオケの可能性をどのように感じましたか。
安井:企業は、商品やブランドを伝えるためにテレビCMやラジオCM、さまざまなメディアを活用します。その中でサウンドロゴは、これまで生活者が耳で受け取るものでした。でも、サウンドロゴカラオケでは、それを聞いた人が今度は自分で歌います。そして、一緒にいる人たちに歌を届けることで、商品名やブランド価値がさらに伝播していく。つまり、受動的に情報を受け取るだけではなく、能動的に参加し、発信できるコンテンツになるわけです。そこに、これまでのメディアとは異なる、大きな可能性を感じています。
森本:サウンドロゴは、これまで広告素材として捉えられることが多かったと思います。それが、参加型コンテンツになり得ることが今回証明されましたよね。
安井:そうですね。そして、音楽は世界共通の言語でもあります。日本語を話せない、読めない海外の方が、日本のアニメソングを耳で覚えて歌うことがあります。JOYSOUNDでもローマ字のテロップを入れることで、海外の方が日本語の楽曲を歌えるようにしてきました。サウンドロゴも同じように、耳で覚えて楽しめるコンテンツです。短いフレーズだからこそ、海外の方にも届く可能性があると思っています。海外の方が「伯方の塩」を歌ったら面白いですよね。日本人とは違う感性で、どう歌うのか見てみたいです。
井上:それは良いですね。当社は東南アジアやアメリカを中心に海外にも商品を輸出しており、「2030年までに世界で一番有名な塩メーカーになる」という目標を掲げています。その意味でも、サウンドロゴカラオケを通じて国内外の方々に「面白い企業だね」「良い会社だね」と思ってもらえることは、ブランド認知を広げる一つのきっかけになると思います。
森本:日本のサウンドロゴカラオケを海外の方が体験し、それを持ち帰って、自国でもサウンドロゴをつくったり、カラオケ化したりする。そんな広がりもあり得るかもしれませんね。では井上さんから、2027年大会への参加を検討している企業に向けて、ひと言いただけますか。
井上:「サウンドロゴカラオケAWARD」は、広告ツールの一つになり得るものだと感じました。興味がある企業は、積極的に手を挙げて参加した方がいいと思います。ただ、決勝は想像以上にレベルが高いので、しっかり準備することをおすすめします。弊社もアワードでは大賞が獲れなかったのでリベンジ参加したいと思います。
安井:今回のアワードを通じて、あくまでもカラオケは手段の一つなのだと改めて感じました。大切なのは、企業の想いをどう形にし、どう伝えるかです。アーティストが歌う楽曲ではなく、社員が自社のサウンドロゴを歌う。その価値を、もっと多くの企業に体験していただきたいです。「サウンドロゴカラオケAWARD」が、企業愛や企業文化を育むイベントになっていけばうれしいですね。
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参考記事: 数秒のブランド資産を、熱狂へ。瞬間エンタメ「サウンドロゴカラオケAWARD」