(左から)DJIBのジョシュア・グラント氏、Lumen Researchのマイク・フォレット氏、DJIBのスティーブン・リョウ氏 アテンション(※)は、広告が「見られる機会」を測るための指標から、ビジネス成果を生み出すための実践的な指標へと進化しつつあります。グローバルでアテンション研究をリードしてきたLumen Researchの CEO マイク・フォレット氏に、同じくアテンション研究を行っている電通ジャパン・インターナショナルブランズ(以下、DJIB)のジョシュア・グラント氏とスティーブン・リョウ氏が、アテンション活用の現在地と、日本市場への期待、そして今後の展望を聞きました。
※アテンション=ユーザーが実際に広告を視認・注視した度合いを測る評価基準。従来の表示回数やクリック数に代わり、視認時間や画面占有率、ユーザーの反応といった要素を数値化する。
広告効果の見方を変えたアテンションDJIB:Lumen Researchは、過去10年以上にわたり、グローバルのアテンション研究をけん引してきました。これまでを振り返り、広告におけるアテンションの役割はどのように変化してきたと考えていますか。また、現在、業界においてアテンションはどのような位置付けにあるのでしょうか。
マイク:この10年間で、アテンションは広告主がメディアの効果を考える上で重要な要素へと変化しました。 Lumen Researchを設立した当時、広告業界が最も重視していたのはリーチでした。つまり、どれだけ多くの人に広告を届けられるかという考え方です。もちろん、リーチは現在も欠かせない指標ですが、それはあくまで出発点にすぎません。なぜなら、広告がユーザーの注意を引かなければ、行動や意識に影響を与えることはできないからです。 これは、広告効果に対する考え方の大きな転換を意味します。業界は徐々に、「広告を見る機会があったか」を測る段階から、「広告が実際にどのような影響をもたらしたか」を理解する段階へと移行しています。その両者をつなぐのがアテンションです。 アテンションを用いることで、同程度のリーチを獲得した2つのキャンペーンが、なぜまったく異なるビジネス成果を生み出すのかを説明できるようになります。技術上ビューアブルと判定された広告であっても、実際に視認されているとは限りません。また、同じ1秒のアテンションであっても、その価値が常に同じとは限りません。こうした違いを理解することで、マーケターは広告効果をさらに高めるための新たな可能性を見いだせるようになります。
DJIB:先日来日された際に、さまざまな広告主やプラットフォーム、電通グループのメンバーと意見を交わされました。日本市場におけるアテンション活用の浸透について、どのような印象を持ちましたか。特に期待を感じた点や、今後さらなる可能性があると感じた領域について教えてください。
マイク:今回の東京訪問を通じて、日本市場がこの新しい考え方を非常に速いスピードで受け入れ始めていることを心強く感じました。 グローバルに展開するハイジュエリーや飲料ブランドの広告主、国内外のプラットフォーム、そしてdentsu Japanの方々と対話する中で、1つの共通した傾向が見えてきました。日本のマーケティングや広告に携わる多くのプロフェッショナルは、すでに「アテンションは重要なのか」という議論の先へ進んでいます。その先にある、「特定のビジネス目標を達成するためには、どの程度のアテンションが必要なのか」という、より高度な問いに目を向け始めているのです。
DJIB:今後数年間で、アテンションの役割はグローバルでどのように発展していくと考えていますか。また、その中で日本は、この領域の進化にどのような役割を果たせるでしょうか。
マイク:日本市場で起きている変化は、非常に興味深いものです。 欧米の多くの市場では、まず数年をかけて、広告に向けられるアテンションが選択的なものであることを明らかにしました。その後さらに数年をかけて、アテンションがブランド認知や売り上げ、利益といったビジネス成果を予測する指標になり得ることを実証しました。 これらはいずれもアテンションを活用するための土台づくりに必要な議論でした。現在では、こうした知見をすでに確立されたものとして捉え、実際のマーケティング活動へと応用する段階に進むことができています。その意味で、日本には一気に次の段階へ進める可能性があります。他の市場が何年もかけて積み上げてきた議論を繰り返すのではなく、最初から最適化に焦点を当てられるからです。 今問うべきなのは、「アテンションは重要か」ではありません。「マーケティングの意思決定を改善するために、アテンションをどのように活用するか」です。
成果起点で考える──アテンション活用の次なるステージDJIB:多くの市場では、アテンション指標の導入はまだ初期段階にあります。「アテンションを測定する」段階から、「アテンションを用いてプランニングや最適化を行う」段階へ進み、さらに事業にとって重要な成果と結び付けるために、広告主や広告会社が取るべき最も重要なステップは何でしょうか。
マイク:そこにこそ、グローバルでも日本でも、アテンションの未来があると考えています。 すべてのプランニングは、「どのようなビジネス成果を達成したいのか」という問いから始めるべきです。その上で、目標から逆算し、成果を生み出すために必要なアテンションを考えます。 必要とされるアテンションの量やパターンは、目的によって異なります。例えば、長期的なブランド記憶の形成を目指す場合と、オンラインでの商品購入やアプリのダウンロードを促す場合とでは、求められるアテンションのあり方は異なるでしょう。 こうした「アテンションのしきい値」、つまり目的達成に必要なアテンション量の基準を理解できれば、新たな可能性が数多く生まれます。 最適なメディアチャネルの組み合わせや、適切な広告接触頻度を特定できるようになるでしょう。また、追加投資によって意味のあるリターンが得られる領域と、投資効果が逓減(ていげん)し始めるポイントを把握することも可能になります。 クリエイティブ開発においても、私がよく「アンフェア・シェア・オブ・アテンション」(他を圧倒するアテンション)と呼ぶ考え方があります。競合するメッセージ以上に大きなアテンションを獲得する広告を目指すものです。つまり、生活者の関心を自然に引きつけ、その状態をより長く維持できるコミュニケーションです。 最終的にアテンションは、単独の測定指標として扱われるのではなく、ビジネスパフォーマンスを改善するための大きな仕組みの一部になるべきです。そのためには、アテンションを測るだけでなく、マーケターが日常的に使用するツールや業務プロセスの中に組み込んでいく必要があります。データは、実際の行動や意思決定につながって初めて価値を持つからです。 この点において、電通が進めている取り組みは非常に重要です。電通ではアテンションデータを独自のプランニングツール「CCS Planner」(※1)に統合することで、キャンペーン終了後の分析だけでなく、メディアプランニングの段階からアテンションを考慮できるようになります。 また、各種DSP(※2)を通じてアテンションに基づく広告買い付けを可能にすることで、キャンペーンをリアルタイムに最適化できます。さらに、Lumen Researchの予測アテンションモデルを第三者検証ソリューションに組み込む取り組みも進んでいます。例えばIASの「Quality Attention」(※3)との連携により、より幅広いデジタル広告エコシステムでアテンションを活用できるようになります。 こうした進化は、分析結果と実際のアクションとの間にある隔たりを取り除くものです。マーケターにまったく新しい働き方を求めるのではなく、既存の業務フローや意思決定プロセスの中にアテンションを自然に取り入れていく。その結果として、この考え方は業界標準へと発展していくのです。
※1 CCS Planner= dentsuのConsumer Connection System(CCS)データを活用したメディアプランニングツール。ターゲットリーチやメディア効果を予測・比較し、生活者インサイトに基づくデータドリブンなメディア戦略の立案を支援する。 ※2 DSP=主にネット広告の「広告主側」で使われるシステムで、広告の購入や配信の最適化を自動で行うためのツール、デマンドサイドプラットフォーム(Demand-Side Platform)のこと。 ※3 IAS Quality Attention=メディア品質シグナルとLumenのアイトラッキングデータを機械学習によって統合し、広告へのアテンションを計測するソリューション。広告主のキャンペーンパフォーマンス向上につながるインサイトを提供する。
アテンションの次の10年へ──日本市場への期待DJIB:最後に、メディア戦略やマーケティング戦略の中でアテンションの活用を検討し始めている、日本の広告主、広告会社、マーケターに向けてメッセージをお願いします。
マイク:日本市場の皆さんにお伝えしたいことは、非常にシンプルです。アテンションを1つの到達点としてではなく、継続的な改善のプロセスとして捉えてください。 そのプロセスは、測定することから始まります。まずは、現在のキャンペーンがどの程度のアテンションを獲得しているのかを把握し、そこから得られた知見を基に「どうすればさらに成果を高められるか」という仮説を立てる。そして、その仮説を適切に設計された実験によって検証し、結果から体系的に学んでいくのです。 これを積み重ねることで、組織は推測ではなくエビデンスに基づくようになり、より大きな戦略的意思決定を行う自信を身に付けられるようになります。 アテンション研究にとって、最もエキサイティングな段階はむしろこれからです。この10年間、私たちはアテンションがどのように機能するのかを理解することに取り組んできました。次の10年間は、その知識を活用し、より良いプランニング、より良いクリエイティブ、より効果的なメディア投資、そして最終的には、より良いビジネス成果を生み出す時代になるでしょう。 日本は、その次の時代をリードするにあたり、非常に恵まれた位置にあると確信しています。