働き方の正解が一つではなくなった今。
一つの肩書にとどまらず、複数の場で活動する人も少なくありません。この連載では、新しい働き方・生き方をする人たちを訪ね、その選択の背景を聞いていきます。
第1回でお話を伺ったのは、加形拓也さん。電通でビジネスデザインディレクターとして働く一方、ウクレレの「流し」やNPO活動、大学での研究など、複数の場で活動しています。
一見すると別々に見えるそれらの活動。でも話を聞いていくうちに、そのどれもが加形さんらしい、一つの軸につながっているように思えてきました。
加形 拓也(かがた・たくや)
電通。企業の事業構想・パーパス設計をサポートするビジネスデザインディレクター。「電通未来曼荼羅」共同編集長(日本、インド、中国、インドネシア、タイ)。NPO法人 a-con代表(NPOのマーケティング支援)。東京大学先端研×電通グループ 共創イノベーションラボ 主任研究員。平成流し組合員(ウクレレ)。NPO法人 日本ビーチ相撲協会理事。電通相撲部主将。右四つ。平日は東京、週末は三浦で過ごす2拠点生活を実践。
電通は、通過点のつもりだった
会ってすぐ、加形さんは少し意外なことを口にしました。
大学では開発経済学を学び、国連やJICAで働くことを考えていた加形さん。インドやインドネシアの農村で活動するNGOでインターンも経験しました。
その考え方に影響を与えたのが、学生時代に出会ったサラエボ出身の女性でした。
通過点のつもりだった場所に、気付けば20年以上いた。
振り返ると、その間に出会った人や仕事が、加形さんをいろいろな場所へ連れていったのかもしれません。
昼は未来を描き、夜は酒場を回る
加形さんの本業は、電通で企業の「まだ見ぬ未来」を一緒に描くこと。新規事業や商品開発に伴走しながら、「10年後、どんな会社でありたいか」という問いから逆算して、いま何をすべきかを考えていきます。
そんな加形さんは近年、「電通未来曼荼羅」を海外のメンバーと展開する仕事にも取り組んでいます。
そして夜になると、加形さんはウクレレを担いで酒場へ向かいます。
「流し」とは、楽器を持って酒場を訪ね、お客さんのリクエストに応えて演奏する文化のこと。加形さんは、この文化を現代につなぐ「平成流し組合」に所属し、上野や有楽町などの酒場を月に2~3回まわっています。
加形さんが流しを始めたきっかけは、もともと続けていたウクレレでした。音楽好きのお父さまの影響で高校生の頃からギターを弾き始め、その後、好きだった南の海の文化にひかれてウクレレにも親しむようになったそうです。
「いつか週末のお店で演奏できるくらいにはなりたい」
そんな話をしていたところ、NPOの仲間から平成流し組合を紹介されたことが、流しとの出会いでした。
この日も、加形さんはお店の様子を見ながら、ふっと演奏を始めました。
最初は少し様子を見ていた若いお客さんも、曲が始まると自然と表情がゆるみます。
気付くと、店の空気も少し変わっていました。
この時代だからこそ、その場の空気や匂いのような、リアルでしか得られないものが大事になってくる。加形さんはそう考えています。
流しにひかれているのも、きっと同じ理由なのでしょう。人がその場にいて、空気を感じながら時間を共有する。そんな身体性のあるやり取りに面白さを感じているようでした。
会社の外に、居場所をつくる
入社4年目ごろ、学生時代の友人と、NPOのコミュニケーションやマーケティングを支援する勉強会を立ち上げた加形さん。NPOにヒアリングをして回っていたある日、「聞いてばかりいないで、手伝ってよ」と言われたことをきっかけに、実際に支援へ関わるようになりました。
大きな挫折の先で、見つけたこと
さまざまな居場所を持つ加形さん。ですが、ここまでが順調だったわけではありません。
そのあと、仕事がなくてふわふわしていた時期もあったといいます。けれど、そのどん底で、加形さんは別の働き方に出会いました。
新しいプロジェクトに入るたび、何十冊もの本を読むという加形さん。同僚から「勉強、好きだよね」と言われて、それが自分の持ち味なのかもしれないと気付いたのも、この頃だったといいます。
同じコミュニティの中にいるだけでは見えにくい組み合わせが、複数の場所に身を置いているからこそ見えてくることがある。普通なら交わらない人や知恵が出会うことで、思わぬ突破口になることもあるそうです。
知らない世界に、飛び込み続ける
加形さんが続けている活動には、どれも「知らない世界に、自分から飛び込んでいく」という共通点があるように感じました。
40代になってから東京大学の大学院で都市工学を学び直したのも、その一つです。
加形さんにとって大学院は、知識を学ぶ場というだけではなかったようです。仕事をしながら夜間、学校に通う人たちと出会い、尊敬できる人が増える。そのこと自体が人生の豊かさにつながるのだと話していました。
居場所は、一つじゃなくていい
最後に、加形さんはこんな話をしてくれました。
取材を終えてしばらくして、加形さんからメッセージが届きました。
取材後メッセージ
「いやーーーー、ありがとうございました。あんなに熱心に話をきいていただいて幸せな夜だったなー、と思いながら流し帰りの電車でかみしめてました」
なんだか、加形さんらしいなと思いました。
取材で印象に残ったのは、人や仕事への感謝の大きさ。これまで助けてもらった人たちの話が自然と出てくるし、仕事を任されることへのありがたさも何度も口にする。どうすれば自分が活躍できるかというより、どうすればこの場の役に立てるか。その視点が、一貫しているように感じました。
居場所は、一つじゃなくていい。
会社の中でも外でも、自分なりに関われる場所を少しずつ増やしていく。その積み重ねが、加形さんの働き方をつくってきたのかもしれません。
次回も、自分なりの働き方・生き方をしている人のもとへ、話を聞きに行きます。
取材した人 | |
| dentsu Japanの広報に携わる。プライベートでは神奈川から沖縄へ移住。 「働き方も、生き方も、もっといろいろあっていいはず」 そんな思いから、この連載を開始。会ってみたい人のもとを訪ね、密着取材します。 | |
著者

加形 拓也
株式会社 電通
グローバル・ビジネス・センター
チーフビジネスデザインディレクター
電通マーケティング部門~電通デジタル~電通コンサルティングで保険会社の2050年構想/自動車会社のスマートシティ構想/食品企業の新事業など、企業の事業デザインをサポート。現在は日本の他にインド・ASEAN・中国・台湾で事業構想やサービスデザインに関わる。都市工学をバックグラウンドとしたコンサルティングと縦割りを打破していくファシリテーションが得意。電通相撲部主将。右四つ。得意技は下手投げ。








