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公開日: 2026/10/14

日本ラグジュアリー市場、「再調整」の時代。 「熱狂は終わった。だが市場は終わっていない」

コロナ後のリベンジ消費、訪日客の急回復、歴史的な円安。日本のラグジュアリー市場はこうした複数の追い風を受けて拡大してきましたが、Statistaのマーケットインサイトによるとこの伸長も2025年は-2.5%成長と調整局面を迎えました。

とはいえ、これは単純な市場の縮小ではありません。顧客が「価格に見合う価値があるか」を問い直し、ブランドごとの差が浮き彫りになる「再調整」の局面です。電通ジャパン・インターナショナルブランズの戦略チームがまとめた「Japan Luxury Landscape Report 2026」をもとに、成熟市場でブランドが再び選ばれるための4つの条件を読み解きます。

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市場が縮んだのではない。選ばれる理由が厳しくなった

まず見るべきは、市場全体の規模よりも、その中身です。2025年の訪日外客数は4268万人と過去最高を更新し、訪日外国人旅行消費額も9兆4559億円に達しました(※)。ただし支出の内訳を見ると、最大の割合を占めたのは宿泊費の36.6%で、買物代は27.0%にとどまります。訪日客や旅行消費が増えたとはいえ、それがそのままラグジュアリー消費の伸びにつながるわけではないのです。

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出典:日本百貨店協会「2025年年間免税売上高レポート(2026年1月)」、観光庁「訪日外国人消費動向調査 2026年第1四半期(第1次速報値、2026年4月)」
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出典:Hermès International「通期決算」(2026年2月)および「2026年上期決算」(2026年7月)、LVMH「通期決算」(2026年1月)および「2026年上期決算」(2026年7月)、Kering「通期決算」(2026年2月)および「2026年上期決算」(2026年7月)、Richemont「2025年度通期決算」(2025年5月)、Prada Group「通期決算」(2026年3月)および「2026年上期決算」(2026年7月)。2026年第1四半期のデータは、各社のIR資料に基づく。
※n.a.=Not Applicable


市場全体の数字だけを見ると、減速はどのブランドにも一様に起きているように見えます。しかし実際には、ブランドごとの差はむしろ広がっています。たとえばエルメスの2025年日本売上高は、為替一定ベースで前年比14%増でした。同社はこの成長を日本の顧客のロイヤルティと厳格な流通網によるものだと説明しています。追い風が弱まるほど、既存顧客との関係、価格への納得感、ブランド固有の価値が業績の明暗を分けるようになります。

つまり、いま起きているのは需要の消滅ではなく、競争条件の変化です。コロナ後の反動需要や円安を成長の原動力そのものと捉えると、2025年の減速は「市場縮小」に見えます。しかし、こうした外部要因を取り除いたときに見えてくるのが、ブランド本来の実力です。

私たちはこの変化を、「熱狂の時代」から「基盤の時代」への移行と捉えています。

同じ構図は、自動車、化粧品、金融、耐久消費財など、他の成熟カテゴリーにも共通します。マーケターに求められるのは、市場規模の増減だけでなく、誰が支持し続けているのか、何を理由に選び、どこに支出を移しているのかを見極めることです。成熟市場での戦略は、成長率を予測することよりも、選ばれる条件がどう変わったかを特定することから始まります。

※出典:日本政府観光局「訪日外客数(2025年12月および年間推計値)」、観光庁「訪日外国人の消費動向 インバウンド消費動向調査結果及び分析
 

購買がすべてではない。ブランドは顧客の生活にどうあり続けるかが問われる

価格上昇によって、以前ほど頻繁に買えなくなった層が、ブランドへの関心まで失ったわけではありません。展覧会やカフェ、化粧品、フレグランス、小物を通じて、ブランドの世界観とのつながりを保ち続けています。購買力のある顧客ほど、一律の優待では満足せず、自分の好みや購入履歴をふまえた特別な扱いを求めるようになっています。

とりわけ富裕層にとっては、文化、旅、食、住空間まで含めてブランドが生活の中に継続的に存在していること自体が、価値になります。ここで陥りがちなのが、顧客を「買う人」と「買わない人」の二択で分けてしまうことです。認知、共感、参加、所有、継続利用、推奨という複数の関係のレイヤーを設計しておけば、購買頻度が下がっても関係は切れません。一度きりのVIPイベントや購入直後のフォローだけでは、もはや不十分です。顧客が日常的にブランドの世界観に触れられる接点を継続的に用意する必要があります。

同じ変化が商品選びにも表れています。電通グループが実施しているラグジュアリー消費者調査「BLUXブランド調査」の2026年の調査では、ラグジュアリー商品に求める価値として「長く使えること」が31.8%、「時代に左右されないこと」が28.9%、「自分らしくいられること」が22.4%を占めました。

ロゴを大きく主張するアイテムに代わって、ソフトバッグやチャーム、重ね着しやすい服、アイウエア、複数の香りを使い分ける習慣などが支持を広げているのは、生活者は、ブランドが決めた「正解」よりも、自分なりの組み合わせを優先し始めているからです。

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出典:BLUXブランド調査


したがって、ブランドの役割は、完成された意味を一方的に渡すことから、顧客が自分なりの意味をつくれる余白を提供することへ移ります。成熟市場では、CRMを再購入促進の仕組みだけにせず、顧客の関心や参加の履歴を記録し、育てていく基盤に変える必要があります。商品戦略も同様です。

一時的な話題を狙うアイテムよりも、長く使い続けられ、他のアイテムと組み合わせやすく、時間をかけて買い足していけるラインアップこそが、顧客との長期的な関係を築きます。

日本向けに翻訳するだけでは、もう差別化できない

日本人アンバサダーの起用、日本語コピー、桜をあしらった限定品、銀座や表参道の旗艦店。こうしたローカライゼーションは、いまや市場参入の最低条件になっています。丁寧に実行することは重要ですが、それだけでは「ブランドならではの意味」を生みにくくなりました。日本文化を表層的な記号として借りるだけでは、親しみは生まれても独自性にはつながらず、むしろ既視感を強めることになりかねません。

次の段階として必要なのが、私たちが「カルチャーライゼーション」と呼ぶアプローチです。これは、グローバルのブランド資産を日本向けに翻訳するだけでなく、日本の文化を実際につくり、支えている人々と関係を築き、そこから新しい価値をともに生み出していくことを指します。対象は伝統工芸に限りません。現代美術、音楽、映画、食、建築、若者のサブカルチャーまで、文化が生まれている現場であればどこでも対象になり得ます。

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2026年5月に開催された「Miu Miu Jazz Club Tokyo 2026」は、その好例です。銀座旗艦店の再オープンを、日本のジャズと喫茶店文化からインスピレーションを得た空間へとつなげ、昭和期の面影を残す会場でイベントを展開しました。プログラムの中心に据えられたのは、日本のジャズを担ってきた女性演奏家たちの系譜と、いま活躍する世代です。音楽を単なる装飾として扱うのではなく、その歴史・場所・担い手そのものを企画の核にした点が重要です。

成熟市場で文化と関わる際の問いは、「何を借りられるか」ではなく「何の発展に貢献できるか」です。単発のコラボレーションで終わらせず、継続性、文化の担い手への還元、ルーツの明示をあらかじめ設計しておく必要があります。これはブランドの主張を弱めることを意味しません。むしろ、自社の価値観がローカルカルチャーとどこで交わるのかを見極めることこそが、競合が簡単には模倣できない信頼につながります。

メディアの競争力は、出稿量ではなく役割と順番で決まる

2025年の日本の総広告費は8兆623億円で過去最高を更新し、インターネット広告費は4兆459億円、構成比50.2%と初めて過半数に達しました。広告費がデジタルに集中する一方で、多くのブランドが同じ画面、同じフォーマット、同じ最適化指標の上で競い合うようになっている懸念があります。接触量を増やすだけでは、文化的な存在感や価格への納得感を高めることが難しくなっていると考えます。

だからこそ重要になるのが、メディアの「オーケストレーション」です。難しい概念ではありません。各媒体に異なる役割を担わせ、顧客が実際にたどる順番に沿ってそれらをつなぐということです。SNSは憧れと日々の会話を育て、動画やコネクテッドTVは物語を深めます。雑誌、新聞、屋外広告、音声メディアは文化的な権威とその場ならではの空気感を与え、検索、リターゲティング、AI検索は、すでに芽生えた意向を受け止めます。

これは、リーチの規模を追うことをやめるという意味ではありません。「広く知らせる接点」「深く理解させる接点」「顧客の行動を受け止める接点」を切り分けたうえで、それぞれの効果が次の接点へときちんと引き継がれるように設計するということです。評価指標についても、すべてを短期的な売り上げだけで測るのではなく、想起、指名検索、来店、会員化、継続購入など、それぞれのメディアが担う役割にあわせて設定すべきです。成熟市場では、どのチャネルを選ぶかよりも、役割と順番をどう設計するかが競争力の差になります。

こうした変化に共通するのは、量よりも関係の深さが問われていることです。外部の追い風が弱まったいま、問うべきは「どうすればもっと売れるか」だけではありません。「本当につながっていたい顧客の生活の中に、このブランドがあり続ける理由は何か」です。価格が高く、購入がアイデンティティと直結しやすいラグジュアリー市場では、この問いが他のどの市場よりも早く、鋭いかたちで表れます。だからこそラグジュアリーは、先行指標としての意味を持つのです。

電通ジャパン・インターナショナルブランズは、グローバルブランドが守るべき核と、日本市場で新たに生むべき意味とを接続します。市場診断、顧客理解、商品とコミュニケーションの設計、メディアオーケストレーションを分断せず、一つの成長戦略として組み立てることが私たちの提供価値です。自社の市場が本当に縮小しているのか、それとも「選ばれる基準」そのものが変わったのか。その見極めから始めたい方は、ぜひ電通ジャパン・インターナショナルブランズまでお問い合わせください。

レポートのサマリー版はコチラから。

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電通ジャパン・インターナショナルブランズ 戦略チーム

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DJIB  戦略チーム

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電通ジャパン・インターナショナルブランズ

戦略プランニング部

海外経験豊富な多国籍メンバーが集まり、グローバルと日本双方の視点からビジネスを捉える戦略プランニングチームです。データ分析を起点に、市場や文化の違いまで読み解き、グローバルクライアントが納得できる戦略へとつなげます。

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