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マーケティングの未来のスタンダードをここから~“地球沸騰化時代”に広告会社ができること~

今年の夏も連日暑い日が続き、気候変動への対応はまさに待ったなしの状況です。国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化時代の到来」と発言したのは、記録的な高温の年となった2023年でしたが、企業の事業も私たちの暮らしも引き続きこの“沸騰化時代”に向けた変革を余儀なくされています。

広告主である企業のみなさんが、経営レベルで脱炭素に向けて取り組みを進める中、大きな転機として、2027年3月期以降、時価総額3兆円以上の企業は Scope3排出量(※)の開示が求められるとの発表がありました。該当の企業は今後、その対応を迫られることになります。

※Scope3排出量 = 原材料の調達、パッケージングの外部委託、従業員の通勤、出荷輸送など、自社事業の活動に関連する他社の温室効果ガス排出量のこと(自社が購入・使用した電力、熱、蒸気などのエネルギー起源の間接排出は除く)。
 

それに対して広告会社はどんな貢献ができるのか。電通グループでは、こうした状況の企業をサポートするべく、マーケティングプロセスにおける脱炭素化のための新たなソリューション「MIRAI STANDARD SWITCH」を開発、2026年8月にリリースしました。

このソリューションパッケージは、脱炭素に関する方針策定から、コンテンツやイベントなどの制作メディア配信、情報発信に至るまで、マーケティング活動におけるあらゆるフェーズの脱炭素化を、複数のソリューションによって、総合的に支援していきます。

 

 

本記事では、「MIRAI STANDARD SWITCH」始動の背景や、マーケティングプロセスにおいて脱炭素に取り組む意義、今後の展開などについて、プロジェクトメンバーの竹嶋理恵氏と森由里佳氏が語ります。

DIM(Decarbonization Initiative for Marketing)は、マーケティング活動の脱炭素化を通じ、広告業界全体の変革を目指す取り組みです。本連載では、dentsu Japanで進むさまざまな実践やソリューション、そこから描く未来を紹介します。

写真左からサステナビリティコンサルティング室エグゼクティブ・プランニング・ディレクターの竹嶋理恵氏、同クリエイティブライター・プランナーの森由里佳氏

「仲間づくり」「GHG排出量可視化」「削減方法の提示」
3つの柱で挑む、マーケティング×脱炭素

竹嶋:電通のサステナビリティコンサルティング室でエグゼクティブ・プランニング・ディレクターをしている竹嶋です。現在、主な業務として、サステナビリティ起点で企業のブランドや事業戦略、新規事業開発やコミュニケーションの支援をしています。

本日お話しする「MIRAI STANDARD SWITCH」は、電通のみならず電通クリエイティブピクチャーズや電通ライブ、電通プロモーション、そして電通グループ グループサステナビリティオフィスなど、グループ全体をあげて取り組んでいる新たなソリューションです。

森:同じくサステナビリティコンサルティング室に所属する森です。クリエイティブライター/プランナーとして、社会課題と企業価値を結び付けるべく、企業のサステナビリティ活動の推進を支援しています。本プロジェクトでは、ソリューションのコンセプトなどの規定を行いました。

企業の脱炭素化は進んでいる一方で、広告やコンテンツ、イベントなどのマーケティング活動の脱炭素化は、まだ十分に語られていない領域です。ぜひ企業のみなさまと一緒に考えていきたいと思っています。

竹嶋:「MIRAI STANDARD SWITCH」の話をする前に、まずは電通グループにおける「マーケティングプロセスの脱炭素化」の取り組みについて簡単にお話しします。現在は、大きく3つの柱で展開しています。

 

竹嶋:1つめは、広告やメディアなどの業界全体における、意識啓発と仲間づくりです。これらは電通一社でできるものではなく、業界全体で取り組むべきであると考えています。そのために脱炭素イニシアティブの「Decarbonization Initiative for Marketing(DIM)」を設立し、まずは、取り組みの意義や目的についてみなさんと共有して、一緒に取り組んでいく土壌を作ることを目指しています。日本広告業協会(JAAA)や日本アドバタイザーズ協会(JAA)、さらに制作業界やイベント業界など業界横断で連携しながら、活動を推進しています。

森:あらゆる業界に共通していることですが、脱炭素はバリューチェーン全体や、競合社とも一体となって挑む必要があります。電通だけではなく、業界全体で取り組める土壌が必要な状況については強く実感しています。

竹嶋:2つめは、業界標準となるカリキュレーター(GHG※排出量算定ツール)の開発と運用ルールの開発です。脱炭素化のためにはGHG排出量を把握することが重要なため、領域別に業界標準となるカリキュレーターを作りました。そして電通ではすでに広告や長尺コンテンツ、イベントの制作プロセスにおける、GHG排出量可視化の取り組み実績を積み重ねています。GHG排出量を精緻に計測することと、削減ソリューションを導入することで制作プロセスにおけるGHGの排出量を9割減らせるケースもあり、 企業のカーボンニュートラルやオフセットコスト削減に貢献することができます。

※GHG = 二酸化炭素(CO₂)、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)、フロン類(HFCs、PFCsなど)他を含む温室効果ガスのこと。「Greenhouse Gas(グリーンハウスガス)」の略。
 

森:開発したカリキュレーターを使用し、制作プロセスのGHG排出量を精緻に計測することで、ほとんどのケースにおいて既存の計算式で計測されていた元々の推定量よりも総量が少なくなるという事実には驚きましたね。まずは精緻な計測をすることが必要だとあらためて感じました。

竹嶋:3つめが、先ほどご紹介した電通グループの脱炭素ソリューション「MIRAI STANDARD SWITCH」です。これはカリキュレーターでGHG排出量の実態を把握するだけでなく、制作の各プロセスでGHG削減を実施するためのソリューション群であり、同時にマーケティング分野で脱炭素に取り組んでいくムーブメントのことを指します。

「MIRAI STANDARD SWITCH」のロゴ(3CRプランニング局 北野歩実制作)

 

森:つまり、DIMで仲間をつくり、カリキュレーターで見える化し、そのうえで実際に削減する手法・選択肢をまとめたものが「MIRAI STANDARD SWITCH」ということですね。

なぜ今「マーケティングプロセスの脱炭素化」に電通グループが取り組むのか?

竹嶋:森さんはコンセプトやステートメントの開発をリードしてくれました。そこに込めた想いについて教えてください。

森:脱炭素は大事ですが、制作現場にとってはどうしても「やらなきゃいけないこと」「(対応のための)手間が増えてしまうこと」に見えてしまっているのが現状です。だからこそ、「MIRAI STANDARD SWITCH」では、「義務」ではなく、「未来のスタンダード」をつくる前向きな選択として受け取っていただきたいと思いました。

「いい広告をつくりたい」「いいイベントにしたい」「いいコンテンツを届けたい」という熱量は、脱炭素と対立するものではありません。むしろ、その熱量に“未来への配慮”を少し混ぜることで、仕事の価値が上がると感じたことが原点です。今すぐ完璧にならなくてもいいから、少しずつ“当たり前”を変えていく。そんなスイッチのような存在になってほしいという思いを込めています。

 

竹嶋: 脱炭素社会の実現という壮大な課題には分かりやすい正解がなく、同じ志を持つ仲間とともに動き続けていかなくてはなりません。そこで電通は、広告やメディア業界の未来と、その先にある社会全体の健全な発展のために、できることから動き出そうと考えました。

「MIRAI STANDARD SWITCH」は完成したソリューションではありません。まさにここから広告やメディア業界、そして企業のみなさまと一緒に育てていくものです。脱炭素というと難しくて分かりにくかったり、義務感を強く感じたりするかもしれませんが、脱炭素社会の実現のために、仲間とともにワクワクしながら未来の新しいスタンダードを作ることに挑戦したいと考えています。

森さんは現場でプランナーやクリエイターとして制作にも関わっていると思いますが、この取り組みについてはどう思いますか?

森:現場にいると、「いいものを届けたい」という気持ちはみんな持っています。でも、その制作プロセスが未来に対してどう影響するのかまでは、なかなか考える機会がありません。そこで、少しずつ取り入れられる選択肢があることは非常に重要な一歩だと思います。マーケティングは元来、人の暮らしを豊かにするための商品やサービスを作り届けるという、とてもポジティブな性質のもの。広告もコンテンツもイベントも、人の心を動かす力を持っています。

だからこそ、その“生まれ方”もまた、未来にいいものであってほしい。環境対応を「やらなければいけないこと」ではなく、「これからのつくり方を選び直すスイッチ」としたいですし、そこに電通グループのアイデアと実装力を役立てていただけるのではないでしょうか。

5つの領域で展開する、「MIRAI STANDARD SWITCH」の脱炭素支援

竹嶋:ここからは「MIRAI STANDARD SWITCH」の内容について詳しく見ていきましょう。本ソリューションは、主に「コンテンツ制作」「イベント制作」「グッズ・キャンペーン制作」「メディア出稿」「コミュニケーション」の5つの領域に対する展開を考えています。

1. コンテンツ制作領域
広告やウェブ動画、ドラマや映画などの長尺コンテンツの制作プロセスにおけるソリューションです。電通クリエイティブピクチャーズが中心になり、「Carbon Calculator for Content Production」(映像制作向けGHG排出量可視化ツール/CCCP)で各プロセスのGHG排出量の可視化(カーボンカリキュレーターを活用したGHG排出量の算定)をベースにしながら、コンテンツ制作時のGHGを削減します。

【主な展開イメージ】 

  • バーチャルプロダクションの導入/生成AIの活用
  • バーチャルプロダクションも可能なFACTORY ANZEN STUDIO
  • サステナビリティプロダクションサービス

 

2. イベント制作領域
電通ライブが独自に制作したサステナブルイベントガイドラインと、「Event Carbon Simulator (ECS)」をもとにGHG排出量を可視化しながら、会場選定や空間プロデュース、オペレーションにおいて脱炭素化を支援します。

【主な展開イメージ】

  • VENUE LINKを活用したサステナブルな会場提案
  • 環境に配慮したブースや内装の空間プロデュース
  • 脱炭素に貢献するイベントオペレーションの提案・導入

 

3. グッズ・キャンペーン制作領域
電通プロモーションが中心になって、独自の素材やプロダクツによる印刷やグッズ制作、配送などの過程において脱炭素化を支援します。

【主な展開イメージ】

  • 印刷領域 環境に配慮した素材や加工方法の販促ツールやPOP・ディスプレー等
  • 販促領域 環境に配慮した素材や加工方法のプレミアム・ノベルティー等
  • フルフィルメント領域 環境に配慮した梱包資材やカーボンニュートラル配送等
イベントなどで使用できる、電通テックのダンボール製プロダクトブランド「danbal(ダンバル)」の一例

 

4. メディア出稿領域
制作した広告をさまざまなメディアで出稿するプロセスにおけるGHG排出量の可視化と削減のソリューションで、電通と電通デジタルが中心になって推進しています。デジタルメディア出稿の温室効果ガス削減ソリューションでは、独自のストリーミング技術で転送量を大幅削減する「SeenThis」を活用したデジタル広告出稿により、脱炭素への貢献とともに、広告効果の最大化とコスト優先を実現します。

 

 

5. コミュニケーション領域
脱炭素の取り組みは外からは見えにくいため、取り組みの価値を分かりやすく共感できる形で発信することが重要です。マーケティングプロセスにおける脱炭素の取り組みを強力なファクトとした、社内啓発・企業価値向上・ビジネス機会の創出のためのコミュニケーションを、電通が中心になって支援します。

【主な展開イメージ】

  • 事前の社内やスタッフへの啓発
    社内・制作や運用の現場のスタッフへの理解とモチベーションを高めるための事前レクチャーを効果的に実施。
  • 事後の社内外への取り組みについての情報発信
    取り組みをファクトとして、事後にリリースやPR、広告展開などで積極的に情報を発信し、環境配慮型の新たなスポンサーや連携先を集める仕組みの開発。

 

森:コンテンツやイベントは、制作現場の工夫がそのまま排出量に関わる領域です。ロケ地の移動、会場選定、設営、運営など、普段は“制作上の判断”だと思っていることが、実は脱炭素の判断にもつながっているという。

竹嶋:生活者に届く接点まで含めると、マーケティングプロセスって本当に広いですよね。映像をつくる、イベントを開く、ノベルティを届ける、広告を配信する。その一つ一つに、見直せる余地があることが、「MIRAI STANDARD SWITCH」ムーブメントの面白さだと思います。5つめのコミュニケーション領域においては、森さんも企業のみなさんを支援する際に「グリーンウォッシュ対策」の重要性を感じていると思います。専門家としてあらためて注意を促したいことはありますか?

森:脱炭素の取り組みは、伝え方を間違えると、実態以上によく見せていると受け取られるリスクがあります。だからこそ、何を計測し、どれだけ削減し、どこにまだ課題があるのかまでを含めて、誠実に伝えることが大切です。「MIRAI STANDARD SWITCH」は、単なるコミュニケーションのネタではなく、伝えるためのファクトを制作プロセスの中につくっていく心強い取り組みでもあります。

「未来のスタンダード」はみんなで一緒に育てていく

竹嶋:制作プロセスの脱炭素化についてはすでに導入事例があります。

例えば広告制作だとM&Aキャピタルパートナーズや森永乳業「マウントレーニア」などのテレビCM、ドラマだとNHKの大河ドラマ「べらぼう(2025年度)」、そして映画だとAmazon MGM Studiosの「Broken Rage」や「沈黙の艦隊シリーズ」などです。

これらのケースでは「カリキュレーターを使用し、制作プロセスのGHG排出量を精緻化することで、排出量削減につながった」「バーチャルプロダクションの導入により、遠隔地での長期ロケが不要となり、働き方改革にもつながった」という声が届いています。雑誌の領域では、ハースト婦人画報社と「婦人画報」「エル・ジャポン」のコンテンツ制作プロセスの、全工程におけるGHG排出量・削減評価を行いました。

 

森:GHG削減だけでなく、移動負荷やスタッフの働き方の改善にもつながる取り組みは、制作現場も前向きに受け止めやすいですよね。

竹嶋:イベントの事例としては、昨年開催された大阪・関西万博開催記念 ACN EXPO EKIDEN 2025で「サステナビリティイベントガイドライン」を策定し、取り組みの宣言からGHG排出量の算出と削減アクション、オフセット、そして事後の情報発信まで一気通貫で支援させていただきました。イベントでこうした取り組みを行う場合、スタッフなどの関係者はもちろん、来場者などにも広く取り組み内容について周知し、協力していただく必要があります。多く人々を巻き込むことで、イベントをきっかけに社会を動かしていくことにつながっていくと考えています。

森:広告会社が運営するイベント以外に、スポーツや音楽をはじめとする興行にも活用してもらえるはずです。「MIRAI STANDARD SWITCH」で脱炭素化に取り組むことで興行やコンテンツそのもののサステナ価値も上がりますし、語れるストーリーが増え、スポンサーの協賛メリットにもつながります。

竹嶋:これまで広告会社が脱炭素社会の実現にどう貢献できるかについて「MIRAI STANDARD SWITCH」の紹介とともにお話ししてきました。最後にもう一度お伝えしますが、「MIRAI STANDARD SWITCH」は完成したソリューションではありません。まだまだ足りないものや開発中のものもたくさんあります。これをきっかけにみなさんと一緒に作っていく、いわばプラットフォームです。

ぜひ仲間になってください。そして未来のスタンダードを一緒に育てていきましょう。この取り組みについて興味をもたれた方や、気になることなどがある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

お問い合わせはこちら
電通 サステナビリティコンサルティング室
Email:
sus.consult@dentsu.co.jp

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著者

竹嶋 理恵

竹嶋 理恵

株式会社 電通

サステナビリティコンサルティング室

エグゼクティブ・プランニング・ディレクター

ストラテジーからキャンペーン構築、ウェブやイベント、店舗開発等までさまざまなジャンルの商品やサービスのコミュニケーションプランニングに携わる。SDGsコンサルタントとしてさまざまなステークホルダーに対して サステナビリティ起点の戦略策定、コミュニケーション、ビジネス変革支援を手掛ける。電通グループサステナビリティオフィスとともに、広告とメディア業界の脱炭素化の推進に取り組む。電通Team SDGs プロジェクトリーダー
森 由里佳

森 由里佳

株式会社 電通

サステナビリティコンサルティング室

クリエイティブライター/プランナー

社会や企業が向き合う「これからの課題」に、新しい意味と魅力を。広告コピーライター、ビジネスデザイン領域での経験を活かし、経営・事業・環境ビジョンやナラティブの開発、コミュニケーション、インナーアクティベーションまで、言葉・クリエイティブを起点に領域を横断。サステナならではの表現リスクを見極めながら、社会課題と企業や人との接点を見つけ、企業価値・行動につながるかたちを創ることに取り組んでいる。ウイスキーと舞台を愛する。

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