2026年2月18~19日に「第10回 サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」(SB’26)が開催されました。今回のグローバルテーマ「Adapt and Accelerate」は、先進的なブランドが逆境を推進力に変え、可能性の限界を広げるために、力強く一歩を踏み出すことを促しています。
サステナブル・コミュニケーションをテーマとしたセッション「デジタル時代のサステナブル・マーケティング― 消費者を『動かす』データ活用とコミュニケーション ―」には、駒澤大学教授 菅野佐織氏をファシリテーターとし、日本製紙クレシア 髙津尚子氏、電通 竹嶋理恵氏、オイシックス・ラ・大地 東海林園子氏が登壇。
課題として、サステナビリティの重要性を認識しつつも、その意識が購買や利用といった実際の行動につながりづらい日本の消費者の「意識と行動の乖離(かいり)」が明示されました。デジタル時代のマーケティングにおけるデータ活用とコミュニケーションが、消費者の行動変容をいかに促し得るのか、サステナブルな「意識」を「行動」に転換するマーケティングの可能性についてディスカッションしました。
同セッションの内容をサステナビリティコンサルティング室の菊池奈穂子が紹介します。
(左から)駒澤大学 菅野氏、日本製紙クレシア 髙津氏、電通 竹嶋氏、オイシックス・ラ・大地 東海林氏 「環境問題に興味はあるが行動できていない」人が約50%菅野:ボストン コンサルティング グループの2022年の調査によると、日本は環境意識・行動が他国に比べて低く、主要国の中で最下位でした。環境問題への意識も低く、「自分の行動で環境を改善できる」と考える人の割合も最も低く、非常にショッキングです。
駒澤大学 菅野氏 また、2025年の調査では約半数が環境問題に興味はあるが、生活行動を変えられていないと回答しています。ただし世代別に見ると、10代、50代、60代は比較的意識が高い傾向にあります。さらに「環境配慮商品を買いたい」と答えた人は63%であるのに対し「実際に選んでいる」と答えた人は32%と、約30%ものギャップがあります。この“意識はあるけど行動していない層”をどう動かすかが、大きなテーマです。 こうした行動の阻害要因としては、「情報不足(どの商品が環境に良いのか分からない)」「価格、手間(調べるのが面倒)」「アクセスのしにくさ(買える場所が限られる)」などが挙げられます。その一方で、「10%高くても買う」と答えた人が約30%存在しており、一定の支払い意思も確認されています。 「良い商品でも知られていない」「価値が伝わっていない」「買いやすくない」などの課題をどう乗り越えるかはマーケティングの課題といえます。
菅野氏資料より抜粋 サステナビリティに対する近年の消費者意識。意識を行動に変えるための、今後のマーケットの在り方は竹嶋:私たちの調査からも、「カーボンニュートラルに取り組む必要性を感じている」のは全体の76%で、10代、あるいは50代以上だと80%近くと非常に高い水準で必要だと認識していることが分かりました。しかし、実際の行動に移すかどうかについては、前向きに取り組みたい人が増加する一方で、メリットやインセンティブなど別のモチベーションが必要だと考える層も30%程度、周りからの同調圧力で動く層も30%程度存在することが分かり、ターゲットによって、アプローチを変えていく必要があると考えます。 モチベーションとなり得るファクターとしては割引・クーポン・補助金などの金銭的メリット、成果の可視化やみんなで取り組める仕組み、限定的なイベントなどが示され、私たちも工夫のしどころがありそうです。
電通 竹嶋氏資料より抜粋 日本では、これから大きく人口が減少し、2050年には9500万人になるといわれています。日本ではすでに“大量生産・大量消費の時代”が終わりつつあり、「良いものを作れば売れる」というこれまでの前提が通用しなくなる可能性があり、企業にはマーケティングやビジネスの転換が求められていると感じています。企業と顧客は、従来の関係性から、 “共に動く存在”になる必要があります。
電通 竹嶋氏 みんなにメリット「四方よし」商品が大きな反響――日本製紙クレシアはグループ全体で「木を育てるところから取り組む一貫事業」を行っており、プラスチック使用量の削減・CO2排出量削減(流通)など開発・流通視点でのサステナブルな取り組みをしています。加えて、ゴミ削減や省スペース買い置き回数削減など消費者ベネフィットに重きを置いた商品開発に取り組んでいる点も特徴です。また、上記に環境負荷の低減の視点を加えたすべてに良い影響を持つ四方よしの製品「スコッティ 3倍長持ちトイレットロール」が便利・長持ち・収納しやすいを重視する消費者ニーズとマッチし現在大ヒット。同社におけるデータの有効的な活用についてお話がありました。
菅野:日本製紙クレシアではデータ分析をはじめ、テキストマイニングなど、さまざまな消費者データを活用されていると伺いますが、データの活用はヒット商品づくりにどのようにつながっているのでしょうか。 特に日用品の開発は、ある意味では“毎日使うもの”でありながら、ベーシックなアイテムが多く、差別化や突破口を見つけるのが難しい分野でもあります。その中で、どのようにデータを見立て、どう消費者を分析し、商品開発に生かしているのかについてもあわせてお聞かせください。
髙津:三方よし、ではなく地球環境的視点を持った四方よしの「3倍巻きロール」という商品の話をご紹介します。実は当初この商品はピンク色のダブル(2枚重ね)しかありませんでした。一般的に、店頭には必ずシングルとダブルの両方が並んでいます。しかし、3倍巻きの技術はダブルでしか実現できず、シングルのラインアップを出せませんでした。 すると店頭では「シングル・ダブルを両方そろえる」という常識に合わず、取り扱ってもらいにくいという課題がありました。そこで、まずはECでテスト販売を行い、「どこから商品を知って買ってくれたのか」「リピートしてくれているのか」「買わなくなった方はどこへ流れたのか」「どんな商品と一緒に購入されているか」をデータ分析し、テキストレビューの内容をテキストマイニングしました。ECの購買データは実際に「自分のお金で選んで買っている人」の行動が反映されるため、非常に説得力があります。 こうしたデータ活用により、世の中に対して悪いところがひとつもない商品として自信を持って「ダブルだけの販売でもしっかり顧客が積み上がる」「売り上げが順調に伸びている」という事実を数字で判断しています。また、積極的な営業活動へとつなげるだけでなく、従来のトイレットロールの生産を終了し、長持ちする“長巻きタイプ”に全面的に切り替えるという経営として非常に大きな決断を行い、企業としての宣言として公表もしました。 結果、多くのメディアでも「環境に良い商品」という観点で注目していただき、消費者にも伝えることができました。
菅野:「3倍巻きロール」は、大きな消費者ベネフィットがある商品ですよね。わたしも消費者の一人として初めて店頭で見た時に、非常に魅力を感じました。置く場所も買う頻度も減らせるというメリットがありながら、「実はサステナブル」である非常によくできた商品だと感じました。
日本製紙クレシア 髙津氏 意識を行動に移すには想いやプロセス、「他にはない価値」をきちんと見せる――オイシックス・ラ・大地の会員制サブスク型の食品宅配サービスOisixでは、生産者のロスを減らす取り組みを重視しています。規格外の野菜・破裂した焼き芋・梅酢など「本来捨てられる部分」を再活用したアップサイクル商品を多数開発。好評を博しています。取り組みに共感し、サービスを利用・継続する消費者の価値観をどう捉えているか、お話しいただきました。
菅野:オイシックスではアップサイクル商品として、ブロッコリーの芯を使ったチップスといった新しい商品などを展開されていますが、どのようなお客さまが興味を持っていらっしゃいましたか?
東海林:当社は会員制サービスのため、まずはオイシックスの会員の方々がターゲットになります。比較的“食への意識が高い方”が多く、最初はそうした層に買っていただく傾向が高い商品でした。ただし、購入理由としては「サステナブルだから買う」というよりも、「ブロッコリーのお菓子なんて珍しい」「見たことがないデザイン」など、“面白さ”や“他にはない価値”に魅力を感じて購入していただくケースが多かったです。 3年ほどアップサイクル商品を販売する中で、新たに見えてきたことがあります。アップサイクル商品を購入されたお客さまは、サービスの継続意向が高いということです。つまり、「会員になる直接の理由にはならないが、継続したい理由にはなる」ということがデータから分かりました。これは、商品に価値を見いだしてくださっている証拠でもあります。「買い続けることで社会に貢献できる」という実感があり、他では得られない購買体験になっているため、結果として離脱防止につながっているのだと思います。
菅野:ちなみに、商品の価格帯はどれくらいですか?
東海林:価格の設定は本当に難しいところです。先ほどお話しした、ブロッコリーのチップスは加工工程の影響もあり、300円台後半とスナック菓子としては高価格になってしまい、多くのお客さまが買い続けるには厳しい価格帯になってしまいました。 白エビや焼き芋のチップスなどは168円まで価格を下げる取り組みを行い、ようやく多くの方に手に取っていただけるようになりました。価格は通常商品の1.3倍以下にしないと受け入れられにくいと感じています。
オイシックス・ラ・大地 東海林氏 デジタル時代のサステナブル・マーケティングの課題とは菅野:企業を応援し、共に行動してくれる賛同者とはどのような人を想定していますか?また、どのように見つけていけばいいのかについてもう少し具体的に教えてください。
竹嶋:賛同者の定義は、企業ごとに決めていく必要があります。これまでは、企業イメージや認知度、好感度といったデータを中心に見られてきたと思います。しかし、賛同者を定義するためには、 ・企業がどんな社会を目指すのか ・どんな社会課題を解決したいのか を明確にしたうえで、「その方向性に賛同してくれるか」「一緒に取り組みたいと思ってくれるか」といった“新しい指標”が必要になると考えています。 また、賛同者は数をやみくもに増やすことを目的にするのではなく、共に動き活動し、さらに外に発信してくれる人たちがどれくらいいるか――その“規模感”を各社ごとに定義する必要もあります。
菅野:賛同者を増やすためにはどのようなマーケティングコミュニケーションが有効なのか教えてください。
竹嶋:サステナビリティや企業広告のメッセージは「未来のために」「次世代のために」といった抽象的な表現になりがちです。しかし、これでは「何をする企業なのか」が伝わりにくく、生活者の賛同や参加にはつながりにくいのです。これからは、企業がどんな社会を目指すのか、そのために何をするのか、生活者にどんな協力を求めるのかを、明確なストーリーとして届けることが重要になります。
電通 竹嶋氏資料より抜粋 ・まず企業が「どんな社会を目指すか」を明確にする ・賛同者の定義と必要な規模を決める(従来と違う指標が必要) ・生活者と一緒に動けるアクションプログラムを作る ・成果を共有できる仕組み・プラットフォームを整える ・仕組み自体が持続可能になるよう、データを活用して関係性を育てる 企業がこうした形で“約束とお願い”を明確に示すことが、これからの賛同者づくりに非常に重要になると考えています。
菅野:ありがとうございます。これからは「企業として何をしてほしいか」を、生活者にしっかり伝えていくことがより求められますね。 最後の質問になりますが、本日の大きな問いである、消費者の意識と行動の乖離はどこで起きていると思いますか?
髙津:テキストマイニングのデータから考えると、実は「サステナブルだから買う」というお客さまはまだ少ない。でもメーカーとして「品質」「手間がない」は必要な価値としてある。そういった価値を改善・改良していきながら、その次の要素として「サステナブルであるか」が選択の基準になってくると考えます。小売業者はすでに関心が高いことが分かっているので、その方々とコンタクトポイントを増やすことも必要です。
東海林:同じく、まだサステナブルは購入する理由にはなっていないと感じています。これまでわれわれはターゲットの真ん中であるファミリー層だけを見ていましたが、これからのチャレンジとして、サステナブル行動に一番興味を持っているであろう学生たちと一緒にアップサイクルの取り組みを始めています。
髙津:私たちもリサイクルができるという強みを持っているので、紙箱と芯をリサイクルしてくれた方にインセンティブを差し上げることで賛同者を増やしていくような試みをしています。
菅野:皆さんのお話から、企業が消費者の行動を「そっと後押しする」ためには、行動のスイッチを押すことが大事だと感じました。スイッチを押すためには、まず、消費者にブランドのパーパスや理念に共感してもらわなければならない。また、単に理性に訴えるだけでなく、感情に訴えることが不可欠です。消費者は楽しかったり、ワクワクする感情がないとなかなか動いてくれないものです。 そして、消費者自身にとってのメリットも重要です。社会に良いという利他的価値だけでは十分ではなく、それが自分にとっての意味やメリットと結びついている必要があります。さらに、関係性の設計と構築も重要です。企業単独ではなく、消費者や他企業とのパートナーシップを通じて共に取り組む仲間を見つけ、つながり合う場を設計することが求められています。特に意識が高い消費者だけでなく、中程度の意識を持っている方々とつながっていく場を作っていくことが肝要だと感じました。