企業はどこから動く?グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026で見えた2つの「DO」
※このたびの熊本県を中心とする地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く、穏やかな日常が戻ることをお祈りいたします。
気候変動による自然の変化で、コーヒー事業に最大500億円の売り上げ損失が生じるかもしれない。
そんな声が、日本企業からも聞こえ始めています。
自然の損失が、企業価値の損失にもつながっている――そうした危機感の高まりを映すように、電通では、「企業価値の向上」と「自然再興に向けた活動」の接続にまつわるご相談も増えています。例えば、環境方針の策定や情報開示にとどまらず、事業との接続、アクション開発、生活者体験、企業としてのナラティブづくりなど、ご相談を受ける領域も年々広がっています。

背景にあるのは、ネイチャーポジティブ(自然再興)が「環境部門が取り組むテーマ」から、「企業が自らの事業を見つめ直すテーマ」へ移りつつあること。
その変遷が色濃く表れていたのが、2026年7月14、15日に熊本で開催された「Global Nature Positive Summit 2026」(以下、GNPS)でした。各国の企業、NGOなどが集まり、自然をめぐるリスクだけでなく、企業が事業を通じてどのように行動していくかについて議論が交わされ、電通も公式サイドイベントに登壇・参加しました。
本記事の執筆を担当する電通サステナビリティコンサルティング室の森由里佳がGNPSを通じて強く感じたのは、ネイチャーポジティブが「CARE=自然に配慮しよう」という段階から、「DO=事業の中でどう動くか」を考える段階へ移ったということ。本記事では、GNPSをきっかけに見えてきたヒントを探ります。生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)の開催目前のいま、ぜひご一読ください!
早速ですが、企業はどこから動き始めればよいのでしょうか。
ここからは、サミットでの議論から見えてきた2つの「DO」を一つずつご説明します。

DO① 自然との関係を捉え直し、事業の可能性につなげる
ネイチャーポジティブは、もう“知っているかどうか”を問うテーマではなくなってきています。GNPSで印象的だったのは、「自然の損失を止め、回復軌道へ反転させましょう」という呼びかけよりも、その先の「事業の可能性まで見いだそうとする動き」でした。
事業に組み込むうえで手掛かりとなる指標も、少しずつ整い始めています。生物多様性はCO2のように特定の数字では表しにくいもの。だからこそ、完璧に測れるまで待つのではなく、状態を確かめながら目標を立て、動き、改善していくという実装の姿勢も共有されていました。
※自然の状態(SON:State of Nature)指標

ネイチャーポジティブは、自然の損失を止め、回復へと反転させることを目指すもの。その実現に向けた取り組みは、自然保護活動にとどまりません。自然を事業のリスクとしてだけでなく、新しい価値の源泉として捉え直し、企業の判断の中に組み込んでいこうというビジネステーマでもあります。
では、自社の事業と自然との関係を、どこから考えればよいのでしょうか。GNPSのさまざまな議論を振り返ると、3つの視点が見えてきます。

1.自然から受け取っている価値を、見つけ直す【価値の源泉】
水、土壌、地形、さまざまな生態系。多くの事業が、自然に支えられています。ただ、日々の事業活動では、それらは品質や安定調達といった成果として捉えられ、その価値を生み出している自然そのものには、なかなか目が向きません。
そこで一歩踏みとどまって考えたいのが「自社らしい品質や価値は、どんな自然から生まれているのか」です。
自然を、原料生産などを支える「依存先」としてだけではなく「価値の源泉」として見ると、独自の強みやストーリーが見えてきます。
2.その価値を支えるつながりを、広く捉える【価値の基盤】
自然は企業の所有地の中だけでは完結しません。例えば、畑ひとつとっても、上流の水源や森林、周辺の農地や集落、下流の河川や海とつながっていて、そのすべてに生きものがいます。行政や産業の境界を越えた別の場所で起きていることが、巡りめぐってその土地の生態系や事業に影響することもあります。
ここで考えたいのは「自社が直接関わる場所の外側に、どんな自然のつながりや地域課題が広がっているのか」ということです。
目の前の事業拠点だけでなく、その価値を支える生態系や地域社会まで視野を広げることで、自社だけでは捉えきれなかった課題や、地域、行政、取引先などと一緒に取り組める可能性が見えてきます。
3.自然への還元を、次の事業価値へつなげる【価値の循環】
自然再興と事業。その両立が難しい場面は少なくありません。一方で、自然が豊かになることが、商品の品質向上や安定した調達につながったり、地域との関係を深め、新しい体験やサービスを生み出したりする可能性もあります。
そこで意識したいのが「自然が豊かになることと、事業の価値が高まることを、同時に実現できないか」です。
もちろん、難題です。しかし、自然との関係の捉え直しを、情報開示のためだけに行うのはもったいないことです。自然資本と切っても切り離せない事業を持つ部門こそ、その関係を新しい価値創出へつなげる余地があるのではないでしょうか。
ただ、こうした可能性も構想で終わってしまっては意味がありません。事業の中でネイチャーポジティブに挑むときには、社員、取引先、生活者、地域など、さまざまな人と一緒に動いていく必要があります。注目すべきは、企業がすでに持っている「接点」です。
DO② 企業が持つ「接点」を、社内外が動き出す入り口にする
ここでいう接点は、広告や店舗だけではありません。商品、調達先や産地との関係、取引先との対話、地域での活動なども含みます。
GNPSで紹介されたさまざまな取り組みでは、こうした既存の接点の意味を捉え直すことで、社員や生活者、地域が参加できる活動へ広げたり、価値や品質の差別化につなげたりしていました。

ただし、接点があるだけで、人が動くとは限りません。大切なのは、既存の接点をどんな価値や体験へ変えていくか。そして、そこで自然との関係をどう伝えるかです。
そのヒントを議論したのが、生物多様性メディア機構ROOTs(※1)が企画し、テレビ東京、CLASS EARTH、電通が登壇したGNPSの公式サイドイベントです。メディア、教育、企業広報・広告という異なる立場から議論する際、手掛かりとなったのがROOTsの「情報環境」という考え方でした。
※1 ROOTs=一般社団法人 Rooting Our Own Tomorrows。「人と生きものの未来をメディアの力でつなぐ」を掲げ、メディアと生物多様性の関係を研究・可視化し、生きものを取り扱う上でのメディアガイドラインの策定や制作における伴走支援(監修等)を行う。

上の図が示すように、同じ「かわいい」「珍しい」「面白い」「知りたい」という関心も、伝え方によっては、学びや保全にも、所有や消費にも向かいます。その分かれ道になるのが、何を切り取り、どんな言葉やビジュアル、文脈で届けるかという「情報環境」です。事業が持つさまざまな接点の中で自然をどう扱うかが、社員や顧客、取引先の認識や行動にも影響します。
では、どうすれば、あるべき社内外の行動や意思決定につなげる情報づくりができるのでしょうか。
発信を、取り組みが動き出す「入り口」に

登壇した電通の澤井有香がまず共有したのは、「正しく伝えるだけでは、人は動かない」という現実です。例えば、「生物多様性」という言葉の認知は日本でも約8割に達する一方、絶滅危惧種や生態系の崩壊に関心を持つ人は約2割にとどまります(詳細はこちら)。
この隔たりは、生活者だけの話ではありません。社内の他部門や取引先に対しても、同じことが起きています。データや方針を示すだけでは動かない。自分の仕事や生活との関係が見えたとき、人は初めて動きます。
一方、大学生を中心とした調査では、自然体験を通じて友人や家族との関係が深まったと答えた人が約6割にのぼりました(詳細はこちら)。自然を「危機や義務」としてだけでなく、「人の経験や関係性を豊かにする装置」として捉え直すことも、関心をひらく入り口になり得ます。
こうした知見を踏まえ、社内外の行動につなげるための3つのポイントをまとめました。

活動の成果を示すだけでは、生活者にとっても社員にとっても遠い話のままかもしれません。ナラティブをつくる場合も、魅力的に見える物語を切り取るのではなく、「なぜその課題に向き合うのか」を起点にすることが大切です。
同時に、使用するビジュアルや言葉にも気を付ける必要があります。なぜその森や生きものの写真を使うのか。事業や取り組みと、どのようにつながっているのか。あいまいなイメージで設計せず、企業自身がしっかりと根拠をもって説明できることが、信頼をつくるだけでなく、グリーンウォッシュを避ける鍵にもなります。
発信は、完成した活動を知らせるだけの「出口」ではありません。企業と自然との関係を社会にひらき、社員・取引先・生活者の新しい価値観や関わり方を生み出す「入り口」にもなるのです。
ネイチャーポジティブを、自社らしい「DO」へ
GNPSを通じて感じたのは、ネイチャーポジティブは事業と切り離さずに考えると、具体的なアクションにつながりやすいということです。
自社は、どんな自然に支えられているのか。
そこに、どんな事業の可能性があるのか。
そして、誰と、どんな接点から動き始めるのか。
その答えは、企業によって異なります。だからこそ、まだ問いや方向性が定まっていない段階から、ぜひご相談ください。私たちは、自然と事業の関係をひもとき、自社らしい「DO」へつなげる道筋を、企業のみなさまとともに考えます。
【問い合わせ先】
電通サステナビリティコンサルティング室 sus.consult@dentsu.co.jp
電通サステナビリティコンサルティング室は、サステナビリティを成長の前提と捉え、社会との接点から企業価値を再編集する、価値創造集団です。企業の中にある価値や想いを起点に、社会から期待が集まるテーマや活動へとつなぎ直すことで中長期的な企業価値向上を支援します。
著者

森 由里佳
株式会社 電通
サステナビリティコンサルティング室
クリエイティブライター/プランナー

澤井 有香
株式会社 電通
サステナビリティコンサルティング室
生物多様性チームリーダー/PRプランナー


