「生物多様性を推進しようとしても、生活者の共感や参加につながりにくい」そんな悩みを抱える企業や自治体は少なくありません。
生物多様性は、絶滅危惧種を守るだけの話ではなく、人の暮らしや社会を支える自然の豊かさをどう未来につないでいくかというテーマでもあります。
そこで今回は、自然に対する未来の価値観の兆しを探るべく、ODKソリューションズと電通が協働で進める、大学生との接点創出プロジェクト「アプデミー®」を通じて、大学生を対象に定量調査とワークショップを実施しました。
見えてきたのは、自然を単なる癒やしやレジャーの場ではなく、関係性や共有感覚まで含めて捉える新しい価値観です。本記事では、その兆しを、電通サステナビリティコンサルティング室の澤井有香氏、森由里佳氏、栗坂龍太郎氏の対談形式でひもとき、企業活動をマルチウェルビーイング思考で捉えなおすための4つの問いをご紹介します。なお、本調査は同室の田中直樹氏も企画・推進に関わりました。
(左から)電通 澤井有香氏、栗坂龍太郎氏、森由里佳氏ワカモノは自然が好き!?「ネイチャリング」がはやる兆し
澤井:今回の調査で驚いたのは、大学生にとって自然との共生が決して遠いテーマではなかったことです。自然との共生に対して、思った以上に前向きな関心があることが分かりました。
森:旅行先としての関心や、イベントに参加したい・発信したいという、レジャー的な関わり方に関する回答が集まったのは想定内でしたが、興味深かったのは、自然が身近にあることを理由に「移住を考えてもいい」「働いてみたい」という、ライフスタイルの変化までを望んでいる人が少なくないという結果ですね。

栗坂:実際に自然と共に暮らすスローライフに魅力を感じる若者が増えている気がしますし、フルリモートで働ける環境が広がったことで、そうした暮らし方も以前より現実的になってきました。最近では私の周りでも都会を離れ、自然豊かな地域へと移住するケースも見られます。
森:電波をシャットダウンするためにわざわざ登山したり、ずっとスクロールしている自分が嫌になって海外の大自然にまで足を延ばしたりした人もいましたよね。日常にはびこるアルゴリズムから脱却したいと思ったときの反動が、今の大学生はミレニアル世代以上よりも強いと感じます。
「自然」から想起される効果には、リフレッシュ・リラックスなど、自分をニュートラルに戻すものがありますが、みんなの意見には、より前向きにチアアップしたり、自身の変化を感じに行ったりするような、アクティブさがありました。疲れを癒やしにいくというより、元気になりにいくような。

栗坂:実際にデータを見ても、多くの人が自然の中で何らかのポジティブな変化を実感していることが分かります。自然体験はリフレッシュにとどまらず、自分を見つめ直したり、気持ちを切り替えたりするきっかけにもなっているようです。
澤井:もともと「ネイチャリング」は自然観察や自然体験を指しますが、これからは自分を前向きに整え直すような感覚まで含めた、新しい自然との関わり方として広がっていくのかもしれません。

約6割が実感する、自然が生み出す「関係性を高める力」

澤井:注目したいのは、自然体験が単に個人を癒やすだけでなく、人との関係を深めるものとして受け止められている点です。
栗坂:実際にワークショップでも、部活動で登山をした際に普段あまり話さない人とも自然と会話が生まれ、同じ体験を共有することで達成感や一体感が生まれたという声がありました。自然の中でのチーミング効果を体感している人も多かったようです。ありのままの自然がありのままの自分を引き出してくれるからこそ、いい関係になれるのでしょうね。
森:まさにウェルビーイングですね。個人の心身の充実はもちろんですが、それを満たしてくれる自然の中では、自分以外の誰か・何かとの“関係性のウェルビーイング”までも高まっていくということですね。

プライベートビーチに罪悪感?「占有」より「共有」を選ぶ理由

森:ワークショップで興味深かったのが「プライベートビーチは嫌」という発言です。プライベートビーチと言えば、特別感・独占感が売りなわけですが、観光のために部外者が自然を占拠してしまうことにネガティブな感覚があるようです。SDGs教育などの影響もあるかもしれませんが、「課題共感力」が強く、不公平が起きていないかに敏感なアンテナがあるのだなと感じました。
栗坂:若い世代は“自分が楽しければいい”というよりも、その体験が周りや自然にどんな影響を与えるかまで気にしているように感じます。自然はみんなで大切にしながら関わるものとして捉えている人が増えているのかもしれません。
澤井:これまでは自然を“自分が楽しむ場”として捉える発想が中心でしたが、これからは“その場所や地域とどう共にあるか”までが自然体験の価値になるのかもしれません。
森:自然はみんなのもの。あるいは、その土地の生きもののもの。占有より共有が心地よいというのは、今らしい、とても公平な感覚ですよね。
自然は“体験”から、“経験”へ
栗坂:ワークショップを通して、学生たちの理想の自然との共生のありかたについて以下のような結論がでました。
- Aチーム:「人と自然の融合」
- Bチーム:「日常の中で、ありのままの自分が五感でありのままの自然に触れることでリラックスできること!」

澤井:議論の中で印象的だったのは、学生たちが自然をただ眺めるものではなく、自分が入り込みながら関われるものとして捉えていたことです。そこには、その場で触れる・食べる・育てるといった行為まで含めた“関わりしろ” (関り方ののびしろ)がありました。
森:自然の魅力はその場の「楽しい」で終わらないところにあります。食べ物を通して命のありがたさを感じたり、その土地ならではの動物や天然資源に触れたりすることで、体験が自分の中に静かに堆積していく。そうした蓄積型の価値を学生も見いだしていたように思います。
栗坂:つまり、次世代が求めていたのは、自然を受け身で味わうことではなく、自ら関わることで実感や気づきを得られる“経験”だったということですね。

これからの自然との共生を捉えるキーワード「マルチウェルビーイング思考」

森:今回見えてきたのは、「自分だけが良い」よりも他者や地域、関係性まで含めて複数の「良い」が重なる状態に価値を感じるという感覚でした。私たちはこれを「マルチウェルビーイング思考」と名付けました。
澤井:自然との共生を考えるなら、個人へのベネフィットだけでなく、その先にどんな良い連鎖が生まれるかまで見ていく必要があるのだと思います。
栗坂: 実際にワークショップでも、“自分にとって良いか”だけでなく、“周りの環境や社会にとっても良いか”を気にする声が多く聞かれました。失敗したくないという意識が強い世代だからこそ、後ろめたさのない選択や、周囲にも良い影響が広がる選択を重視しているようにも感じます。
森:ブランディングにおいてもこうした価値観は頭に入れておいた方がいいですね。実際に、「サステナに取り組んでいない企業は職場環境も悪そう」「サステナ系の活動が見えないと、新しいことを忌避する企業なのかなと思う」というハッとする発言もありました。
企業の自然関連活動をマルチウェルビーイング思考で捉えなおす4つの問い

澤井:そこで考えたのが、自然関連活動を「良いこと」で終わらせず、マルチウェルビーイング思考で体験設計するための4つのチェック項目です。本人、自然、同行者、地域・社会の4つの視点で良い変化や循環が生まれているかを見ることが、これからの自然との共生には重要だと考えました。
森:この視点は、自然活動を無理に社会性の文脈にのせるというより、その方が参加者の体験が良くなるから取り入れる、という発想につながります。自然関連活動にとどまらず、商品やサービスがどう自然に貢献しているのかを伝える体験設計にもあてはめられそうです。
栗坂:参加する側からすると、“いいことをしている”という自己実感だけでなく、誰かとのつながりや周囲への変化まで感じられる体験のほうが、結果として記憶にも残りやすいのではないでしょうか。
澤井:自然との共生は、自然のために我慢することではなく、自分にも、誰かにも、社会にも良い体験として再編集できるのかもしれません。そう考えると企業にとっても、自然関連活動は生活者との距離を縮め、エンゲージメントを育てるチャンスになり得ると思います。今回の調査は、自然との共生の未来に希望を感じさせるものでした。
【調査協力】
「アプデミー®」

「アプデミー®」は大学入試業務や証券バックオフィス業務のDX化支援を主事業とするODKソリューションズと電通が協働で進めるプロジェクトです。30万人以上の大学生とのネットワークを生かし、企業の皆さまと連携することで、学生には有意義な社会体験の機会を、企業の皆さまには学生との新たな接点や関係構築の場を提供しています。
【問い合わせ先】
電通サステナビリティコンサルティング室 sus.consult@dentsu.co.jp
電通サステナビリティコンサルティング室は、サステナビリティを成長の前提と捉え、社会との接点から企業価値を再編集する、価値創造集団です。企業の中にある価値や想いを起点に、社会から期待が集まるテーマや活動へとつなぎ直すことで中長期的な企業価値向上を支援します。